応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。
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よおし。周回遅れからやっと追いついた。
赤壁の戦いも、いよいよクライマックスへ向かいます。
呉へ帰ろうとした龐統。
しかし背後から、ひとりの男があらわれます。その男は龐統の策を見抜き、こちらに詰め寄って来ます。
焦る龐統。「やってやんよ」とばかりに袖から刃物をちらつかせます。
──と、ここでネタばらし。あらわれたのは、かつて劉備軍にいた徐庶でした。ふたりは旧友で、久しぶりに顔を合わせたのです。
お決まりの高笑いで対面「わっはっはー」
左:龐統 右:徐庶
徐庶は曹操に騙され、その臣下になっていました。しかし徐庶は劉備の人柄に深く惹かれていたので、劉備の元を離れるとき「心ならずも曹操のところへ行きますが、決して奴のために献策はしません」と誓っていたのです。
「最近どうよ」
龐統が訊ねると徐庶は悲しそうに答えます。
「あんな。おかん死んでもうてん」
徐庶は母親が曹操の人質になったと聞いたので、劉備軍から去ったのです。その母親は徐庶が騙されて曹操のところへやって来たと聞くと「この馬鹿息子め」と自殺してしまったのです。
「そりゃあ、辛いなあ」
お互いの近況を語り合いながら、ふとした様子で龐統が言います。
「それはそうと、なんでおまえの容姿はイケメンになってんだ? 俺はいいわ。演義じゃブサイクって設定になっとるしな。でもおまえがイケメンなんは納得いかん」
「あれれぇ? 僻んではんの? いやあ、正直この顔気に入っとんねん。ふっふ。でもなあ、ちょっと命危ないねんな。そのうち曹操に殺されそうやわ。それやのうても、ウチとこもうすぐ火攻めにあうわけやん?」
「じゃあ、今すぐ曹操の元を離れられる策を教えてやろうじゃないか」
「ほんまに?」
耳打ちする龐統。
「はあ、なるほどなあ。遠方で反乱が起きたいう噂を流して、自分が制圧の名乗りを上げればええんやな。それなら自然なかたちで曹操から離れられるっちゅうわけや」
「そうそう。自作自演。これなら火攻めに巻き込まれることもないからな」
「やっぱ龐統は賢いわ。ありがとな」
「いいってことよ。俺たち友達だろ? 元気でやれよ」
「龐統もな。孔明によろしく伝えてといてな」
ちなみに徐庶は劉備に孔明を紹介した人物なのでございます。
徐庶と別れた龐統は帰りの船上でほくそ笑みます。
「これであいつは舞台から降りたも同然だ。せっかくイケメンでも出番がないんじゃ意味がないよな!」
龐統は連環の計を成功させたばかりか、イケメン追放の計までも成功させたのです。さすが臨機応変な戦術の組み立てが得意な策士龐統さんやでぇ。
さて。
龐統の作戦がうまくいったところで、場面は呉陣営。周瑜が砦で夜風にあたっていました。すると兵士がやって来て告げます。
「奥方の小喬さまがお召し物を送って寄越しましたよ」
「ふふ。さすがマイワイフ。離れていても俺を気遣ってくれるのだな。きっと夜なべして縫ってくれたに違いない」
周瑜は小喬の美しい顔を思い浮かべながら微笑みます。さっそく兵士が「お召し物」を羽織らせてくれたのですが……。
「はっは、これは立派だ」
(ていうかワイフよ。これはお召し物というよりは、ただの布じゃないのか)
そう思っても口には出せない愛妻家の周瑜に異変が起こります。突然咳き込みうずくまってしまったのです。
しかも。
周瑜のお家芸「吐血」
心労が積もり積もった周瑜は病に冒されてしまったのです。そのしらせを聞いた魯粛は慌てて孔明に助けを求めに行きます。
そのころ孔明さまは小舟の上で星を眺めていました。そして、ひとりの兵士が人目を忍ぶようにして孔明さまの背後に控えました。その兵士に孔明さまは密書を渡し、ささやくようにして頼みます。
「この書状を早く劉備さまに届けてね」
そこへ魯粛が登場。ぎりぎりで兵士が立ち去ったあとなので、孔明さまが何をしていたかは知るよしもありません。
「大変や! この大変な時期に周瑜はんが倒れはったんです!」
「へえ。そりゃあ大変だね。でも大丈夫。周瑜の病気ならぼくが治してあげられるよ」
「ほ、ほんまでっか? ほんなら一緒に周瑜はんのとこ行って治したってください」
孔明さまが行ってみると、周瑜は寝床でうなされていました。苦しそうな周瑜は弱音を吐きます。
「孔明か。病気ばかりは自分ではどうしようもないな……」
「あのねえ。病は気からって言うでしょ。大都督はカリカリしてるからよくないんだよ。煽り耐性ゼロなんだもん」
「……」
「身に覚えあるでしょ。いっつもカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut up!」
「ほらね! またそうやってカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut the fuck up! どう考えても、カリカリするのはおまえのせいだろうが!」
「こ、孔明はん。余計にこじらせますがな。そのあたりで止めておくんなはれ」
「うふふ。まあ、冗談はこれぐらいにして。大都督はアレでしょ。黄蓋の偽投降計画や龐統の連環の計がうまく行って、火攻めの準備が整ったのに、肝心な東の風が吹かないから困ってるわけだ」
「……ああ、そうだ。あとは風向きだけなんだ。我が軍が風上。曹操軍が風下にならなければ火攻めは成功しない。そのためには東の風が必要なのだが、この時期に東からの風は吹かないんだ。病気と同じで、風向きはどうしようもない。もう神頼みぐらいしか残されていないのさ」
「だからぼくが神様にお願いしてあげる。三日のあいだ天に東の風を借りてあげるよ」
「Come again?」
「明日ぼくが祈祷をこらすから」
「ユーはそんなことが出来るのか? もし東の風を借りられるのならば三日じゃなくていい。一日でもいいんだ!」
「ちょっと元気になったね。とにかくやってみるよ。じゃあ、また明日」
翌日。
拵えられた祭壇へと孔明さまは上がって行きます。普段はまとめている長い髪を、はらりと下ろします。全国百万の乙女(と一部のアニキ)は大興奮。ゾクゾクするほど妖艶です。そんな孔明さまの隣には魯粛。
「ねえ、魯粛ちゃん」
「なんでっか」
「もし東の風を借りられなくても勘弁してね」
「もともと吹かんで当たり前なんやから、誰も責めたりしまへん。気張りや、孔明はん。ワテはなんも出来へんけど、せめて応援させてもらうさかい」
「うん。魯粛ちゃんは、ここまででいいよ。あとはぼくに任せて」
孔明さまは階段を登りかけて立ち止まりました。
「魯粛ちゃんて、ちょっと劉備さまに似てるよね」
「は、どこがですか? 劉備はんほど、ええ男っぷりやおまへんで」
「ホント似てるよ。それで周瑜はぼくに似てる。あのさ、長江をくだる船の上で、魯粛ちゃんに会えて良かったって言ったの覚えてる?」
「へえ。しっかり覚えてまっせ。あの船旅は楽しかったですな」
「ぼくいっぱいウソついたけど、あれは絶対にウソじゃないからね。魯粛ちゃんのこと好きだよ。そのこと忘れないでね」
「じゃあ、ね。魯粛ちゃん」
そう言い残して壇上へ行く孔明さまと、降りて行く魯粛。
(なんや、これでお別れみたいな……)
魯粛は怪訝な顔で振り仰いだのですが、孔明さまの姿は逆光でよく見えませんでした。
それから孔明さまの祈祷が始まりました。
(劉備さまのためにウマくやらなきゃ)
(放っといても明日は風吹くんだけどね)
(時間稼ぎとはいえ肉体労働は疲れるや)
場面は変わって周瑜。
孔明さまの祈祷が始まって、かなり経過しましたが風は吹かない。苛立つ周瑜を魯粛は懸命になだめます。
「孔明はんのことは周瑜はんも、よう分かってますやろ。自信がなければ、あんなこと言いまへん。ワテは信じとります。せやから周瑜はんもどんと構えてなはれ。孫権さまから拝命した大都督の名が泣きまっせ!」
「どうした魯粛。今日はやけにキツいな」
「……とにかく。信じて待ちましょう」
「ふん。魯粛がそう言うなら待とうじゃないか」
そして夜が明けました。
いまだに風は吹かない。
ついに我慢も限界にきた周瑜。
「東の風が吹くなどと言った孔明を信じて騙されたじゃないか!」
「落ち着いておくんなはれ」
なだめ続ける魯粛。周瑜は怒りのまま外に出て、ふたたび孔明さまを罵倒しようとしたとき。
「……風だ」
東からの風が呉陣営を駆け抜けたのです。
「吹きましたよ、周瑜はん!」
「Oh my gosh……孔明という奴は本当に……」
周瑜は唖然としたあとで、配下の武将を呼び寄せ今すぐ祭壇へ行って孔明を斬れと命じました。当然魯粛は抗議します。
「東の風を呼んで膠着状態を打開してくれた孔明はんを斬るやなんて、あんまりやないですか! なんでそこまでせなあかんのです!」
「クララ周瑜の馬鹿ッ!もう知らない!」
「ユーも知っているだろう。孔明は決して劉備から離れない。今はその劉備と同盟を結んでいるが、いずれ敵対する相手だ。あの化け物は始末しておかねば必ず後悔する。これも孫権さまの天下統一のためだ」
「せやけど……」
魯粛は内心で祈りました。
(孔明はん。あんたならこれぐらい見越してはるんやろ。せやから、あんな態度……。逃げなはれや。絶対捕まったらあかんで)
周瑜の命令を受けたふたりの武将が祭壇へ駆けつけました。しかし孔明さまの姿は見当たりません。祭壇に残っている兵士達に訊ねると、さきほど祭壇を降りて行きましたと言う。
「逃げたのならば、迎えの船が来ているはずだ。俺たちも船を出して探そう」
川へ船を出して、間もなくすると一艘の船が見えました。舳先に立つ孔明さまの姿も確認できました。
「諸葛亮先生! 大都督が話をしたいそうですから、どうかお戻りください!」
武将は声を張り上げました。
「だめー。周瑜に頑張ってねって言ってといてよ」
もちろん孔明さまに帰る気はありません。武将は船を近付け乗り込もうと決めます。そのとき孔明さまをかばうようにして、船の舳先に白がまぶしい甲冑に身を包んだ武将があらわれ、猛々しく名乗りを上げます。
「我が名はイケメン!」
「……?」「……?」
「……」「……あれ? 通じない?」
孔明さまがボソリと話しかけます。
「子竜ちゃん。ちゃんと趙雲って名乗ったほうがいいんじゃない?」
「だってイケメンっていえば、俺のことでしょ? イケメン=この趙雲じゃん。言わなくても通じるでしょ、普通」
「だから普通じゃないから通じてないんでしょ。いいから早く追い払ってよ」
「おっかしいなあ。じゃあ、もとい」
「我が名は趙雲!」
「……おお、あの!」「ひとりで一万の兵を相手にした一騎当千の趙雲とな!」
「やっと通じたか。ついでにイケメンだと覚えておけ! このカッペが!」
趙雲は矢をつがえ放ちました。矢は呉武将の船の帆を支える綱を断ち切りました。帆が使い物にならなければ船は動けません。
「バイビー!」
孔明さまの船は呉武将の船を振り切って逃げ、無事劉備のもとへと帰れたのでした。
「あ、劉備さまー。劉備さまのかわいい愛しい諸葛亮が戻ってまいりましたよォ」
「はっは。かわいいとか愛しいとか、それは置いといておかえり孔明」
「んもう。孔明じゃなくて亮たんでいいって言ったのにィ。劉備さま、亮たんって呼んで」
「亮たんか。よし分かった。おかえり孔明!」
「………………はい。孔明ただいま帰りました」
あの腹黒ドSの性悪猫を唯一飼いならす男。それが劉備でした。
「ご苦労だったな。大活躍だったそうじゃないか」
「あのねえ、孫権さまってぼくよりひとつ年下なのに、えらいフケてたよ。超久しぶりに兄上にも会えて楽しかったし、周瑜ってすっごいおもしろいんだよ。あと魯粛ちゃんともお友達になったし。それから、えっと。もう話すことがいっぱいありすぎて困っちゃうな。そうだ、今日は一緒に寝ようよ! うん、そうしよう!」
「許さーん!」「う……関羽じゃん。一応元気だった?」
「ああ。おまえがいない間は兄上の劉備どのと、弟の張飛と、兄弟水入らずで楽しかった。性悪猫の邪魔が入らず、本当に本当に本当に本当に楽しかった」
「やだなあ、いきなりトゲあるし。劉備さまのために頑張ってきたんだから、少しはねぎらってよ」
張飛「偉いッ! よく分からんけど!」
趙雲(ふふ、今日で呉にも俺がイケメンだと知れ渡るに違いない)
そんな和やかな会話も早々に切り上げ、劉備達は軍議に入ります。
孔明さまも早速軍師のお仕事開始です。
「周瑜はかならず曹操に勝つよ。敗走する曹操はこちらの領地を通るはずだから、そこを叩く。というわけで、それぞれの配置と行動を発表しまーす」
趙雲、張飛、その他諸々の武将へ指示を出し、劉備についてはそつなくデートへ誘います。
「劉備さまはぼくと一緒に、高みから周瑜の歴史に残る一戦を見ようねぇ。お弁当作ってもらって、持って行こうねぇ」
「おい待てや」「……」
ひとりだけ作戦を指示されなかった関羽がキレ気味に言いました。
「わたしはいくさで遅れをとったことは一度もない。それなのに指示がないとはどういうことだ。さっきの仕返しか? あーん?」
「それは知ってるって。だから本当は関羽には一番重要なところに行って欲しいんだけど、心配なんだもん」
「心配って何がだーん?」
「関羽の義理堅さだよ。華容道。曹操は絶対に華容道を通る。でも以前曹操に厚遇された関羽は、その義理堅さから……曹操を逃がしてしまうんじゃないかってね」
「曹操を逃がすとかありえん」
「じゃあ、誓約書書いてよ」
「よかろう」
誓約書を確認した孔明さまは、あらためて関羽に指示を出しました。
「……という作戦でよろしく」
「曹操軍が見えたら火を放つねえ。そんなことしたら曹操は伏兵がいると思って華容道は通らないんじゃないのか」
「逆だって。曹操は兵法に通じてるからこそ、火をこちらの虚勢と見越して強行するに決まってる」
「ど、う、か、なーん?」
「だったらぼくも誓約書書くし」
「はいはい。確認しましたよっと」
「ねえ、誓約書があるんだし、もし曹操を逃がしたら分かってるよね?」
「わたしを軍法通りに裁けばいいだろ」
「ふうん。んじゃ“気をつけて”ね」
「言われるまでもないわ。パパっと片付けて、おまえが兄上の閨へ侵入するのを阻止するからな!」
肩をいからせて出て行った関羽を劉備は心配そうに見送ります。
「弟は義侠心に厚いからなあ。やっぱり曹操を逃がすんじゃないのか?」
孔明さまは感情の見えない表情で答えます。
「曹操が生きているうちに関羽に恩義を返させるのも、後腐れなくっていいんじゃないかな」
「だが曹操を倒す千載一遇の好機を逃すわけには……それとも、何か後手を考えてあるのか」
「劉備さまは、かつてぼくの草庵を訪れたとき、ぼくの友達の崔州平に会ったよね。彼はこう言ったでしょう? 天命は人の力では変えられないって」
「覚えているよ。国は放っておいても統一され、そしてまた乱れ、やがて統一される。すべて天命のままに。だからといって、わたしは苦しむ民を黙って見ていられなかった。そして平和な世の中にするため、天下平定を目指し孔明を迎え入れたんだ。だが、その話をなぜ今?」
(まだ曹操の天命は尽きていないんだよ、劉備さま。今は誰もあの巨星を落とせない。だからね、これでいいんだ。いつか命をかけて、あの星を落とすのは──)
「うん、ちょっと思い出しただけ。あー早くお弁当作ってもらわないと、周瑜の火攻めが始まっちゃう。頼んでくるよ! 劉備さまは馬と船を用意しといてね」
孔明さまは、足早に立ち去りました。
次週赤壁の戦いが決します。テッテレー。
赤壁の戦いも、いよいよクライマックスへ向かいます。
呉へ帰ろうとした龐統。
しかし背後から、ひとりの男があらわれます。その男は龐統の策を見抜き、こちらに詰め寄って来ます。
焦る龐統。「やってやんよ」とばかりに袖から刃物をちらつかせます。
──と、ここでネタばらし。あらわれたのは、かつて劉備軍にいた徐庶でした。ふたりは旧友で、久しぶりに顔を合わせたのです。
お決まりの高笑いで対面「わっはっはー」
左:龐統 右:徐庶
徐庶は曹操に騙され、その臣下になっていました。しかし徐庶は劉備の人柄に深く惹かれていたので、劉備の元を離れるとき「心ならずも曹操のところへ行きますが、決して奴のために献策はしません」と誓っていたのです。
「最近どうよ」
龐統が訊ねると徐庶は悲しそうに答えます。
「あんな。おかん死んでもうてん」
徐庶は母親が曹操の人質になったと聞いたので、劉備軍から去ったのです。その母親は徐庶が騙されて曹操のところへやって来たと聞くと「この馬鹿息子め」と自殺してしまったのです。
「そりゃあ、辛いなあ」
お互いの近況を語り合いながら、ふとした様子で龐統が言います。
「それはそうと、なんでおまえの容姿はイケメンになってんだ? 俺はいいわ。演義じゃブサイクって設定になっとるしな。でもおまえがイケメンなんは納得いかん」
「あれれぇ? 僻んではんの? いやあ、正直この顔気に入っとんねん。ふっふ。でもなあ、ちょっと命危ないねんな。そのうち曹操に殺されそうやわ。それやのうても、ウチとこもうすぐ火攻めにあうわけやん?」
「じゃあ、今すぐ曹操の元を離れられる策を教えてやろうじゃないか」
「ほんまに?」
耳打ちする龐統。
「はあ、なるほどなあ。遠方で反乱が起きたいう噂を流して、自分が制圧の名乗りを上げればええんやな。それなら自然なかたちで曹操から離れられるっちゅうわけや」
「そうそう。自作自演。これなら火攻めに巻き込まれることもないからな」
「やっぱ龐統は賢いわ。ありがとな」
「いいってことよ。俺たち友達だろ? 元気でやれよ」
「龐統もな。孔明によろしく伝えてといてな」
ちなみに徐庶は劉備に孔明を紹介した人物なのでございます。
徐庶と別れた龐統は帰りの船上でほくそ笑みます。
「これであいつは舞台から降りたも同然だ。せっかくイケメンでも出番がないんじゃ意味がないよな!」
龐統は連環の計を成功させたばかりか、イケメン追放の計までも成功させたのです。さすが臨機応変な戦術の組み立てが得意な策士龐統さんやでぇ。
さて。
龐統の作戦がうまくいったところで、場面は呉陣営。周瑜が砦で夜風にあたっていました。すると兵士がやって来て告げます。
「奥方の小喬さまがお召し物を送って寄越しましたよ」
「ふふ。さすがマイワイフ。離れていても俺を気遣ってくれるのだな。きっと夜なべして縫ってくれたに違いない」
周瑜は小喬の美しい顔を思い浮かべながら微笑みます。さっそく兵士が「お召し物」を羽織らせてくれたのですが……。
「はっは、これは立派だ」
(ていうかワイフよ。これはお召し物というよりは、ただの布じゃないのか)
そう思っても口には出せない愛妻家の周瑜に異変が起こります。突然咳き込みうずくまってしまったのです。
しかも。
周瑜のお家芸「吐血」
心労が積もり積もった周瑜は病に冒されてしまったのです。そのしらせを聞いた魯粛は慌てて孔明に助けを求めに行きます。
そのころ孔明さまは小舟の上で星を眺めていました。そして、ひとりの兵士が人目を忍ぶようにして孔明さまの背後に控えました。その兵士に孔明さまは密書を渡し、ささやくようにして頼みます。
「この書状を早く劉備さまに届けてね」
そこへ魯粛が登場。ぎりぎりで兵士が立ち去ったあとなので、孔明さまが何をしていたかは知るよしもありません。
「大変や! この大変な時期に周瑜はんが倒れはったんです!」
「へえ。そりゃあ大変だね。でも大丈夫。周瑜の病気ならぼくが治してあげられるよ」
「ほ、ほんまでっか? ほんなら一緒に周瑜はんのとこ行って治したってください」
孔明さまが行ってみると、周瑜は寝床でうなされていました。苦しそうな周瑜は弱音を吐きます。
「孔明か。病気ばかりは自分ではどうしようもないな……」
「あのねえ。病は気からって言うでしょ。大都督はカリカリしてるからよくないんだよ。煽り耐性ゼロなんだもん」
「……」
「身に覚えあるでしょ。いっつもカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut up!」
「ほらね! またそうやってカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut the fuck up! どう考えても、カリカリするのはおまえのせいだろうが!」
「こ、孔明はん。余計にこじらせますがな。そのあたりで止めておくんなはれ」
「うふふ。まあ、冗談はこれぐらいにして。大都督はアレでしょ。黄蓋の偽投降計画や龐統の連環の計がうまく行って、火攻めの準備が整ったのに、肝心な東の風が吹かないから困ってるわけだ」
「……ああ、そうだ。あとは風向きだけなんだ。我が軍が風上。曹操軍が風下にならなければ火攻めは成功しない。そのためには東の風が必要なのだが、この時期に東からの風は吹かないんだ。病気と同じで、風向きはどうしようもない。もう神頼みぐらいしか残されていないのさ」
「だからぼくが神様にお願いしてあげる。三日のあいだ天に東の風を借りてあげるよ」
「Come again?」
「明日ぼくが祈祷をこらすから」
「ユーはそんなことが出来るのか? もし東の風を借りられるのならば三日じゃなくていい。一日でもいいんだ!」
「ちょっと元気になったね。とにかくやってみるよ。じゃあ、また明日」
翌日。
拵えられた祭壇へと孔明さまは上がって行きます。普段はまとめている長い髪を、はらりと下ろします。全国百万の乙女(と一部のアニキ)は大興奮。ゾクゾクするほど妖艶です。そんな孔明さまの隣には魯粛。
「ねえ、魯粛ちゃん」
「なんでっか」
「もし東の風を借りられなくても勘弁してね」
「もともと吹かんで当たり前なんやから、誰も責めたりしまへん。気張りや、孔明はん。ワテはなんも出来へんけど、せめて応援させてもらうさかい」
「うん。魯粛ちゃんは、ここまででいいよ。あとはぼくに任せて」
孔明さまは階段を登りかけて立ち止まりました。
「魯粛ちゃんて、ちょっと劉備さまに似てるよね」
「は、どこがですか? 劉備はんほど、ええ男っぷりやおまへんで」
「ホント似てるよ。それで周瑜はぼくに似てる。あのさ、長江をくだる船の上で、魯粛ちゃんに会えて良かったって言ったの覚えてる?」
「へえ。しっかり覚えてまっせ。あの船旅は楽しかったですな」
「ぼくいっぱいウソついたけど、あれは絶対にウソじゃないからね。魯粛ちゃんのこと好きだよ。そのこと忘れないでね」
「じゃあ、ね。魯粛ちゃん」
そう言い残して壇上へ行く孔明さまと、降りて行く魯粛。
(なんや、これでお別れみたいな……)
魯粛は怪訝な顔で振り仰いだのですが、孔明さまの姿は逆光でよく見えませんでした。
それから孔明さまの祈祷が始まりました。
(劉備さまのためにウマくやらなきゃ)
(放っといても明日は風吹くんだけどね)
(時間稼ぎとはいえ肉体労働は疲れるや)
場面は変わって周瑜。
孔明さまの祈祷が始まって、かなり経過しましたが風は吹かない。苛立つ周瑜を魯粛は懸命になだめます。
「孔明はんのことは周瑜はんも、よう分かってますやろ。自信がなければ、あんなこと言いまへん。ワテは信じとります。せやから周瑜はんもどんと構えてなはれ。孫権さまから拝命した大都督の名が泣きまっせ!」
「どうした魯粛。今日はやけにキツいな」
「……とにかく。信じて待ちましょう」
「ふん。魯粛がそう言うなら待とうじゃないか」
そして夜が明けました。
いまだに風は吹かない。
ついに我慢も限界にきた周瑜。
「東の風が吹くなどと言った孔明を信じて騙されたじゃないか!」
「落ち着いておくんなはれ」
なだめ続ける魯粛。周瑜は怒りのまま外に出て、ふたたび孔明さまを罵倒しようとしたとき。
「……風だ」
東からの風が呉陣営を駆け抜けたのです。
「吹きましたよ、周瑜はん!」
「Oh my gosh……孔明という奴は本当に……」
周瑜は唖然としたあとで、配下の武将を呼び寄せ今すぐ祭壇へ行って孔明を斬れと命じました。当然魯粛は抗議します。
「東の風を呼んで膠着状態を打開してくれた孔明はんを斬るやなんて、あんまりやないですか! なんでそこまでせなあかんのです!」
「
「ユーも知っているだろう。孔明は決して劉備から離れない。今はその劉備と同盟を結んでいるが、いずれ敵対する相手だ。あの化け物は始末しておかねば必ず後悔する。これも孫権さまの天下統一のためだ」
「せやけど……」
魯粛は内心で祈りました。
(孔明はん。あんたならこれぐらい見越してはるんやろ。せやから、あんな態度……。逃げなはれや。絶対捕まったらあかんで)
周瑜の命令を受けたふたりの武将が祭壇へ駆けつけました。しかし孔明さまの姿は見当たりません。祭壇に残っている兵士達に訊ねると、さきほど祭壇を降りて行きましたと言う。
「逃げたのならば、迎えの船が来ているはずだ。俺たちも船を出して探そう」
川へ船を出して、間もなくすると一艘の船が見えました。舳先に立つ孔明さまの姿も確認できました。
「諸葛亮先生! 大都督が話をしたいそうですから、どうかお戻りください!」
武将は声を張り上げました。
「だめー。周瑜に頑張ってねって言ってといてよ」
もちろん孔明さまに帰る気はありません。武将は船を近付け乗り込もうと決めます。そのとき孔明さまをかばうようにして、船の舳先に白がまぶしい甲冑に身を包んだ武将があらわれ、猛々しく名乗りを上げます。
「我が名はイケメン!」
「……?」「……?」
「……」「……あれ? 通じない?」
孔明さまがボソリと話しかけます。
「子竜ちゃん。ちゃんと趙雲って名乗ったほうがいいんじゃない?」
「だってイケメンっていえば、俺のことでしょ? イケメン=この趙雲じゃん。言わなくても通じるでしょ、普通」
「だから普通じゃないから通じてないんでしょ。いいから早く追い払ってよ」
「おっかしいなあ。じゃあ、もとい」
「我が名は趙雲!」
「……おお、あの!」「ひとりで一万の兵を相手にした一騎当千の趙雲とな!」
「やっと通じたか。ついでにイケメンだと覚えておけ! このカッペが!」
趙雲は矢をつがえ放ちました。矢は呉武将の船の帆を支える綱を断ち切りました。帆が使い物にならなければ船は動けません。
「バイビー!」
孔明さまの船は呉武将の船を振り切って逃げ、無事劉備のもとへと帰れたのでした。
「あ、劉備さまー。劉備さまのかわいい愛しい諸葛亮が戻ってまいりましたよォ」
「はっは。かわいいとか愛しいとか、それは置いといておかえり孔明」
「んもう。孔明じゃなくて亮たんでいいって言ったのにィ。劉備さま、亮たんって呼んで」
「亮たんか。よし分かった。おかえり孔明!」
「………………はい。孔明ただいま帰りました」
あの腹黒ドSの性悪猫を唯一飼いならす男。それが劉備でした。
「ご苦労だったな。大活躍だったそうじゃないか」
「あのねえ、孫権さまってぼくよりひとつ年下なのに、えらいフケてたよ。超久しぶりに兄上にも会えて楽しかったし、周瑜ってすっごいおもしろいんだよ。あと魯粛ちゃんともお友達になったし。それから、えっと。もう話すことがいっぱいありすぎて困っちゃうな。そうだ、今日は一緒に寝ようよ! うん、そうしよう!」
「許さーん!」「う……関羽じゃん。一応元気だった?」
「ああ。おまえがいない間は兄上の劉備どのと、弟の張飛と、兄弟水入らずで楽しかった。性悪猫の邪魔が入らず、本当に本当に本当に本当に楽しかった」
「やだなあ、いきなりトゲあるし。劉備さまのために頑張ってきたんだから、少しはねぎらってよ」
張飛「偉いッ! よく分からんけど!」
趙雲(ふふ、今日で呉にも俺がイケメンだと知れ渡るに違いない)
そんな和やかな会話も早々に切り上げ、劉備達は軍議に入ります。
孔明さまも早速軍師のお仕事開始です。
「周瑜はかならず曹操に勝つよ。敗走する曹操はこちらの領地を通るはずだから、そこを叩く。というわけで、それぞれの配置と行動を発表しまーす」
趙雲、張飛、その他諸々の武将へ指示を出し、劉備についてはそつなくデートへ誘います。
「劉備さまはぼくと一緒に、高みから周瑜の歴史に残る一戦を見ようねぇ。お弁当作ってもらって、持って行こうねぇ」
「おい待てや」「……」
ひとりだけ作戦を指示されなかった関羽がキレ気味に言いました。
「わたしはいくさで遅れをとったことは一度もない。それなのに指示がないとはどういうことだ。さっきの仕返しか? あーん?」
「それは知ってるって。だから本当は関羽には一番重要なところに行って欲しいんだけど、心配なんだもん」
「心配って何がだーん?」
「関羽の義理堅さだよ。華容道。曹操は絶対に華容道を通る。でも以前曹操に厚遇された関羽は、その義理堅さから……曹操を逃がしてしまうんじゃないかってね」
「曹操を逃がすとかありえん」
「じゃあ、誓約書書いてよ」
「よかろう」
誓約書を確認した孔明さまは、あらためて関羽に指示を出しました。
「……という作戦でよろしく」
「曹操軍が見えたら火を放つねえ。そんなことしたら曹操は伏兵がいると思って華容道は通らないんじゃないのか」
「逆だって。曹操は兵法に通じてるからこそ、火をこちらの虚勢と見越して強行するに決まってる」
「ど、う、か、なーん?」
「だったらぼくも誓約書書くし」
「はいはい。確認しましたよっと」
「ねえ、誓約書があるんだし、もし曹操を逃がしたら分かってるよね?」
「わたしを軍法通りに裁けばいいだろ」
「ふうん。んじゃ“気をつけて”ね」
「言われるまでもないわ。パパっと片付けて、おまえが兄上の閨へ侵入するのを阻止するからな!」
肩をいからせて出て行った関羽を劉備は心配そうに見送ります。
「弟は義侠心に厚いからなあ。やっぱり曹操を逃がすんじゃないのか?」
孔明さまは感情の見えない表情で答えます。
「曹操が生きているうちに関羽に恩義を返させるのも、後腐れなくっていいんじゃないかな」
「だが曹操を倒す千載一遇の好機を逃すわけには……それとも、何か後手を考えてあるのか」
「劉備さまは、かつてぼくの草庵を訪れたとき、ぼくの友達の崔州平に会ったよね。彼はこう言ったでしょう? 天命は人の力では変えられないって」
「覚えているよ。国は放っておいても統一され、そしてまた乱れ、やがて統一される。すべて天命のままに。だからといって、わたしは苦しむ民を黙って見ていられなかった。そして平和な世の中にするため、天下平定を目指し孔明を迎え入れたんだ。だが、その話をなぜ今?」
(まだ曹操の天命は尽きていないんだよ、劉備さま。今は誰もあの巨星を落とせない。だからね、これでいいんだ。いつか命をかけて、あの星を落とすのは──)
「うん、ちょっと思い出しただけ。あー早くお弁当作ってもらわないと、周瑜の火攻めが始まっちゃう。頼んでくるよ! 劉備さまは馬と船を用意しといてね」
孔明さまは、足早に立ち去りました。
次週赤壁の戦いが決します。テッテレー。
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