応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。
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いい言葉を聞いた。
いつか余裕のある時にする。
でも余裕がやってくることはない。
自分で作らないかぎり余裕などないのだ。
というわけで思い立ったが吉日。
孔明さまに会ってくるぜー!
テンション上がるわあ。
いつか余裕のある時にする。
でも余裕がやってくることはない。
自分で作らないかぎり余裕などないのだ。
というわけで思い立ったが吉日。
孔明さまに会ってくるぜー!
テンション上がるわあ。
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(今週のあらすじ)
周瑜の死を知った曹操はふたたび呉へ攻め込もうと考えた。しかし、その隙に西涼の馬騰に攻め込まれることを懸念して、まず馬騰を許昌へ招くと殺害した。
馬騰が殺されたと知った息子の馬超は韓遂と復讐を誓い、曹洪が守る潼関の関所を攻めた。曹操も軍勢を率いて向かったが、到着する前に関所は落とされていた。
そこで対峙する曹操と馬超。曹操は西涼の兵士の容姿は変わっている、と怪訝そうにした。すると部下の賈詡が「かつて西涼にはローマ軍の生き残りがいたと聞いています。その子孫なので装束も変わっているのでしょう」と答えた。
いざ戦いが始まると、馬超の強さは呂布にも匹敵し、曹操は圧倒されてしまう。馬超に追われた曹操は、攻撃を避けるため森へ逃げ込んだ。それでも馬超は曹操を追い上げ背後まで迫った。馬超の槍が曹操に狙いを定めたが、振り上げた槍が木に刺さり逃がしてしまった。
あと一歩だったというのに、仕留め損ねたことが悔しく、馬超は次の攻撃に備えて西涼から援軍を呼び寄せた。それを知った曹操は驚くどころか逆に喜んだ。馬超が援軍を呼べば、それだけ西涼の守りは手薄になるからだ。曹操は徐晃に兵を与え、西涼を背後から襲わせ、みずからは馬超の軍勢を分断させるため渭水を渡ろうとした。
すると、そこへ矢が雨のように振ってきた。馬超が奇襲をかけてきたのだ。曹操は許褚に守られ、なんとかその場を切り抜けた。
曹操は馬超のさらなる攻撃を防ごうと、土を盛って砦を築かせようとした。しかし砂地であるため作業がはかどらず兵士は疲労するばかりだった。困り果てた曹操のところへ、ひとりの老人が献策したいと訪ねて来た。その老人は「夜のうちに盛った砂へ水をかけておけば、翌日には凍って堅牢な砦が完成する」と言う。その妙案に曹操は感謝し、しばらく滞在するよう願ったが老人は立ち去った。
さて、砦が完成した翌日、曹操は許褚を連れて陣を出た。そこへ馬超があらわれたが、許褚が護衛しているので曹操に手出しが出来なかった。
許褚が馬超と一騎打ちで勝負がしたい、と曹操に願い出た。曹操は承諾し、馬超へ果たし状を送った。それを受け取った馬超は、かならず決着をつけてやると憤慨した。
翌日、許褚と馬超は両軍が見守るなかで一騎打ちを始めた。互いに一歩も引かない壮絶な打ち合いが続く。日が暮れても拮抗したまま勝負かつかない。先に馬が疲れてしまい、馬を代えてふたりは戦った。
やがて韓遂が自軍に命じて矢を射かけさせたので、曹操は許褚を呼び戻し、退却せざるを得なかった。馬超に押され続ける曹操だったが、徐晃の進軍が成功したとのしらせが入り風向きが変わった。そこで、次なる手として奸計を用い、馬超と韓遂の関係を悪化させようと目論んだ。
曹操は馬超軍の前まで行くと、韓遂だけと話がしたいと言って呼び出した。そして出て来た韓遂と、以前都にいたころの思い出話をしただけで帰った。
わけの分からない韓遂。馬超は何でもない振りをしていたが、内心で韓遂と曹操が内通しているのではないかと疑った。次いで曹操は韓遂へ手紙を送った。手紙はところどころが墨で塗りつぶしてあり、またしても韓遂は困惑する。手紙が届いたと知った馬超は韓遂に見せるよう迫った。肝心な部分が読めないようになっていた手紙を見た馬超は、自分に読まれては不味い部分を韓遂が消したのだと思い込む。疑われていると知った韓遂は、自分が裏切るはずのないことを訴えたが馬超の疑惑は深まるばかりだった。
以上を踏まえてどこまでも噓っぽいレビュー
今回、孔明さまは全く出て来ませんでした。本当はしっかり暗躍していたのですが、省かれてしまったのでご紹介したいと思います。
まず曹操が呉を攻めるつもりであるとの情報を掴んだ孫権。「大ピンチじゃん!」と周囲に相談すると、じいやの張昭が「劉備に協力させなはれ。劉備は魯粛にたっぷり恩がありますさかい、魯粛が手紙を送ればさすがの劉備も言うこと聞きますやろ」と助言したので、さっそく孫権は魯粛に人をやって頼みました。連絡を受けた魯粛は劉備へ手紙を送ります。
──お元気ですか。突然ですが未亡人っていいですね。夫を亡くした悲しみにくれる姿が儚く、妙に色っぽくてそそるものがあります。それに劣情を抱いてしまう背徳感が、なんとも言えない尾籠な気分をもよおし、悶々とした毎日を送っています。あのおかたも後任を託すついでに、妻も託してくれればよかったのにと思うことしきり。
そういえば曹操が三十万の軍を動かして、呉に進軍するつもりらしいので、援軍を送って欲しいと孫権さまが言ってましたよ。放置すると孫権さまが飲んだくれて、みんなが迷惑するので、なるべく早く援軍を送ってください。よろしく。
追伸
わたしの喋り方が張昭どのとカブるのは、やめてもらいたいと思います。
手紙を読んだ劉備は南郡に出ていた孔明さまを呼び寄せて相談しました。
「なあ、孔明。趙雲のように美人でも未亡人は中古だから嫌だという人間もあれば、魯粛どののように未亡人にハマる人間もいるのだな」
「……魯粛ちゃん元気そうだね。それで劉備さまは未亡人談義をするためにぼくを呼び戻したわけ?」
「ははっ。違うよ。孫権が曹操の侵攻にそなえて江南へ援軍を送って欲しいそうだ。魯粛どのに恩はあるが、正直送りたくない。どうやってごまかそうか」
「ああ、それなら曹操が江南を狙ってる場合じゃなくすればいいんでしょ。劉備さまがお手紙書けば済む話だよ」
「誰に送るのだ?」
「曹操は西涼が隙をついて攻め入ってくるのを常に恐れてるからね。それで馬騰をおびき出して殺害したわけだけど、息子の馬超が黙ってるはずがないもん。だから劉備さまは馬超に『曹操が憎いのは自分も同じ。恨みを晴らしたいなら協力します』ってお手紙を送って、長安を攻めるように仕向ければいいんだよ。馬超をぶつければ、曹操は江南どころじゃないもん」
「そう、うまくいくだろうか」
「馬超は慎重なタイプじゃないから、こっちが協力する姿勢を見せておけばすぐに動くよ。手紙を送るだけで馬超と孫権に恩が売れるんだから、今回は楽でいいね。あと魯粛ちゃんの顔も立つし」
「ついでに未亡人を落とす方法でも教えてやったらどうだ」
「そういうの劉備さまのほうが断然詳しいんじゃないの。あ、得意なのは若い子だったっけ?」
「……さて、ほうれん草に水でもやってくるか」
といった具合で、馬超の曹操攻撃の裏に孔明さまの根回しがあったんだね。相変わらず腹黒いです。
・西涼の兵士はテルマエ・ロマエのルシウスと親戚なのか
ルシウスがお風呂技師として活躍していた頃が130年代らしいので、曹操VS馬超は80年ほどあとの時代になりますね。馬超がローマ人の血を引いている設定なのか知りませんけど、もしそうだとすれば馬超から見て曹操達は「平たい顔族め!」といったところか。
馬超は常時ノースリーブ!
そんな馬超は呂布と並ぶ、麗しの武将として紹介されてるんだね。「顔は生まれつきおしろいを塗ったように白くて、唇は紅をさしたように赤い。肩は広くて腰は細い」だそうです。「馬超の腰は細い」か。……これ重要な気がする! 全国統一やおい模試に出る気がする! メモしとかな!
当時は男も色白がイケメンの条件なんでしょうかね? ちなみに馬超は十七歳の若かりし頃にも一度登場していて(第十回)、その時は「色白で容貌は冠の宝石みたいにキレイで、目は流れ星みたいにキラキラです」だってサ。少女漫画に出てくるような美少年じゃないか。
そんなふうに勇猛なだけではなく男前で華麗だったので、惚れっぽい曹操は「ふうん。父親の馬騰より男前だな。彼って、ちょっと素敵じゃない?」と、ときめいちゃう。
でも孔明さまだって初登場のときは馬超と同じく「面如冠玉」と紹介されて男前扱いだわよ。いや、劉備も面如冠玉で口紅塗ったみたいな唇だと描写されていますが、すごくどうでもいい気分になります。いえ、劉備の本質は見た目どうこうじゃないと言いたいだけですよ。やだなあ。
んで、演義世界の男前といえば周瑜。周瑜は「姿質風流、儀容秀麗」。何かに例えるとかじゃなく、もうストレートに描写されてんだね。周瑜の美しさの前には、どんな比喩も陳腐になってしまうのか、それとも「ハイハイ、イケメンですよ」と投げやりなのか、どっちなんですか羅漢中先生!
なんとなくですが、作者の羅漢中先生は非リアだったんじゃないでしょうか。だからリア充の周瑜を筆でコケにしたに違いないです。
あ、顔で思い出したわ。
その昔、買ってもらった陳舜臣てんてーの「諸葛孔明」に萌ゆる部分があった。
赤壁で周瑜が呉の軍勢を前にして演説し、孔明さまと劉備はそれを尻目に曹操が敗走したときに、どう行動するか地図を見ながら相談している場面から引用。
周瑜は夏口で、全軍を上陸させた。そこで訓辞したのだが、士気を高揚させると同時に、そこで待機していた劉備軍の主力にたいする示意の目的もあった。
(曹操がいかに残虐か訴える、周瑜の演説が続くので中略)
「われらはどんなことがあっても、彼らを粉砕しなくてはならない!」
全員が水をうったように静まり返っていたが、やがて怒濤のような雄叫びが上がった。
「声涙ともにくだる大演説だな」
劉備はそう言って、べろりと舌を出した。いまだに庶民の生地がのぞいて行儀はよくならない。
「あの顔だから効果があるのです」
と、孔明は言った。
「あの顔とは?」
「周郎と呼ばれる優さ男。美しい顔をしているでしょう、彼は。そんな美男があのような悲壮な演説をするので、みんなが興奮するのです。奮い立つのです」
「あれが美しい顔か」吐きすてるように劉備は言った。「我が諸葛孔明のほうが、よほど立派な顔をしているわ」
「話を元に戻しましょう」
孔明は卓上の紙に目をやった。
照れてますよー! この人、照れてますよー!
まあ、立派な顔なので、別に「孔明のほうが男前だよ」と言われているわけではないのですが「美男の周瑜よりも孔明のほうがタイプだなー」と言ってるようなものなので「もうっ。劉備さまったら……」と乙女気分の孔明さまジャマイカ。しかも、さりげなく「俺の」と頭に付けるところが、人たらし劉備のプロの技ですよ。
人気者の彼が自分をどう思っているのか不安な時に「俺の」なんて独占するようなことを言われたら「今すぐここで抱いて。獣のように体を求めてよ!」と感激すること山のごとし。孔明さまの目の前に広がるのは、赤壁周辺地図なんかじゃなくてふたりの未来予想図だったに違いありません。
でも、こういうことをサラッと言う男は、確実にみんなにも同じこと言ってますからね。未来予想図は苦難の道のりの連続ですよ。モテる男に恋してしまったんだから仕方ないね。
・ものすごい勢いで馬超に追いかけ回される曹操
対峙したものの馬超が強すぎるので、ひとまず馬で逃げる曹操。でも「赤い戦袍を着たのが曹操だ」とバレてしまったので、曹操は戦袍を脱ぎ捨てる。これで一安心かと思えば「ヒゲが長いのが曹操」とバレた。すると曹操は躊躇なくヒゲを切り落とした。
風に舞うヒゲ 切ない
それなのに「ヒゲ切ったらしいから、短いのが曹操」と、ごまかしてもすぐに伝わってしまう。曹操は旗をちぎって首に巻いて逃げたのでした。
さすが笑いを取ることに貪欲な曹操さんやでえ。そのためなら、ヒゲなんか惜しくないんだ!
気にしないもん!
・次から次へひどい目にあう曹操
馬超が兵を西涼から集めていると聞いて、曹操は「根拠地を手薄にするとは、馬超もアホめ」と喜びます。そこで徐晃を西涼へ出発させました。そうやって馬超の退路を断たせるためです。そしてみずからも兵を率いて渭水を渡り、馬超の軍を挟み撃ちにする作戦に出ました。
アホ呼ばわりされた馬超ですが行動力は抜群です。曹操が渭水を渡ろうとしているという情報を得て急襲しました。曹操が船に乗り込もうとしていたところを馬超が襲う。
この辺りの曹操が、原本ではやけに悠長なかんじに読めるからおもしろかった。
原本ではこんなふう。
矢が飛んできたので兵士達は馬超が来たと悟って、大混乱に陥り、一斉に船に乗り込もうとした。しかし曹操は岸辺に腰を降ろしたまま動かず、騒ぐなと命じていたのだが、ついに馬超の軍勢が押し寄せた。
「敵がすぐそこまで来てんですよ。早く船に乗ってください!」と許褚が曹操をせかす。それでも曹操は「別に来たっていいじゃん」とぶつくさ言う。
悠長というよりは、ふて腐れてんでしょうか。
アニメに話を戻して。
曹操を助けにきた許褚。曹操の手を握り、降り注ぐ矢の雨を馬の鞍を盾にしながら曹操を守って逃げます。惚れっぽい曹操なら、このシチュエーションにときめいてもおかしくないのですが、そうでもなかったです。やっぱアレか。曹操は面食いなんか。
鞍を盾に…って、当たらんかコレ?
許褚の陰に隠れていればいいようなものの、曹操は身を危険にさらしても画面に映り続けることを選んだようです。曹操の芸人魂はホンマもんや!
・ふしぎな老人が訪ねて来たよ
馬超を防ぐため、土で砦を築こうとした曹操。でも砂地なので、すぐ土が崩れてしまう。第一ここはクソ寒い。兵士は寒さで震えるわ、馬超は怖いわ、で曹操は家に帰りたくなった。ひとりでいじけていると、見知らぬ老人が献策したいと訪ねて来た。藁にもすがる思いで曹操は面会しました。
「して、先生のお名前は?」
「この世では名前など、単なる記号にすぎません」
と老人は、やけに中二病くさいことを言います。一瞬不安になった曹操なのですが「何を教えていただけるのですか?」と訊ねました。すると老人は「なぜ砦を築かないのですか」と言いました。
「築こうとはしとるんですがな。この辺りは砂地でうまく築けないのです」
「兵法を熟知していらっしゃる曹操さまが、こんなこともご存じないとは。夜、気温が低いうちに土で砦を築き、水をかければ凍り付くのが道理。カッチカチになります」
「どこかで聞いたことのあるフレーズですが……カッチカチですか?」
「カッチカチです」
「カッチカチになるんですね?」
「カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ?」
「やだ、スゴイ!」
というわけで、曹操の砦は一夜にして完成したのでした。こんな寒いところで常時ノースリーブの馬超は元気ありすぎだ。
・一騎打ちだよ全員集合
砦も出来たし、随分と機嫌の良くなった曹操。許褚をつれて馬超を煽りに行きます。
「やーい馬超見てみろ。一晩で砦が出来たぞ! カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ!」
「うるさいわ、ボケェ! ちょっと覚えたフレーズを使いたくって来ただけじゃろがァァ!」
馬超が馬に乗って陣営から飛び出して来ました。しかし曹操の傍らで許褚が睨みを利かせているのを見ると、馬を止めて訊ねました。
「そういや、おんどれの軍に虎候いう奴がおるらしいな。どこにおるんな?」
「おまえの目は節穴か! ワシじゃボケェ!」
許褚が刀を抜いて叫びました。
「はあん? おめえか。またアホそうな面しとるの」
「おまえに言われたないわ。頭に人間やのうて、馬の脳が入っとるらしいなあ?」
「うるせえデブ。豚はおとなしゅう豚小屋に帰れや」
「バーカ」
「デーブ」
「バーーーカ!」
「デーーーブ!」
「イラつくわ! ワシとタイマンはれや。どつき回して、余計アホにしたるわ!」
「おお、やったらあ。おんどれ取っ捕まえて市場に出荷したらあ」
「曹操さま、こいつやっちゃっていいですよね?」
許褚は怒りで震えながら振り向きました。すると曹操は袖をまくり上げて言いました。
「カッチカッチやぞ!」
「……フレーズが気に入ったのは分かりますが、さすがのわたしも、ちょっとイラッときます」
「ああ、一騎打ちするんなら明日にしろ。厚着して来なかったから寒いし、お腹空いたし」
「分かりました」許褚は丁寧に頭を下げてから馬超を睨みました。「絶対ぶち殺したるわ」
「楽しみじゃのう。もちろん、おめえの泣きっ面がじゃ」
「バーカ!」
「デーブ!」
そして翌日。
左右に分かれた両陣営。その中央へ騎乗した馬超が颯爽と躍り出ました。
「曹操の飼い猫が! 遊んでやるから出てこんか!」
ブタから飼い猫へ。なんだか、かわいらしくなっております。馬超は許褚が虎候と知ったので、飼い猫呼ばわりしたんでしょうね。
飛ぶように馬を走らせる馬超を見た曹操は諸将を顧みて言いました。
「馬超の剛勇は呂布にも劣らんな」
その言葉が終わらないうちに、許褚は馬を蹴立て雄叫びを上げながら飛び出ました。曹操は呂布の名前を出して、許褚に発破をかけたようです。
馬超と許褚は百合以上打ち合ったのですが勝負がつかない。先に馬が疲れてしまった。
「おい、馬を代えて続けるぞ」
馬超が持ちかけると許褚も応じました。陣営に戻った馬超は水を飲んで一息つきます。その頃、イライラが頂点に達していた許褚はなぜだか甲冑を脱ぎ捨て、もろ肌を脱ぐと馬に飛び乗り突進して行ったので、両陣営の全員が呆気にとられました。
おい誰が乳首券を使っていいと言った
この番組では貴重な乳首券の、前回の使用者は黄蓋でした。そして今回は許褚です。
責任者は、ちょっと出て来てもらいたい。あるでしょうが。もっと使いどころがあるでしょうが。張遼とか甘寧とか孔明さまとか孔明さまとか孔明さまとか。
CD買って握手券がついてくるなら、三国演義のDVD買って乳首券はついてこないんでしょうか。それとも土下座をすれば乳首が見せてもらえるのでしょうか。当方のプライドは紙くず同然ですので、乳首のためなら土下座をいとわない所存でございます。
さて再戦開始の馬超と許褚。三十合ほど打ち合ったのち、馬超の槍が許褚のみぞおち目がけて突き出された。あわや串刺しかと思われましたが、許褚は手で槍を掴んで防いだ。ふたりは槍の両端を握って奪い合う。やがて槍が音を立てて割れると、今度は折れた槍でお互いをバキバキに殴り合った。
「曹操さま。豪傑同士の一騎打ちというものは、凄まじいものですね。この寒空の下でも熱気が伝わってきて汗ばむようです」
賈詡が感心したように言った。賈詡にしてみれば、馬超との対戦は二度目です。上記の馬超十七歳のころに、賈詡は参謀として別の軍にいたのですが、馬超の父親馬騰と韓遂から攻撃を受けていたのです。たくましく育ったなあ、とか思ってたかもしれませんね。
曹操は短くなったヒゲを触りながら笑いました。
「ふふ。ワシはユニクロのヒートテックを着ているから、もともと寒くないぞ! 薄いのにこの温かさ。もう手放せんわい。野戦のお供にヒートテック!」
「……曹操さま。スポンサー以外の商品を宣伝するのは御法度ですよ」
「宣伝すればお礼でどっさり送ってくるかもしれんだろ」
「どうでしょうねえ。曹操さまで宣伝効果があるかどうか」
「なんだと!」
「おや、向こうの陣営に動きが……? いけません、弓を構え始めましたよ。すぐに許褚を呼び戻してください」
馬超の軍勢が矢で攻撃を始めました。許褚は甲冑を脱いでいたので矢が刺さってしまいます。それでもなんとか曹操軍の砦へ戻りました。
・ちょっぴりセンチメンタルな曹操
曹操はみずから許褚の矢傷を手当をしてあげます。
優しいぜ、曹操さま
「これに懲りたら、もう裸で戦場へ出るな」
「すんません」
「ところでワシにも乳首券の支給はないのか?」
「さ、さあ?」
そこへ徐晃が西涼の封鎖線を超え、進軍に成功したとしらせが入りました。そのしらせは馬超にも伝わります。
「まずいことになったな、叔父上」
左が叔父の韓遂。ダンディでかっこいいな!
「曹操は許褚に決闘を申し込ませ、われわれの注意を引きつけ、その隙に乗じたようだな」
苦悩の表情を浮かべる韓遂。馬超はカンカンに怒ります。
「曹操はほんまに悪賢い悪党じゃな」
「ここから先はどうすべきか……」
「どうもこうもねえわ。戦うしかなかろうが」
「まだ曹操を倒してもいないのに、西涼に攻め込まれてしまったのだぞ」
「我が軍の士気が高いうちは、絶対に撤退なんかせんからな!」
「馬超よ。士気が高いだけでは戦えない。われわれは曹操に前後を挟まれてしまったのだ。それがどれだけ不利か分かるだろう?」
「……分かっとるけど」(※分かってません)
「ここは曹操と和平を結び、来年の春を待つべきだろう」
馬超は納得しませんでしたが、韓遂は手紙を持たせた使者を曹操へ送りました。
手紙を受け取った曹操は賈詡に訊ねます。
「この和平の要請をどう思う?」
「受け入れたふりをしたのちに、反間の計をもちいて馬超と韓遂に仲間割れを起こさせるのです。そうすれば簡単に打ち破ることができるでしょう」
「同じことを考えていたようだな。馬超は呂布に劣らない剛勇だ。しかし呂布と同じように策略を持たん。その呂布には陳宮が軍師でついておったが、馬超にはそれすらない。韓遂を失えば奴はおしまいだ」
曹操は陳宮のことを思い出し未練をのぞかせました。その昔、手に手を取り合って駆け落ちした相手は、いつまでたっても忘れられないようです。
なんだか最近は昔のことばかり思い出してしまう。これも年を取ったせいなのか、と曹操は思いを巡らせてから言いました。
「よし。明日、ワシが直接韓遂を訪ねよう」
・馬超ドッキリ大作戦
翌日。
左右に諸将を引き連れ、曹操は陣営を出ました。そして韓遂配下の兵士に、韓遂だけを呼び出すよう命じます。
単騎で進み出た曹操。韓遂配下の兵士は直接曹操を見たことのないものが多く、一度見物しようと陣営から出て来ました。
このあたり戦争中なのに無邪気というか、のどかでいいですね。
見物客でごった返し、曹操はスター気分。上機嫌になって言いました。
「おまえたち、この曹操が見たいか? 目が四つ、口が二つあるわけでなし、おまえたちと同じ普通の人間だ。ただ、人よりちょっと知恵があるだけだ」
曹操を見ながら、兵士達はひそひそ話をします。
「平たい顔族だね」
「平たいね」
「噂通りヒゲが短いね」
「馬超さまに追いかけ回されて、切り落としたのってマジだったね」
そんな噂話をされているとも知らず、曹操は一発芸のひとつでも披露しようかと袖をまくり上げたとき、韓遂が馬に乗ってあらわれました。
「わたしに話があるとか?」
「カッチカ……お、おう。韓遂将軍か。よく来てくれた。将軍の父上とわたしは同年に考廉に推挙され、わたしは実の叔父のように敬愛していたものだ。また、きみとは同年に役人になったが、将軍は今年でいくつになられるのかな?」
「わたしの年を聞いて、どうされるのですか」
「いや、歳月が流れるのは早いと思ってな。将軍、子供は何人おられる?」
「一男一女がいますが……」
「それはけっこう。ちなみにわたしは三十人近くおるぞ」
「多いわ!」
「ふふ。魏の種馬とは、この曹操のことだ。この年になっても現役だぞ。カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ?」
「するかアホンダラ! 結局下ネタ言いにきたんか?」
「ワシの暴れん坊将軍は馬並だ!」
「もう、おまえ帰れよ!」
「じゃあね〜」
曹操は馬首をめぐらせ陣営へ帰ってしまいました。韓遂も首をかしげながら戻ります。すぐに馬超がやって来て訊ねました。
「叔父上は曹操と何を話したんな?」
「種馬でカッチカチとか」
「はあ?」
「いや、昔話をしただけだ」
「軍事のことは話さんかったんか?」
「曹操が言わないのだから、わたしからも持ち出せないだろう。わけが分からなかった」
「……ふん」
馬超は韓遂が曹操と内通しているのではないかと疑心を抱きますが、その場は何も言わずに立ち去った。
一方曹操陣営。
「あれで馬超は韓遂を疑っただろうか?」
曹操が賈詡に訊ねました。
「まだ足りませんね。もう一押ししましょう」
「何か妙案があるのか?」
「馬超は機略については無知です。曹操さまは韓遂へ手紙を書いてください。そしてところどころ字をぼやかし、肝心な部分は塗りつぶしたり書き直したりするのです。曹操さまから手紙が届いたと知れば、馬超はきっと読みたがるはずです。しかし手紙の重要な部分が消されているのを見て、知られてはまずいことを韓遂が咄嗟に塗りつぶしたのだと思い、ますます疑いを深めるでしょう。わたしのほうも韓遂の部下を取り込み裏工作を進めますので」
「はなはだ妙案だ。きっと馬超は騙されるな」
曹操はさっそく手紙を書いて、賈詡の助言通りにすると韓遂へ届けさせました。
受け取った韓遂は意味不明の手紙を前に困惑しました。そこへ馬超が来ます。
「叔父上。曹操から手紙が来たとか?」
「これなのだが、さっぱりわけが分からないのだ」
「この塗りつぶしてあるのは?」
「はじめから、こうなっていたのだ。間違えて下書きを送ってきたのだろうか」
「曹操は慎重な男じゃけえ絶対に間違えるわけねえ。叔父上、ホンマは昨日曹操と何を話したんな?」
馬超が疑いの目で見ていることに気付いた韓遂は慌てます。
「誤解するな、馬超!」
「叔父上は俺を裏切るつもりなんか。力を合わせて曹操を倒そう思うとったんは、俺だけだったんじゃな」
「信じられないというのなら、明日わたしが陣営の前で曹操と話す。おまえはその時に隙を見て曹操を殺せ」
「それで叔父上の本当の気持ちが確かめられるんじゃな?」
「ああ、わたしが裏切るものか」
「……ふん」
馬超は不服そうに韓遂の陣幕から出て行きました。しばらくして韓遂の部下達(買収済)が陣幕へ入って来て言います。
「もう何をしても馬超の疑いは深まるばかりです。殺される前に曹操に降伏したほうがいいですよ」
「しかし、わたしは馬超の父と義兄弟の契りを交わしているのだ。裏切ることなど……」
「迷っている時間はありませんよ。将軍がご命令をくだされば、われわれが馬超を捕らえて曹操に差し出します」
「いや、もう遅い!」
そう叫んで韓遂の陣幕へ突入してきたものがいた。
というわけで次回につづく。
「またね」「殿。乳首券は勘弁してください」
周瑜の死を知った曹操はふたたび呉へ攻め込もうと考えた。しかし、その隙に西涼の馬騰に攻め込まれることを懸念して、まず馬騰を許昌へ招くと殺害した。
馬騰が殺されたと知った息子の馬超は韓遂と復讐を誓い、曹洪が守る潼関の関所を攻めた。曹操も軍勢を率いて向かったが、到着する前に関所は落とされていた。
そこで対峙する曹操と馬超。曹操は西涼の兵士の容姿は変わっている、と怪訝そうにした。すると部下の賈詡が「かつて西涼にはローマ軍の生き残りがいたと聞いています。その子孫なので装束も変わっているのでしょう」と答えた。
いざ戦いが始まると、馬超の強さは呂布にも匹敵し、曹操は圧倒されてしまう。馬超に追われた曹操は、攻撃を避けるため森へ逃げ込んだ。それでも馬超は曹操を追い上げ背後まで迫った。馬超の槍が曹操に狙いを定めたが、振り上げた槍が木に刺さり逃がしてしまった。
あと一歩だったというのに、仕留め損ねたことが悔しく、馬超は次の攻撃に備えて西涼から援軍を呼び寄せた。それを知った曹操は驚くどころか逆に喜んだ。馬超が援軍を呼べば、それだけ西涼の守りは手薄になるからだ。曹操は徐晃に兵を与え、西涼を背後から襲わせ、みずからは馬超の軍勢を分断させるため渭水を渡ろうとした。
すると、そこへ矢が雨のように振ってきた。馬超が奇襲をかけてきたのだ。曹操は許褚に守られ、なんとかその場を切り抜けた。
曹操は馬超のさらなる攻撃を防ごうと、土を盛って砦を築かせようとした。しかし砂地であるため作業がはかどらず兵士は疲労するばかりだった。困り果てた曹操のところへ、ひとりの老人が献策したいと訪ねて来た。その老人は「夜のうちに盛った砂へ水をかけておけば、翌日には凍って堅牢な砦が完成する」と言う。その妙案に曹操は感謝し、しばらく滞在するよう願ったが老人は立ち去った。
さて、砦が完成した翌日、曹操は許褚を連れて陣を出た。そこへ馬超があらわれたが、許褚が護衛しているので曹操に手出しが出来なかった。
許褚が馬超と一騎打ちで勝負がしたい、と曹操に願い出た。曹操は承諾し、馬超へ果たし状を送った。それを受け取った馬超は、かならず決着をつけてやると憤慨した。
翌日、許褚と馬超は両軍が見守るなかで一騎打ちを始めた。互いに一歩も引かない壮絶な打ち合いが続く。日が暮れても拮抗したまま勝負かつかない。先に馬が疲れてしまい、馬を代えてふたりは戦った。
やがて韓遂が自軍に命じて矢を射かけさせたので、曹操は許褚を呼び戻し、退却せざるを得なかった。馬超に押され続ける曹操だったが、徐晃の進軍が成功したとのしらせが入り風向きが変わった。そこで、次なる手として奸計を用い、馬超と韓遂の関係を悪化させようと目論んだ。
曹操は馬超軍の前まで行くと、韓遂だけと話がしたいと言って呼び出した。そして出て来た韓遂と、以前都にいたころの思い出話をしただけで帰った。
わけの分からない韓遂。馬超は何でもない振りをしていたが、内心で韓遂と曹操が内通しているのではないかと疑った。次いで曹操は韓遂へ手紙を送った。手紙はところどころが墨で塗りつぶしてあり、またしても韓遂は困惑する。手紙が届いたと知った馬超は韓遂に見せるよう迫った。肝心な部分が読めないようになっていた手紙を見た馬超は、自分に読まれては不味い部分を韓遂が消したのだと思い込む。疑われていると知った韓遂は、自分が裏切るはずのないことを訴えたが馬超の疑惑は深まるばかりだった。
以上を踏まえてどこまでも噓っぽいレビュー
今回、孔明さまは全く出て来ませんでした。本当はしっかり暗躍していたのですが、省かれてしまったのでご紹介したいと思います。
まず曹操が呉を攻めるつもりであるとの情報を掴んだ孫権。「大ピンチじゃん!」と周囲に相談すると、じいやの張昭が「劉備に協力させなはれ。劉備は魯粛にたっぷり恩がありますさかい、魯粛が手紙を送ればさすがの劉備も言うこと聞きますやろ」と助言したので、さっそく孫権は魯粛に人をやって頼みました。連絡を受けた魯粛は劉備へ手紙を送ります。
──お元気ですか。突然ですが未亡人っていいですね。夫を亡くした悲しみにくれる姿が儚く、妙に色っぽくてそそるものがあります。それに劣情を抱いてしまう背徳感が、なんとも言えない尾籠な気分をもよおし、悶々とした毎日を送っています。あのおかたも後任を託すついでに、妻も託してくれればよかったのにと思うことしきり。
そういえば曹操が三十万の軍を動かして、呉に進軍するつもりらしいので、援軍を送って欲しいと孫権さまが言ってましたよ。放置すると孫権さまが飲んだくれて、みんなが迷惑するので、なるべく早く援軍を送ってください。よろしく。
追伸
わたしの喋り方が張昭どのとカブるのは、やめてもらいたいと思います。
手紙を読んだ劉備は南郡に出ていた孔明さまを呼び寄せて相談しました。
「なあ、孔明。趙雲のように美人でも未亡人は中古だから嫌だという人間もあれば、魯粛どののように未亡人にハマる人間もいるのだな」
「……魯粛ちゃん元気そうだね。それで劉備さまは未亡人談義をするためにぼくを呼び戻したわけ?」
「ははっ。違うよ。孫権が曹操の侵攻にそなえて江南へ援軍を送って欲しいそうだ。魯粛どのに恩はあるが、正直送りたくない。どうやってごまかそうか」
「ああ、それなら曹操が江南を狙ってる場合じゃなくすればいいんでしょ。劉備さまがお手紙書けば済む話だよ」
「誰に送るのだ?」
「曹操は西涼が隙をついて攻め入ってくるのを常に恐れてるからね。それで馬騰をおびき出して殺害したわけだけど、息子の馬超が黙ってるはずがないもん。だから劉備さまは馬超に『曹操が憎いのは自分も同じ。恨みを晴らしたいなら協力します』ってお手紙を送って、長安を攻めるように仕向ければいいんだよ。馬超をぶつければ、曹操は江南どころじゃないもん」
「そう、うまくいくだろうか」
「馬超は慎重なタイプじゃないから、こっちが協力する姿勢を見せておけばすぐに動くよ。手紙を送るだけで馬超と孫権に恩が売れるんだから、今回は楽でいいね。あと魯粛ちゃんの顔も立つし」
「ついでに未亡人を落とす方法でも教えてやったらどうだ」
「そういうの劉備さまのほうが断然詳しいんじゃないの。あ、得意なのは若い子だったっけ?」
「……さて、ほうれん草に水でもやってくるか」
といった具合で、馬超の曹操攻撃の裏に孔明さまの根回しがあったんだね。相変わらず腹黒いです。
・西涼の兵士はテルマエ・ロマエのルシウスと親戚なのか
ルシウスがお風呂技師として活躍していた頃が130年代らしいので、曹操VS馬超は80年ほどあとの時代になりますね。馬超がローマ人の血を引いている設定なのか知りませんけど、もしそうだとすれば馬超から見て曹操達は「平たい顔族め!」といったところか。
馬超は常時ノースリーブ!
そんな馬超は呂布と並ぶ、麗しの武将として紹介されてるんだね。「顔は生まれつきおしろいを塗ったように白くて、唇は紅をさしたように赤い。肩は広くて腰は細い」だそうです。「馬超の腰は細い」か。……これ重要な気がする! 全国統一やおい模試に出る気がする! メモしとかな!
当時は男も色白がイケメンの条件なんでしょうかね? ちなみに馬超は十七歳の若かりし頃にも一度登場していて(第十回)、その時は「色白で容貌は冠の宝石みたいにキレイで、目は流れ星みたいにキラキラです」だってサ。少女漫画に出てくるような美少年じゃないか。
そんなふうに勇猛なだけではなく男前で華麗だったので、惚れっぽい曹操は「ふうん。父親の馬騰より男前だな。彼って、ちょっと素敵じゃない?」と、ときめいちゃう。
でも孔明さまだって初登場のときは馬超と同じく「面如冠玉」と紹介されて男前扱いだわよ。いや、劉備も面如冠玉で口紅塗ったみたいな唇だと描写されていますが、すごくどうでもいい気分になります。いえ、劉備の本質は見た目どうこうじゃないと言いたいだけですよ。やだなあ。
んで、演義世界の男前といえば周瑜。周瑜は「姿質風流、儀容秀麗」。何かに例えるとかじゃなく、もうストレートに描写されてんだね。周瑜の美しさの前には、どんな比喩も陳腐になってしまうのか、それとも「ハイハイ、イケメンですよ」と投げやりなのか、どっちなんですか羅漢中先生!
なんとなくですが、作者の羅漢中先生は非リアだったんじゃないでしょうか。だからリア充の周瑜を筆でコケにしたに違いないです。
あ、顔で思い出したわ。
その昔、買ってもらった陳舜臣てんてーの「諸葛孔明」に萌ゆる部分があった。
赤壁で周瑜が呉の軍勢を前にして演説し、孔明さまと劉備はそれを尻目に曹操が敗走したときに、どう行動するか地図を見ながら相談している場面から引用。
周瑜は夏口で、全軍を上陸させた。そこで訓辞したのだが、士気を高揚させると同時に、そこで待機していた劉備軍の主力にたいする示意の目的もあった。
(曹操がいかに残虐か訴える、周瑜の演説が続くので中略)
「われらはどんなことがあっても、彼らを粉砕しなくてはならない!」
全員が水をうったように静まり返っていたが、やがて怒濤のような雄叫びが上がった。
「声涙ともにくだる大演説だな」
劉備はそう言って、べろりと舌を出した。いまだに庶民の生地がのぞいて行儀はよくならない。
「あの顔だから効果があるのです」
と、孔明は言った。
「あの顔とは?」
「周郎と呼ばれる優さ男。美しい顔をしているでしょう、彼は。そんな美男があのような悲壮な演説をするので、みんなが興奮するのです。奮い立つのです」
「あれが美しい顔か」吐きすてるように劉備は言った。「我が諸葛孔明のほうが、よほど立派な顔をしているわ」
「話を元に戻しましょう」
孔明は卓上の紙に目をやった。
照れてますよー! この人、照れてますよー!
まあ、立派な顔なので、別に「孔明のほうが男前だよ」と言われているわけではないのですが「美男の周瑜よりも孔明のほうがタイプだなー」と言ってるようなものなので「もうっ。劉備さまったら……」と乙女気分の孔明さまジャマイカ。しかも、さりげなく「俺の」と頭に付けるところが、人たらし劉備のプロの技ですよ。
人気者の彼が自分をどう思っているのか不安な時に「俺の」なんて独占するようなことを言われたら「今すぐここで抱いて。獣のように体を求めてよ!」と感激すること山のごとし。孔明さまの目の前に広がるのは、赤壁周辺地図なんかじゃなくてふたりの未来予想図だったに違いありません。
でも、こういうことをサラッと言う男は、確実にみんなにも同じこと言ってますからね。未来予想図は苦難の道のりの連続ですよ。モテる男に恋してしまったんだから仕方ないね。
・ものすごい勢いで馬超に追いかけ回される曹操
対峙したものの馬超が強すぎるので、ひとまず馬で逃げる曹操。でも「赤い戦袍を着たのが曹操だ」とバレてしまったので、曹操は戦袍を脱ぎ捨てる。これで一安心かと思えば「ヒゲが長いのが曹操」とバレた。すると曹操は躊躇なくヒゲを切り落とした。
風に舞うヒゲ 切ない
それなのに「ヒゲ切ったらしいから、短いのが曹操」と、ごまかしてもすぐに伝わってしまう。曹操は旗をちぎって首に巻いて逃げたのでした。
さすが笑いを取ることに貪欲な曹操さんやでえ。そのためなら、ヒゲなんか惜しくないんだ!
気にしないもん!
・次から次へひどい目にあう曹操
馬超が兵を西涼から集めていると聞いて、曹操は「根拠地を手薄にするとは、馬超もアホめ」と喜びます。そこで徐晃を西涼へ出発させました。そうやって馬超の退路を断たせるためです。そしてみずからも兵を率いて渭水を渡り、馬超の軍を挟み撃ちにする作戦に出ました。
アホ呼ばわりされた馬超ですが行動力は抜群です。曹操が渭水を渡ろうとしているという情報を得て急襲しました。曹操が船に乗り込もうとしていたところを馬超が襲う。
この辺りの曹操が、原本ではやけに悠長なかんじに読めるからおもしろかった。
原本ではこんなふう。
矢が飛んできたので兵士達は馬超が来たと悟って、大混乱に陥り、一斉に船に乗り込もうとした。しかし曹操は岸辺に腰を降ろしたまま動かず、騒ぐなと命じていたのだが、ついに馬超の軍勢が押し寄せた。
「敵がすぐそこまで来てんですよ。早く船に乗ってください!」と許褚が曹操をせかす。それでも曹操は「別に来たっていいじゃん」とぶつくさ言う。
悠長というよりは、ふて腐れてんでしょうか。
アニメに話を戻して。
曹操を助けにきた許褚。曹操の手を握り、降り注ぐ矢の雨を馬の鞍を盾にしながら曹操を守って逃げます。惚れっぽい曹操なら、このシチュエーションにときめいてもおかしくないのですが、そうでもなかったです。やっぱアレか。曹操は面食いなんか。
鞍を盾に…って、当たらんかコレ?
許褚の陰に隠れていればいいようなものの、曹操は身を危険にさらしても画面に映り続けることを選んだようです。曹操の芸人魂はホンマもんや!
・ふしぎな老人が訪ねて来たよ
馬超を防ぐため、土で砦を築こうとした曹操。でも砂地なので、すぐ土が崩れてしまう。第一ここはクソ寒い。兵士は寒さで震えるわ、馬超は怖いわ、で曹操は家に帰りたくなった。ひとりでいじけていると、見知らぬ老人が献策したいと訪ねて来た。藁にもすがる思いで曹操は面会しました。
「して、先生のお名前は?」
「この世では名前など、単なる記号にすぎません」
と老人は、やけに中二病くさいことを言います。一瞬不安になった曹操なのですが「何を教えていただけるのですか?」と訊ねました。すると老人は「なぜ砦を築かないのですか」と言いました。
「築こうとはしとるんですがな。この辺りは砂地でうまく築けないのです」
「兵法を熟知していらっしゃる曹操さまが、こんなこともご存じないとは。夜、気温が低いうちに土で砦を築き、水をかければ凍り付くのが道理。カッチカチになります」
「どこかで聞いたことのあるフレーズですが……カッチカチですか?」
「カッチカチです」
「カッチカチになるんですね?」
「カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ?」
「やだ、スゴイ!」
というわけで、曹操の砦は一夜にして完成したのでした。こんな寒いところで常時ノースリーブの馬超は元気ありすぎだ。
・一騎打ちだよ全員集合
砦も出来たし、随分と機嫌の良くなった曹操。許褚をつれて馬超を煽りに行きます。
「やーい馬超見てみろ。一晩で砦が出来たぞ! カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ!」
「うるさいわ、ボケェ! ちょっと覚えたフレーズを使いたくって来ただけじゃろがァァ!」
馬超が馬に乗って陣営から飛び出して来ました。しかし曹操の傍らで許褚が睨みを利かせているのを見ると、馬を止めて訊ねました。
「そういや、おんどれの軍に虎候いう奴がおるらしいな。どこにおるんな?」
「おまえの目は節穴か! ワシじゃボケェ!」
許褚が刀を抜いて叫びました。
「はあん? おめえか。またアホそうな面しとるの」
「おまえに言われたないわ。頭に人間やのうて、馬の脳が入っとるらしいなあ?」
「うるせえデブ。豚はおとなしゅう豚小屋に帰れや」
「バーカ」
「デーブ」
「バーーーカ!」
「デーーーブ!」
「イラつくわ! ワシとタイマンはれや。どつき回して、余計アホにしたるわ!」
「おお、やったらあ。おんどれ取っ捕まえて市場に出荷したらあ」
「曹操さま、こいつやっちゃっていいですよね?」
許褚は怒りで震えながら振り向きました。すると曹操は袖をまくり上げて言いました。
「カッチカッチやぞ!」
「……フレーズが気に入ったのは分かりますが、さすがのわたしも、ちょっとイラッときます」
「ああ、一騎打ちするんなら明日にしろ。厚着して来なかったから寒いし、お腹空いたし」
「分かりました」許褚は丁寧に頭を下げてから馬超を睨みました。「絶対ぶち殺したるわ」
「楽しみじゃのう。もちろん、おめえの泣きっ面がじゃ」
「バーカ!」
「デーブ!」
そして翌日。
左右に分かれた両陣営。その中央へ騎乗した馬超が颯爽と躍り出ました。
「曹操の飼い猫が! 遊んでやるから出てこんか!」
ブタから飼い猫へ。なんだか、かわいらしくなっております。馬超は許褚が虎候と知ったので、飼い猫呼ばわりしたんでしょうね。
飛ぶように馬を走らせる馬超を見た曹操は諸将を顧みて言いました。
「馬超の剛勇は呂布にも劣らんな」
その言葉が終わらないうちに、許褚は馬を蹴立て雄叫びを上げながら飛び出ました。曹操は呂布の名前を出して、許褚に発破をかけたようです。
馬超と許褚は百合以上打ち合ったのですが勝負がつかない。先に馬が疲れてしまった。
「おい、馬を代えて続けるぞ」
馬超が持ちかけると許褚も応じました。陣営に戻った馬超は水を飲んで一息つきます。その頃、イライラが頂点に達していた許褚はなぜだか甲冑を脱ぎ捨て、もろ肌を脱ぐと馬に飛び乗り突進して行ったので、両陣営の全員が呆気にとられました。
おい誰が乳首券を使っていいと言った
この番組では貴重な乳首券の、前回の使用者は黄蓋でした。そして今回は許褚です。
責任者は、ちょっと出て来てもらいたい。あるでしょうが。もっと使いどころがあるでしょうが。張遼とか甘寧とか孔明さまとか孔明さまとか孔明さまとか。
CD買って握手券がついてくるなら、三国演義のDVD買って乳首券はついてこないんでしょうか。それとも土下座をすれば乳首が見せてもらえるのでしょうか。当方のプライドは紙くず同然ですので、乳首のためなら土下座をいとわない所存でございます。
さて再戦開始の馬超と許褚。三十合ほど打ち合ったのち、馬超の槍が許褚のみぞおち目がけて突き出された。あわや串刺しかと思われましたが、許褚は手で槍を掴んで防いだ。ふたりは槍の両端を握って奪い合う。やがて槍が音を立てて割れると、今度は折れた槍でお互いをバキバキに殴り合った。
「曹操さま。豪傑同士の一騎打ちというものは、凄まじいものですね。この寒空の下でも熱気が伝わってきて汗ばむようです」
賈詡が感心したように言った。賈詡にしてみれば、馬超との対戦は二度目です。上記の馬超十七歳のころに、賈詡は参謀として別の軍にいたのですが、馬超の父親馬騰と韓遂から攻撃を受けていたのです。たくましく育ったなあ、とか思ってたかもしれませんね。
曹操は短くなったヒゲを触りながら笑いました。
「ふふ。ワシはユニクロのヒートテックを着ているから、もともと寒くないぞ! 薄いのにこの温かさ。もう手放せんわい。野戦のお供にヒートテック!」
「……曹操さま。スポンサー以外の商品を宣伝するのは御法度ですよ」
「宣伝すればお礼でどっさり送ってくるかもしれんだろ」
「どうでしょうねえ。曹操さまで宣伝効果があるかどうか」
「なんだと!」
「おや、向こうの陣営に動きが……? いけません、弓を構え始めましたよ。すぐに許褚を呼び戻してください」
馬超の軍勢が矢で攻撃を始めました。許褚は甲冑を脱いでいたので矢が刺さってしまいます。それでもなんとか曹操軍の砦へ戻りました。
・ちょっぴりセンチメンタルな曹操
曹操はみずから許褚の矢傷を手当をしてあげます。
優しいぜ、曹操さま
「これに懲りたら、もう裸で戦場へ出るな」
「すんません」
「ところでワシにも乳首券の支給はないのか?」
「さ、さあ?」
そこへ徐晃が西涼の封鎖線を超え、進軍に成功したとしらせが入りました。そのしらせは馬超にも伝わります。
「まずいことになったな、叔父上」
左が叔父の韓遂。ダンディでかっこいいな!
「曹操は許褚に決闘を申し込ませ、われわれの注意を引きつけ、その隙に乗じたようだな」
苦悩の表情を浮かべる韓遂。馬超はカンカンに怒ります。
「曹操はほんまに悪賢い悪党じゃな」
「ここから先はどうすべきか……」
「どうもこうもねえわ。戦うしかなかろうが」
「まだ曹操を倒してもいないのに、西涼に攻め込まれてしまったのだぞ」
「我が軍の士気が高いうちは、絶対に撤退なんかせんからな!」
「馬超よ。士気が高いだけでは戦えない。われわれは曹操に前後を挟まれてしまったのだ。それがどれだけ不利か分かるだろう?」
「……分かっとるけど」(※分かってません)
「ここは曹操と和平を結び、来年の春を待つべきだろう」
馬超は納得しませんでしたが、韓遂は手紙を持たせた使者を曹操へ送りました。
手紙を受け取った曹操は賈詡に訊ねます。
「この和平の要請をどう思う?」
「受け入れたふりをしたのちに、反間の計をもちいて馬超と韓遂に仲間割れを起こさせるのです。そうすれば簡単に打ち破ることができるでしょう」
「同じことを考えていたようだな。馬超は呂布に劣らない剛勇だ。しかし呂布と同じように策略を持たん。その呂布には陳宮が軍師でついておったが、馬超にはそれすらない。韓遂を失えば奴はおしまいだ」
曹操は陳宮のことを思い出し未練をのぞかせました。その昔、手に手を取り合って駆け落ちした相手は、いつまでたっても忘れられないようです。
なんだか最近は昔のことばかり思い出してしまう。これも年を取ったせいなのか、と曹操は思いを巡らせてから言いました。
「よし。明日、ワシが直接韓遂を訪ねよう」
・馬超ドッキリ大作戦
翌日。
左右に諸将を引き連れ、曹操は陣営を出ました。そして韓遂配下の兵士に、韓遂だけを呼び出すよう命じます。
単騎で進み出た曹操。韓遂配下の兵士は直接曹操を見たことのないものが多く、一度見物しようと陣営から出て来ました。
このあたり戦争中なのに無邪気というか、のどかでいいですね。
見物客でごった返し、曹操はスター気分。上機嫌になって言いました。
「おまえたち、この曹操が見たいか? 目が四つ、口が二つあるわけでなし、おまえたちと同じ普通の人間だ。ただ、人よりちょっと知恵があるだけだ」
曹操を見ながら、兵士達はひそひそ話をします。
「平たい顔族だね」
「平たいね」
「噂通りヒゲが短いね」
「馬超さまに追いかけ回されて、切り落としたのってマジだったね」
そんな噂話をされているとも知らず、曹操は一発芸のひとつでも披露しようかと袖をまくり上げたとき、韓遂が馬に乗ってあらわれました。
「わたしに話があるとか?」
「カッチカ……お、おう。韓遂将軍か。よく来てくれた。将軍の父上とわたしは同年に考廉に推挙され、わたしは実の叔父のように敬愛していたものだ。また、きみとは同年に役人になったが、将軍は今年でいくつになられるのかな?」
「わたしの年を聞いて、どうされるのですか」
「いや、歳月が流れるのは早いと思ってな。将軍、子供は何人おられる?」
「一男一女がいますが……」
「それはけっこう。ちなみにわたしは三十人近くおるぞ」
「多いわ!」
「ふふ。魏の種馬とは、この曹操のことだ。この年になっても現役だぞ。カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ?」
「するかアホンダラ! 結局下ネタ言いにきたんか?」
「ワシの暴れん坊将軍は馬並だ!」
「もう、おまえ帰れよ!」
「じゃあね〜」
曹操は馬首をめぐらせ陣営へ帰ってしまいました。韓遂も首をかしげながら戻ります。すぐに馬超がやって来て訊ねました。
「叔父上は曹操と何を話したんな?」
「種馬でカッチカチとか」
「はあ?」
「いや、昔話をしただけだ」
「軍事のことは話さんかったんか?」
「曹操が言わないのだから、わたしからも持ち出せないだろう。わけが分からなかった」
「……ふん」
馬超は韓遂が曹操と内通しているのではないかと疑心を抱きますが、その場は何も言わずに立ち去った。
一方曹操陣営。
「あれで馬超は韓遂を疑っただろうか?」
曹操が賈詡に訊ねました。
「まだ足りませんね。もう一押ししましょう」
「何か妙案があるのか?」
「馬超は機略については無知です。曹操さまは韓遂へ手紙を書いてください。そしてところどころ字をぼやかし、肝心な部分は塗りつぶしたり書き直したりするのです。曹操さまから手紙が届いたと知れば、馬超はきっと読みたがるはずです。しかし手紙の重要な部分が消されているのを見て、知られてはまずいことを韓遂が咄嗟に塗りつぶしたのだと思い、ますます疑いを深めるでしょう。わたしのほうも韓遂の部下を取り込み裏工作を進めますので」
「はなはだ妙案だ。きっと馬超は騙されるな」
曹操はさっそく手紙を書いて、賈詡の助言通りにすると韓遂へ届けさせました。
受け取った韓遂は意味不明の手紙を前に困惑しました。そこへ馬超が来ます。
「叔父上。曹操から手紙が来たとか?」
「これなのだが、さっぱりわけが分からないのだ」
「この塗りつぶしてあるのは?」
「はじめから、こうなっていたのだ。間違えて下書きを送ってきたのだろうか」
「曹操は慎重な男じゃけえ絶対に間違えるわけねえ。叔父上、ホンマは昨日曹操と何を話したんな?」
馬超が疑いの目で見ていることに気付いた韓遂は慌てます。
「誤解するな、馬超!」
「叔父上は俺を裏切るつもりなんか。力を合わせて曹操を倒そう思うとったんは、俺だけだったんじゃな」
「信じられないというのなら、明日わたしが陣営の前で曹操と話す。おまえはその時に隙を見て曹操を殺せ」
「それで叔父上の本当の気持ちが確かめられるんじゃな?」
「ああ、わたしが裏切るものか」
「……ふん」
馬超は不服そうに韓遂の陣幕から出て行きました。しばらくして韓遂の部下達(買収済)が陣幕へ入って来て言います。
「もう何をしても馬超の疑いは深まるばかりです。殺される前に曹操に降伏したほうがいいですよ」
「しかし、わたしは馬超の父と義兄弟の契りを交わしているのだ。裏切ることなど……」
「迷っている時間はありませんよ。将軍がご命令をくだされば、われわれが馬超を捕らえて曹操に差し出します」
「いや、もう遅い!」
そう叫んで韓遂の陣幕へ突入してきたものがいた。
というわけで次回につづく。
「またね」「殿。乳首券は勘弁してください」
(今週のあらすじ)
赤壁で大敗を喫してからというものの、曹操は毎日を鬱々と過ごしていたが、以前より着工させていた銅雀台落成したので、多くの文武の官僚を集めて大々的に祝宴を開いた。
そこで曹操は武将達に武芸の腕前を競わせようと思いつく。しだれ柳の枝に錦の戦袍をかけさせ、その前に的を置くと、馬上から弓矢で射るように命じた。的の真ん中に命中させたものには、柳にかけた錦の戦袍を褒美として与える。と曹操が言うがいなや腕に覚えのある武将が続々と名乗りを上げ、的に矢を命中させて行った。そのなかで徐晃だけが見当違いの方向へ矢を射った。
矢は的を大きく外れると戦袍のかかった枝を射抜いた。そうやって徐晃がまんまと戦袍を手に入れようとしたとき、今度は許褚が馬を飛ばして奪いにきた。すると他の武将達まで集まって戦袍をめぐって争い始めたものだから、曹操はひとしきり笑って、戦袍は全員に与えると言うとその場をおさめた。
上機嫌の曹操のところへ程昱があらわれた。孫権と劉備が荊州を奪い合っているという情報を持って来たのだった。曹操は劉備と孫権に争わせ、漁父の利を得ようと考え、皇帝に上表して周瑜を南郡大守に任命した。
しかし曹操の思惑など、周瑜はお見通しだった。孫権も劉備との開戦には消極的なので、ふたたび魯粛を荊州へ派遣した。
魯粛の来訪を知った劉備は孔明に対応を相談した。孔明は「魯粛が荊州の話を持ち出したら大声で泣いてください」と頼む。劉備がその通りにすると魯粛はわけが分からずうろたえた。そこへ孔明があらわれ「蜀の劉璋は劉備の親戚なので攻め入ることに忍びない。だが、このままでは義理の兄になった孫権にも申し訳がない。困り果てているので、もう少し猶予が欲しい」と劉備の胸中を語った。
魯粛は言葉を失って引き返したのだが、周瑜にまた騙されたのかと呆れられる。そこで周瑜は別の策を魯粛に授け、荊州へ向かわせた。魯粛は劉備に会うと、蜀侵攻が忍びないのであれば、呉が代わりに攻め落とす。その後荊州を返還するよう持ちかけた。蜀侵攻の際には荊州を通るので、食料を提供することを約束させ、魯粛は帰って行った。
見送りに出た劉備は、これをどう考えるか孔明に訊ねた。「周瑜は荊州を通過する名目で入り込み、それに乗じて攻め落とすつもりでしょう」と答えた孔明には何か策があるようだった。
魯粛から劉備の返事を聞いた周瑜はすぐに大軍を率いて荊州へ到着したのだが、城壁の門は固く閉ざされたままだった。周瑜が不審に思っていると、趙雲が城壁の上にあらわれ「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ」と告げ、兵士に弓矢で攻撃するよう命じた。突然の攻撃に呉軍は大混乱に陥る。追い打ちをかけるかのように、関羽、張飛、黄忠、魏延がこちらへ向かっていると報告が入る。「周瑜を捕まえろ」と叫ぶ声も四方八方から聞こえてくる。激怒した周瑜は傷口が開いてしまい、血を吐き気絶し落馬した。同行していた甘寧は全軍を撤退させた。
やがて意識を取り戻した周瑜は琴の音が聞こえると言う。しかし誰の耳にも琴の音は聞こえない。それでも周瑜は「あれは諸葛亮が琴を弾いて挑発しているのだ」と言う。すぐにでも進軍すると命令を出す周瑜を甘寧は必死に止める。そこへ孔明からの書状が届いた。書状には「蜀は遠く困難な立地にあり、また守りも堅い。周瑜が攻めていけば呉の守りは薄くなり、曹操がその隙を狙って攻め込めば呉は木っ端微塵になる。そのことを考えると黙ってはいられませんでした。どうか考え直してください」と書いてあった。
孔明は周瑜の考えをすべて看過し先手を打ってくる。同じ時代に生まれたことを恨みながら、周瑜は血を吐き息絶えた。
周瑜の死を知った劉備は誰を弔問に遣わすか孔明に相談した。孔明は自分が行くと言った。それは危険過ぎると劉備が止めたのだが孔明の決意は固く、趙雲をともなって呉へ行ってしまった。
孔明が弔問に来たと聞いて、呉軍は殺意をみなぎらせた。しかし趙雲がついているので手出しが出来ない。殺気の立ちこめるなかを孔明は静かに進み、周瑜の棺の前までくるとひざまずき、涙で声を詰まらせながら祭文を読み上げた。捧げ終わると、孔明は地に伏し激しく慟哭した。それを見ていた呉軍の諸将はこころを打たれ、落涙すると、もう誰も暗殺しようとするものはいなくなった。
以上をふまえてどこまで噓か分からないレビュー
・第一回!チキチキ!!錦の戦袍争奪戦in銅雀台落成式
ここのシーンは演義のなかでも大好きなシーン。でも省略されるだろうと思ってたから出て来て愉快。
これ放送では徐晃を許褚が追いかけてからは、武将がよってたかっての混戦になってましたけど、元の演義では徐晃と許褚のガチの殴り合いに発展したのだ。
武将同士の素手ゴロって、あんまりないから珍しい。名のある武将は大抵騎乗してるから、そこから弓を射ったり、武器で斬り合ったりがほとんどだし。そんで争奪戦のオチが、殴り合ったせいでご褒美の戦袍がボロッボロになりましたってところも含めて好きな場面。
「わははー。元気が一番!」
と、こんなふうに遊ぶ余裕のある曹操は、カツカツの劉備や孫権と比べて、国力の差が圧倒的。勢力は強大。ただのウッカリおじさんじゃないのだ。
なんの本か忘れたけど、この関係を説明した「なるほどなあ」と思ったくだりがあった。それには曹操とその他勢力の立場は、太平洋戦争中のアメリカと日本だと書いてあった。分かりやすい。
・泣く子と地頭にはかなわない
魯粛がやって来たと聞いて、孔明さまは劉備に泣けと指示します。そしたら言われた通り大号泣できるんだから、ホンマ劉備は役者やでえ。呂布が劉備に対して「こいつが一番信用できないんだぞ!」と言いましたが、いやはやごもっとも。
名演技の劉備にオロオロするだけの魯粛。そこへ「泣ァかした泣ァかした。先生に言うたーろー」と歌いながら孔明さま登場。
「あーぁ。劉備さま泣かせちゃったの? 魯粛ちゃん、いけないんだ」
「ちゃ、ちゃいまんがな。ワテなんもしとりまへんがな」
「何もしてないのに、劉備さまが泣くわけないじゃん。あ、ひょっとして荊州のこと言っちゃった?」
「そら、そのために来とりますから」
「あのねえ、約束をしたからには劉備さまも荊州を返したいのはやまやまなの。でも蜀の劉璋さまは劉備さまの親戚だから攻めるに忍びないの。だから、こんなに苦しんでるの。それなのに胸ぐら掴んで脅すなんて、魯粛ちゃんひどいよ」
「そんな乱暴しとりまへんで」
「ぼくが、その噂を広めれば、真実はどうであれ事実になるんだよ」
「やーめーてー。脅しとるのは、そっちやないですか」
「もうちょっと猶予をちょうだいよ。今やろうと思ってた時に、やりなさいって言われるの一番ムカつくんだよね」
「ああ、お風呂入ろうと思うとった時に『まだ入らないの!』って怒られると無性に腹が立ちますからなって、そんな話しとる場合やのうて、ワテもそろそろ尻に火がついとりますさかい、これ以上は……」
魯粛が言うと、孔明さまは咳払いをしました。すると劉備はさらに大声で泣き出します。
「ほらァ。魯粛ちゃんが、そんなこと言うから劉備さまにも火がついちゃったじゃん。なんと、おいたわしいお姿!」
「いやいやいや、いま明らかに合図出したやん。咳払いして合図出したやん!」
「んふ」
「……で、ユーは手ぶらで帰って来たのか?」
周瑜は呆れ返った。魯粛はうなだれている。
「すんまへん」
「なにが蜀の劉璋は親戚だ。劉備は劉姓というだけで、まったく関係ないだろ」
「孫権さまのところへ、どんな顔して帰ったらええんやろ」
顔色の悪い魯粛。周瑜は元気づけるように魯粛の肩を叩いた。
「心配するな。そんなことだろうと思って、ちゃんとアイディアを用意しておいた」
「ほんまでっか?」
魯粛の表情が明るくなる。
「ふふ。魯粛はもう一度荊州へ行って、劉備にこう言うんだ」
周瑜は耳打ちをした。
「また魯粛が来た?」
孔明さまから報告を受けた劉備は顔をしかめた。
「そうみたい。これだけ早く戻って来たことを考えると、たぶん孫権さまのところへは帰らず、周瑜に入れ知恵されて来たんじゃないかな」
「ふむ。今度はどうやって追い返そうか」
首をひねる劉備。追い返すとか、なにげに劉備ひどい。真摯に取り合う気はゼロのようです。
「ぼくに任せて。劉備さまはぼくがうなずいたら、魯粛ちゃんが何を言ってても同意してくれたらいいから」
「何を言ってても? ふむ、あい分かった」
楽隊の音楽とごちそうで、魯粛はもてなされます。
普通においしそうだ。
お酒を飲んで魯粛はにこやかに話します。
「この前のことを孫権さまにお伝えしましたら、やっぱり劉備はんは情の厚いおかたや言うて、感心してはりましたで」
「いえいえ。人目も憚らず泣いてしまって、申し訳ありません」
劉備もお酒を飲んで、ちらりと横目で孔明さまの様子をうかがいます。孔明さまは素知らぬ顔で果物を摘んで食べていました。
「それで劉備はん。先日、蜀は親戚の劉璋がおさめとるから、攻めるのに忍びないいうことでしたけど、それやったらウチが落とすいうのはどうでっしゃろ。玉錦さまの持参金代わりいうことで差し上げます。それで荊州を返してもらえまへんやろか」
「そちらが蜀を?」
劉備はふたたび孔明さまを見ました。すると孔明さまは、まるで話を聞いていないかのような顔をしていましたが、大きくうなずいたのです。今だ──と劉備は魯粛に向かって身を乗り出しました。
「ピース! 魯粛ちゃんピース!」
「……は?」
今度は一体何事だ、と固まる魯粛。孔明さまが慌てて腰を上げました。
「ろ、魯粛ちゃん。ぼく、ちょっと劉備さまと話があるから、ここで待っててくれる?」
「へえ、分かりました」
劉備の奇行にビクつく魯粛は動悸を押さえて言った。孔明さまは劉備を部屋から連れ出し、顔を寄せて小声で迫ります。
「劉備さまは、何がやりたいわけ?」
「孔明がうなずいたら同意しろと言ったじゃないか」
「言ったよ。言ったけど、あれはなんなの?」
「全力で同意したまでだ」
「……劉備さまの意気込みは分かったよ。でも魯粛ちゃんには分かりにくかったみたいだから、席に戻ったら普通に同意してもらえるかな?」
「注文が多いなあ」
「できるの? できないの?」
「分かった分かった。そう怒るな。孔明はカルシウムをとったほうがいいぞ。小魚とか」
「劉備さまが、アーンして食べさせてくれたら、ぼくいくらでも食べ──」
「さて、戻るか」
「うう」
お待たせしてすみません、と詫びて劉備は腰を降ろした。
「魯粛どののご提案ですが、我がほうにとって、これほどの僥倖はございません。ありがたく承知させていただきます」
「そうと決まれば話が早い。早速相談に入らせてもらいますけど、蜀へ行軍する途中、この荊州へ寄らせてもらえまへんやろか。なんせ、かなりの遠征になりますさかい、食料や秣を補給させてもらえると助かります」
「孫権さまの温情に甘えさせていただくのはこちらですから、協力は惜しみません。ぜひお立ち寄りください。宴会をもよおしお迎えさせてもらいます」
「おおきに。ほな、これで失礼させてもらいます」
・ご機嫌で荊州へ向かう周瑜
周瑜は大軍を率いて水路、陸路、両方から荊州へ入った。しかし城門の前まで来たところで、趙雲に「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ。通すわけないだろ。常識的に考えて」と言われて、おまけに攻撃を受けてしまう。当然ブチ切れる周瑜。そのせいで、せっかく治りかけた傷が開いて吐血祭り。馬から倒れ落ちてしまう。
「大都督!」
甘寧が駆け寄って抱き起こします。
「おい、どうした!」
……あれ? 何この構図。まさかのお姫様だっこ。今まで、このCPはノーマークだったけど目覚めそうになる。イケメンエリート周瑜とやくざ上がりの男前甘寧。おいしいやん。素敵やん?
と思ったのはマチカさんだけじゃなかった。なんと甘寧の食指まで動いた。
「しっかりしろ、大都督」
「……うう」
「よかった、意識が戻ったか」
「甘寧。なぜ……股間に手を置く」
「大都督ともあろうものが、こんなていたらくでどうする。いま、起こしてやるからな!」
「いや、そこは起こさなくていいから」
甘寧はうなずくと、周囲の兵士に向かって声を張り上げた。
「大都督の一大事だ。おまえたち、この甘寧と声を合わせろ。いくぞ! 公瑾のッ! ちょっといいトコ見てみたい! そーれ、オッキ、オッキ!」
「小喬助けてー!」
「クソッ。どうして起きないんだ! 精神的な問題なのか? 最近強いストレスを感じていませんか?」
「なんだその口調は。いま、おまえに対して最高にストレスを感じている」
「ははーん。ムードを大切にするタイプ?」
「ムードもへったくれもあるか。ガンガンに矢が飛んで来てるだろ」
「なるほど。では静かなところへ移動して続けよう。全軍退却!」
「退却するのはいいが、おまえは俺から遠く離れてろ!」
そう言うと、周瑜は激しく咳き込み意識を失いました。
「あれ? 本格的にヤバくない?」
甘寧は周瑜を肩に担ぐと退却したのでした。
・不気味なぐらい、いい人になってる孔明さま
その日の夜、孔明さまはひとり琴を弾いていました。その音色が遠く離れた場所の周瑜には聞こえているという演出がニクいですね。
周瑜は諸将に見守られながら息をするのも苦しそう。そこへ孔明さまから、とどめのお手紙が届きます。内容を読んだ周瑜は孔明さまに翻弄される怒りよりも、どれだけあがいても決して敵わないという絶望で深いため息をつきました。もう怒る気力も残っていなかった。
怒りで人は死にません。絶望が人を殺すのです。周瑜は有名な台詞とともに短くも激動の生涯を終えます。
「天はわたしを生んでおきながら、なぜ諸葛亮をも生んだのだ」
「……周瑜」
孔明さまの弾く琴の弦が不意に切れました。
星を見上げて何か悟ったような表情の孔明さま。孔明灯に火をともし、そっと夜空に浮かべます。そこへ劉備がやって来て「周瑜が亡くなったそうだ」と告げました。そして誰を弔問に行かせるべきだろうか、と訊ねます。
「ぼくが行く」
「だめだ。呉の連中は周瑜を殺したのは孔明だと思っている。行けば殺されてしまうぞ」
「それでも、ぼくが行く。ぼくじゃなくちゃだめなんだよ」
夜空に舞い上がっていた孔明灯が流星のように燃えながら落ちてゆきました。
「分かった。どうせ行くなと言っても聞かないのだろ。じゅうぶんに気をつけて行って来い」
「うん。子竜ちゃん借りていい?」
「ああ、趙雲に五百の兵をつける」
と、アニメだと周瑜の死を悼み、心のなかで泣いているように見えますが、実際はこうですからね。
──孔明在荊州、夜観天文、見将星墜地。乃笑曰、「周瑜死矣。」
「あ、周瑜死んだわ」と笑いながら言ってる。いやいや、でも行間に孔明さまの悲しみが隠されてるに違いない。それを読み取れということだよ、きっと。たぶん。苦しいな。
・弔問に向かう船の上の孔明さまと趙雲
「みんなぼくを殺そうと思ってるだろうね」
白い喪服に着替えた孔明さま。
「先生でも気弱になることがあるんですね。わたしがお守りしますから安心してください」
趙雲も喪服を着ていますが、愛用の槍はしっかり携えている。
「あのさ、子竜ちゃんも、ぼくのことひどい人間だと思ってる?」
「まあ、誰からも好かれるいい人ではないですね。確実に」
「はっきり言い過ぎ。別にいいけどね。みんなから好かれたいとも思ってないし。だからって殺されるのはごめんだし、よろしくね」
「先生、手を出してください」
趙雲は片手を差し出し握手を求めた。
「なんなの?」
「いいから、出してください」
趙雲は屈託のない笑顔を浮かべています。孔明さまが不審そうに手を伸ばすと、趙雲はきつく握って上下に振った。
「ほら。大丈夫ですよ、先生」
「痛いよ放して。子竜ちゃんの力が強いのは分かったって。安心してればいいんでしょ」
孔明さまは解放された手をさすります。趙雲は相変わらずニコニコ笑っていました。
・弔辞をささげる孔明さま
孔明さまの弔辞は書き下し文を読んでも難しいなあ。ざっくり分かる範囲だけでも書こうと思ったら量が半分ぐらいになった。ドンマイ。
「ねえ、周瑜。死ぬには早過ぎるよ。人の寿命はあらかじめ決まってるっていうけどさ、だからってこんなのないよ。
いまお酒をそなえるから受け取ってね。
周瑜は子供の頃、孫策さまと出会って親友になったんだよね。それから舞い上がる鳳凰のような力強さをもってして江南に割拠した。孫策さまにとって、周瑜は本当に心強い存在だったんだと思う。
いい奥さんをもらって、王朝のため立派に働いたよね。
曹操なんかに負けず、武勇と知略の限りをつくして、始めから最後まで戦い抜いた。周瑜こそ英雄と呼ばれるに相応しい。それがこんなに早く死んじゃうなんて惜しいよ。
でも、たとえ三十代で死んだとしても、周瑜がどれだけ素晴らしい人だったか、いかに心を尽くしたか、それはきっとこの先も長い間伝えられるはずだよ。
周瑜を失ったことを考えると、心が壊れてしまいそうになる。きっと、この悲しみはいつまでも続く。孫権さまも泣いてる。みんな、みんな、泣いてる。
あの時、ぼくみたいな人間が呉までやって来て戦えたのは、周瑜の力があってこそだった。いつ死んでもおかしくなかったけど、周瑜がいたから怖くなかったんだ。
ねえ、周瑜。これでお別れだね。もし魂がここにあるのなら、ぼくの声を聞いて。そしてまごころに触れてよ。ぼくのことを本当に分かってくれた人は、この広い世界で周瑜しかいないんだよ。
ねえ、周瑜。つらくて、悲しくて、たまらないよ。
ぼくの祈りが……どうか届きますように」
孔明さまは弔辞を読み終わると、地に突っ伏して全身を震わせて泣きました。
「周瑜どのと孔明は仲が悪いとばかり思っていたが、それは間違いだった。孔明がこれほど情け深い人だとは知らなかった」と、誰もが嗚咽をもらし、あふれる涙を拭い続けたのでした。
・荊州へ帰る孔明さま
見送る魯粛が孔明さまに言葉をかけます。
「今日は遠路はるばるお越しいただいて、ありがとうございました」
頭を下げた魯粛は顔を伏せたままで、また泣いているようだった。
「魯粛ちゃん、元気出してね」
「無理です。ワテを孫権さまに推挙してくれはったんは周瑜はんなんです。今のワテがあるんは、みんな周瑜はんのお陰なんです。それやのにワテは周瑜はんに、なんもしてあげられませんでした。逆に迷惑ばっかりかけてしもうて……ワテが寿命縮めてしもうたようなもんです」
「そんなことないよ。もし、周瑜が魯粛ちゃんのこと迷惑に思ってたら、遺言で後任に推薦するはずないでしょう?」
「推薦されても、ワテはどないしたらええんか分かりません。目の前が真っ暗で、よう歩けません」
「たしかに周瑜は天下にまたとない逸材だったよ。だから誰にも周瑜の真似はできない」
「そうです。ワテみたいな凡才は、周瑜はんの力の何分の一もありません」
「同じことをしようとすれば、そうだろうね。でも魯粛ちゃんにも、やっぱり魯粛ちゃんにしか出来ないことがあるんだよ。それが周瑜には分かってた。魯粛ちゃんには自分とは別の才能があると認めてたんだ。周瑜と魯粛ちゃんの目指すものは同じ。だけど、そこに至るまでのやり方はひとつじゃない。周瑜は魯粛ちゃんのやりかたで、志を引き継いで欲しかったんだよ。だって、その志を一番理解してくれてるのは魯粛ちゃんだって信じてたんだもの」
「……孔明はん」
魯粛は顔を上げ、涙を溜めた目を大きく見開きました。
「目指すものが見えたら、もう真っ暗じゃないよね。今日は周瑜のためにいっぱい泣く日。でも明日からは、しっかり歩かないと。あいにくぼくらが生まれたのは乱世の時代。生き抜くには立ち止まっていられない。そのなかで魯粛ちゃんは意思を託されたんだから」
孔明さまは魯粛が固く握りしめている手を両手で包んであげました。
「おおきに。孔明はん、おおきに……」
魯粛はつないだ手に額を押し付けて泣きました。
「先生」趙雲が船上から顔をのぞかせて言いました。「そろそろ戻らないと」
孔明さまは魯粛に別れを告げて船に乗りました。暮れなずむ長江の水面をぼんやり眺めていると、すでに甲冑を着込んだ趙雲がやって来ました。
「いやあ、やっぱりこの格好が一番落ち着きます。兜のフサフサをなびかせてナンボですから」
「それ着てないと、子竜ちゃんモブキャラに埋まって誰だか判別がつかないもんね」
(自覚があるのか、槍を持って差別化を図る趙雲。涙ぐましい)
「ひどいなあ。キリっとした眉毛で判別してください。そんなことより、そろそろ寒くなって来ますから、中にお入りください。先生を無事に連れて帰るのが、わたしのお仕事ですからね。怪我がなくても、風邪を引かれたら困ります」
「もう少しここにいる」
孔明さまは身を屈めて、船縁の柵に頬杖を付きました。首をかしげてその様子を見ていた趙雲は隣に並んで立ちました。
「先生の弔辞、みんな感動してましたね。先生もあんなに泣いて、わたしまで涙が出そうでしたよ」
「あれウソ泣き」
「……」
「皇帝を擁する曹操の勢力は衰えてない。赤壁で負けたとはいえ、北へ帰ればすぐ態勢を整えられる。本気で潰しに来られたら、劉備さまもいつまで持つか分からない。それは呉も一緒。利は一致しなくても害は同じだから、せめて同盟関係は維持させておきたい。だから周瑜のことで関係を悪化させるわけにはいかなかったんだ。うまくいって良かったよ」
「でも魯粛どのにかけた言葉は本心からなんでしょう?」
「曹操と対抗するには、劉備さまと協力するべきだって主張する派閥の筆頭が魯粛ちゃんだからね。魯粛ちゃんが後任になってくれないと、こっちも困るんだよ」
「そうですか。先生の思惑通りに運んだというわけですね」
「うん」
「じゃあ、なんで楽しそうじゃないんですか?」
趙雲は孔明さまの顔を下から覗き込みました。
「子竜ちゃんのくせに、ぼくのこと分析しないでくれる?」
「そんなつもりはないですけど、単に気になるものですから」
「子竜ちゃん変わってるね」
「うーん、そうでしょうか」
「変わってるよ。ぼくがどんな戦略を描くのか興味がある人はいても、ぼくの気持ちを気にする人なんていないもん」
「周瑜どのは良くも悪くも、それを一番気にしてくれた人なんですね」
「なんでそうなるの?」
「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心です。周瑜どのの先生に対する執着心も、並々ならないものがありましたけど、それは先生も一緒だったんでしょう?」
「分かったようなことを言うんだね」
「その結末が、なぜ周瑜どのの死でなくてはならなかったんでしょうかね」
「ぼくのこと責めてるの?」
「いいえ。先生は周瑜どのに命を狙われていたわけですから、どちらかの死しか結末はありません。それにわたしが日頃やっていることは殺し合いですからね。そのことで先生を責められるはずがありません。でも、わたしも自分がたった今斬り殺した骸を眺めて、どうしてこんなことになったんだろうと考えることがあるんですよ」
「ふうん。向いてないんじゃない?」
「どうでしょうね」
「さっきから何が言いたいの?」
「先生も、そんなやるせない気持ちなんじゃないかと思って。ただ乱世に出会ってしまったというだけで、どちらが悪いわけでもないですよ」
「ぼくは感傷に浸って、あれは仕方がなかったんだ、なんて自分を正当化したりしない。周瑜はぼくが追いつめて殺した。それだけの話」
「分かりました」
趙雲は短くため息をついて船尾へ見張りに向かおうとしました。しかし孔明さまが、でもね──と消えるような声で言ったので立ち止まります。
「荊州へ帰るまでは、ちょっと感傷に浸ってもいいかなって」
「いいと思いますよ」
趙雲はふたたび孔明さまの隣に立ちます。
「あれはウソ泣きだったけど、ぼくの気持ちを理解できる人は周瑜しかいないって言ったのは本当。同じ種類の人間だもん。でも周瑜はぼくが絶対に手に入れられないものを持ってた。その点において、ぼくはずっと周瑜に敵わないんだろうなって思う。羨ましかった。だから好きで嫌いだった。あんなふうになれたらいいなって憧れてたし、死ねばいいと思ってた」
「歪んでますねえ」
「いまさら?」
「いえ、つくづく。ところで先生の手に入らないものってなんですか」
趙雲が訊ねます。いつの間にか日は暮れて、長江も深い藍色に染まっていました。孔明さまはしばらく黙って川面を見つめていたのですが、やがて視線を落としたまま言いました。
「水と魚って永遠に交わるものじゃないんだよ」
「それって答えになってますか?」
「ぼく生まれ変わったら魚になりたいな。みんなと一緒に泳ぎたい」
突然そんなことを言うものだから、孔明さまの視線の先に魚がいるのかと思って趙雲は探しましたが、どこにも見当たりませんでした。もとより夜の川は昏く、魚が泳いでいたとしても見えるはずもありません。いぶかしげに振り向くと孔明さまの顔が青白かったので、趙雲は心配になります。
「先生。風が冷たくなってきました。今日はお疲れでしょうし、中に入って休んでください」
「ぼくはそのうち嘘をついて人を欺いて陥れることに、なんの葛藤も感じなくなるのかな。きっといい死に方しないね」
「大丈夫ですよ、先生。わたしがお守りします」
「みんなと一緒で、やな奴って思ってるくせに」
「そんなことないですよ」
「うそだね」
「困りましたねえ。今日は一段と気難しいですね」
「ほっといてよ」
そっぽを向いた孔明さまに向かって、趙雲が手を差し出します。
「先生、手を出してください」
「もう握手はいいよ。行きの船でもそうだったけど、なんなの?」
「いいから手を出してください」趙雲は無理矢理手を取ると、しっかり握って言います。「他の人はどうだか知りませんけど、わたしは先生の手が温かいと知ってますよ」
「生きてんだから、温かいに決まってるでしょ」
「それが大事なんです。それだけで、わたしは命をかけてお守りできます」
「意味が分からないよ」
「わたしもよく分かりません」
「何それ」
孔明さまは心底がっかりしたような顔になります。
「わたしは先生のように多くの言葉を持ちません。どう言えばいいのか分かりませんし、どれだけ言葉をつくされても分かったような気になるぐらいです。だから握手した先生の手が温かかったとか、そういうことでいいんです」
「そんな……そんなの……言ってて恥ずかしくならない?」
「うーん。別に気取って言葉を飾っているわけじゃないですからねえ。さっきも言いましたけど、そういう柄じゃないんです。でも先生だって船に乗る前、魯粛どのの手を握ってあげてましたよね。それって魯粛どのを気遣う本心を伝えたかったんでしょう?」
「知らないもん。もう休もうかなあ」
「ええ。そうしてください」
「じゃあ、後よろしくね」
「おまかせください」
孔明さまは数歩歩いてから足を止めました。
「子竜ちゃんの手は温かいけど、硬くてゴツゴツしてるね」
「はは。こればかりは仕方ないですよ。昔から槍だの弓だの握ってましたからね。どうもすみません」
武器を手にして生きて来たから、趙雲は人の手の温かさを大事に思うのかもしれない、と孔明さまは思いました。
「どうして謝るの。ぼく嫌いじゃないよ。なんていうか……いつもありがと」
孔明さまは暑くもないのに羽扇で忙しく顔を仰いで言いました。趙雲は驚いた表情になります。
「めずらしく殊勝ですね。いやあ、これは雨が降るかもしれません」
「子竜ちゃんの分際で、頑張ってぼくを慰めようとしてるから褒めてあげたのに、そういうこと言うんだ」
「褒めていただくより、嫌がらせをやめてもらうほうが嬉しいですけど」
「だめ。それはぼくの趣味だから」
「参りましたねえ。せめてお手柔らかに頼みますよ」
趙雲が笑うと孔明さまも一緒に笑いました。
というわけで、さよなら周瑜。ありがとう周瑜!
「おのれ孔明。俺の葬式に便乗して青春するな!」
「またね」「殿。わたしも落成式でごちそう食べたかったです」
赤壁で大敗を喫してからというものの、曹操は毎日を鬱々と過ごしていたが、以前より着工させていた銅雀台落成したので、多くの文武の官僚を集めて大々的に祝宴を開いた。
そこで曹操は武将達に武芸の腕前を競わせようと思いつく。しだれ柳の枝に錦の戦袍をかけさせ、その前に的を置くと、馬上から弓矢で射るように命じた。的の真ん中に命中させたものには、柳にかけた錦の戦袍を褒美として与える。と曹操が言うがいなや腕に覚えのある武将が続々と名乗りを上げ、的に矢を命中させて行った。そのなかで徐晃だけが見当違いの方向へ矢を射った。
矢は的を大きく外れると戦袍のかかった枝を射抜いた。そうやって徐晃がまんまと戦袍を手に入れようとしたとき、今度は許褚が馬を飛ばして奪いにきた。すると他の武将達まで集まって戦袍をめぐって争い始めたものだから、曹操はひとしきり笑って、戦袍は全員に与えると言うとその場をおさめた。
上機嫌の曹操のところへ程昱があらわれた。孫権と劉備が荊州を奪い合っているという情報を持って来たのだった。曹操は劉備と孫権に争わせ、漁父の利を得ようと考え、皇帝に上表して周瑜を南郡大守に任命した。
しかし曹操の思惑など、周瑜はお見通しだった。孫権も劉備との開戦には消極的なので、ふたたび魯粛を荊州へ派遣した。
魯粛の来訪を知った劉備は孔明に対応を相談した。孔明は「魯粛が荊州の話を持ち出したら大声で泣いてください」と頼む。劉備がその通りにすると魯粛はわけが分からずうろたえた。そこへ孔明があらわれ「蜀の劉璋は劉備の親戚なので攻め入ることに忍びない。だが、このままでは義理の兄になった孫権にも申し訳がない。困り果てているので、もう少し猶予が欲しい」と劉備の胸中を語った。
魯粛は言葉を失って引き返したのだが、周瑜にまた騙されたのかと呆れられる。そこで周瑜は別の策を魯粛に授け、荊州へ向かわせた。魯粛は劉備に会うと、蜀侵攻が忍びないのであれば、呉が代わりに攻め落とす。その後荊州を返還するよう持ちかけた。蜀侵攻の際には荊州を通るので、食料を提供することを約束させ、魯粛は帰って行った。
見送りに出た劉備は、これをどう考えるか孔明に訊ねた。「周瑜は荊州を通過する名目で入り込み、それに乗じて攻め落とすつもりでしょう」と答えた孔明には何か策があるようだった。
魯粛から劉備の返事を聞いた周瑜はすぐに大軍を率いて荊州へ到着したのだが、城壁の門は固く閉ざされたままだった。周瑜が不審に思っていると、趙雲が城壁の上にあらわれ「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ」と告げ、兵士に弓矢で攻撃するよう命じた。突然の攻撃に呉軍は大混乱に陥る。追い打ちをかけるかのように、関羽、張飛、黄忠、魏延がこちらへ向かっていると報告が入る。「周瑜を捕まえろ」と叫ぶ声も四方八方から聞こえてくる。激怒した周瑜は傷口が開いてしまい、血を吐き気絶し落馬した。同行していた甘寧は全軍を撤退させた。
やがて意識を取り戻した周瑜は琴の音が聞こえると言う。しかし誰の耳にも琴の音は聞こえない。それでも周瑜は「あれは諸葛亮が琴を弾いて挑発しているのだ」と言う。すぐにでも進軍すると命令を出す周瑜を甘寧は必死に止める。そこへ孔明からの書状が届いた。書状には「蜀は遠く困難な立地にあり、また守りも堅い。周瑜が攻めていけば呉の守りは薄くなり、曹操がその隙を狙って攻め込めば呉は木っ端微塵になる。そのことを考えると黙ってはいられませんでした。どうか考え直してください」と書いてあった。
孔明は周瑜の考えをすべて看過し先手を打ってくる。同じ時代に生まれたことを恨みながら、周瑜は血を吐き息絶えた。
周瑜の死を知った劉備は誰を弔問に遣わすか孔明に相談した。孔明は自分が行くと言った。それは危険過ぎると劉備が止めたのだが孔明の決意は固く、趙雲をともなって呉へ行ってしまった。
孔明が弔問に来たと聞いて、呉軍は殺意をみなぎらせた。しかし趙雲がついているので手出しが出来ない。殺気の立ちこめるなかを孔明は静かに進み、周瑜の棺の前までくるとひざまずき、涙で声を詰まらせながら祭文を読み上げた。捧げ終わると、孔明は地に伏し激しく慟哭した。それを見ていた呉軍の諸将はこころを打たれ、落涙すると、もう誰も暗殺しようとするものはいなくなった。
以上をふまえてどこまで噓か分からないレビュー
・第一回!チキチキ!!錦の戦袍争奪戦in銅雀台落成式
ここのシーンは演義のなかでも大好きなシーン。でも省略されるだろうと思ってたから出て来て愉快。
これ放送では徐晃を許褚が追いかけてからは、武将がよってたかっての混戦になってましたけど、元の演義では徐晃と許褚のガチの殴り合いに発展したのだ。
武将同士の素手ゴロって、あんまりないから珍しい。名のある武将は大抵騎乗してるから、そこから弓を射ったり、武器で斬り合ったりがほとんどだし。そんで争奪戦のオチが、殴り合ったせいでご褒美の戦袍がボロッボロになりましたってところも含めて好きな場面。
「わははー。元気が一番!」
と、こんなふうに遊ぶ余裕のある曹操は、カツカツの劉備や孫権と比べて、国力の差が圧倒的。勢力は強大。ただのウッカリおじさんじゃないのだ。
なんの本か忘れたけど、この関係を説明した「なるほどなあ」と思ったくだりがあった。それには曹操とその他勢力の立場は、太平洋戦争中のアメリカと日本だと書いてあった。分かりやすい。
・泣く子と地頭にはかなわない
魯粛がやって来たと聞いて、孔明さまは劉備に泣けと指示します。そしたら言われた通り大号泣できるんだから、ホンマ劉備は役者やでえ。呂布が劉備に対して「こいつが一番信用できないんだぞ!」と言いましたが、いやはやごもっとも。
名演技の劉備にオロオロするだけの魯粛。そこへ「泣ァかした泣ァかした。先生に言うたーろー」と歌いながら孔明さま登場。
「あーぁ。劉備さま泣かせちゃったの? 魯粛ちゃん、いけないんだ」
「ちゃ、ちゃいまんがな。ワテなんもしとりまへんがな」
「何もしてないのに、劉備さまが泣くわけないじゃん。あ、ひょっとして荊州のこと言っちゃった?」
「そら、そのために来とりますから」
「あのねえ、約束をしたからには劉備さまも荊州を返したいのはやまやまなの。でも蜀の劉璋さまは劉備さまの親戚だから攻めるに忍びないの。だから、こんなに苦しんでるの。それなのに胸ぐら掴んで脅すなんて、魯粛ちゃんひどいよ」
「そんな乱暴しとりまへんで」
「ぼくが、その噂を広めれば、真実はどうであれ事実になるんだよ」
「やーめーてー。脅しとるのは、そっちやないですか」
「もうちょっと猶予をちょうだいよ。今やろうと思ってた時に、やりなさいって言われるの一番ムカつくんだよね」
「ああ、お風呂入ろうと思うとった時に『まだ入らないの!』って怒られると無性に腹が立ちますからなって、そんな話しとる場合やのうて、ワテもそろそろ尻に火がついとりますさかい、これ以上は……」
魯粛が言うと、孔明さまは咳払いをしました。すると劉備はさらに大声で泣き出します。
「ほらァ。魯粛ちゃんが、そんなこと言うから劉備さまにも火がついちゃったじゃん。なんと、おいたわしいお姿!」
「いやいやいや、いま明らかに合図出したやん。咳払いして合図出したやん!」
「んふ」
「……で、ユーは手ぶらで帰って来たのか?」
周瑜は呆れ返った。魯粛はうなだれている。
「すんまへん」
「なにが蜀の劉璋は親戚だ。劉備は劉姓というだけで、まったく関係ないだろ」
「孫権さまのところへ、どんな顔して帰ったらええんやろ」
顔色の悪い魯粛。周瑜は元気づけるように魯粛の肩を叩いた。
「心配するな。そんなことだろうと思って、ちゃんとアイディアを用意しておいた」
「ほんまでっか?」
魯粛の表情が明るくなる。
「ふふ。魯粛はもう一度荊州へ行って、劉備にこう言うんだ」
周瑜は耳打ちをした。
「また魯粛が来た?」
孔明さまから報告を受けた劉備は顔をしかめた。
「そうみたい。これだけ早く戻って来たことを考えると、たぶん孫権さまのところへは帰らず、周瑜に入れ知恵されて来たんじゃないかな」
「ふむ。今度はどうやって追い返そうか」
首をひねる劉備。追い返すとか、なにげに劉備ひどい。真摯に取り合う気はゼロのようです。
「ぼくに任せて。劉備さまはぼくがうなずいたら、魯粛ちゃんが何を言ってても同意してくれたらいいから」
「何を言ってても? ふむ、あい分かった」
楽隊の音楽とごちそうで、魯粛はもてなされます。
普通においしそうだ。
お酒を飲んで魯粛はにこやかに話します。
「この前のことを孫権さまにお伝えしましたら、やっぱり劉備はんは情の厚いおかたや言うて、感心してはりましたで」
「いえいえ。人目も憚らず泣いてしまって、申し訳ありません」
劉備もお酒を飲んで、ちらりと横目で孔明さまの様子をうかがいます。孔明さまは素知らぬ顔で果物を摘んで食べていました。
「それで劉備はん。先日、蜀は親戚の劉璋がおさめとるから、攻めるのに忍びないいうことでしたけど、それやったらウチが落とすいうのはどうでっしゃろ。玉錦さまの持参金代わりいうことで差し上げます。それで荊州を返してもらえまへんやろか」
「そちらが蜀を?」
劉備はふたたび孔明さまを見ました。すると孔明さまは、まるで話を聞いていないかのような顔をしていましたが、大きくうなずいたのです。今だ──と劉備は魯粛に向かって身を乗り出しました。
「ピース! 魯粛ちゃんピース!」
「……は?」
今度は一体何事だ、と固まる魯粛。孔明さまが慌てて腰を上げました。
「ろ、魯粛ちゃん。ぼく、ちょっと劉備さまと話があるから、ここで待っててくれる?」
「へえ、分かりました」
劉備の奇行にビクつく魯粛は動悸を押さえて言った。孔明さまは劉備を部屋から連れ出し、顔を寄せて小声で迫ります。
「劉備さまは、何がやりたいわけ?」
「孔明がうなずいたら同意しろと言ったじゃないか」
「言ったよ。言ったけど、あれはなんなの?」
「全力で同意したまでだ」
「……劉備さまの意気込みは分かったよ。でも魯粛ちゃんには分かりにくかったみたいだから、席に戻ったら普通に同意してもらえるかな?」
「注文が多いなあ」
「できるの? できないの?」
「分かった分かった。そう怒るな。孔明はカルシウムをとったほうがいいぞ。小魚とか」
「劉備さまが、アーンして食べさせてくれたら、ぼくいくらでも食べ──」
「さて、戻るか」
「うう」
お待たせしてすみません、と詫びて劉備は腰を降ろした。
「魯粛どののご提案ですが、我がほうにとって、これほどの僥倖はございません。ありがたく承知させていただきます」
「そうと決まれば話が早い。早速相談に入らせてもらいますけど、蜀へ行軍する途中、この荊州へ寄らせてもらえまへんやろか。なんせ、かなりの遠征になりますさかい、食料や秣を補給させてもらえると助かります」
「孫権さまの温情に甘えさせていただくのはこちらですから、協力は惜しみません。ぜひお立ち寄りください。宴会をもよおしお迎えさせてもらいます」
「おおきに。ほな、これで失礼させてもらいます」
・ご機嫌で荊州へ向かう周瑜
周瑜は大軍を率いて水路、陸路、両方から荊州へ入った。しかし城門の前まで来たところで、趙雲に「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ。通すわけないだろ。常識的に考えて」と言われて、おまけに攻撃を受けてしまう。当然ブチ切れる周瑜。そのせいで、せっかく治りかけた傷が開いて吐血祭り。馬から倒れ落ちてしまう。
「大都督!」
甘寧が駆け寄って抱き起こします。
「おい、どうした!」
……あれ? 何この構図。まさかのお姫様だっこ。今まで、このCPはノーマークだったけど目覚めそうになる。イケメンエリート周瑜とやくざ上がりの男前甘寧。おいしいやん。素敵やん?
と思ったのはマチカさんだけじゃなかった。なんと甘寧の食指まで動いた。
「しっかりしろ、大都督」
「……うう」
「よかった、意識が戻ったか」
「甘寧。なぜ……股間に手を置く」
「大都督ともあろうものが、こんなていたらくでどうする。いま、起こしてやるからな!」
「いや、そこは起こさなくていいから」
甘寧はうなずくと、周囲の兵士に向かって声を張り上げた。
「大都督の一大事だ。おまえたち、この甘寧と声を合わせろ。いくぞ! 公瑾のッ! ちょっといいトコ見てみたい! そーれ、オッキ、オッキ!」
「小喬助けてー!」
「クソッ。どうして起きないんだ! 精神的な問題なのか? 最近強いストレスを感じていませんか?」
「なんだその口調は。いま、おまえに対して最高にストレスを感じている」
「ははーん。ムードを大切にするタイプ?」
「ムードもへったくれもあるか。ガンガンに矢が飛んで来てるだろ」
「なるほど。では静かなところへ移動して続けよう。全軍退却!」
「退却するのはいいが、おまえは俺から遠く離れてろ!」
そう言うと、周瑜は激しく咳き込み意識を失いました。
「あれ? 本格的にヤバくない?」
甘寧は周瑜を肩に担ぐと退却したのでした。
・不気味なぐらい、いい人になってる孔明さま
その日の夜、孔明さまはひとり琴を弾いていました。その音色が遠く離れた場所の周瑜には聞こえているという演出がニクいですね。
周瑜は諸将に見守られながら息をするのも苦しそう。そこへ孔明さまから、とどめのお手紙が届きます。内容を読んだ周瑜は孔明さまに翻弄される怒りよりも、どれだけあがいても決して敵わないという絶望で深いため息をつきました。もう怒る気力も残っていなかった。
怒りで人は死にません。絶望が人を殺すのです。周瑜は有名な台詞とともに短くも激動の生涯を終えます。
「天はわたしを生んでおきながら、なぜ諸葛亮をも生んだのだ」
「……周瑜」
孔明さまの弾く琴の弦が不意に切れました。
星を見上げて何か悟ったような表情の孔明さま。孔明灯に火をともし、そっと夜空に浮かべます。そこへ劉備がやって来て「周瑜が亡くなったそうだ」と告げました。そして誰を弔問に行かせるべきだろうか、と訊ねます。
「ぼくが行く」
「だめだ。呉の連中は周瑜を殺したのは孔明だと思っている。行けば殺されてしまうぞ」
「それでも、ぼくが行く。ぼくじゃなくちゃだめなんだよ」
夜空に舞い上がっていた孔明灯が流星のように燃えながら落ちてゆきました。
「分かった。どうせ行くなと言っても聞かないのだろ。じゅうぶんに気をつけて行って来い」
「うん。子竜ちゃん借りていい?」
「ああ、趙雲に五百の兵をつける」
と、アニメだと周瑜の死を悼み、心のなかで泣いているように見えますが、実際はこうですからね。
──孔明在荊州、夜観天文、見将星墜地。乃笑曰、「周瑜死矣。」
「あ、周瑜死んだわ」と笑いながら言ってる。いやいや、でも行間に孔明さまの悲しみが隠されてるに違いない。それを読み取れということだよ、きっと。たぶん。苦しいな。
・弔問に向かう船の上の孔明さまと趙雲
「みんなぼくを殺そうと思ってるだろうね」
白い喪服に着替えた孔明さま。
「先生でも気弱になることがあるんですね。わたしがお守りしますから安心してください」
趙雲も喪服を着ていますが、愛用の槍はしっかり携えている。
「あのさ、子竜ちゃんも、ぼくのことひどい人間だと思ってる?」
「まあ、誰からも好かれるいい人ではないですね。確実に」
「はっきり言い過ぎ。別にいいけどね。みんなから好かれたいとも思ってないし。だからって殺されるのはごめんだし、よろしくね」
「先生、手を出してください」
趙雲は片手を差し出し握手を求めた。
「なんなの?」
「いいから、出してください」
趙雲は屈託のない笑顔を浮かべています。孔明さまが不審そうに手を伸ばすと、趙雲はきつく握って上下に振った。
「ほら。大丈夫ですよ、先生」
「痛いよ放して。子竜ちゃんの力が強いのは分かったって。安心してればいいんでしょ」
孔明さまは解放された手をさすります。趙雲は相変わらずニコニコ笑っていました。
・弔辞をささげる孔明さま
孔明さまの弔辞は書き下し文を読んでも難しいなあ。ざっくり分かる範囲だけでも書こうと思ったら量が半分ぐらいになった。ドンマイ。
「ねえ、周瑜。死ぬには早過ぎるよ。人の寿命はあらかじめ決まってるっていうけどさ、だからってこんなのないよ。
いまお酒をそなえるから受け取ってね。
周瑜は子供の頃、孫策さまと出会って親友になったんだよね。それから舞い上がる鳳凰のような力強さをもってして江南に割拠した。孫策さまにとって、周瑜は本当に心強い存在だったんだと思う。
いい奥さんをもらって、王朝のため立派に働いたよね。
曹操なんかに負けず、武勇と知略の限りをつくして、始めから最後まで戦い抜いた。周瑜こそ英雄と呼ばれるに相応しい。それがこんなに早く死んじゃうなんて惜しいよ。
でも、たとえ三十代で死んだとしても、周瑜がどれだけ素晴らしい人だったか、いかに心を尽くしたか、それはきっとこの先も長い間伝えられるはずだよ。
周瑜を失ったことを考えると、心が壊れてしまいそうになる。きっと、この悲しみはいつまでも続く。孫権さまも泣いてる。みんな、みんな、泣いてる。
あの時、ぼくみたいな人間が呉までやって来て戦えたのは、周瑜の力があってこそだった。いつ死んでもおかしくなかったけど、周瑜がいたから怖くなかったんだ。
ねえ、周瑜。これでお別れだね。もし魂がここにあるのなら、ぼくの声を聞いて。そしてまごころに触れてよ。ぼくのことを本当に分かってくれた人は、この広い世界で周瑜しかいないんだよ。
ねえ、周瑜。つらくて、悲しくて、たまらないよ。
ぼくの祈りが……どうか届きますように」
孔明さまは弔辞を読み終わると、地に突っ伏して全身を震わせて泣きました。
「周瑜どのと孔明は仲が悪いとばかり思っていたが、それは間違いだった。孔明がこれほど情け深い人だとは知らなかった」と、誰もが嗚咽をもらし、あふれる涙を拭い続けたのでした。
・荊州へ帰る孔明さま
見送る魯粛が孔明さまに言葉をかけます。
「今日は遠路はるばるお越しいただいて、ありがとうございました」
頭を下げた魯粛は顔を伏せたままで、また泣いているようだった。
「魯粛ちゃん、元気出してね」
「無理です。ワテを孫権さまに推挙してくれはったんは周瑜はんなんです。今のワテがあるんは、みんな周瑜はんのお陰なんです。それやのにワテは周瑜はんに、なんもしてあげられませんでした。逆に迷惑ばっかりかけてしもうて……ワテが寿命縮めてしもうたようなもんです」
「そんなことないよ。もし、周瑜が魯粛ちゃんのこと迷惑に思ってたら、遺言で後任に推薦するはずないでしょう?」
「推薦されても、ワテはどないしたらええんか分かりません。目の前が真っ暗で、よう歩けません」
「たしかに周瑜は天下にまたとない逸材だったよ。だから誰にも周瑜の真似はできない」
「そうです。ワテみたいな凡才は、周瑜はんの力の何分の一もありません」
「同じことをしようとすれば、そうだろうね。でも魯粛ちゃんにも、やっぱり魯粛ちゃんにしか出来ないことがあるんだよ。それが周瑜には分かってた。魯粛ちゃんには自分とは別の才能があると認めてたんだ。周瑜と魯粛ちゃんの目指すものは同じ。だけど、そこに至るまでのやり方はひとつじゃない。周瑜は魯粛ちゃんのやりかたで、志を引き継いで欲しかったんだよ。だって、その志を一番理解してくれてるのは魯粛ちゃんだって信じてたんだもの」
「……孔明はん」
魯粛は顔を上げ、涙を溜めた目を大きく見開きました。
「目指すものが見えたら、もう真っ暗じゃないよね。今日は周瑜のためにいっぱい泣く日。でも明日からは、しっかり歩かないと。あいにくぼくらが生まれたのは乱世の時代。生き抜くには立ち止まっていられない。そのなかで魯粛ちゃんは意思を託されたんだから」
孔明さまは魯粛が固く握りしめている手を両手で包んであげました。
「おおきに。孔明はん、おおきに……」
魯粛はつないだ手に額を押し付けて泣きました。
「先生」趙雲が船上から顔をのぞかせて言いました。「そろそろ戻らないと」
孔明さまは魯粛に別れを告げて船に乗りました。暮れなずむ長江の水面をぼんやり眺めていると、すでに甲冑を着込んだ趙雲がやって来ました。
「いやあ、やっぱりこの格好が一番落ち着きます。兜のフサフサをなびかせてナンボですから」
「それ着てないと、子竜ちゃんモブキャラに埋まって誰だか判別がつかないもんね」
(自覚があるのか、槍を持って差別化を図る趙雲。涙ぐましい)
「ひどいなあ。キリっとした眉毛で判別してください。そんなことより、そろそろ寒くなって来ますから、中にお入りください。先生を無事に連れて帰るのが、わたしのお仕事ですからね。怪我がなくても、風邪を引かれたら困ります」
「もう少しここにいる」
孔明さまは身を屈めて、船縁の柵に頬杖を付きました。首をかしげてその様子を見ていた趙雲は隣に並んで立ちました。
「先生の弔辞、みんな感動してましたね。先生もあんなに泣いて、わたしまで涙が出そうでしたよ」
「あれウソ泣き」
「……」
「皇帝を擁する曹操の勢力は衰えてない。赤壁で負けたとはいえ、北へ帰ればすぐ態勢を整えられる。本気で潰しに来られたら、劉備さまもいつまで持つか分からない。それは呉も一緒。利は一致しなくても害は同じだから、せめて同盟関係は維持させておきたい。だから周瑜のことで関係を悪化させるわけにはいかなかったんだ。うまくいって良かったよ」
「でも魯粛どのにかけた言葉は本心からなんでしょう?」
「曹操と対抗するには、劉備さまと協力するべきだって主張する派閥の筆頭が魯粛ちゃんだからね。魯粛ちゃんが後任になってくれないと、こっちも困るんだよ」
「そうですか。先生の思惑通りに運んだというわけですね」
「うん」
「じゃあ、なんで楽しそうじゃないんですか?」
趙雲は孔明さまの顔を下から覗き込みました。
「子竜ちゃんのくせに、ぼくのこと分析しないでくれる?」
「そんなつもりはないですけど、単に気になるものですから」
「子竜ちゃん変わってるね」
「うーん、そうでしょうか」
「変わってるよ。ぼくがどんな戦略を描くのか興味がある人はいても、ぼくの気持ちを気にする人なんていないもん」
「周瑜どのは良くも悪くも、それを一番気にしてくれた人なんですね」
「なんでそうなるの?」
「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心です。周瑜どのの先生に対する執着心も、並々ならないものがありましたけど、それは先生も一緒だったんでしょう?」
「分かったようなことを言うんだね」
「その結末が、なぜ周瑜どのの死でなくてはならなかったんでしょうかね」
「ぼくのこと責めてるの?」
「いいえ。先生は周瑜どのに命を狙われていたわけですから、どちらかの死しか結末はありません。それにわたしが日頃やっていることは殺し合いですからね。そのことで先生を責められるはずがありません。でも、わたしも自分がたった今斬り殺した骸を眺めて、どうしてこんなことになったんだろうと考えることがあるんですよ」
「ふうん。向いてないんじゃない?」
「どうでしょうね」
「さっきから何が言いたいの?」
「先生も、そんなやるせない気持ちなんじゃないかと思って。ただ乱世に出会ってしまったというだけで、どちらが悪いわけでもないですよ」
「ぼくは感傷に浸って、あれは仕方がなかったんだ、なんて自分を正当化したりしない。周瑜はぼくが追いつめて殺した。それだけの話」
「分かりました」
趙雲は短くため息をついて船尾へ見張りに向かおうとしました。しかし孔明さまが、でもね──と消えるような声で言ったので立ち止まります。
「荊州へ帰るまでは、ちょっと感傷に浸ってもいいかなって」
「いいと思いますよ」
趙雲はふたたび孔明さまの隣に立ちます。
「あれはウソ泣きだったけど、ぼくの気持ちを理解できる人は周瑜しかいないって言ったのは本当。同じ種類の人間だもん。でも周瑜はぼくが絶対に手に入れられないものを持ってた。その点において、ぼくはずっと周瑜に敵わないんだろうなって思う。羨ましかった。だから好きで嫌いだった。あんなふうになれたらいいなって憧れてたし、死ねばいいと思ってた」
「歪んでますねえ」
「いまさら?」
「いえ、つくづく。ところで先生の手に入らないものってなんですか」
趙雲が訊ねます。いつの間にか日は暮れて、長江も深い藍色に染まっていました。孔明さまはしばらく黙って川面を見つめていたのですが、やがて視線を落としたまま言いました。
「水と魚って永遠に交わるものじゃないんだよ」
「それって答えになってますか?」
「ぼく生まれ変わったら魚になりたいな。みんなと一緒に泳ぎたい」
突然そんなことを言うものだから、孔明さまの視線の先に魚がいるのかと思って趙雲は探しましたが、どこにも見当たりませんでした。もとより夜の川は昏く、魚が泳いでいたとしても見えるはずもありません。いぶかしげに振り向くと孔明さまの顔が青白かったので、趙雲は心配になります。
「先生。風が冷たくなってきました。今日はお疲れでしょうし、中に入って休んでください」
「ぼくはそのうち嘘をついて人を欺いて陥れることに、なんの葛藤も感じなくなるのかな。きっといい死に方しないね」
「大丈夫ですよ、先生。わたしがお守りします」
「みんなと一緒で、やな奴って思ってるくせに」
「そんなことないですよ」
「うそだね」
「困りましたねえ。今日は一段と気難しいですね」
「ほっといてよ」
そっぽを向いた孔明さまに向かって、趙雲が手を差し出します。
「先生、手を出してください」
「もう握手はいいよ。行きの船でもそうだったけど、なんなの?」
「いいから手を出してください」趙雲は無理矢理手を取ると、しっかり握って言います。「他の人はどうだか知りませんけど、わたしは先生の手が温かいと知ってますよ」
「生きてんだから、温かいに決まってるでしょ」
「それが大事なんです。それだけで、わたしは命をかけてお守りできます」
「意味が分からないよ」
「わたしもよく分かりません」
「何それ」
孔明さまは心底がっかりしたような顔になります。
「わたしは先生のように多くの言葉を持ちません。どう言えばいいのか分かりませんし、どれだけ言葉をつくされても分かったような気になるぐらいです。だから握手した先生の手が温かかったとか、そういうことでいいんです」
「そんな……そんなの……言ってて恥ずかしくならない?」
「うーん。別に気取って言葉を飾っているわけじゃないですからねえ。さっきも言いましたけど、そういう柄じゃないんです。でも先生だって船に乗る前、魯粛どのの手を握ってあげてましたよね。それって魯粛どのを気遣う本心を伝えたかったんでしょう?」
「知らないもん。もう休もうかなあ」
「ええ。そうしてください」
「じゃあ、後よろしくね」
「おまかせください」
孔明さまは数歩歩いてから足を止めました。
「子竜ちゃんの手は温かいけど、硬くてゴツゴツしてるね」
「はは。こればかりは仕方ないですよ。昔から槍だの弓だの握ってましたからね。どうもすみません」
武器を手にして生きて来たから、趙雲は人の手の温かさを大事に思うのかもしれない、と孔明さまは思いました。
「どうして謝るの。ぼく嫌いじゃないよ。なんていうか……いつもありがと」
孔明さまは暑くもないのに羽扇で忙しく顔を仰いで言いました。趙雲は驚いた表情になります。
「めずらしく殊勝ですね。いやあ、これは雨が降るかもしれません」
「子竜ちゃんの分際で、頑張ってぼくを慰めようとしてるから褒めてあげたのに、そういうこと言うんだ」
「褒めていただくより、嫌がらせをやめてもらうほうが嬉しいですけど」
「だめ。それはぼくの趣味だから」
「参りましたねえ。せめてお手柔らかに頼みますよ」
趙雲が笑うと孔明さまも一緒に笑いました。
というわけで、さよなら周瑜。ありがとう周瑜!
「おのれ孔明。俺の葬式に便乗して青春するな!」
「またね」「殿。わたしも落成式でごちそう食べたかったです」
今日は色々あった。
スーパーの中を歩いていたら、知らないオッサンにすれ違い様におっぱいグイーっと押されたので驚いた。いや、知ってる人にされても驚きますけどね。
前回のブログ更新でおっぱいおっぱい書きすぎたせいか。
不意打ちだったので避けようがなかった。「これから、おまえのおっぱい押すぞ!」と予告されても困りますけどね。
それでスーパー出たら「悪いヤツらは大体友達」みたいな少年達がたむろっていた。こわいなーと思いながら通り過ぎようとすると「おねえさん!」と声をかけられてしまった。ビビリながら振り返ると、少年のひとりが「おねえさん、耳拡張しとん? 何ゲージ?」ですって。
ピアスホールのことらしい。
「さ、さあ? 覚えてないなあ」やり過ごそうとしたのに「どうやって大きくするん」と質問をかぶせて来た。マチカさんも早く立ち去りたいので「気合い」とだけ言い残して背を向けた。
そして後から「それが人にものを聞く態度かよ。ペッ!」と悪態をついた。じゅうぶん彼らが見えなくなってからです、もちろん。
まあ「おねえさん」と呼んでくれたので、きっと悪い子じゃないと思うわ!
そんな一日でした。
スーパーの中を歩いていたら、知らないオッサンにすれ違い様におっぱいグイーっと押されたので驚いた。いや、知ってる人にされても驚きますけどね。
前回のブログ更新でおっぱいおっぱい書きすぎたせいか。
不意打ちだったので避けようがなかった。「これから、おまえのおっぱい押すぞ!」と予告されても困りますけどね。
それでスーパー出たら「悪いヤツらは大体友達」みたいな少年達がたむろっていた。こわいなーと思いながら通り過ぎようとすると「おねえさん!」と声をかけられてしまった。ビビリながら振り返ると、少年のひとりが「おねえさん、耳拡張しとん? 何ゲージ?」ですって。
ピアスホールのことらしい。
「さ、さあ? 覚えてないなあ」やり過ごそうとしたのに「どうやって大きくするん」と質問をかぶせて来た。マチカさんも早く立ち去りたいので「気合い」とだけ言い残して背を向けた。
そして後から「それが人にものを聞く態度かよ。ペッ!」と悪態をついた。じゅうぶん彼らが見えなくなってからです、もちろん。
まあ「おねえさん」と呼んでくれたので、きっと悪い子じゃないと思うわ!
そんな一日でした。
(今週のあらすじ)
甘露寺へ向かう劉備。その一行を迎える孫権は「ワラジ売りの倅が皇族気取りか」と軽蔑したようにつぶやく。かたわらで家臣の呂範と賈華が「暗殺の手はずは整っています」と伝えた。
待ち構えていた呉太国は劉備と面会すると、堂々とした威風を一目で気に入り、婿にすると認めたものだから孫権は驚く。しかし母親には逆らえず従うしかなかった。
そのころ趙雲は甘露寺を巡回していたのだが、ある一室に武器を帯びた兵士が潜んでいるのを見つけ、劉備に耳打ちした。
劉備は呉太国へ「わたしを殺すつもりなら、今すぐここで殺してください」とひざまずいて言った。呉太国がどういうことだと訊ねると、劉備は趙雲の見た光景を伝えた。呉太国は激怒して「わたしの息子になる劉備を暗殺するとは何事だ」と孫権を罵った。孫権は知らぬ振りをして呂範に聞いてくれと答え、呂範は賈華に責任をなすりつけた。呉太国は賈華を斬れと命じた。賈華は処刑されそうになったのだが、劉備が呉太国に助命を嘆願した。「めでたい席での殺生は不吉です。それではお側にいられなくなります」と言う劉備を呉太国はますます気に入った。そして劉備を守るため、自分の屋敷へ住まわせると決めてしまったので、孫権は手も足も出なくなった。
さて婚礼の夜、花嫁の部屋へおもむく劉備。しかし侍従の女達はみな武器を手にしていた。劉備が驚いてると侍従の女は「姫さまは幼い頃から剛胆なかたなので、私たちも武装してるのです」と言った。さすがに落ち着かない劉備。それを見た花嫁である玉錦は「ずっと戦いのなかにいた人なのに武器が怖いのかしら」と笑って侍従達を下がらせた。劉備は「戦いのなかにいたからこそ、怖いのではなく嫌いなのです」といって、天下を泰平に導くこころざしを語った。
それからの日々、劉備と玉錦は仲睦まじく暮らした。困った孫権が周瑜に相談の密書を送ると新しい計略が返って来た。それは劉備に贅沢な暮らしをさせ、呉に留まらせ、関羽や張飛との関係を裂き、諸葛亮と交わした約束を忘れさせ、そのあいだに荊州を攻めとるというものだった。孫権が周瑜の言う通りにすると、劉備はすっかり贅沢に溺れ、趙雲が会いにきても顔を合わせなくなり季節も変わってしまった。
悩んだ趙雲は孔明に渡されたふたつめの袋を開けた。内容を見た趙雲は劉備に火急の用があると言って面会を求め「曹操が荊州を攻めにきた」と伝え、すぐ戻るように頼んだ。
劉備は我に返って玉錦と相談した。すると玉錦は気丈にも、夫婦になったのだから兄の孫権や母親を捨てでも一緒に行くと言った。
劉備と玉錦は孫権の隙を狙って出発した。逃避行を知った孫権はすぐ追っ手を差し向けた。周瑜もあらかじめ逃走を見越しており兵士を待機させていた。
両方から挟み撃ちにされた劉備一行。進退窮まった趙雲は最後の袋を開けた。内容を確認した劉備は追っ手の対処を玉錦に頼んだ。
胆の座った玉錦は兵士達の前へ行くと、自らの威光をもって彼らを退けた。しかし追っ手は途切れない。別の一隊に足止めされてしまうと、またしても玉錦が前へ進み出て「母上の呉太国には許しを得ている。道をあけろ」と厳しく申し付けた。
兵士達は顔を見合わせた。もし連れ帰っても、後になってこれが呉太国の指図だったと孫権が知れば、自分たちが間違っていたことにされてしまう。見逃したほうが得策だろうと彼らは道をあけた。
そこへしばらくして別の追っ手がやって来て、見逃したと知ると慌てた。彼らは孫権から「劉備と妹の首を斬ってでも止めろ」と言われていたのだ。そこで周瑜に報告し、陸路と水路両方から劉備一行を追うことにした。
劉備がようやく長江までたどり着いたとき、船団が川を渡ってくるのが見えた。船上に孔明の姿もあった。孔明が船をやって迎えにきたのだ。劉備は玉錦を連れ船に乗り込み難を逃れた。
孔明と対面した劉備は贅沢な生活に溺れた自分を詫びた。すると孔明も謝ることがあると笑った。実は曹操が荊州を攻めにきたというのは、劉備の目を覚ませる口実だったのだと言う。ふたりが笑い合っていると、周瑜の水軍が迫って来ている、としらせが入った。孔明は船を捨て陸路を取れと指示を出す。
陸に上がっても周瑜は追ってくる。あと少しで追いつかれそうになったとき、関羽があらわれ睨みを利かせた。劉備軍の傘下に入った黄忠と魏延も一緒に兵を率いている。かなわないと判断した周瑜は引き返したのだが、孔明にしてやられたことに激怒し再び血を吐いて倒れてしまった。
以上を踏まえてどこまで噓か分からないレビュー
・またオカンに叱られる孫権
一発で劉備が気に入った呉太国。劉備は老人転がしだ。
うそーん
最悪の展開ですが孫権はオカンが怖いので逆らえない。やけ酒をあおっていると、暗殺してやろうという目論みすらバレてしまう。そこでとった作戦が、孫権名物いさぎよい責任転嫁だった。
「えー、なんのこと? 呂範に聞いてみて」
いきなりのパスに度肝を抜かれた呂範。受け取ったボールを全力で賈華へ投げつけた。賈華が必死でボールを渡す相手を探すも、みんな視線をそらす。そこへ呉太国の死刑宣告。でも劉備がウマいこと言って、自分のお株を上げつつ処刑を止めさせた。ホンマ食えん男やでえ。
・おうちに帰りたくない劉備
贅沢な暮らしで骨抜き状態の劉備。「髀肉の嘆」は遠い昔。「いざ行かん、民のために!」とか、ちょっとハリキリすぎだったかなーとばかりに浮かれた毎日を過ごす。おもてなしのなかでも、極めつけは孫権のオトンが連れて帰った(異民族の?)踊り子さんのダンスだ。
おっぱいダンサー最高!
地味に甘寧もおっぱいダンス見に来てました。そら見逃せんわな。文官のジイサン達も「若返るわー」と楽しそう。おっぱいダンス見てるときの、みんなはすごくいい顔だ。おっぱいの力すごい。おっぱいで天下統一できるんじゃないのか。劉備なんて趙雲が会いにきても「そんなことよりおっぱいダンスだ!」と面会を断ってしまうぐらいだ。でも趙雲もおっぱいダンスだけは影から見てたと思う。そして甘寧かっこいい。
・「そういえば、もう年末じゃね?」と思う趙雲
趙雲のめずらしい平服姿
いくらなんでも地味すぎないか。もっといい服着させてあげて。贅沢したり華美なものには興味がない、という生真面目さの表現なんだろうか。でもおっぱいダンスは見てたと思う。
そうそう。演義でこのあたりの描写がおもしろいので、大雑把に引用します。
──却説、趙雲は五百の兵と東屋敷の前に駐屯していたが、(劉備があんな調子なので)一日中することもなく、城外に出て弓を射たり馬で走っているだけだった。みるみるうち年末になり、ハッと気がついた。
「そういえばアノ先生に袋三個渡されてたけど、南徐についたら一個開けて、年末が来たらもう一個、それで超緊急事態になったら最後の一個開けれって言われてたじゃん。よーし、開けてみよう。遊びほうける劉備さまをなんとかしてくれるアドバイスが入ってるに違いない」
趙雲かわいくないですか? 劉備と一緒になって享楽にふけるわけでもなく、かといって無視されてふて腐れるわけでもなく、毎日を黙々と過ごしてた様子が伝わって来ますね。「ハッと気がついた」とか、じゃあ忘れてたのかよと言いたくなる天然ぶりだ。
きっと張飛なら飲んだくれてた。関羽だったら何してただろ。たぶん劉備にキレそうになりながらも言い出せないものだから、呉の連中に八つ当たりして諍いを起こしてただろう。そう考えると孔明さま、ナイス人選。
・袋の中身を見て劉備のところへ行く趙雲
「劉備さま。緊急事態ですよー。エマージェンシー!」
「今は夜だぞ。こんな時間になんだ。これから玉錦とオールナイトでフィーバーするんだから」
「殿は荊州のこと忘れちゃったんですか!」
「やっぱ若い娘はええわ。肌のハリが違うもん。はね返るような弾力があるもん」
「わたしには以前、未亡人をすすめてきたくせに、殿だけズルイですよ!」
「未亡人でも美人だったじゃないか。揉まれてこなれたパイオーツもいいもんだろ」
「美人でも中古はイヤでござる」(キリッ
「趙雲、まさかの処女厨か」
「そんなことより緊急事態ですってば」
「明日にしろ、明日」
「先生からのおしらせなのに、いいんですか? どうなっても知りませんよ」
「こ、孔明から?」
鬼の形相で睨まれた思い出がよみがえる劉備。風邪を引いたかのような悪寒が背筋を這い回る。劉備は居住まいを正して趙雲の話を聞くことにした。
・かけおち劉備&玉錦
いきなり余談ですが、曹操と陳宮(※オッサン)もかなり初期の頃かけおちしてましたね。一緒のおふとんで寝たり、仲睦まじかった。でも残念ながら蜜月は長く続かなかった。曹操がいつものウッカリで、親戚宅にて一家惨殺事件を起こしたため、陳宮は「ありえん」と言い残して去ってしまったのです。
ずっと未練のあった曹操。とっくに吹っ切っていた陳宮。そんな陳宮の最期を泣きながら見送った曹操の失恋物語。曹操は惚れっぽいので失恋も多いのだ。
さてさて逃げる劉備。追う孫権一味。これはヤバいと思った劉備は「どうしようか?」と趙雲に訊ねます。趙雲は「わたしがしんがりをつとめますから先を急いでください」と頼もしい。しかし、ついに追っ手が背後に迫り、前方には周瑜があらかじめ差し向けておいた軍勢が待ち構えている。
これは詰んだな、と劉備。もうおしまいかしらん、と趙雲に訊ねると「ご安心ください。先生からもらった袋が、ひとつ残っています!」
ウキウキと袋を開けようとする趙雲。だが濃い眉をひそめて躊躇した。
「よくよく考えてみたんですけどね。こんな時こそ嫌がらせをするのがアノ先生じゃないでしょうか。一度目二度目で安心させておいて三度めで落とす。三段オチというか、ホップステップ玉砕狙いのような気がします。怪しいなあ。これ超怪しいですよ」
「だから大丈夫だって言ってるだろ。早くしないと、兜のフサフサ引きちぎるぞ」
「なんで劉備さまも先生も、このフサフサを虐待しようとするんですか。もしかしてフサフサにムカついてんですか? どうしてフサフサを憎むんですか? 風になびくフサフサはかっこいい武将のマストアイテムですよ!」
「フサフサ、フサフサ、しつこいわ! 自分でも正式名称が分からんもの付けるな。そんなことより、頼むから袋を開けてくれ」
「分かりましたよゥ。でもやだなー。死んだイナゴとか入ってんじゃないかなー」
しぶしぶ開封した趙雲。さいわいにも普通にピンチを切り抜けるアドバイスが入ってました。内容を読んだ劉備は「まかせておけ」と頼もしく言って玉錦の前へ行きました。そしてさめざめと涙を流しながら訴えたのです。
「孫権の追っ手がわたしを殺そうとしている。わたしは今まで胸に秘めて言わなかったことがあるが、こんな状況になって言わないわけにはいかなくなった。聞いてくれるか?」
「なんですか? どうぞおっしゃってください」
「孫権どのと周瑜どのが共謀して玉錦をわたしに嫁がせたのは、玉錦を思ってのことではなく、わたしを幽閉して荊州を奪い取ろうとするためだった。奪ったあとは、わたしを殺すつもりだろう。それでもわたしが死を恐れず呉へやって来たのは、玉錦に男子のような度量があり、わたしを救ってくれるに違いないと思ったからだ。実際、玉錦はわたしを見捨てなかった。のみならず、こんなわたしを愛してくれた。玉錦と出会ってからの日々は、戦乱に身を置いていたわたしにとって、はじめての平穏で安らかなものだった。しあわせとは、こういうものなのかと教えてれくたのは玉錦、キミだ。逃亡するに至っても、玉錦は機転を働かせ一緒に来てくれた。今、玉錦以外にこのピンチを切り抜けられる人はいない。どうだろう。やってくれるだろうか? もし無理だと言うのなら、わたしは玉錦の命だけでも救うためここで死のうと思う。志なかばで死ぬのはつらい。だが、キミと過ごした愛しき日々の思い出が、わたしにはある……ああ、玉錦。愛しているよ。今までありがとう」
哀愁を漂わせ、女性の庇護欲をくすぐり、愛を臆面もなく語る。奥義「オレにはキミだけなんだ!」を発動させれば、十代の小娘などイチコロです。年寄りも娘もコロがす劉備。人たらしの本領発揮だ。
コロがされた玉錦は「兄上なんてもう肉親でもなんでもないわ。わたしに任せて!」と宣言。そう言った割には「アタシを誰だと思ってんのよ。あんたらのトップの妹よ?」と権威を振りかざして追い払った。
でも一難去ってまた一難。次なる追っ手がやって来ました。劉備が「どうしよう」と(わざとらしく)弱り切った姿を見せると、玉錦は「わたしがしんがりを務めます」。劉備はこれさいわいと「じゃあ、先に長江へ行ってるからねー」と、なんと玉錦に任せて先に行ってしまった(一応趙雲が随行するけど)。さすが逃げ足の早さには定評がある劉備です。今までも妻子を置いて逃げた実績がありますから、こういう時に「いや、おまえを置いて行けるものか!」なんて躊躇しません。自分が死んだらおしまいですからね。
ノリノリの玉錦は追っ手と対峙して言います。
「母上がいいって言ってんだから、アンタ達には関係ないでしょ。ほっといてちょうだい」と、やっぱり権威を振りかざす。その言葉を聞いた追っ手は考えます。オカンの了解は得ているとなると、それをあとで知った孫権はオカンが怖いものだから「ぼくは連れ戻せとか言ってませんよ。あいつらが勝手にやったんじゃないですか?」と、例のいさぎよい責任転嫁をするかもしれない。というわけで追っ手は引き返してしまった。孫権の自業自得。
・船で劉備を迎えにきた孔明さま
「あの計略はうまくいったかなあ」
船上で考える孔明さま。岸が近づくにつれ劉備と趙雲の姿も見えて来た。
「うわあ。劉備さまー! 子竜ちゃーん!」
久しぶりに会えた喜びで懸命に手を振る孔明さま。しかしぴたりと手を止めて口を歪めた。
「……あの女。一緒について来れたんだ。運がいいねえ」
劉備の逃走に玉錦を捨て駒として利用する。それが孔明さまの立てた計略だった。劉備を無事生還させ嫁は途中で脱落させるという、一石二鳥を狙ったのだが、想像以上に玉錦はうまく立ち回ったようで劉備とここまで逃げて来てしまった。
「なかなか手強いね。まあいっか。彼女の天命が尽きてないということは、まだ何か使い道があるってことでしょ」
「そのときはヨロシクね」
孔明さはまドス黒く笑いました。
・合流する孔明さまと劉備
そこで玉錦と孔明さまは初顔合わせ。女の勘なのか、玉錦はまっさきに孔明さまのことを劉備に訊ねます。
「こちらの背丈だけは立派な優男はどなたですの?」
「玉錦は諸葛瑾先生をご存知かな?」
「ええ。兄上のお気に入りですから」
「彼は諸葛先生の弟の亮だ」
「まあ。そうでしたの。お噂はうかがっております。ご兄弟で優秀ですのね」
「わたくし玉錦と申します」
微笑む玉錦に、孔明さまも軽く会釈を返します。
「ぼく孔明です。こんにちは、タマキンさん」
「ギョクキンよ!」
「へえ。タマキンさんは孫権さまと違って目が青くないんだね」
「だからギョクキンだって言ってるでしょ! どんだけ性格悪いのよ」
「この人怖いね、劉備さま。あっちでお茶でも飲もうよ」
早速煽りまくる孔明さま。先が思いやられる劉備でした。
・迫り来る周瑜の軍勢
水路から陸路へ切り替え逃げる劉備一行。いきりたつ周瑜は猛然と追い上げる。追いつかれる寸前、丘に人影があらわれ、両軍勢を見下ろした。赤兎馬にまたがり、緑の戦袍をまとい、青龍偃月刀を軽々と担いだ、その人こそ関羽。
お得意のドヤ顔
「おいっすー」
不敵に笑う関羽に気付いた周瑜は慌てふためき、手綱を引いて馬を止めた。劉備も頼もしそうに関羽を見上げて言った。
「孔明が呼んでくれたのか?」
「うん。ちゃんと仲良くしてたんだから」
「ふたりが喧嘩をするのではないかと心配していたが杞憂だったな。よかったよかった」
「……うふふ」
劉備が新しい妻を迎えると知って嫉妬の炎を燃やしたのは、孔明さまだけではありません。新しい寝間着まで用意して添い寝の準備を整えていたのは関羽も一緒だったのです。
──数ヶ月前
関羽のもとを訪れた孔明さまは劉備が結婚すると伝えました。
「あ、兄上が結婚?」
赤い花柄の寝間着を試着していた関羽は愕然とした。孔明さまは羽扇の羽を噛みながら涙目です。
「そうだよ。周瑜のせいで。どう思う?」
「よ、よろこばしいことじゃないか。いやあ、めでたい」
「うそばっかり。おヒゲがピクピクしてるじゃん」
「おまえこそ額に血管が浮かんでるぞ」
「ていうか、何その寝間着。全ッ然似合ってないんだけど。気持ちワル」
「おまえがさっさと周瑜に犯されていれば、こんなことにはならなかったんだ! 今からでも遅くない。すぐ犯されて来い。なんなら俺が縛り上げて周瑜に差し出そうじゃないか」
「やだよゥ。周瑜はああ見えて変態なんだもん。この前間者の話聞いてドン引きしたもん」
「変態じゃなかったら構わないのか?」
「だめだめ。ぼくのモチ肌は劉備さまだけのもの」
「俺はヒゲの一本まで兄上のものだ!」
「……はあ、虚しい」
「そうだな……」
ふたりは愚痴をこぼし合い意気投合したのでした。
そんなやり取りがあって、場面は元に戻ります。
「周瑜……(余計なことをしやがって)絶対に許さんぞ!」
関羽の一喝で空気がビリビリと震えるようだった。
「むう。さすが関羽どの。ものすごい気迫だな」
側で見ていた老将黄忠は関羽の胸中などつゆ知らず、感嘆の声をもらした。その横には何の前触れもなく登場した魏延。
「すごいッスね」
そう言ってヒゲをしごく魏延が見つめているのは孔明さまだった。数ヶ月前のことを思い出せば、今でもムカついて仕方ない。
魏延は劉備とともに戦いたいと願っていた。しかし機会に恵まれず、黄忠と長沙の韓玄に仕えていた。その長沙を攻めにきたのが関羽だった。
猜疑心の強い韓玄は関羽と黄忠が内通しているのではないかと妄念を抱き、黄忠を処刑しようとした。そこで魏延は立ち上がった。
こんなバカな主に仕えて何になる。しかも攻めて来ているのは劉備軍だ。手柄を立て傘下に入る好機じゃないか。魏延は謀反を起こし、韓玄を斬り、黄忠を救うと劉備に帰順した。ようやく劉備にお目見えし、誇らしい気持ちの魏延だったが、あの男が信じられないことを言ったのだ。
──ねえ、劉備さま。黄忠はいるけど魏延いらない。首斬って。
何が魏延には反骨の相があるから、いずれ災いを起こす、だ。どう考えても言いがかりだ。劉備が取りなしてくれたから、よかったようなものの、平然と首を斬れと言ったアイツの顔が忘れられない。
なんで、あんな奴が劉備の側にいる。
ふざけるな。今に見てろ。
孔明さまを見つめる魏延の瞳に暗い情熱が揺らめきました。
・吐血と気絶の会わせ技の周瑜
俺の生き様よう見とけー!
来週で出演シーンがなくなるので、ここぞとばかりに目立とうとする周瑜さん。黄蓋も元気そうでなによりです。
というわけで、キルゾーンから抜け出せたのは劉備だった。
次回さよなら周瑜。
「またね!」「殿、おっぱいダンス見たいんでしょ?」
甘露寺へ向かう劉備。その一行を迎える孫権は「ワラジ売りの倅が皇族気取りか」と軽蔑したようにつぶやく。かたわらで家臣の呂範と賈華が「暗殺の手はずは整っています」と伝えた。
待ち構えていた呉太国は劉備と面会すると、堂々とした威風を一目で気に入り、婿にすると認めたものだから孫権は驚く。しかし母親には逆らえず従うしかなかった。
そのころ趙雲は甘露寺を巡回していたのだが、ある一室に武器を帯びた兵士が潜んでいるのを見つけ、劉備に耳打ちした。
劉備は呉太国へ「わたしを殺すつもりなら、今すぐここで殺してください」とひざまずいて言った。呉太国がどういうことだと訊ねると、劉備は趙雲の見た光景を伝えた。呉太国は激怒して「わたしの息子になる劉備を暗殺するとは何事だ」と孫権を罵った。孫権は知らぬ振りをして呂範に聞いてくれと答え、呂範は賈華に責任をなすりつけた。呉太国は賈華を斬れと命じた。賈華は処刑されそうになったのだが、劉備が呉太国に助命を嘆願した。「めでたい席での殺生は不吉です。それではお側にいられなくなります」と言う劉備を呉太国はますます気に入った。そして劉備を守るため、自分の屋敷へ住まわせると決めてしまったので、孫権は手も足も出なくなった。
さて婚礼の夜、花嫁の部屋へおもむく劉備。しかし侍従の女達はみな武器を手にしていた。劉備が驚いてると侍従の女は「姫さまは幼い頃から剛胆なかたなので、私たちも武装してるのです」と言った。さすがに落ち着かない劉備。それを見た花嫁である玉錦は「ずっと戦いのなかにいた人なのに武器が怖いのかしら」と笑って侍従達を下がらせた。劉備は「戦いのなかにいたからこそ、怖いのではなく嫌いなのです」といって、天下を泰平に導くこころざしを語った。
それからの日々、劉備と玉錦は仲睦まじく暮らした。困った孫権が周瑜に相談の密書を送ると新しい計略が返って来た。それは劉備に贅沢な暮らしをさせ、呉に留まらせ、関羽や張飛との関係を裂き、諸葛亮と交わした約束を忘れさせ、そのあいだに荊州を攻めとるというものだった。孫権が周瑜の言う通りにすると、劉備はすっかり贅沢に溺れ、趙雲が会いにきても顔を合わせなくなり季節も変わってしまった。
悩んだ趙雲は孔明に渡されたふたつめの袋を開けた。内容を見た趙雲は劉備に火急の用があると言って面会を求め「曹操が荊州を攻めにきた」と伝え、すぐ戻るように頼んだ。
劉備は我に返って玉錦と相談した。すると玉錦は気丈にも、夫婦になったのだから兄の孫権や母親を捨てでも一緒に行くと言った。
劉備と玉錦は孫権の隙を狙って出発した。逃避行を知った孫権はすぐ追っ手を差し向けた。周瑜もあらかじめ逃走を見越しており兵士を待機させていた。
両方から挟み撃ちにされた劉備一行。進退窮まった趙雲は最後の袋を開けた。内容を確認した劉備は追っ手の対処を玉錦に頼んだ。
胆の座った玉錦は兵士達の前へ行くと、自らの威光をもって彼らを退けた。しかし追っ手は途切れない。別の一隊に足止めされてしまうと、またしても玉錦が前へ進み出て「母上の呉太国には許しを得ている。道をあけろ」と厳しく申し付けた。
兵士達は顔を見合わせた。もし連れ帰っても、後になってこれが呉太国の指図だったと孫権が知れば、自分たちが間違っていたことにされてしまう。見逃したほうが得策だろうと彼らは道をあけた。
そこへしばらくして別の追っ手がやって来て、見逃したと知ると慌てた。彼らは孫権から「劉備と妹の首を斬ってでも止めろ」と言われていたのだ。そこで周瑜に報告し、陸路と水路両方から劉備一行を追うことにした。
劉備がようやく長江までたどり着いたとき、船団が川を渡ってくるのが見えた。船上に孔明の姿もあった。孔明が船をやって迎えにきたのだ。劉備は玉錦を連れ船に乗り込み難を逃れた。
孔明と対面した劉備は贅沢な生活に溺れた自分を詫びた。すると孔明も謝ることがあると笑った。実は曹操が荊州を攻めにきたというのは、劉備の目を覚ませる口実だったのだと言う。ふたりが笑い合っていると、周瑜の水軍が迫って来ている、としらせが入った。孔明は船を捨て陸路を取れと指示を出す。
陸に上がっても周瑜は追ってくる。あと少しで追いつかれそうになったとき、関羽があらわれ睨みを利かせた。劉備軍の傘下に入った黄忠と魏延も一緒に兵を率いている。かなわないと判断した周瑜は引き返したのだが、孔明にしてやられたことに激怒し再び血を吐いて倒れてしまった。
以上を踏まえてどこまで噓か分からないレビュー
・またオカンに叱られる孫権
一発で劉備が気に入った呉太国。劉備は老人転がしだ。
うそーん
最悪の展開ですが孫権はオカンが怖いので逆らえない。やけ酒をあおっていると、暗殺してやろうという目論みすらバレてしまう。そこでとった作戦が、孫権名物いさぎよい責任転嫁だった。
「えー、なんのこと? 呂範に聞いてみて」
いきなりのパスに度肝を抜かれた呂範。受け取ったボールを全力で賈華へ投げつけた。賈華が必死でボールを渡す相手を探すも、みんな視線をそらす。そこへ呉太国の死刑宣告。でも劉備がウマいこと言って、自分のお株を上げつつ処刑を止めさせた。ホンマ食えん男やでえ。
・おうちに帰りたくない劉備
贅沢な暮らしで骨抜き状態の劉備。「髀肉の嘆」は遠い昔。「いざ行かん、民のために!」とか、ちょっとハリキリすぎだったかなーとばかりに浮かれた毎日を過ごす。おもてなしのなかでも、極めつけは孫権のオトンが連れて帰った(異民族の?)踊り子さんのダンスだ。
おっぱいダンサー最高!
地味に甘寧もおっぱいダンス見に来てました。そら見逃せんわな。文官のジイサン達も「若返るわー」と楽しそう。おっぱいダンス見てるときの、みんなはすごくいい顔だ。おっぱいの力すごい。おっぱいで天下統一できるんじゃないのか。劉備なんて趙雲が会いにきても「そんなことよりおっぱいダンスだ!」と面会を断ってしまうぐらいだ。でも趙雲もおっぱいダンスだけは影から見てたと思う。そして甘寧かっこいい。
・「そういえば、もう年末じゃね?」と思う趙雲
趙雲のめずらしい平服姿
いくらなんでも地味すぎないか。もっといい服着させてあげて。贅沢したり華美なものには興味がない、という生真面目さの表現なんだろうか。でもおっぱいダンスは見てたと思う。
そうそう。演義でこのあたりの描写がおもしろいので、大雑把に引用します。
──却説、趙雲は五百の兵と東屋敷の前に駐屯していたが、(劉備があんな調子なので)一日中することもなく、城外に出て弓を射たり馬で走っているだけだった。みるみるうち年末になり、ハッと気がついた。
「そういえばアノ先生に袋三個渡されてたけど、南徐についたら一個開けて、年末が来たらもう一個、それで超緊急事態になったら最後の一個開けれって言われてたじゃん。よーし、開けてみよう。遊びほうける劉備さまをなんとかしてくれるアドバイスが入ってるに違いない」
趙雲かわいくないですか? 劉備と一緒になって享楽にふけるわけでもなく、かといって無視されてふて腐れるわけでもなく、毎日を黙々と過ごしてた様子が伝わって来ますね。「ハッと気がついた」とか、じゃあ忘れてたのかよと言いたくなる天然ぶりだ。
きっと張飛なら飲んだくれてた。関羽だったら何してただろ。たぶん劉備にキレそうになりながらも言い出せないものだから、呉の連中に八つ当たりして諍いを起こしてただろう。そう考えると孔明さま、ナイス人選。
・袋の中身を見て劉備のところへ行く趙雲
「劉備さま。緊急事態ですよー。エマージェンシー!」
「今は夜だぞ。こんな時間になんだ。これから玉錦とオールナイトでフィーバーするんだから」
「殿は荊州のこと忘れちゃったんですか!」
「やっぱ若い娘はええわ。肌のハリが違うもん。はね返るような弾力があるもん」
「わたしには以前、未亡人をすすめてきたくせに、殿だけズルイですよ!」
「未亡人でも美人だったじゃないか。揉まれてこなれたパイオーツもいいもんだろ」
「美人でも中古はイヤでござる」(キリッ
「趙雲、まさかの処女厨か」
「そんなことより緊急事態ですってば」
「明日にしろ、明日」
「先生からのおしらせなのに、いいんですか? どうなっても知りませんよ」
「こ、孔明から?」
鬼の形相で睨まれた思い出がよみがえる劉備。風邪を引いたかのような悪寒が背筋を這い回る。劉備は居住まいを正して趙雲の話を聞くことにした。
・かけおち劉備&玉錦
いきなり余談ですが、曹操と陳宮(※オッサン)もかなり初期の頃かけおちしてましたね。一緒のおふとんで寝たり、仲睦まじかった。でも残念ながら蜜月は長く続かなかった。曹操がいつものウッカリで、親戚宅にて一家惨殺事件を起こしたため、陳宮は「ありえん」と言い残して去ってしまったのです。
ずっと未練のあった曹操。とっくに吹っ切っていた陳宮。そんな陳宮の最期を泣きながら見送った曹操の失恋物語。曹操は惚れっぽいので失恋も多いのだ。
さてさて逃げる劉備。追う孫権一味。これはヤバいと思った劉備は「どうしようか?」と趙雲に訊ねます。趙雲は「わたしがしんがりをつとめますから先を急いでください」と頼もしい。しかし、ついに追っ手が背後に迫り、前方には周瑜があらかじめ差し向けておいた軍勢が待ち構えている。
これは詰んだな、と劉備。もうおしまいかしらん、と趙雲に訊ねると「ご安心ください。先生からもらった袋が、ひとつ残っています!」
ウキウキと袋を開けようとする趙雲。だが濃い眉をひそめて躊躇した。
「よくよく考えてみたんですけどね。こんな時こそ嫌がらせをするのがアノ先生じゃないでしょうか。一度目二度目で安心させておいて三度めで落とす。三段オチというか、ホップステップ玉砕狙いのような気がします。怪しいなあ。これ超怪しいですよ」
「だから大丈夫だって言ってるだろ。早くしないと、兜のフサフサ引きちぎるぞ」
「なんで劉備さまも先生も、このフサフサを虐待しようとするんですか。もしかしてフサフサにムカついてんですか? どうしてフサフサを憎むんですか? 風になびくフサフサはかっこいい武将のマストアイテムですよ!」
「フサフサ、フサフサ、しつこいわ! 自分でも正式名称が分からんもの付けるな。そんなことより、頼むから袋を開けてくれ」
「分かりましたよゥ。でもやだなー。死んだイナゴとか入ってんじゃないかなー」
しぶしぶ開封した趙雲。さいわいにも普通にピンチを切り抜けるアドバイスが入ってました。内容を読んだ劉備は「まかせておけ」と頼もしく言って玉錦の前へ行きました。そしてさめざめと涙を流しながら訴えたのです。
「孫権の追っ手がわたしを殺そうとしている。わたしは今まで胸に秘めて言わなかったことがあるが、こんな状況になって言わないわけにはいかなくなった。聞いてくれるか?」
「なんですか? どうぞおっしゃってください」
「孫権どのと周瑜どのが共謀して玉錦をわたしに嫁がせたのは、玉錦を思ってのことではなく、わたしを幽閉して荊州を奪い取ろうとするためだった。奪ったあとは、わたしを殺すつもりだろう。それでもわたしが死を恐れず呉へやって来たのは、玉錦に男子のような度量があり、わたしを救ってくれるに違いないと思ったからだ。実際、玉錦はわたしを見捨てなかった。のみならず、こんなわたしを愛してくれた。玉錦と出会ってからの日々は、戦乱に身を置いていたわたしにとって、はじめての平穏で安らかなものだった。しあわせとは、こういうものなのかと教えてれくたのは玉錦、キミだ。逃亡するに至っても、玉錦は機転を働かせ一緒に来てくれた。今、玉錦以外にこのピンチを切り抜けられる人はいない。どうだろう。やってくれるだろうか? もし無理だと言うのなら、わたしは玉錦の命だけでも救うためここで死のうと思う。志なかばで死ぬのはつらい。だが、キミと過ごした愛しき日々の思い出が、わたしにはある……ああ、玉錦。愛しているよ。今までありがとう」
哀愁を漂わせ、女性の庇護欲をくすぐり、愛を臆面もなく語る。奥義「オレにはキミだけなんだ!」を発動させれば、十代の小娘などイチコロです。年寄りも娘もコロがす劉備。人たらしの本領発揮だ。
コロがされた玉錦は「兄上なんてもう肉親でもなんでもないわ。わたしに任せて!」と宣言。そう言った割には「アタシを誰だと思ってんのよ。あんたらのトップの妹よ?」と権威を振りかざして追い払った。
でも一難去ってまた一難。次なる追っ手がやって来ました。劉備が「どうしよう」と(わざとらしく)弱り切った姿を見せると、玉錦は「わたしがしんがりを務めます」。劉備はこれさいわいと「じゃあ、先に長江へ行ってるからねー」と、なんと玉錦に任せて先に行ってしまった(一応趙雲が随行するけど)。さすが逃げ足の早さには定評がある劉備です。今までも妻子を置いて逃げた実績がありますから、こういう時に「いや、おまえを置いて行けるものか!」なんて躊躇しません。自分が死んだらおしまいですからね。
ノリノリの玉錦は追っ手と対峙して言います。
「母上がいいって言ってんだから、アンタ達には関係ないでしょ。ほっといてちょうだい」と、やっぱり権威を振りかざす。その言葉を聞いた追っ手は考えます。オカンの了解は得ているとなると、それをあとで知った孫権はオカンが怖いものだから「ぼくは連れ戻せとか言ってませんよ。あいつらが勝手にやったんじゃないですか?」と、例のいさぎよい責任転嫁をするかもしれない。というわけで追っ手は引き返してしまった。孫権の自業自得。
・船で劉備を迎えにきた孔明さま
「あの計略はうまくいったかなあ」
船上で考える孔明さま。岸が近づくにつれ劉備と趙雲の姿も見えて来た。
「うわあ。劉備さまー! 子竜ちゃーん!」
久しぶりに会えた喜びで懸命に手を振る孔明さま。しかしぴたりと手を止めて口を歪めた。
「……あの女。一緒について来れたんだ。運がいいねえ」
劉備の逃走に玉錦を捨て駒として利用する。それが孔明さまの立てた計略だった。劉備を無事生還させ嫁は途中で脱落させるという、一石二鳥を狙ったのだが、想像以上に玉錦はうまく立ち回ったようで劉備とここまで逃げて来てしまった。
「なかなか手強いね。まあいっか。彼女の天命が尽きてないということは、まだ何か使い道があるってことでしょ」
「そのときはヨロシクね」
孔明さはまドス黒く笑いました。
・合流する孔明さまと劉備
そこで玉錦と孔明さまは初顔合わせ。女の勘なのか、玉錦はまっさきに孔明さまのことを劉備に訊ねます。
「こちらの背丈だけは立派な優男はどなたですの?」
「玉錦は諸葛瑾先生をご存知かな?」
「ええ。兄上のお気に入りですから」
「彼は諸葛先生の弟の亮だ」
「まあ。そうでしたの。お噂はうかがっております。ご兄弟で優秀ですのね」
「わたくし玉錦と申します」
微笑む玉錦に、孔明さまも軽く会釈を返します。
「ぼく孔明です。こんにちは、タマキンさん」
「ギョクキンよ!」
「へえ。タマキンさんは孫権さまと違って目が青くないんだね」
「だからギョクキンだって言ってるでしょ! どんだけ性格悪いのよ」
「この人怖いね、劉備さま。あっちでお茶でも飲もうよ」
早速煽りまくる孔明さま。先が思いやられる劉備でした。
・迫り来る周瑜の軍勢
水路から陸路へ切り替え逃げる劉備一行。いきりたつ周瑜は猛然と追い上げる。追いつかれる寸前、丘に人影があらわれ、両軍勢を見下ろした。赤兎馬にまたがり、緑の戦袍をまとい、青龍偃月刀を軽々と担いだ、その人こそ関羽。
お得意のドヤ顔
「おいっすー」
不敵に笑う関羽に気付いた周瑜は慌てふためき、手綱を引いて馬を止めた。劉備も頼もしそうに関羽を見上げて言った。
「孔明が呼んでくれたのか?」
「うん。ちゃんと仲良くしてたんだから」
「ふたりが喧嘩をするのではないかと心配していたが杞憂だったな。よかったよかった」
「……うふふ」
劉備が新しい妻を迎えると知って嫉妬の炎を燃やしたのは、孔明さまだけではありません。新しい寝間着まで用意して添い寝の準備を整えていたのは関羽も一緒だったのです。
──数ヶ月前
関羽のもとを訪れた孔明さまは劉備が結婚すると伝えました。
「あ、兄上が結婚?」
赤い花柄の寝間着を試着していた関羽は愕然とした。孔明さまは羽扇の羽を噛みながら涙目です。
「そうだよ。周瑜のせいで。どう思う?」
「よ、よろこばしいことじゃないか。いやあ、めでたい」
「うそばっかり。おヒゲがピクピクしてるじゃん」
「おまえこそ額に血管が浮かんでるぞ」
「ていうか、何その寝間着。全ッ然似合ってないんだけど。気持ちワル」
「おまえがさっさと周瑜に犯されていれば、こんなことにはならなかったんだ! 今からでも遅くない。すぐ犯されて来い。なんなら俺が縛り上げて周瑜に差し出そうじゃないか」
「やだよゥ。周瑜はああ見えて変態なんだもん。この前間者の話聞いてドン引きしたもん」
「変態じゃなかったら構わないのか?」
「だめだめ。ぼくのモチ肌は劉備さまだけのもの」
「俺はヒゲの一本まで兄上のものだ!」
「……はあ、虚しい」
「そうだな……」
ふたりは愚痴をこぼし合い意気投合したのでした。
そんなやり取りがあって、場面は元に戻ります。
「周瑜……(余計なことをしやがって)絶対に許さんぞ!」
関羽の一喝で空気がビリビリと震えるようだった。
「むう。さすが関羽どの。ものすごい気迫だな」
側で見ていた老将黄忠は関羽の胸中などつゆ知らず、感嘆の声をもらした。その横には何の前触れもなく登場した魏延。
「すごいッスね」
そう言ってヒゲをしごく魏延が見つめているのは孔明さまだった。数ヶ月前のことを思い出せば、今でもムカついて仕方ない。
魏延は劉備とともに戦いたいと願っていた。しかし機会に恵まれず、黄忠と長沙の韓玄に仕えていた。その長沙を攻めにきたのが関羽だった。
猜疑心の強い韓玄は関羽と黄忠が内通しているのではないかと妄念を抱き、黄忠を処刑しようとした。そこで魏延は立ち上がった。
こんなバカな主に仕えて何になる。しかも攻めて来ているのは劉備軍だ。手柄を立て傘下に入る好機じゃないか。魏延は謀反を起こし、韓玄を斬り、黄忠を救うと劉備に帰順した。ようやく劉備にお目見えし、誇らしい気持ちの魏延だったが、あの男が信じられないことを言ったのだ。
──ねえ、劉備さま。黄忠はいるけど魏延いらない。首斬って。
何が魏延には反骨の相があるから、いずれ災いを起こす、だ。どう考えても言いがかりだ。劉備が取りなしてくれたから、よかったようなものの、平然と首を斬れと言ったアイツの顔が忘れられない。
なんで、あんな奴が劉備の側にいる。
ふざけるな。今に見てろ。
孔明さまを見つめる魏延の瞳に暗い情熱が揺らめきました。
・吐血と気絶の会わせ技の周瑜
俺の生き様よう見とけー!
来週で出演シーンがなくなるので、ここぞとばかりに目立とうとする周瑜さん。黄蓋も元気そうでなによりです。
というわけで、キルゾーンから抜け出せたのは劉備だった。
次回さよなら周瑜。
「またね!」「殿、おっぱいダンス見たいんでしょ?」
子供の頃見てた三国志アニメの主題歌探したらあったわー。人形劇三国志→アニメ版横山三国志の流れで熱中して見てた。
当時OPの歌が超カッケーと思ってて、今聞いてもやっぱりかっこいいや。
元の横山三国志は読んだことないんで、今となっては絵を見ても誰が誰なのか分からない。さすがに劉備と関羽と張飛は三人一緒にいるから分かるんだけど、他がなあ……
ああ、孔明さまは分かるよ。ちょっと笑いそうになる。マチカさんのなかの孔明さまが、人形劇三国志で見た高貴で優雅な雰囲気で固まっていたのに、このアニメだとドジョウひげのオッサンになってて衝撃を受けたんだわ。でも今見ると、無駄に胸元はだけてやがる。なにこれ大発見。意外といい胸筋してんな。誘ってんのか。ンマー、とんだ淫乱だこと!
日中合作三国演義の孔明さまのガードがカタいだけに、これは見習っていただきたい。劉備がやけに「キレイな劉備」なのも愉快じゃないか。
そんで白い甲冑の武将は趙雲? それでモミアゲが顔まで侵食してんのが呂布かなあ。赤兎馬らしきものに乗ってるし。あとひとり目立ってんのが曹操なのかしらん。
どうでもいいですけど、曹操が騎乗してた馬の名前が「絶影」(※ゼツエイとお読みください)って、妙に中二病をくすぐる名前だと思いませんか。曹操はポエマーだし、そういう名前つけちゃうセンスがあってもおかしかない。
このアニメだけど作画がコロコロ変わるというか、やたら劇画チックな時があったような気がする。いや、このOPの絵も元の横山絵に比べると劇画チックなんでしょうけど、さらにすごかった放送があった覚えがあるんよなあ。
当時OPの歌が超カッケーと思ってて、今聞いてもやっぱりかっこいいや。
元の横山三国志は読んだことないんで、今となっては絵を見ても誰が誰なのか分からない。さすがに劉備と関羽と張飛は三人一緒にいるから分かるんだけど、他がなあ……
ああ、孔明さまは分かるよ。ちょっと笑いそうになる。マチカさんのなかの孔明さまが、人形劇三国志で見た高貴で優雅な雰囲気で固まっていたのに、このアニメだとドジョウひげのオッサンになってて衝撃を受けたんだわ。でも今見ると、無駄に胸元はだけてやがる。なにこれ大発見。意外といい胸筋してんな。誘ってんのか。ンマー、とんだ淫乱だこと!
日中合作三国演義の孔明さまのガードがカタいだけに、これは見習っていただきたい。劉備がやけに「キレイな劉備」なのも愉快じゃないか。
そんで白い甲冑の武将は趙雲? それでモミアゲが顔まで侵食してんのが呂布かなあ。赤兎馬らしきものに乗ってるし。あとひとり目立ってんのが曹操なのかしらん。
どうでもいいですけど、曹操が騎乗してた馬の名前が「絶影」(※ゼツエイとお読みください)って、妙に中二病をくすぐる名前だと思いませんか。曹操はポエマーだし、そういう名前つけちゃうセンスがあってもおかしかない。
このアニメだけど作画がコロコロ変わるというか、やたら劇画チックな時があったような気がする。いや、このOPの絵も元の横山絵に比べると劇画チックなんでしょうけど、さらにすごかった放送があった覚えがあるんよなあ。
日替ほとがら
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