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応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。

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 世の中には「推しメン」という言葉があるそうです。
 アイドルグループのなかで自分が応援するメンバーのことを、そう呼ぶようですね。最近知りました。
 では三国志のなかで、マチカさんの推しメンは誰か。
 孔明さまは、もう別格です。贔屓の引き倒しどころか、諸葛亮大明神としてあがめ奉ってもいいぐらいです。
 というわけで、孔明さま以外で推しメンといえばこの人です。


 張遼さん

 張遼が呂布と一緒にいたころは「そうえいば、おるなあ」程度でまったくのノーマークでした。
 まあ、呂布が特濃で派手ですからね。同じ画面に出ていても、どうしても霞みますよ。
 そんで呂布は部下の裏切りで生け捕りにされて、曹操に処刑されてしまったのですが、張遼は殺されずに雇ってもらえたんですね。そこから気になり出した。
 よくみれば男前。あらためて見ても男前。
 でも男前ってだけじゃないですよ。
 だって、あのワンパク問題児の呂布に最後まで付き合ったんですよ。その前にも君主がコロコロ変わってますけど、別に呂布みたいに裏切って渡り歩いたわけじゃないし、劉備みたいに利を見てアチコチうろついたわけでもない。君主が死んじゃったりして、新しい食い扶持を求めただけだ。そして実力のない子はいらないよって曹操に仕えるようになると、そこでもちゃんとおつとめを果たして重用される。
 やたら自尊心の高い関羽とも仲良くできたわけだし、どういう人なんでしょうね。
 よく言われるのは職業軍人タイプでしょうか。
 やれといわれたことは、きっちりこなす。だからといって「ちょれぇw」と自分の武勇に驕るところがない。雇う側にとっては、実に使い勝手のいい人だ。
 アクが強すぎる登場人物の多い三国演義のなかでは、ある意味おもしろみのない人だ。だからこそいいのですが、もし張遼のおもしろエピソードがあったら知りたい。

 でも、そんなクソ真面目な張遼さんが巻き込まれたのが「三国演義で一番おもしろいのは俺だ。お笑い下克上Sー1グランプリ」
 それが次回「赤壁・勝敗決す」なのです。
 クソ真面目であるがゆえに、笑いに命をかける男達に翻弄される張遼さん。
 はたして張遼さんは、魯粛のようにお笑いモンスター達をさばけるのか!

 「お母さん、ぼく明日が見えません」
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 よおし。周回遅れからやっと追いついた。
 赤壁の戦いも、いよいよクライマックスへ向かいます。

 呉へ帰ろうとした龐統。
 しかし背後から、ひとりの男があらわれます。その男は龐統の策を見抜き、こちらに詰め寄って来ます。
 焦る龐統。「やってやんよ」とばかりに袖から刃物をちらつかせます。
 ──と、ここでネタばらし。あらわれたのは、かつて劉備軍にいた徐庶でした。ふたりは旧友で、久しぶりに顔を合わせたのです。

 お決まりの高笑いで対面「わっはっはー」
左:龐統 右:徐庶

 徐庶は曹操に騙され、その臣下になっていました。しかし徐庶は劉備の人柄に深く惹かれていたので、劉備の元を離れるとき「心ならずも曹操のところへ行きますが、決して奴のために献策はしません」と誓っていたのです。
「最近どうよ」
 龐統が訊ねると徐庶は悲しそうに答えます。
「あんな。おかん死んでもうてん」
 徐庶は母親が曹操の人質になったと聞いたので、劉備軍から去ったのです。その母親は徐庶が騙されて曹操のところへやって来たと聞くと「この馬鹿息子め」と自殺してしまったのです。
「そりゃあ、辛いなあ」
 お互いの近況を語り合いながら、ふとした様子で龐統が言います。
「それはそうと、なんでおまえの容姿はイケメンになってんだ? 俺はいいわ。演義じゃブサイクって設定になっとるしな。でもおまえがイケメンなんは納得いかん」
「あれれぇ? 僻んではんの? いやあ、正直この顔気に入っとんねん。ふっふ。でもなあ、ちょっと命危ないねんな。そのうち曹操に殺されそうやわ。それやのうても、ウチとこもうすぐ火攻めにあうわけやん?」
「じゃあ、今すぐ曹操の元を離れられる策を教えてやろうじゃないか」
「ほんまに?」

 耳打ちする龐統。

「はあ、なるほどなあ。遠方で反乱が起きたいう噂を流して、自分が制圧の名乗りを上げればええんやな。それなら自然なかたちで曹操から離れられるっちゅうわけや」
「そうそう。自作自演。これなら火攻めに巻き込まれることもないからな」
「やっぱ龐統は賢いわ。ありがとな」
「いいってことよ。俺たち友達だろ? 元気でやれよ」
「龐統もな。孔明によろしく伝えてといてな」
 ちなみに徐庶は劉備に孔明を紹介した人物なのでございます。
 徐庶と別れた龐統は帰りの船上でほくそ笑みます。
「これであいつは舞台から降りたも同然だ。せっかくイケメンでも出番がないんじゃ意味がないよな!」
 龐統は連環の計を成功させたばかりか、イケメン追放の計までも成功させたのです。さすが臨機応変な戦術の組み立てが得意な策士龐統さんやでぇ。

 さて。
 龐統の作戦がうまくいったところで、場面は呉陣営。周瑜が砦で夜風にあたっていました。すると兵士がやって来て告げます。
「奥方の小喬さまがお召し物を送って寄越しましたよ」
「ふふ。さすがマイワイフ。離れていても俺を気遣ってくれるのだな。きっと夜なべして縫ってくれたに違いない」
 周瑜は小喬の美しい顔を思い浮かべながら微笑みます。さっそく兵士が「お召し物」を羽織らせてくれたのですが……。

 「はっは、これは立派だ」

(ていうかワイフよ。これはお召し物というよりは、ただの布じゃないのか)
 そう思っても口には出せない愛妻家の周瑜に異変が起こります。突然咳き込みうずくまってしまったのです。
 しかも。

 周瑜のお家芸「吐血」

 心労が積もり積もった周瑜は病に冒されてしまったのです。そのしらせを聞いた魯粛は慌てて孔明に助けを求めに行きます。
 そのころ孔明さまは小舟の上で星を眺めていました。そして、ひとりの兵士が人目を忍ぶようにして孔明さまの背後に控えました。その兵士に孔明さまは密書を渡し、ささやくようにして頼みます。
「この書状を早く劉備さまに届けてね」
 そこへ魯粛が登場。ぎりぎりで兵士が立ち去ったあとなので、孔明さまが何をしていたかは知るよしもありません。
「大変や! この大変な時期に周瑜はんが倒れはったんです!」
「へえ。そりゃあ大変だね。でも大丈夫。周瑜の病気ならぼくが治してあげられるよ」
「ほ、ほんまでっか? ほんなら一緒に周瑜はんのとこ行って治したってください」
 孔明さまが行ってみると、周瑜は寝床でうなされていました。苦しそうな周瑜は弱音を吐きます。
「孔明か。病気ばかりは自分ではどうしようもないな……」
「あのねえ。病は気からって言うでしょ。大都督はカリカリしてるからよくないんだよ。煽り耐性ゼロなんだもん」
「……」
「身に覚えあるでしょ。いっつもカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut up!」
「ほらね! またそうやってカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut the fuck up! どう考えても、カリカリするのはおまえのせいだろうが!」
「こ、孔明はん。余計にこじらせますがな。そのあたりで止めておくんなはれ」
「うふふ。まあ、冗談はこれぐらいにして。大都督はアレでしょ。黄蓋の偽投降計画や龐統の連環の計がうまく行って、火攻めの準備が整ったのに、肝心な東の風が吹かないから困ってるわけだ」
「……ああ、そうだ。あとは風向きだけなんだ。我が軍が風上。曹操軍が風下にならなければ火攻めは成功しない。そのためには東の風が必要なのだが、この時期に東からの風は吹かないんだ。病気と同じで、風向きはどうしようもない。もう神頼みぐらいしか残されていないのさ」
「だからぼくが神様にお願いしてあげる。三日のあいだ天に東の風を借りてあげるよ」
「Come again?」
「明日ぼくが祈祷をこらすから」
「ユーはそんなことが出来るのか? もし東の風を借りられるのならば三日じゃなくていい。一日でもいいんだ!」
「ちょっと元気になったね。とにかくやってみるよ。じゃあ、また明日」

 翌日。
 拵えられた祭壇へと孔明さまは上がって行きます。普段はまとめている長い髪を、はらりと下ろします。全国百万の乙女(と一部のアニキ)は大興奮。ゾクゾクするほど妖艶です。そんな孔明さまの隣には魯粛。
「ねえ、魯粛ちゃん」
「なんでっか」
「もし東の風を借りられなくても勘弁してね」
「もともと吹かんで当たり前なんやから、誰も責めたりしまへん。気張りや、孔明はん。ワテはなんも出来へんけど、せめて応援させてもらうさかい」
「うん。魯粛ちゃんは、ここまででいいよ。あとはぼくに任せて」
 孔明さまは階段を登りかけて立ち止まりました。
「魯粛ちゃんて、ちょっと劉備さまに似てるよね」
「は、どこがですか? 劉備はんほど、ええ男っぷりやおまへんで」
「ホント似てるよ。それで周瑜はぼくに似てる。あのさ、長江をくだる船の上で、魯粛ちゃんに会えて良かったって言ったの覚えてる?」
「へえ。しっかり覚えてまっせ。あの船旅は楽しかったですな」
「ぼくいっぱいウソついたけど、あれは絶対にウソじゃないからね。魯粛ちゃんのこと好きだよ。そのこと忘れないでね」

 「じゃあ、ね。魯粛ちゃん」

 そう言い残して壇上へ行く孔明さまと、降りて行く魯粛。
(なんや、これでお別れみたいな……)
 魯粛は怪訝な顔で振り仰いだのですが、孔明さまの姿は逆光でよく見えませんでした。

 それから孔明さまの祈祷が始まりました。

 (劉備さまのためにウマくやらなきゃ)

(放っといても明日は風吹くんだけどね)

(時間稼ぎとはいえ肉体労働は疲れるや)

 場面は変わって周瑜。
 孔明さまの祈祷が始まって、かなり経過しましたが風は吹かない。苛立つ周瑜を魯粛は懸命になだめます。
「孔明はんのことは周瑜はんも、よう分かってますやろ。自信がなければ、あんなこと言いまへん。ワテは信じとります。せやから周瑜はんもどんと構えてなはれ。孫権さまから拝命した大都督の名が泣きまっせ!」
「どうした魯粛。今日はやけにキツいな」
「……とにかく。信じて待ちましょう」
「ふん。魯粛がそう言うなら待とうじゃないか」

 そして夜が明けました。
 いまだに風は吹かない。
 ついに我慢も限界にきた周瑜。
「東の風が吹くなどと言った孔明を信じて騙されたじゃないか!」
「落ち着いておくんなはれ」
 なだめ続ける魯粛。周瑜は怒りのまま外に出て、ふたたび孔明さまを罵倒しようとしたとき。
「……風だ」
 東からの風が呉陣営を駆け抜けたのです。
「吹きましたよ、周瑜はん!」
「Oh my gosh……孔明という奴は本当に……」
 周瑜は唖然としたあとで、配下の武将を呼び寄せ今すぐ祭壇へ行って孔明を斬れと命じました。当然魯粛は抗議します。
「東の風を呼んで膠着状態を打開してくれた孔明はんを斬るやなんて、あんまりやないですか! なんでそこまでせなあかんのです!」

 「クララ周瑜の馬鹿ッ!もう知らない!」

「ユーも知っているだろう。孔明は決して劉備から離れない。今はその劉備と同盟を結んでいるが、いずれ敵対する相手だ。あの化け物は始末しておかねば必ず後悔する。これも孫権さまの天下統一のためだ」
「せやけど……」
 魯粛は内心で祈りました。
(孔明はん。あんたならこれぐらい見越してはるんやろ。せやから、あんな態度……。逃げなはれや。絶対捕まったらあかんで)

 周瑜の命令を受けたふたりの武将が祭壇へ駆けつけました。しかし孔明さまの姿は見当たりません。祭壇に残っている兵士達に訊ねると、さきほど祭壇を降りて行きましたと言う。
「逃げたのならば、迎えの船が来ているはずだ。俺たちも船を出して探そう」
 川へ船を出して、間もなくすると一艘の船が見えました。舳先に立つ孔明さまの姿も確認できました。
「諸葛亮先生! 大都督が話をしたいそうですから、どうかお戻りください!」
 武将は声を張り上げました。
「だめー。周瑜に頑張ってねって言ってといてよ」
 もちろん孔明さまに帰る気はありません。武将は船を近付け乗り込もうと決めます。そのとき孔明さまをかばうようにして、船の舳先に白がまぶしい甲冑に身を包んだ武将があらわれ、猛々しく名乗りを上げます。

 「我が名はイケメン!」


「……?」「……?」


「……」「……あれ? 通じない?」

 孔明さまがボソリと話しかけます。
「子竜ちゃん。ちゃんと趙雲って名乗ったほうがいいんじゃない?」
「だってイケメンっていえば、俺のことでしょ? イケメン=この趙雲じゃん。言わなくても通じるでしょ、普通」
「だから普通じゃないから通じてないんでしょ。いいから早く追い払ってよ」
「おっかしいなあ。じゃあ、もとい」

 「我が名は趙雲!」


「……おお、あの!」「ひとりで一万の兵を相手にした一騎当千の趙雲とな!」

「やっと通じたか。ついでにイケメンだと覚えておけ! このカッペが!」
 趙雲は矢をつがえ放ちました。矢は呉武将の船の帆を支える綱を断ち切りました。帆が使い物にならなければ船は動けません。
「バイビー!」
 孔明さまの船は呉武将の船を振り切って逃げ、無事劉備のもとへと帰れたのでした。

「あ、劉備さまー。劉備さまのかわいい愛しい諸葛亮が戻ってまいりましたよォ」



「はっは。かわいいとか愛しいとか、それは置いといておかえり孔明」
「んもう。孔明じゃなくて亮たんでいいって言ったのにィ。劉備さま、亮たんって呼んで」
「亮たんか。よし分かった。おかえり孔明!」
「………………はい。孔明ただいま帰りました」
 あの腹黒ドSの性悪猫を唯一飼いならす男。それが劉備でした。
「ご苦労だったな。大活躍だったそうじゃないか」
「あのねえ、孫権さまってぼくよりひとつ年下なのに、えらいフケてたよ。超久しぶりに兄上にも会えて楽しかったし、周瑜ってすっごいおもしろいんだよ。あと魯粛ちゃんともお友達になったし。それから、えっと。もう話すことがいっぱいありすぎて困っちゃうな。そうだ、今日は一緒に寝ようよ! うん、そうしよう!」


「許さーん!」「う……関羽じゃん。一応元気だった?」

「ああ。おまえがいない間は兄上の劉備どのと、弟の張飛と、兄弟水入らずで楽しかった。性悪猫の邪魔が入らず、本当に本当に本当に本当に楽しかった」
「やだなあ、いきなりトゲあるし。劉備さまのために頑張ってきたんだから、少しはねぎらってよ」


張飛「偉いッ! よく分からんけど!」
趙雲(ふふ、今日で呉にも俺がイケメンだと知れ渡るに違いない)

 そんな和やかな会話も早々に切り上げ、劉備達は軍議に入ります。
 孔明さまも早速軍師のお仕事開始です。
「周瑜はかならず曹操に勝つよ。敗走する曹操はこちらの領地を通るはずだから、そこを叩く。というわけで、それぞれの配置と行動を発表しまーす」
 趙雲、張飛、その他諸々の武将へ指示を出し、劉備についてはそつなくデートへ誘います。
「劉備さまはぼくと一緒に、高みから周瑜の歴史に残る一戦を見ようねぇ。お弁当作ってもらって、持って行こうねぇ」


「おい待てや」「……」

 ひとりだけ作戦を指示されなかった関羽がキレ気味に言いました。
「わたしはいくさで遅れをとったことは一度もない。それなのに指示がないとはどういうことだ。さっきの仕返しか? あーん?」
「それは知ってるって。だから本当は関羽には一番重要なところに行って欲しいんだけど、心配なんだもん」
「心配って何がだーん?」
「関羽の義理堅さだよ。華容道。曹操は絶対に華容道を通る。でも以前曹操に厚遇された関羽は、その義理堅さから……曹操を逃がしてしまうんじゃないかってね」
「曹操を逃がすとかありえん」
「じゃあ、誓約書書いてよ」
「よかろう」
 誓約書を確認した孔明さまは、あらためて関羽に指示を出しました。
「……という作戦でよろしく」
「曹操軍が見えたら火を放つねえ。そんなことしたら曹操は伏兵がいると思って華容道は通らないんじゃないのか」
「逆だって。曹操は兵法に通じてるからこそ、火をこちらの虚勢と見越して強行するに決まってる」
「ど、う、か、なーん?」
「だったらぼくも誓約書書くし」
「はいはい。確認しましたよっと」
「ねえ、誓約書があるんだし、もし曹操を逃がしたら分かってるよね?」
「わたしを軍法通りに裁けばいいだろ」
「ふうん。んじゃ“気をつけて”ね」
「言われるまでもないわ。パパっと片付けて、おまえが兄上の閨へ侵入するのを阻止するからな!」

 肩をいからせて出て行った関羽を劉備は心配そうに見送ります。
「弟は義侠心に厚いからなあ。やっぱり曹操を逃がすんじゃないのか?」
 孔明さまは感情の見えない表情で答えます。
「曹操が生きているうちに関羽に恩義を返させるのも、後腐れなくっていいんじゃないかな」
「だが曹操を倒す千載一遇の好機を逃すわけには……それとも、何か後手を考えてあるのか」
「劉備さまは、かつてぼくの草庵を訪れたとき、ぼくの友達の崔州平に会ったよね。彼はこう言ったでしょう? 天命は人の力では変えられないって」
「覚えているよ。国は放っておいても統一され、そしてまた乱れ、やがて統一される。すべて天命のままに。だからといって、わたしは苦しむ民を黙って見ていられなかった。そして平和な世の中にするため、天下平定を目指し孔明を迎え入れたんだ。だが、その話をなぜ今?」
(まだ曹操の天命は尽きていないんだよ、劉備さま。今は誰もあの巨星を落とせない。だからね、これでいいんだ。いつか命をかけて、あの星を落とすのは──)
「うん、ちょっと思い出しただけ。あー早くお弁当作ってもらわないと、周瑜の火攻めが始まっちゃう。頼んでくるよ! 劉備さまは馬と船を用意しといてね」
 孔明さまは、足早に立ち去りました。

 次週赤壁の戦いが決します。テッテレー。
 冒頭が孔明さまお目覚めシーンから始まるとか、サービスがいいな。しかし残念ながら孔明さまは全裸で寝るタイプではないようです。ガッカリだよ。

 そして魯粛登場。
「おはようさん。周瑜はんが軍議を開きますさかい、孔明はんも参加しておくんなはれ」
「仰せの通りに」
 言葉だけ聞くと従順そうですが、態度と口調はとんでもなくダルそうです。しかし周瑜は朝から元気いっぱいです。
「Hello guys!」
「ハ、ハロー」
「みんな声が小さいな。まあ、いいか。というわけで、今日から三ヶ月分の食料をたくわえて曹操軍との持久戦を始める!」
「そおい!」
 異議を申し立てたのは老将黄蓋。
「曹操軍が長江ついたらすぐに攻撃すりゃあよかったんよ。それをダラダラしおってからに。今さら三ヶ月伸ばしたところでどうすんだ。呉のためにもいさぎよく降伏したほうがええ」
「はあん? そっちこそ今さら何を言ってんだ」
「だいたいおまえムカつくんよ。名家の出だとかエリートだとか秀才だとかイケメンだとか音楽も出来てとか嫁が別嬪とか、なにそれ。チートか。出来過ぎなんよ。言っとくけど、そういう出来過ぎキャラって、記号だらけで逆に没個性なんよ。主人公でもないのに扱いづらいんよ。そんなんだから演義で引き立て役に抜擢されるんよ。ははは。ジイサン愉快愉快」
「おい、結局は個人攻撃じゃないか! 曹操とか呉とか関係なくなってるよ!」
(それを言うならワテかて、正史に比べて演義じゃえらい扱いになってますがな)
 内心でそう思う魯粛の目の前で周瑜はいきり立ちます。
「前から言ってたけど、降伏を口にしたものは斬るって言ってあったよな? このold fartを引き出してたたっ斬れ」
 黄蓋は兵士に外へ連れて行かれてしまいました。甘寧(ヤダかっこいい)が周瑜の前へ飛び出てくると平伏しました。
「たしかにクソジジイではありますが、クソジジイでも長い間孫家に仕えた功労者ですよ。クソジジイですけど、どうかお許しください」
「その声は甘寧! 聞こえとるぞー! 誰がクソジジイじゃ!」
 遠くで黄蓋が叫んだとか叫ばないとか。
 甘寧に続いて軍議の参加者達がそろって周瑜に頭を下げ、黄蓋を許してくれるよう懇願します。
 魯粛も平伏しながら、孔明さまに視線を送ります。
 チラッ
(孔明はんも、なんか言うたって。頼んます……!)

 フンフーン。劉備さま今頃何してるかなぁ。

 魯粛(ガン無視とか!)
 唖然とする魯粛を置いて事態は進展します。みんなに刑の軽減を懇願された周瑜は「じゃあ棒叩き百回ね」と殺すことは踏みとどまってくれました。

 刑罰のため上半身裸にむかれた黄蓋。
 ジジイのくせにイイ体しおってからに……イイヨイイヨー!

 ひとつ叩くたびに黄蓋のうめき声が響きます。

「アッーー!」

 棒叩きといえども、激しく打ちのめすわけですから大変な苦痛です。耐えきれなくなった魯粛。(※性的な意味ではありません)
「周瑜はん。黄蓋はんはお年寄りでっせ。百回もどついたら死んでまうわ。堪忍したってください」
 周囲の人たちも、お願いしますと頭を下げる。
「うーん。そんなに言うなら、あと五十回は俺の預かりだ」
 黄蓋の棒叩きは、なんとか半分で済みました。ですが五十回も打ちのめされたご老体はボロボロです。抱きかかえられるようにして黄蓋は治療に運ばれました。

 場面はかわって川のほとり。
 孔明さまはひとりででたたずんでいます。
 ああ、お美しい。ただ立っているだけでも絵になりますね。そこへあらわれたのは魯粛。
「孔明はん! 知らん顔して、ひどいやないですか。なんで黄蓋はんに助け舟を出してくれへんのです」
「ぼく、朝が弱いの。どうも眠くってね」
「はあ?」
「うそうそ。あれはぼくが口を出す場面じゃないでしょ」
「どういうことですのん」
「周瑜は打ちたがって、黄蓋は打たれたがってたんだもん」
「なんちゅうこっちゃ。あのおふたりはそういう関係やったんか! ど、どうりでエエ声で鳴いとったはずや。ほんなら止めんほうがよかったんやろか。はあ。世の中にはそういう趣味もあるとは知っとったけど、ようもうマァ朝っぱらから堂々と……ふたりきりの時にしはったらええのに。いや待てよ。人に見られるっちゅうのが、またエエんやろか」
「魯粛ちゃん、落ち着いて」
「しっかし黄蓋はんも、あれ命がけでっしゃろ。下手したら死んでまうやん。そこまでして快楽を追い求めるいうのも、分からんなあ。そんなにエエもんなんやろか」
「落ち着けって言ってんだろ、欲情魔」
「今、なんと?」
「ん? なんにも言ってないよ」
「おかしいな。欲情魔とか聞こえたような」
「気のせいじゃない? ねえ、魯粛ちゃん。あんなことした黄蓋の気持ちが分からないの?」
「マゾやさかい、いたぶられたかったんとちゃいますのん」
「もう、その発想から離れてよ。黄蓋が孫権を思う忠誠心には、ぼくも心を打たれ──」
「打たれた……! 孔明はんも打たれたんでっか! ど、どないな感じでした?」
「いい加減にしないと殴るよ」
「殴る?! あっちの世界に興味がないわけやおまへんけど、まだ心の準備が……」
「おとなしくお話が聞けないなら、遺書の準備でもしよっか?」
「へえ、聞きますさかいに。今回の一件、実際はどういうことやったんです?」
「あのね」
 孔明さまは小声で魯粛に話してから、いつも通りに注意します。
「このことは周瑜に言っちゃだめだからね」
「任せておくんはなれ」
「あと、これは個人的な話だけど、ぼくは肉体的に痛めつける行為は好きじゃないね」
「暴力は好かんいうことですね」
「んー。そういった刹那的なやり方は嫌だってこと。合意の上の肉体的な行為は加虐嗜好者が主導権を握っていると思われがちだけど、実は違うんだよ。被虐嗜好者のほうだよ。加虐者が奉仕して、被虐者はひたすら享受するわけ。しかも被虐者が状況設定嗜好だったら、もう加虐者に人格はいらないじゃない。もし、ぼくが加虐嗜好者の立場だとすれば悲しいね。孤独だよ。彼らの肥大した自己愛に取り込まれてしまうなんて、むなしさすら覚えるよ。そんなのじゃなくて繋がりが欲しいのにね。ひとつになることと、繋がることは違うでしょう。そして繋がるためには刹那的じゃいけないんだ。体の傷はいずれ癒えてしまうからね」
「よう分かりまへんけど……」
「要はね、ぼくは周瑜が好きってことさ。周瑜がぼくを殺したいのと一緒でね」
「あんだけおちょくり回しといて、よう言いますな」
「うふふ。そのうち仕上げにかかるよ。ぼくはとても彼が気に入ってるからね。やっぱり外の世界は楽しいや。田舎に引きこもってちゃ、いろんな人に会えないもんね。さて明日のお天気はどうなるかな」
(この人……中二病や! しかも相当こじらしてはるで)

 そして、夜。
 周瑜が魯粛を呼び出しました。
「ユーは黄蓋が棒打ちされたあと孔明に会ったかい?」
「はあ、会いましたけど」
「ふうん。で、なんて言ってた?」
「(もう素直に言わないもんね)周瑜はんは薄情や言うてましたで」
 周瑜は笑い飛ばします。
「それは作り話だろ? 曹操は騙せても孔明は騙せない。やっぱりなー今のうちに殺しておきたいな」
「なんべん言わすんですか。今は曹操のほうに集中しなはれ」
「オーゥ。手厳しいな。曹操は火攻めでバーベキューにしてやろうと決めたけど、効率よく船団をウェルダンにする方法はないものかね。一艘に火をつけたところで、他の船に逃げられたのでは意味がない」
「それなら龐統に働いてもらうのは、どうでっしゃろ。孔明はんは臥龍、龐統はんは鳳雛と並び称される逸材でっせ。きっとええ策を教えてくれるはずや」
「龐統か。good looking guyじゃないだろ、彼は。重用するのはなあ」
「そんなん言うたらあきまへん。……周瑜はん。ちなみに聞きますけど、ワテと仲ようしてくれはるのは、アレでっか? ワテもそこそこ見た目がエエいうわけですか。ふふ」
「The hell you say!」
「は?」
「魯粛には恩義があるからな! 今でも感謝しているぞ」
「……そうでっか。それはそうと黄蓋はんの偽投降作戦はうまくいっとるんですか。黄蓋はんを棒打ちにしはったのは、それのお膳立てなんでっしゃろ。黄蓋はんが普通に曹操へ投降を申し出ても、あのお人も疑り深いし何より賢い。偽りの投降だとすぐに気付きます。せやから黄蓋はんが周瑜はんを恨んではると、周囲に思い込ませ、曹操にも信じ込ませる。そのためにあの公開SMショー……やのうて、棒打ちしはったんでしょ。苦肉の計でんな。そして投降すると見せかけて、黄蓋はんは曹操の船団に火を放つ」
「と、孔明に聞いたのか」
「ちゃ、ちゃいます! ワテにもそれぐらい分かるます」
「分かるます?」
「すんまへん。教えてもらいましてん。それまでは、てっきり周瑜はんが前後の見境のない、ただのキレやすい若者やと思うとりました。高スペックを鼻にかけたイケすかない野郎だとか、所詮孔明はんの引き立て役ご苦労様とか、なんかアイツおったらやりにくいなってみんな言ってるとか、この前の飲み会も二次会あるの黙って一旦解散したフリしてその後みんな集まろうぜとか、そんなふうに」
「おい、何をここぞとばかりに個人攻撃してんだ! ていうかマジで二次会あったのか?」
「さて、ワテは龐統はんに話つけに行きますさかい失礼しまっさ」
「待て! 二次会……」

 それから。
 龐統が請われるかたちで曹操のもとを訪れます。龐統は北方出身で船に慣れていない曹操軍の兵士達が船酔いに悩まれていると見抜き、船を鎖でしっかり繋ぎ合わせる連環の計を教えます。これなら陸地にいるのと同じように活動できるはずだと言われ、曹操は「やるじゃん!」と龐統を褒め称えました。
 しかし曹操の側近は「これじゃあ、火攻めにあったとき逃げ遅れますよ」と心配します。それに対して曹操は「心配なーいーーーさーーーーー!」とごきげんライオンキングです。おまけに黄蓋の投降もすっかり信じ込んでいるのです。
 かくして曹操軍の船団はひとつの大きな要塞のようになり、バーベキュー大会の準備は万端。
「しめしめ」
 使命を果たした龐統が川を渡って帰ろうとした、その時──テッテレー。
お久しぶりですー!
ありがとうございます。
 夕暮れ時。
 帰路につく車で渋滞した車道の脇を私は歩いていた。
 その日は見事な夕焼けで町並みも茜色に染まっていた。
 前方からひとりの若い男性が走ってくる。
 タンクトップとハーフパンツからのぞく彼の四肢は引き締まり、アスリート体型のなかでも長距離型ランナー特有の体型であった。脂肪は削ぎ落とされ、無駄のない筋肉が彼の一挙手一投足ごとに躍動していた。汗で全身を濡らし、本格的なランニングの最中なのであろう。
 それにしても、なぜ彼は女走りなのだろう。
 彼は両腕を体の前で左右に振りつつ、私の横を駆け抜けて行った。
 昼間は真夏並に暑くとも、夕暮れ時の風は秋を運んでいた。
 去り行く夏。
 ランナーの姿も今は遠く、いつの間にか押し寄せた夕闇に紛れて見えなくなってしまった。

 その日の晩ご飯はコロッケでした。
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