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応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。

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 世の中には「推しメン」という言葉があるそうです。
 アイドルグループのなかで自分が応援するメンバーのことを、そう呼ぶようですね。最近知りました。
 では三国志のなかで、マチカさんの推しメンは誰か。
 孔明さまは、もう別格です。贔屓の引き倒しどころか、諸葛亮大明神としてあがめ奉ってもいいぐらいです。
 というわけで、孔明さま以外で推しメンといえばこの人です。


 張遼さん

 張遼が呂布と一緒にいたころは「そうえいば、おるなあ」程度でまったくのノーマークでした。
 まあ、呂布が特濃で派手ですからね。同じ画面に出ていても、どうしても霞みますよ。
 そんで呂布は部下の裏切りで生け捕りにされて、曹操に処刑されてしまったのですが、張遼は殺されずに雇ってもらえたんですね。そこから気になり出した。
 よくみれば男前。あらためて見ても男前。
 でも男前ってだけじゃないですよ。
 だって、あのワンパク問題児の呂布に最後まで付き合ったんですよ。その前にも君主がコロコロ変わってますけど、別に呂布みたいに裏切って渡り歩いたわけじゃないし、劉備みたいに利を見てアチコチうろついたわけでもない。君主が死んじゃったりして、新しい食い扶持を求めただけだ。そして実力のない子はいらないよって曹操に仕えるようになると、そこでもちゃんとおつとめを果たして重用される。
 やたら自尊心の高い関羽とも仲良くできたわけだし、どういう人なんでしょうね。
 よく言われるのは職業軍人タイプでしょうか。
 やれといわれたことは、きっちりこなす。だからといって「ちょれぇw」と自分の武勇に驕るところがない。雇う側にとっては、実に使い勝手のいい人だ。
 アクが強すぎる登場人物の多い三国演義のなかでは、ある意味おもしろみのない人だ。だからこそいいのですが、もし張遼のおもしろエピソードがあったら知りたい。

 でも、そんなクソ真面目な張遼さんが巻き込まれたのが「三国演義で一番おもしろいのは俺だ。お笑い下克上Sー1グランプリ」
 それが次回「赤壁・勝敗決す」なのです。
 クソ真面目であるがゆえに、笑いに命をかける男達に翻弄される張遼さん。
 はたして張遼さんは、魯粛のようにお笑いモンスター達をさばけるのか!

 「お母さん、ぼく明日が見えません」
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 よおし。周回遅れからやっと追いついた。
 赤壁の戦いも、いよいよクライマックスへ向かいます。

 呉へ帰ろうとした龐統。
 しかし背後から、ひとりの男があらわれます。その男は龐統の策を見抜き、こちらに詰め寄って来ます。
 焦る龐統。「やってやんよ」とばかりに袖から刃物をちらつかせます。
 ──と、ここでネタばらし。あらわれたのは、かつて劉備軍にいた徐庶でした。ふたりは旧友で、久しぶりに顔を合わせたのです。

 お決まりの高笑いで対面「わっはっはー」
左:龐統 右:徐庶

 徐庶は曹操に騙され、その臣下になっていました。しかし徐庶は劉備の人柄に深く惹かれていたので、劉備の元を離れるとき「心ならずも曹操のところへ行きますが、決して奴のために献策はしません」と誓っていたのです。
「最近どうよ」
 龐統が訊ねると徐庶は悲しそうに答えます。
「あんな。おかん死んでもうてん」
 徐庶は母親が曹操の人質になったと聞いたので、劉備軍から去ったのです。その母親は徐庶が騙されて曹操のところへやって来たと聞くと「この馬鹿息子め」と自殺してしまったのです。
「そりゃあ、辛いなあ」
 お互いの近況を語り合いながら、ふとした様子で龐統が言います。
「それはそうと、なんでおまえの容姿はイケメンになってんだ? 俺はいいわ。演義じゃブサイクって設定になっとるしな。でもおまえがイケメンなんは納得いかん」
「あれれぇ? 僻んではんの? いやあ、正直この顔気に入っとんねん。ふっふ。でもなあ、ちょっと命危ないねんな。そのうち曹操に殺されそうやわ。それやのうても、ウチとこもうすぐ火攻めにあうわけやん?」
「じゃあ、今すぐ曹操の元を離れられる策を教えてやろうじゃないか」
「ほんまに?」

 耳打ちする龐統。

「はあ、なるほどなあ。遠方で反乱が起きたいう噂を流して、自分が制圧の名乗りを上げればええんやな。それなら自然なかたちで曹操から離れられるっちゅうわけや」
「そうそう。自作自演。これなら火攻めに巻き込まれることもないからな」
「やっぱ龐統は賢いわ。ありがとな」
「いいってことよ。俺たち友達だろ? 元気でやれよ」
「龐統もな。孔明によろしく伝えてといてな」
 ちなみに徐庶は劉備に孔明を紹介した人物なのでございます。
 徐庶と別れた龐統は帰りの船上でほくそ笑みます。
「これであいつは舞台から降りたも同然だ。せっかくイケメンでも出番がないんじゃ意味がないよな!」
 龐統は連環の計を成功させたばかりか、イケメン追放の計までも成功させたのです。さすが臨機応変な戦術の組み立てが得意な策士龐統さんやでぇ。

 さて。
 龐統の作戦がうまくいったところで、場面は呉陣営。周瑜が砦で夜風にあたっていました。すると兵士がやって来て告げます。
「奥方の小喬さまがお召し物を送って寄越しましたよ」
「ふふ。さすがマイワイフ。離れていても俺を気遣ってくれるのだな。きっと夜なべして縫ってくれたに違いない」
 周瑜は小喬の美しい顔を思い浮かべながら微笑みます。さっそく兵士が「お召し物」を羽織らせてくれたのですが……。

 「はっは、これは立派だ」

(ていうかワイフよ。これはお召し物というよりは、ただの布じゃないのか)
 そう思っても口には出せない愛妻家の周瑜に異変が起こります。突然咳き込みうずくまってしまったのです。
 しかも。

 周瑜のお家芸「吐血」

 心労が積もり積もった周瑜は病に冒されてしまったのです。そのしらせを聞いた魯粛は慌てて孔明に助けを求めに行きます。
 そのころ孔明さまは小舟の上で星を眺めていました。そして、ひとりの兵士が人目を忍ぶようにして孔明さまの背後に控えました。その兵士に孔明さまは密書を渡し、ささやくようにして頼みます。
「この書状を早く劉備さまに届けてね」
 そこへ魯粛が登場。ぎりぎりで兵士が立ち去ったあとなので、孔明さまが何をしていたかは知るよしもありません。
「大変や! この大変な時期に周瑜はんが倒れはったんです!」
「へえ。そりゃあ大変だね。でも大丈夫。周瑜の病気ならぼくが治してあげられるよ」
「ほ、ほんまでっか? ほんなら一緒に周瑜はんのとこ行って治したってください」
 孔明さまが行ってみると、周瑜は寝床でうなされていました。苦しそうな周瑜は弱音を吐きます。
「孔明か。病気ばかりは自分ではどうしようもないな……」
「あのねえ。病は気からって言うでしょ。大都督はカリカリしてるからよくないんだよ。煽り耐性ゼロなんだもん」
「……」
「身に覚えあるでしょ。いっつもカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut up!」
「ほらね! またそうやってカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……」
「Shut the fuck up! どう考えても、カリカリするのはおまえのせいだろうが!」
「こ、孔明はん。余計にこじらせますがな。そのあたりで止めておくんなはれ」
「うふふ。まあ、冗談はこれぐらいにして。大都督はアレでしょ。黄蓋の偽投降計画や龐統の連環の計がうまく行って、火攻めの準備が整ったのに、肝心な東の風が吹かないから困ってるわけだ」
「……ああ、そうだ。あとは風向きだけなんだ。我が軍が風上。曹操軍が風下にならなければ火攻めは成功しない。そのためには東の風が必要なのだが、この時期に東からの風は吹かないんだ。病気と同じで、風向きはどうしようもない。もう神頼みぐらいしか残されていないのさ」
「だからぼくが神様にお願いしてあげる。三日のあいだ天に東の風を借りてあげるよ」
「Come again?」
「明日ぼくが祈祷をこらすから」
「ユーはそんなことが出来るのか? もし東の風を借りられるのならば三日じゃなくていい。一日でもいいんだ!」
「ちょっと元気になったね。とにかくやってみるよ。じゃあ、また明日」

 翌日。
 拵えられた祭壇へと孔明さまは上がって行きます。普段はまとめている長い髪を、はらりと下ろします。全国百万の乙女(と一部のアニキ)は大興奮。ゾクゾクするほど妖艶です。そんな孔明さまの隣には魯粛。
「ねえ、魯粛ちゃん」
「なんでっか」
「もし東の風を借りられなくても勘弁してね」
「もともと吹かんで当たり前なんやから、誰も責めたりしまへん。気張りや、孔明はん。ワテはなんも出来へんけど、せめて応援させてもらうさかい」
「うん。魯粛ちゃんは、ここまででいいよ。あとはぼくに任せて」
 孔明さまは階段を登りかけて立ち止まりました。
「魯粛ちゃんて、ちょっと劉備さまに似てるよね」
「は、どこがですか? 劉備はんほど、ええ男っぷりやおまへんで」
「ホント似てるよ。それで周瑜はぼくに似てる。あのさ、長江をくだる船の上で、魯粛ちゃんに会えて良かったって言ったの覚えてる?」
「へえ。しっかり覚えてまっせ。あの船旅は楽しかったですな」
「ぼくいっぱいウソついたけど、あれは絶対にウソじゃないからね。魯粛ちゃんのこと好きだよ。そのこと忘れないでね」

 「じゃあ、ね。魯粛ちゃん」

 そう言い残して壇上へ行く孔明さまと、降りて行く魯粛。
(なんや、これでお別れみたいな……)
 魯粛は怪訝な顔で振り仰いだのですが、孔明さまの姿は逆光でよく見えませんでした。

 それから孔明さまの祈祷が始まりました。

 (劉備さまのためにウマくやらなきゃ)

(放っといても明日は風吹くんだけどね)

(時間稼ぎとはいえ肉体労働は疲れるや)

 場面は変わって周瑜。
 孔明さまの祈祷が始まって、かなり経過しましたが風は吹かない。苛立つ周瑜を魯粛は懸命になだめます。
「孔明はんのことは周瑜はんも、よう分かってますやろ。自信がなければ、あんなこと言いまへん。ワテは信じとります。せやから周瑜はんもどんと構えてなはれ。孫権さまから拝命した大都督の名が泣きまっせ!」
「どうした魯粛。今日はやけにキツいな」
「……とにかく。信じて待ちましょう」
「ふん。魯粛がそう言うなら待とうじゃないか」

 そして夜が明けました。
 いまだに風は吹かない。
 ついに我慢も限界にきた周瑜。
「東の風が吹くなどと言った孔明を信じて騙されたじゃないか!」
「落ち着いておくんなはれ」
 なだめ続ける魯粛。周瑜は怒りのまま外に出て、ふたたび孔明さまを罵倒しようとしたとき。
「……風だ」
 東からの風が呉陣営を駆け抜けたのです。
「吹きましたよ、周瑜はん!」
「Oh my gosh……孔明という奴は本当に……」
 周瑜は唖然としたあとで、配下の武将を呼び寄せ今すぐ祭壇へ行って孔明を斬れと命じました。当然魯粛は抗議します。
「東の風を呼んで膠着状態を打開してくれた孔明はんを斬るやなんて、あんまりやないですか! なんでそこまでせなあかんのです!」

 「クララ周瑜の馬鹿ッ!もう知らない!」

「ユーも知っているだろう。孔明は決して劉備から離れない。今はその劉備と同盟を結んでいるが、いずれ敵対する相手だ。あの化け物は始末しておかねば必ず後悔する。これも孫権さまの天下統一のためだ」
「せやけど……」
 魯粛は内心で祈りました。
(孔明はん。あんたならこれぐらい見越してはるんやろ。せやから、あんな態度……。逃げなはれや。絶対捕まったらあかんで)

 周瑜の命令を受けたふたりの武将が祭壇へ駆けつけました。しかし孔明さまの姿は見当たりません。祭壇に残っている兵士達に訊ねると、さきほど祭壇を降りて行きましたと言う。
「逃げたのならば、迎えの船が来ているはずだ。俺たちも船を出して探そう」
 川へ船を出して、間もなくすると一艘の船が見えました。舳先に立つ孔明さまの姿も確認できました。
「諸葛亮先生! 大都督が話をしたいそうですから、どうかお戻りください!」
 武将は声を張り上げました。
「だめー。周瑜に頑張ってねって言ってといてよ」
 もちろん孔明さまに帰る気はありません。武将は船を近付け乗り込もうと決めます。そのとき孔明さまをかばうようにして、船の舳先に白がまぶしい甲冑に身を包んだ武将があらわれ、猛々しく名乗りを上げます。

 「我が名はイケメン!」


「……?」「……?」


「……」「……あれ? 通じない?」

 孔明さまがボソリと話しかけます。
「子竜ちゃん。ちゃんと趙雲って名乗ったほうがいいんじゃない?」
「だってイケメンっていえば、俺のことでしょ? イケメン=この趙雲じゃん。言わなくても通じるでしょ、普通」
「だから普通じゃないから通じてないんでしょ。いいから早く追い払ってよ」
「おっかしいなあ。じゃあ、もとい」

 「我が名は趙雲!」


「……おお、あの!」「ひとりで一万の兵を相手にした一騎当千の趙雲とな!」

「やっと通じたか。ついでにイケメンだと覚えておけ! このカッペが!」
 趙雲は矢をつがえ放ちました。矢は呉武将の船の帆を支える綱を断ち切りました。帆が使い物にならなければ船は動けません。
「バイビー!」
 孔明さまの船は呉武将の船を振り切って逃げ、無事劉備のもとへと帰れたのでした。

「あ、劉備さまー。劉備さまのかわいい愛しい諸葛亮が戻ってまいりましたよォ」



「はっは。かわいいとか愛しいとか、それは置いといておかえり孔明」
「んもう。孔明じゃなくて亮たんでいいって言ったのにィ。劉備さま、亮たんって呼んで」
「亮たんか。よし分かった。おかえり孔明!」
「………………はい。孔明ただいま帰りました」
 あの腹黒ドSの性悪猫を唯一飼いならす男。それが劉備でした。
「ご苦労だったな。大活躍だったそうじゃないか」
「あのねえ、孫権さまってぼくよりひとつ年下なのに、えらいフケてたよ。超久しぶりに兄上にも会えて楽しかったし、周瑜ってすっごいおもしろいんだよ。あと魯粛ちゃんともお友達になったし。それから、えっと。もう話すことがいっぱいありすぎて困っちゃうな。そうだ、今日は一緒に寝ようよ! うん、そうしよう!」


「許さーん!」「う……関羽じゃん。一応元気だった?」

「ああ。おまえがいない間は兄上の劉備どのと、弟の張飛と、兄弟水入らずで楽しかった。性悪猫の邪魔が入らず、本当に本当に本当に本当に楽しかった」
「やだなあ、いきなりトゲあるし。劉備さまのために頑張ってきたんだから、少しはねぎらってよ」


張飛「偉いッ! よく分からんけど!」
趙雲(ふふ、今日で呉にも俺がイケメンだと知れ渡るに違いない)

 そんな和やかな会話も早々に切り上げ、劉備達は軍議に入ります。
 孔明さまも早速軍師のお仕事開始です。
「周瑜はかならず曹操に勝つよ。敗走する曹操はこちらの領地を通るはずだから、そこを叩く。というわけで、それぞれの配置と行動を発表しまーす」
 趙雲、張飛、その他諸々の武将へ指示を出し、劉備についてはそつなくデートへ誘います。
「劉備さまはぼくと一緒に、高みから周瑜の歴史に残る一戦を見ようねぇ。お弁当作ってもらって、持って行こうねぇ」


「おい待てや」「……」

 ひとりだけ作戦を指示されなかった関羽がキレ気味に言いました。
「わたしはいくさで遅れをとったことは一度もない。それなのに指示がないとはどういうことだ。さっきの仕返しか? あーん?」
「それは知ってるって。だから本当は関羽には一番重要なところに行って欲しいんだけど、心配なんだもん」
「心配って何がだーん?」
「関羽の義理堅さだよ。華容道。曹操は絶対に華容道を通る。でも以前曹操に厚遇された関羽は、その義理堅さから……曹操を逃がしてしまうんじゃないかってね」
「曹操を逃がすとかありえん」
「じゃあ、誓約書書いてよ」
「よかろう」
 誓約書を確認した孔明さまは、あらためて関羽に指示を出しました。
「……という作戦でよろしく」
「曹操軍が見えたら火を放つねえ。そんなことしたら曹操は伏兵がいると思って華容道は通らないんじゃないのか」
「逆だって。曹操は兵法に通じてるからこそ、火をこちらの虚勢と見越して強行するに決まってる」
「ど、う、か、なーん?」
「だったらぼくも誓約書書くし」
「はいはい。確認しましたよっと」
「ねえ、誓約書があるんだし、もし曹操を逃がしたら分かってるよね?」
「わたしを軍法通りに裁けばいいだろ」
「ふうん。んじゃ“気をつけて”ね」
「言われるまでもないわ。パパっと片付けて、おまえが兄上の閨へ侵入するのを阻止するからな!」

 肩をいからせて出て行った関羽を劉備は心配そうに見送ります。
「弟は義侠心に厚いからなあ。やっぱり曹操を逃がすんじゃないのか?」
 孔明さまは感情の見えない表情で答えます。
「曹操が生きているうちに関羽に恩義を返させるのも、後腐れなくっていいんじゃないかな」
「だが曹操を倒す千載一遇の好機を逃すわけには……それとも、何か後手を考えてあるのか」
「劉備さまは、かつてぼくの草庵を訪れたとき、ぼくの友達の崔州平に会ったよね。彼はこう言ったでしょう? 天命は人の力では変えられないって」
「覚えているよ。国は放っておいても統一され、そしてまた乱れ、やがて統一される。すべて天命のままに。だからといって、わたしは苦しむ民を黙って見ていられなかった。そして平和な世の中にするため、天下平定を目指し孔明を迎え入れたんだ。だが、その話をなぜ今?」
(まだ曹操の天命は尽きていないんだよ、劉備さま。今は誰もあの巨星を落とせない。だからね、これでいいんだ。いつか命をかけて、あの星を落とすのは──)
「うん、ちょっと思い出しただけ。あー早くお弁当作ってもらわないと、周瑜の火攻めが始まっちゃう。頼んでくるよ! 劉備さまは馬と船を用意しといてね」
 孔明さまは、足早に立ち去りました。

 次週赤壁の戦いが決します。テッテレー。
 冒頭が孔明さまお目覚めシーンから始まるとか、サービスがいいな。しかし残念ながら孔明さまは全裸で寝るタイプではないようです。ガッカリだよ。

 そして魯粛登場。
「おはようさん。周瑜はんが軍議を開きますさかい、孔明はんも参加しておくんなはれ」
「仰せの通りに」
 言葉だけ聞くと従順そうですが、態度と口調はとんでもなくダルそうです。しかし周瑜は朝から元気いっぱいです。
「Hello guys!」
「ハ、ハロー」
「みんな声が小さいな。まあ、いいか。というわけで、今日から三ヶ月分の食料をたくわえて曹操軍との持久戦を始める!」
「そおい!」
 異議を申し立てたのは老将黄蓋。
「曹操軍が長江ついたらすぐに攻撃すりゃあよかったんよ。それをダラダラしおってからに。今さら三ヶ月伸ばしたところでどうすんだ。呉のためにもいさぎよく降伏したほうがええ」
「はあん? そっちこそ今さら何を言ってんだ」
「だいたいおまえムカつくんよ。名家の出だとかエリートだとか秀才だとかイケメンだとか音楽も出来てとか嫁が別嬪とか、なにそれ。チートか。出来過ぎなんよ。言っとくけど、そういう出来過ぎキャラって、記号だらけで逆に没個性なんよ。主人公でもないのに扱いづらいんよ。そんなんだから演義で引き立て役に抜擢されるんよ。ははは。ジイサン愉快愉快」
「おい、結局は個人攻撃じゃないか! 曹操とか呉とか関係なくなってるよ!」
(それを言うならワテかて、正史に比べて演義じゃえらい扱いになってますがな)
 内心でそう思う魯粛の目の前で周瑜はいきり立ちます。
「前から言ってたけど、降伏を口にしたものは斬るって言ってあったよな? このold fartを引き出してたたっ斬れ」
 黄蓋は兵士に外へ連れて行かれてしまいました。甘寧(ヤダかっこいい)が周瑜の前へ飛び出てくると平伏しました。
「たしかにクソジジイではありますが、クソジジイでも長い間孫家に仕えた功労者ですよ。クソジジイですけど、どうかお許しください」
「その声は甘寧! 聞こえとるぞー! 誰がクソジジイじゃ!」
 遠くで黄蓋が叫んだとか叫ばないとか。
 甘寧に続いて軍議の参加者達がそろって周瑜に頭を下げ、黄蓋を許してくれるよう懇願します。
 魯粛も平伏しながら、孔明さまに視線を送ります。
 チラッ
(孔明はんも、なんか言うたって。頼んます……!)

 フンフーン。劉備さま今頃何してるかなぁ。

 魯粛(ガン無視とか!)
 唖然とする魯粛を置いて事態は進展します。みんなに刑の軽減を懇願された周瑜は「じゃあ棒叩き百回ね」と殺すことは踏みとどまってくれました。

 刑罰のため上半身裸にむかれた黄蓋。
 ジジイのくせにイイ体しおってからに……イイヨイイヨー!

 ひとつ叩くたびに黄蓋のうめき声が響きます。

「アッーー!」

 棒叩きといえども、激しく打ちのめすわけですから大変な苦痛です。耐えきれなくなった魯粛。(※性的な意味ではありません)
「周瑜はん。黄蓋はんはお年寄りでっせ。百回もどついたら死んでまうわ。堪忍したってください」
 周囲の人たちも、お願いしますと頭を下げる。
「うーん。そんなに言うなら、あと五十回は俺の預かりだ」
 黄蓋の棒叩きは、なんとか半分で済みました。ですが五十回も打ちのめされたご老体はボロボロです。抱きかかえられるようにして黄蓋は治療に運ばれました。

 場面はかわって川のほとり。
 孔明さまはひとりででたたずんでいます。
 ああ、お美しい。ただ立っているだけでも絵になりますね。そこへあらわれたのは魯粛。
「孔明はん! 知らん顔して、ひどいやないですか。なんで黄蓋はんに助け舟を出してくれへんのです」
「ぼく、朝が弱いの。どうも眠くってね」
「はあ?」
「うそうそ。あれはぼくが口を出す場面じゃないでしょ」
「どういうことですのん」
「周瑜は打ちたがって、黄蓋は打たれたがってたんだもん」
「なんちゅうこっちゃ。あのおふたりはそういう関係やったんか! ど、どうりでエエ声で鳴いとったはずや。ほんなら止めんほうがよかったんやろか。はあ。世の中にはそういう趣味もあるとは知っとったけど、ようもうマァ朝っぱらから堂々と……ふたりきりの時にしはったらええのに。いや待てよ。人に見られるっちゅうのが、またエエんやろか」
「魯粛ちゃん、落ち着いて」
「しっかし黄蓋はんも、あれ命がけでっしゃろ。下手したら死んでまうやん。そこまでして快楽を追い求めるいうのも、分からんなあ。そんなにエエもんなんやろか」
「落ち着けって言ってんだろ、欲情魔」
「今、なんと?」
「ん? なんにも言ってないよ」
「おかしいな。欲情魔とか聞こえたような」
「気のせいじゃない? ねえ、魯粛ちゃん。あんなことした黄蓋の気持ちが分からないの?」
「マゾやさかい、いたぶられたかったんとちゃいますのん」
「もう、その発想から離れてよ。黄蓋が孫権を思う忠誠心には、ぼくも心を打たれ──」
「打たれた……! 孔明はんも打たれたんでっか! ど、どないな感じでした?」
「いい加減にしないと殴るよ」
「殴る?! あっちの世界に興味がないわけやおまへんけど、まだ心の準備が……」
「おとなしくお話が聞けないなら、遺書の準備でもしよっか?」
「へえ、聞きますさかいに。今回の一件、実際はどういうことやったんです?」
「あのね」
 孔明さまは小声で魯粛に話してから、いつも通りに注意します。
「このことは周瑜に言っちゃだめだからね」
「任せておくんはなれ」
「あと、これは個人的な話だけど、ぼくは肉体的に痛めつける行為は好きじゃないね」
「暴力は好かんいうことですね」
「んー。そういった刹那的なやり方は嫌だってこと。合意の上の肉体的な行為は加虐嗜好者が主導権を握っていると思われがちだけど、実は違うんだよ。被虐嗜好者のほうだよ。加虐者が奉仕して、被虐者はひたすら享受するわけ。しかも被虐者が状況設定嗜好だったら、もう加虐者に人格はいらないじゃない。もし、ぼくが加虐嗜好者の立場だとすれば悲しいね。孤独だよ。彼らの肥大した自己愛に取り込まれてしまうなんて、むなしさすら覚えるよ。そんなのじゃなくて繋がりが欲しいのにね。ひとつになることと、繋がることは違うでしょう。そして繋がるためには刹那的じゃいけないんだ。体の傷はいずれ癒えてしまうからね」
「よう分かりまへんけど……」
「要はね、ぼくは周瑜が好きってことさ。周瑜がぼくを殺したいのと一緒でね」
「あんだけおちょくり回しといて、よう言いますな」
「うふふ。そのうち仕上げにかかるよ。ぼくはとても彼が気に入ってるからね。やっぱり外の世界は楽しいや。田舎に引きこもってちゃ、いろんな人に会えないもんね。さて明日のお天気はどうなるかな」
(この人……中二病や! しかも相当こじらしてはるで)

 そして、夜。
 周瑜が魯粛を呼び出しました。
「ユーは黄蓋が棒打ちされたあと孔明に会ったかい?」
「はあ、会いましたけど」
「ふうん。で、なんて言ってた?」
「(もう素直に言わないもんね)周瑜はんは薄情や言うてましたで」
 周瑜は笑い飛ばします。
「それは作り話だろ? 曹操は騙せても孔明は騙せない。やっぱりなー今のうちに殺しておきたいな」
「なんべん言わすんですか。今は曹操のほうに集中しなはれ」
「オーゥ。手厳しいな。曹操は火攻めでバーベキューにしてやろうと決めたけど、効率よく船団をウェルダンにする方法はないものかね。一艘に火をつけたところで、他の船に逃げられたのでは意味がない」
「それなら龐統に働いてもらうのは、どうでっしゃろ。孔明はんは臥龍、龐統はんは鳳雛と並び称される逸材でっせ。きっとええ策を教えてくれるはずや」
「龐統か。good looking guyじゃないだろ、彼は。重用するのはなあ」
「そんなん言うたらあきまへん。……周瑜はん。ちなみに聞きますけど、ワテと仲ようしてくれはるのは、アレでっか? ワテもそこそこ見た目がエエいうわけですか。ふふ」
「The hell you say!」
「は?」
「魯粛には恩義があるからな! 今でも感謝しているぞ」
「……そうでっか。それはそうと黄蓋はんの偽投降作戦はうまくいっとるんですか。黄蓋はんを棒打ちにしはったのは、それのお膳立てなんでっしゃろ。黄蓋はんが普通に曹操へ投降を申し出ても、あのお人も疑り深いし何より賢い。偽りの投降だとすぐに気付きます。せやから黄蓋はんが周瑜はんを恨んではると、周囲に思い込ませ、曹操にも信じ込ませる。そのためにあの公開SMショー……やのうて、棒打ちしはったんでしょ。苦肉の計でんな。そして投降すると見せかけて、黄蓋はんは曹操の船団に火を放つ」
「と、孔明に聞いたのか」
「ちゃ、ちゃいます! ワテにもそれぐらい分かるます」
「分かるます?」
「すんまへん。教えてもらいましてん。それまでは、てっきり周瑜はんが前後の見境のない、ただのキレやすい若者やと思うとりました。高スペックを鼻にかけたイケすかない野郎だとか、所詮孔明はんの引き立て役ご苦労様とか、なんかアイツおったらやりにくいなってみんな言ってるとか、この前の飲み会も二次会あるの黙って一旦解散したフリしてその後みんな集まろうぜとか、そんなふうに」
「おい、何をここぞとばかりに個人攻撃してんだ! ていうかマジで二次会あったのか?」
「さて、ワテは龐統はんに話つけに行きますさかい失礼しまっさ」
「待て! 二次会……」

 それから。
 龐統が請われるかたちで曹操のもとを訪れます。龐統は北方出身で船に慣れていない曹操軍の兵士達が船酔いに悩まれていると見抜き、船を鎖でしっかり繋ぎ合わせる連環の計を教えます。これなら陸地にいるのと同じように活動できるはずだと言われ、曹操は「やるじゃん!」と龐統を褒め称えました。
 しかし曹操の側近は「これじゃあ、火攻めにあったとき逃げ遅れますよ」と心配します。それに対して曹操は「心配なーいーーーさーーーーー!」とごきげんライオンキングです。おまけに黄蓋の投降もすっかり信じ込んでいるのです。
 かくして曹操軍の船団はひとつの大きな要塞のようになり、バーベキュー大会の準備は万端。
「しめしめ」
 使命を果たした龐統が川を渡って帰ろうとした、その時──テッテレー。
 赤壁の戦いは三国演義において前半を締めくくるにふさわしい盛り上がり箇所。そのなかで十万本の矢のくだりは孔明さまにとっても見せ場のひとつです。
 というわけで今回の感想も長いずぇ。

 番組は孔明さまが川岸に寄せた小舟の上で、夕焼けの空を眺めているところから始まります。そこへやって来たのは魯粛。
「風流でんな、孔明はん」
「ああ、魯粛ちゃん。うまくいったみたいでよかったね」
 はて何のことかと魯粛が首を傾げると、孔明さまは前回周瑜が曹操軍へ仕掛けた謀略について語り出します。
「曹操を騙して、向こうの将軍を処刑させたんでしょ。謀反の疑いがかかるように仕向けてね。その将軍は水上戦に慣れた、曹操軍にとって貴重な存在だったから、今になって曹操は相当後悔してるだろうね。周瑜におめでとうって言っといて」
「へえ、おおきに。言うときますわ(この伝言なら気楽やわ)」
「ていうか魯粛ちゃん、そんな喋り方だったっけ?」
「おとなの事情っちゅうもんがありますのや」
「ふうん。それはそうと、曹操は賢いからねえ。きっと、すぐ周瑜の仕業だって気付いて、今頃カンカンだよ」
「ああ、それは周瑜はんも言うてはりましたなあ」
「ま、怒ったところで、あらたに曹操軍の水軍都督についたのは、水上戦に詳しくない将軍だからね。怖くない怖くない。あっ、このことは周瑜に言わないでね。絶対だよ!」
「なんでですのん」
「えー分かんない? とにかく言ったら駄目だからね」
 ふしぎに思いながらも魯粛は孔明さまのお祝いの言葉を周瑜に伝えました。すると周瑜の表情が険しくなります。
「あの性悪猫が。なにが、しれっとお祝い申しあげますだ。どうしてあのふたりを曹操が処刑したことを孔明が知ってる? あいつは蚊帳の外だったろう。孔明は他になんて言ってた?」
 魯粛は孔明さまが周瑜には秘密にしておいてね、と言った内容を伝えていいものかどうか迷います。しかし周瑜は同じ呉軍であり付き合いも長い。
 ていうか曹操軍が百万だって孫権に言わないでね、と頼んだのに、あっさり約束を破った孔明さまとの約束を守る義理はない。……と考えたかどうかは分かりませんが、今までと同様に、つい内容をもらしてしまいます。
「えっと、曹操が水上戦を知らない奴を水軍都督にしたことを喜ばしい言うてた……ような……気がする……ような……たぶん」
「ファック! 奥様同士の『これ、みんなには内緒なんだけど』みたいな、ご近所さんの噂話レベルに情報が筒抜けとかありえナーイ! どうやって知ったんだよ。やはり孔明を生かしておくわけにはいかん」
「あわわ……(気楽や思うとったのに結局こうなるんかい)。周瑜はん落ち着いておくんなはれ。孫権さまと劉備が同盟を結んでんのに、孔明を殺してしもうたら孫権さまの評判ガタ落ちやないですか。今わてらの敵は曹操でっしゃろ。孔明のことはこの戦いが終わってから、ゆっくり考えなはれ」
「うむむ。しかし今を逃せば、二度と暗殺のチャンスはやって来ないかもしれないんだぞ。こんなに近くにいるのにィ、おまえを殺せないなんて〜♪ どうすればいいのさ、サムバディトゥナーイ♪ Say together!」
「La La La La La♪」(手拍子)
「Love Somebody tonight♪ And I will never neber never……」
「さっすが武勇知略だけやのうて音楽にも秀でた周瑜はんや! 心にジーンとくる、ええ歌うたいますわ。『事件は会議室で起きてんじゃない! 現場で起きてるんだ!』これしかし……って歌うてる場合かいな! 人の話は真面目に聞きなはれ」
「ユーはノリツッコミもできるんだな。頼もしいぞ」
「……とにかく孔明については、先走ったことせんといておくんなはれや」
「分かった分かった。暗殺ってバレない方法で始末するから心配ナッシング」
「全然分かってへんやん」
「はっは。ジョークさ。殺すのは無理にしても、せめて犯したいところだ」
「えっ」
「えっ」
「嫁の小喬はんに言いつけまっせ」
「えっ」
「えっ」
「何それ、怖い」

 そんなやり取りの後で周瑜は呉軍の水上訓練の様子を孔明に見せます。甘寧かっこいい。揺れる船の上から矢を次々と的へ命中させて行きます。
 腹に一物、ついでに下半身にも立派な一物を持つ[要出典]周瑜が孔明さまに話しかけます。
「どうだい、我が軍の精鋭達は」
「すごいね」
「はー。いっぱい矢が欲しいなー」
「なんなの、いきなり」
「いっぱい! 矢が! 欲しい! なー!」
「いえ、聞こえなかったわけではないので大声で言い直さなくても結構ですよ」
「オーケー、矢はいくらあっても多過ぎるということはない。あればあるほどいい。というわけで孔明は矢を十万本集めたまえ」
「脈略がないにも程があるけど、いいよ」
「ええんかい!」
 つっこまずにはいられない魯粛。周瑜は十万本の矢の調達という無理難題を吹っかけて、失敗したあかつきには、孔明さまを処刑する言い訳にするつもりなのですから。
 そんな嫌がらせとしか言いようのないお願いを受けた孔明さまは、十人のうち十五人がイラっときた(即座に全員がイラつき、うち五人は後で思い出してもう一度イラっときた)という渾身のムカつく顔を披露します。

 孔明さま「十万本? いいよォ」

 背後の魯粛も「なんちゅう顔や」と引き気味ですね。しかしさらに後方の兵士達はよく訓練されているのか、イラっときていても無表情で堪えています。
 十日のうちに集めろという周瑜に対して、孔明さまは三日でじゅうぶんと答えます。おまけに「三日で矢を十万本集めマッスル」と書いた誓約書まで渡してしまう始末。
 それなのに孔明さまが矢を調達する素振りは見られない。心配になった魯粛が「どないすんねん」と聞きに行く。
「んー、どうしよ。魯粛ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「そら逃げるしかおまへんやろ。三十六計逃げるにしかずや」
「だけど誓約書があるんだよ。逃げたら天下の笑い者だよ。どんな顔で劉備さまの元へ帰れって言うのさ」
「自分で書いといて、よう言いはりますな。しかも十日やのうて三日でええとか何を考えてますのや」
「だって。どうせ周瑜はぼくを殺す気でしょ。それなら十日でも三日でも関係ないじゃん。ねえ、魯粛ちゃん。ホントどうしたらいいかな?」
「せやから逃げるしかないんとちゃいますか。悪いことは言わんからそうしなはれ」
「周瑜のことだから、ぼくが逃げないように要所要所に見張りをつけてんでしょ。結局殺されちゃうじゃん。だから、ひとつ魯粛ちゃんにお願いがあるのだ。この紙に書いてあるものを用意してくれないかな? かな?」
 めずらしく媚びるような孔明さまの態度。魯粛は渡された紙に目を通します。
 大量の藁。鎧を着せた等身大の藁人形。それを乗せるための船二十あまりと少数の人員。
「こんなもん集めて、どないしますのん? これでうまいこと逃げられるんでっか?」
「いいからいいから。魯粛ちゃん、このことは周瑜に言わないでね。こ、ん、ど、は、か、な、ら、ず」
「バレテーラ!」
 お人好しの魯粛が周瑜に内密の話を言ってしまうことなど、孔明さまは始めから計算に入れていました。それにより、ますます命が危うくなることで魯粛の後ろめたさを煽り、こちらの要求を通しやすくする。
 ほんま腹黒い男はんやでぇ。

 そして約束の三日目がやって来ました。時刻は夜。あたりはとても深い霧に包まれていました。呉軍の陣営近くの小さな船着き場には、孔明さまの指示通りの荷物を積んだ船団が浮かんでいます。そこにあらわれたふたつの人影。
 孔明さまと魯粛でした。
「いやあ、孔明はんも運がよろしいなあ。この霧なら追っ手に捕まることもおまへんやろ。うまいこと逃げられるんとちゃいます?」
「何言ってんの。逃げたりしないよ。矢を集めに行くんだよ!」
「矢を集めにって……こんな夜霧の中ででっか?」
「うん。魯粛ちゃんも一緒に行くんだよ。船にはお酒も用意してるからねえ。そういえば、今頃はぼくの偽物が周瑜の手下に捕まってるかな」
「偽物を用意しはったんですか」
「そうそう。目くらましで。ぼくが、この夜霧のナイトクルージングに出かけるってバレないようにね。バレたら邪魔されるかもしれないし、なにより後で知ったほうが周瑜の悔しさも倍増するでしょ」
「……つくづく、えげつない性格してはりますな」
「うふふ。さあ、そろそろ出発しよう!」

 孔明さまご一行の船団は川を北へのぼります。そして曹操軍陣営まで近付くとドラを鳴らして大いにけしかけます。
「敵襲!」
 部下が曹操へ伝えます。しかし迎え撃とうにも外は深い霧。ドラの音はすれども、船の姿はよく見えない。これでは自軍の船が出せないので、曹操は矢を射るように命令しました。
 矢が雨のように孔明さまの船団へ降り注ぎます。その頃孔明さまは屋根の下、安全な場所でお酒を楽しんでいました。
「魯粛ちゃんが集めてくれた藁や藁人形に、どんどん矢が突き刺さってるよ。ここでこうして、お酒を飲んでるだけで矢が勝手に集まるなんて愉快な話だね。曹操が協力してくれてるようなものだよ」
「どえらいこと考えはりましたな。でも晩になって霧が出たからええようなものの、晴れとったら、どうするつもりやったんですか。今の今まで生きた心地がしませんでしたやろ」
「全然。今日の夜に霧が出るって、ぼくは分かってたよ」
「ほんなら……三日でええ言うたんは、それで? そういえば、数日前に夕焼けを眺めとったんは天候を読んどったちゅうことですか」
「うん。あのねえ、軍師なら天候ぐらい読めないと勤まんないよ」
「はあ」
 たとえ天候に詳しかったとしても、このような奇策で矢を集めることなど並の軍師には思いつかない。魯粛は孔明さまの神算鬼謀ぶりに、ちょいと身震いをしたのでした。
 それから夜も更け空が白々となってきたころ、徐々に霧も薄くなりました。潮時と見た孔明さまは船団に引き上げを命じます。
 でもドSなので普通には帰りません。
「はい、じゃあみんなで曹操にお礼言ってから帰ろうねえ。せーの!」
「曹操さま、矢をありがとーー!」
「ちがーう! 普通にお礼を言うんじゃなくて、もっと志村の顔真似でふざけたかんじで!」
「曹操さまwwww矢をwwwあwりwwがとwwうぇwwwうぇwwww」
 船団からの大合唱に曹操が歯噛みしたのは言うまでもありません。
「何、あの孔明っていう子! いつか絶対犯す! もう二喬なんかいらんわ。周瑜と孔明まとめて犯す!」

 それからそれから。
 呉軍の陣営に戻った孔明さま。矢の数はゆうに十万本を超えて大収穫。孔明さまが矢を調達したというしらせが周瑜にも入ります。さすがの周瑜も怒るのを忘れ、呆れ顔。笑みさえ漏らしながら、うずたかく積まれた矢の山を見上げました。
「Holy shit……本当に集めたのか」
 今回はそんな周瑜を見つめる、孔明さま会心のドヤ顔でお別れしましょう。

 フッフーン♪

魯粛(ホンマえげつな……)
 今回の孔明さま登場シーンは少なかった。
 しかし、少ないながらも強烈な印象を残していってくれました。さすがやでぇ。

 孔明さまといえば天才軍師であり、その才能を持って劉備および蜀という国に尽くした忠臣であると一般的に言われております。
 では、そんな孔明さまのご尊顔を拝見いたしましょう。

 孔明「はあ、自分探しの旅に出る? それなら、もう見つかったじゃないですか。現実を受け入れられず、かといってそれを克服する努力もしない。運がない、社会が悪い、誰も分かってくれない。そうやってひたすら被害者ぶって目の前の状況から逃げ出す、無能で言い訳だけは立派な今のあなたが本当の自分ですよ」
(※台詞はマチカさんも知らない間に勝手に挿入されたものです。)

 いやあ、なんとも言えない悪い顔してますねえ。ドス黒い腹の内が透けて見えたかのようでございます。
 軍師は心根の真っ直ぐな、すがすがしい人物では勤まりません。早死にします。武器の代わりに、鋭利なまでの聡明な頭脳で敵を欺き、陥れ、倒す。敵のもっとも嫌がる布陣を敷く。
 そこが軍師の腕の見せ所。
 腹黒ドSの本領を発揮できる役職である軍師とは、まさに孔明さまの天職であったといえるでしょう。人の嫌がることを考えさせたら右に出るものがいないのですから。

 そんな孔明さまにロックオンされた周瑜さん。


左:孔明さま 右:周瑜

 なぜ周瑜にウィンクを送ったし!
 もう孔明さまったら周瑜が愛しくてしかたないようですね。ドS的な意味で。これから始まる(もう始まってるけど)周瑜との熾烈な心理戦が、かの有名な周瑜おちょくりの計でございます。

 この時点で孔明さまは周瑜に命を狙われています。周瑜は何かにつけて孔明さまを排除しようと考えているのです。
 そんななか、周瑜はある提案を孔明さまに持ちかけます。
「ヘイ。俺にグッドアイディアがあるんだ。曹操軍の出鼻をくじくために、やつらの食料庫を焼き払ってみるってのはどうだい?」
 すると孔明さまは「そいつはおもしろい」と答える。その返事に周瑜は内心浮き立ち、さらに孔明さまを煽ります。
「そんなにおもしろいのなら、ユーが行って指揮をとってみるかい? ユーはこのあたりの地理にも詳しいそうじゃないか」
 孔明さまあっさり了承。
 なので周瑜は「いやあ、俺たちは気が合うな。ブラザー」とご機嫌になるのでした。
 一方、食料庫を襲う計画を聞いた魯粛は慌てます。
「なんで、またそんな無謀なことを。孔明を死なせる気ですか」
 しかし周瑜はおかしそうに言う。
「まったく口うるさい魯粛だね。まるで俺がいたずらをしたあとのマミーのようだよ。いいかい。この計画はうまくいかなくて当然。むしろ、それでいいんだ。曹操の刀を借りて孔明を倒す。しかもあいつが自分で行くと言ったんだ。こいつは傑作だぜ! EじゃんGジャン最高じゃん!」
 魯粛は考えて「(ここは笑ったほうがええんやろか……)脳筋タイプの馬鹿ならまだしも相手は孔明でしょ。行くと言ったからにはなんか策があるんじゃないの?」と訊ねます。周瑜も「フーム。じゃあ、様子を探って来てよ」とお遣いを頼む。

 そして孔明さまの元へと赴いた魯粛。孔明さまはお出かけのための荷造りの真っ最中でした。
 自分で風呂敷に荷物をまとめている孔明さまのお姿が無性にかわいらしい。でもそんなふうに風呂敷を片結びなんてしたら、ほどく時に大変でございますよ。荷造りぐらいマチカがいたしますのに。隙を見て持ち物の匂いかいだりしませんからご安心ください。ただ100%の保証はいたしませんけど。

 話は戻って魯粛が「ホンマに行くんですか。危険過ぎるし自殺行為でしょ」と訴えると孔明さまは余裕綽々の態度で「曹操は陸路を通るナントカ山に食料を蓄えてんでしょ。わたしは水陸両方の戦いに通じてるから大丈夫。周y……じゃなかった。えっと、兜から羽を生やしたどこかの水軍大都督とは違いますから。プw」
 それを聞いた魯粛は、兜から羽を生やしたどこかの水軍大都督へそう伝えました。

「ファーーーーック!」
 長大で優雅な羽で飾られた兜が特徴の水軍大都督、周瑜がブチ切れます。「ずいぶんと見くびってくれたもんだな。俺に陸上戦は無理だと言うのか。オーケー、それなら俺が指揮をとって曹操の食料庫を壊滅させてくれるわ!」
 またしても慌てる魯粛。(演義での魯粛はこんなんばっか)

 タッタッタ……
魯粛「えらいこっちゃやで」

 孔明さまのところへ駆けつけた魯粛が「大変でっせ!」と泡食って言うと、孔明さまはドヤ顔で訊ねます。
「やっぱり来た。大変なのは兜から羽をはやした水軍大都督の某周瑜のことでしょ」
「ハッキリ周瑜って言っちゃったよ! 某って付けてた意味ないやん! ボヤかす気ゼロやん!」
「魯粛ちゃんも、ツッコミ役が板に付いて来ましたね。それより、おおかた周瑜が自分で行くって言い出したんでしょ。あのね。食料を奪うのは曹操が一番得意としている戦法。当然、真似されないようかなり警戒してるはず」
「せやったら他に曹操に勝ついい作戦があるんかいな」
「どう考えても得意の水上戦に持ち込んで曹操を叩くしかないでしょ。だから食料庫を襲うとか言い出さず、まずは冷静にならならないとね。兜から周瑜を生やした羽にそう言っといて」
「いや、羽のほうが本体じゃないし!」
「うふふ」

 はじめから孔明さまに曹操の食料庫を攻めるつもりなどありませんし、周瑜が自分を亡きものとするため計画を持ちかけたのだとお見通しでした。でも言われたその場で普通に「得策ではない」と説けば、孔明は腰抜けだ。本気でいくさをする気があるのか、と吹聴される恐れもある。なおかつ今は身内で潰し合いしてる場合じゃないでしょ、と言いたいがために、わざわざ一度引き受けたフリをしたのです。

 そうと知った周瑜は孔明さまという目の上のたんこぶが、余計に大きくわずらわしくなったのでした。おのれ孔明!
 しかし周瑜も、ただ孔明さまの手玉に取られてばかりではありません。本当に、本当は、優秀なのです。今回も謀略を練り、戦わずして曹操陣営にダメージを与えるという見せ場があったりしながら次回へ続く。テッテレー。
 この放送回は通算五回見たよー。
 もう孔明さまの腹黒ドSっぷりがハンパない。

 曹操と戦うため呉と同盟を結びたい劉備軍。孔明さまはその説得のため呉の地へ派遣された。呉の文官達は曹操に降伏すべしで意見が固まっているので旗色は良くなかった。
 孔明さまに対しても「何をしに来たこの若造め。かわいがってくれるわー」とばかりにニヤニヤ顔。居並ぶ文官達のなかを孔明さまは楚々としたお姿で進み席についた。そこからは孔明さまのターン。初っ端からドS属性を遺憾なく発揮。
 次々と吹っかけられる論戦に、嫌味と皮肉をてんこ盛りにして返しまくる。まさに「ああ言えばこう言う」の返し刀で斬り倒す。しかも質問にビシバシ答えているようで、ことごとく論点をすり替えている。おそらく彼らを説得する気はゼロです。
 まあ狙う本星は孫権ですからね。今は足がかり。
 そして文官のほとんどが撃沈したころ、武将の黄蓋が登場し孔明さまを次ステージへ連れて行ってくれます。テッテレー。

 そこで待つのはお目当ての孫権。でも謁見前に魯粛から一言釘を刺されます。
「孫権さまは曹操と抗戦するか降伏するか、ずっと迷ってんだから曹操の軍勢が百万とか言ったら絶対引くからね。同盟結びたいなら言わないでね。約束だよ!」
 孔明さまは二つ返事で了解し孫権にお目通り叶いました。挨拶もそこそこに孫権は孔明さまに訊ねます。
「曹操ってさあ……軍勢どれぐらいなんだろ」
「えー。知らないの? 百万だってさw」
 案の定ドン引きの孫権。魯粛と黄蓋はポカン顔。そこへ追い打ちをかけるかのように孔明さまは言います。
「だから諦めて降伏しなよ。まあ、ウチはしないけどね! だってさあ、劉備さまは漢王室の正当な末裔なわけ。その王室を我がもの顔で支配する逆賊の曹操なんか許しておけるわけないじゃん? で、そっちは……なんだったっけ?」
 当然孫権は「馬鹿にすんな」と怒って退場していまいます。慌てて後を追いかける黄蓋。魯粛は涼しい顔の孔明さまに「もー。言わないって言ったじゃん!」と泣きそうになる。すると孔明さまは「まあまあ。それより実は曹操に勝つ方法があるんだけど、聞きたくない?」と持ちかけた。それを聞いた魯粛は「マジで?!」とばかりに孫権を連れ戻しました。
 再び相見えた孫権に孔明さまは言います。
「曹操の軍勢は数字の上では遥かに優勢に見えるけど、彼らは出身は北国でしょ。これがどういうことか分かる? あのね、曹操との戦いは水上戦になるわけだけど、北国の彼らは水に慣れてないし泳げない。曹操軍はこんな致命的な欠陥抱えてるんだから負ける気がしなくない?」
 孫権は「うっわ。そういえばそうじゃん!」と素直に感心します。陥落寸前の孫権。孔明さまは仕上げにかかります。
「まあ、今すぐ結論を出せとは言わないよ。そうだ。外交のことなら周瑜に聞けって、先代のお兄様から遺言があったでしょ? だから周瑜に聞いて判断してみたらどうかな?」
 孫権が「じゃあ周瑜を呼び戻さないと。早く早く!」とウキウキウォッチングを決めたところで次ステージへ。テッテレー。
 舌戦も佳境へ突入でございます。

 呼び戻された周瑜は自宅へ帰り、久しぶりに会った別嬪の嫁の顔を見ても浮かない様子。周瑜は降伏か抗戦か決めかねていたのです。そこへあきらかに呉を利用して曹操軍に対抗しようとしている孔明さまがやって来ているものだから、うっとうしいったらありゃあしない。
「オーゥ。ハニー。どいつもこいつも臥龍だのなんだの。もうウンザリさ」
 しかし孫権に呼び戻された手前、孔明さまに会わなくてはならない。そこで朝もはよからお年寄りの黄蓋を叩き起こし「孔明とやらを連れて来て」と魯粛の元へ走らせ言伝を頼む。
 魯粛はいそいそと出かけ、孔明さまと一緒に周瑜と面会します。そこで魯粛は抗戦に気の進まない周瑜を説得します。孔明さまが言った曹操軍攻略法を元に「この戦いイケますよ。曹操軍恐るに足らずですよ!」と息巻く。
 しかし、どこからかクスクス笑う声がする。
「もー。魯粛ちゃん。何それ。自分が何すればいいのか分かってないでしょ。曹操軍とまともに戦って勝てるわけないじゃん」
 笑ったのは孔明さま。またしても魯粛は「えー」のポカン顔。いやいや、曹操軍は水に慣れてないから戦っても勝てるとか言ったの自分やん。え? それとも、あれ夢? 

 ちなみに孔明さまはこの手の、自分で言っておきながら後でひっくり返すという理不尽展開へよく持ち込みます。なんせドSですから。

 呆然としている魯粛を尻目に孔明さまは悠然と述べます。
「いい? 曹操って女好きで有名じゃん。だから船を用意して二喬と呼ばれる絶世の美女を曹操に献上すれば丸く治まるんだって。なんせ二喬をはべらして毎日楽しく送りたいとか言ってるらしいし。そんで、その二喬って呉に住む大喬と小喬っていう姉妹のことらしいじゃん。というわけで、この贈り物作戦で決まり!」
 すると周瑜がいきなりブチ切れます。
「ヘイ! ユーは今なんて言った?」
「だから大喬と小喬を欲しがってる曹操に献上すれば──」
「シーーット! あの色ボケじじいが。ミンチにして豚の餌にしてやるぜ!」
 いきり立つ周瑜を見た孔明さまは驚いて魯粛へ小声で訊ねます。
「さっきまで戦わないって言ってたのに、急にどしたの?」
「地雷踏んじゃったね。その大喬は先代の孫策さまの奥方で、小喬は周瑜の奥方さま。知らなかったの?」
 さすがの孔明さまも急いで周瑜に謝罪しました。
「そうとは知らずに失礼なことを。ごめんちゃい」
 孔明さまは萎縮したのか羽扇で顔を覆ってしまいます。
 駄菓子菓子。
 羽扇の裏で孔明さまはひそかにほくそ笑むのでした。

(計画通り──!)

 孔明さまが二喬を孫策・周瑜の嫁と知らないはずもありません。理路整然とした説得ではなく、わざわざ怒らせて曹操への憎悪を引き出す方法を取るあたり、腹黒ドS男子の本領発揮ですね。
 それにも増して、嫁を愛するがゆえとはいえ周瑜兄さんは煽り耐性ゼロやでえ。いずれこの煽り耐性ゼロの性格が、更なる悲惨な結果へ繋がるのですが、それはもっと先の話。

 こうして周瑜は孫権へ「曹操なんか相手に気弱になるなよベイビー。この俺がついてるじゃないか」と奏上し、孔明さまは呉との同盟に成功したのでした。
 駄菓子菓子。
 周瑜もただの煽り耐性ゼロ男子ではございません。本来は聡明なお方ですから孔明さまの本性を見抜き危機感を覚えます。
「あの性悪猫はいつか呉にとっての脅威となる。その前にケツに火をつけて踊らせてやるぜ」
 忠義、愛惜、疑惑、知謀、奸計。
 それぞれの思惑が入り混じる新たなるステージ。赤壁の戦いの幕が開かれる。テッテレー。
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