鹿と熊

　マチカ家にはじめての液晶テレビがやって来た！
　家にあるテレビはすべてブラウン管でしてね。そのなかの食卓にあるテレビの映りがずいぶん前から悪くなっていたのですが、見れないってこともないので今まで放置されていたんです。でも地デジ対応のテレビが一台もない状況もアレだし、開始の日にそなえて買うかという気になったみたい。
　いままでは液晶テレビを電機屋さん見かける度に「いいなあ」と指をくわえていたのですよ。そう、ショーウィンドウの中で輝くトランペットをじっと見つめる黒人少年のような瞳で。
　というわけで早速視聴！
　真新しいテレビの前に座り、リモコンを探すとまだ新品の証拠であるフィルムカバーがついたままでした。マチカさんがはがそうとすると「このバカモンが！」と波平ばりの叱責がおとんから飛んで来たのです。
　フィルム取っちゃダメなんだってさ。おいおい、この田舎モンが。（※おまえもな）

　で、ようやくテレビを見始めたのですが、どうにも映像がキレイじゃない。クリアじゃないんですよね。まだマチカさんのブラウン管テレビのほうがキレイだ。
　もしかしてこのテレビはどこぞの聞いたこともないメーカー品なのか、と勘ぐったのですが東芝製品でした。
　ということは、店員さんにポンコツ掴まされたのでは……。でも親は満足してそうなので言い出せなかった。
　それからもこのテレビを見ることは何度もあったのですが、ずっと映りが不満だった。
　でもある日気がついたんです。
　マチカ家は地デジの放送がすでに見られるということに。アンテナとかなくてもケーブルTVを引いているので入るんですよね。
　要は、今まではアナログ放送を見ていたためにキレイに映らなかっただけで、地デジに切り替えると超キレイだった。
　そんな仕組みになっているなんて知らなかった。
　慌ててオカンに告げると「あら、キレイになったわねえ」。そして、おとんはというと地デジが映ること自体は知っていたそうなのですが、チャンネル設定がよく分からないのでアナログ（だとリモコンの番号が今までと一緒）でいいや、と放っていたらしい。
　だからマチカさんが設定をしてあげると、やはりキレイに映る方がいいみたいで、そのとき以来地デジの放送を見ているようです。

　いやあ、ものすごい親孝行したわ。（※駄目人間の発想です）なのでお駄賃代わりに冷凍庫にあったハーゲンダッツを食べたのですが、めっちゃ怒られました。
　なんてこった。ハーゲンダッツは親子の絆を断絶させる危険な食べ物です。みなさんもお気をつけください。