マンモス気まずい

　今日はスーパーでお惣菜を買ったんですよ。マチカさんの好物の揚げ豆腐。それはパック入りの商品で、レジでお会計が済んだ後袋に詰めていたんですけど違和感がありましてね。
　揚げ豆腐をよっく見ると小さい虫が乗っていたのです。混じっていたわけではなく、揚げ出し豆腐の上にちょこんと乗っているかんじでした。
　おやおや、ということでレジに戻り、そのことを伝えようとしたのですが会計待ちの行列が出来ていたのでお惣菜売り場の方へ行ってみました。交換してもらうなら、そっちのほうが手っ取り早いだろうし。
　そして売り場で品出しをしている店員さんに「これさっき買ったんですけど虫が入ってるみたいで…」とあくまでこっそり伝えました。お店もちゃんと管理してる上で、たまたま虫が入っちゃったんだろうし責めるつもりはないからね。
　で、店員さんはというと、マチカさんからパックを受け取ると「少々お待ちください」と言うがいなや調理場かバックルームに繋がるであろうドアの向こうへ走って行った。
　マチカさんはポツーンですよ。しばらく置いてけぼりの状態で売り場でぼんやりしていると、店員さんが消えたドアから白い作業服（っていうの？）を着た、ふたりの中年男性が今にも転びそうな勢いで飛び出て来た。そして一直線にマチカさんの前へ来ると「どうも申し訳ございません！」とすごい勢いで頭を下げたのです。
　その剣幕に押されて、マチカさんはビビりつつ「いえ、そんな」とうろたえるしかなかった。この時点で周りの目が気になったマチカさんは、早く帰りたかったので商品の交換をお願いしようとした。
「あの、商品を交換し──」
「まことに申し訳ございません！」
「いえ、いいんですよ。で、別の商品を──」
「衛生管理にはじゅうぶん気をつけているのですが、たまたま。たまったまこのようなことが！」
「で、でしょうね。それで商品ですが他のものを──」
「このようなことは二度とないようにいたしますので！」

　………。
　こっちの話聞いてねえ。誠意をあらわしたいのは分かるんだけど、そんな大騒ぎされたらマチカさんがとんでもないクレーマーに見えるじゃないか。実際買い物中の奥様たちも「あら、何かしら？」と好奇の目でこちらを眺めている。
　もうやだ。一刻も早くこの場を立ち去りたい。
　マチカさんは平身低頭謝って欲しいわけじゃない。代わりの揚げ出し豆腐が欲しいだけなんだ。そして自宅で心穏やかに夕食にありつきたいだけなんだ。
　それなのに、なにゆえスーパーでさらし者にならなければならないのか。大ゴトにしたくないからこっそり伝えたのに、この仕打ち。
　まさに「この辱めをどうしてくれるの！」状態ですよ。ヲヲヲ……。
　その後も謝り倒されて、やっと交換の商品をもらって帰れた。

　疲れた。

　揚げ出し豆腐おいしかった。