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応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。

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 知人が三国志占いっていうのがあるんだってサ、と教えてくれたので、マチカさんもやってみました。

三国志占い

 誕生日と血液型を入力する占いだと趙雲だった。おお、コレめっちゃ嬉しい!
 だって孔明さまに、初期のころから晩年まで、一番といっても過言じゃないぐらい頼りにされてたんだもん。典韋や許褚みたいに寝室の見張りをさせてもらいてえ。
 ちょっと覗くかもしれないけど、盗撮するかもしれないけど、心配はいらないでござるよ!

 そして質問に答える形式の占い(というか診断か)もやってみたよ。ステータスを元に自分が三国志登場人物の誰に似ているか表示されるのだ。

三国志武将占い

 まず、これがマチカさんのステータス。



(解説)知力と魅力が高いあなたは朝臣タイプでござる。崇高な理想を抱きつつも現実をしっかりと見据えている事でござろう。ただ既成概念に縛られ過ぎるところがありそうですぞ。人の話をよく聞き柔軟な思考を持つ事を心がけて下され。

 だそうです。
 知力が100、魅力が99やでえ。やだーもー。そんな気はしてたけど。ふふっ。冗談だってば。
 我が身かわいさに、わりと姑息な選択肢を選んだのですが、それでも魅力が高いんだな。
 まあ、間違っても関羽や張飛みたいに痛快な武将タイプではないし、度量のある君主タイプでもないわな。

 んで、マチカさんが誰に似ているかというと。

 荀攸でした。参考URL(http://ja.wikipedia.org/wiki/荀攸



 やった。曹操にスカウトされて、しかも大事にしてもらえるやん。
 荀攸の年下の叔父こと荀イクでもよかったんだけどな。インテリイケメンだし、曹操をあそこまでのし上げた最大の功労者みたいなもんだし。だけど最後は疎遠になっちゃうから、やっぱり荀攸でありがたい。
 賢いのに控えめなところが気に入ってたんだろうね。だって曹操自体が人より賢いから、いかにも才走ったようなタイプは鼻につくんじゃないかな。楊修、キミのことだ。

 これ、どうやったら孔明さまになれるのかなあ。もっと政治力がいるのかしら。
 
 というわけで、お暇なときにでも挑戦してみてください。そんでマチカさんに結果を教えてーん。
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 本国の中国では、どんな声で演じられてるのかなと思って見てみたよ。
 当然、何を言っているか分からないわけですが字幕が出る。たぶん北京語がベースの普通話で喋ってんだろうけど、全土で放送する場合、普通話が分からない人もいるから字幕が必要なんだね。北と南じゃぜんぜん発音が違うらしいから。
 それはそうと字幕を追えば内容を理解できる……はずもなく、話の流れを知っているので、会話を憶測しながら見てました。
 趙雲の一騎当千の回だから曹操が丞相、劉備が皇叔って呼ばれてた。関羽や張飛はもちろん劉備を大哥!
 そんな劉備と張飛は声が似てたわあ。こっちが意識して似せてるのかもしれないけど。曹操と関羽は、もっと年かさの声だった。関羽なんて劉備よりずっと年上やろ、というぐらい。関羽は神様だから威厳がないとダメなのかえ。
 趙雲はやっぱり若者の声だった。永遠の若武者趙雲。まあ、この先アニメでもフケるんですけどね。でも優遇されてるから年をとったらイケメンからダンディに移行。アダルト孔明さまは今のEDで思いっきりネタバレされてますわね。
 なんか麦城あたりで劉備軍は一気にふけるらしいね。あと数回しかない。孔明さまは劉備退場のあたり老化するのかと思ってたけど、その前の関羽退場ぐらいなのね。おいたわしい。だけど若造孔明さまと、アダルト孔明さま両方楽しめる! 一粒で二度美味しい!

 ああ、孔明さまの声ですけど、よりうさん臭かったです。有名な俳優さんか声優さんだったりするんかなあ。
(今週のあらすじ)
 韓遂の陣幕へ入ってきたのは馬超だった。怒りに燃えた馬超は自分を裏切るよう仕向けていた兵士を斬り倒し、韓遂にも斬りかかった。馬超が逃げ惑う兵士を追いかけ外へ出ると、韓遂配下の武将に襲いかかられる。
 異変に気付いた馬岱と龐徳が馬超を助けにきたが、突然許褚が姿をあらわした。徐晃まであらわれ、曹操の軍勢も押し寄せてきた。それでも馬超は戦ったが、陣営のあちこちに火の手が上がり、次第に追いつめられ、馬岱と龐徳とともに逃げ出した。
 韓遂は片腕を失いながらも一命は取り留め、曹操に帰順した。馬超が遠くまで落ち延びたと知った曹操は、劉備と孫権が動き出すのを懸念して許昌へ帰還した。

 馬超と曹操の戦いからさかのぼること数ヶ月前。劉備はある人物の訪問を受けていた。劉備軍に身を寄せたいということだったが、あまり風采の上がらぬ人物だったので、劉備はとりあえず彼を小さな県の県令に命じて派遣した。
 しかし、ろくに仕事をせず酒ばかり飲んでいるとの報告を受け、怒った張飛がその人物のもとへ向かった。そのころ荊州各地の視察へ出ていた孔明が戻り、劉備に龐雛が訪ねてきたか訊ねた。劉備に思い当たる人物はおらず「龐統というものなら訪ねてきたが、誰の推薦かも分からないので県令に命じた」と答えた。すると孔明が「それが龐雛こと龐統先生です。彼に県令のような小さな仕事は向きません。才能はわたし以上です」と言った。
 だが龐統は、その県令の仕事も勤まらない人物だと言って劉備は不審がる。しかも短気な張飛が様子を見に行ったのだ。面倒を起こしていないかと劉備は不安になった。
 そこへ張飛が「宝を手に入れた」と喜んで帰ってきた。劉備がどうしたのかと問うと、張飛は見てきたことを語った。

 龐統は報告通り、仕事をせずに酒ばかりのんでいたのだが、張飛が詰め寄ると「県令の仕事ぐらい、すぐに片付けられる」と言って、実際に百日分の仕事を一日で片付けてしまった。その辣腕ぶりを目の当たりにした張飛は「龐統こそ宝だ」としきりに褒め、荊州城へ一緒に帰還した。そこで劉備は非礼を詫び、龐統を副軍師として迎えた。
 丁度そのとき、兵士が「張松が荊州の境界線を通り、許昌へ向かった」と報告に来た。それを聞いた龐統は張松を見張るよう劉備に進言した。
 張松を知らない張飛は、それがどんな人物なのか訊ねる。孔明が西川(蜀)の劉璋の参謀だと答えた。劉璋は漢中の張魯の侵攻を受けており、参謀の張松が曹操のところへ向かったということは、おそらく救援を頼むためだろうから、劉備は進言に従い動向を探らせることにした。

 許昌へ到着した張松は、曹操に面会を求めた。しかし門番に賄賂を要求され、やっと曹操に会えたものの侮辱されてしまった。追い払われるように許昌を出た張松はふたたび荊州の境界線まで戻ってきた。そこには趙雲が待っていた。趙雲は馬から下りると「劉備の命令で迎えにきた」と、荊州へ立ち寄るよう願い出た。
 以前から劉備は徳の高い人物だと聞いていた張松は、一度自分の目で確かめてみようと立ち寄ることにした。趙雲との道すがら、今度は関羽が宿場の前まで張松を迎えに出ていた。関羽が手厚くもてなしたので張松は感激し、その日は宿場で休んだ。翌日、趙雲、関羽とともに馬で進んでいると、遠くに一群の人馬が見えた。劉備が孔明と張飛を従え、張松を待っていたのだ。劉備は張松の姿がまだ遠くにあるうちから、馬を降りて待ち、近くまでくると丁寧な挨拶で迎えたので張松は恐縮した。
 張松を迎えての宴会がはじまる。そこで張松は、劉備は荊州に滞在しているものの、結局は呉からの借り物であり、自分の領地を持っていないことを知る。
 盛大な宴会は三日続いた。張松は劉備に西川を領地にしてはどうかと持ちかけた。しかし劉備は同族の劉璋から西川を奪うようなことはできないと固辞した。劉備は仁義に厚い人物だと、ますます張松は感心した。
 そして張松は荊州を去る日、劉備に一枚の地図を渡した。それは西川の詳細な地図であり、漢王朝再興のため自分の意見を念頭におき考えて欲しいと言って西川へ帰って行った。

以上を踏まえて、どこまで噓か分からないレビュー


・馬超破れる
 馬超は、まんまと曹操の罠にはまり、暴れ回るも多勢に無勢。許褚に続いて徐晃までやって来たものだから逃げるしかなかった。敗走する馬超のノースリーブがやけに寒々しく見える。でも厚着はしない。それがジャスティス。


・孔明さま帰還
 荊州の見回りに出ていた孔明。久しぶりに劉備に会えて嬉しそうだ。さっそく「つもる話もあるから、今日は一緒に寝ようねえ」と誘うのですが、やんわり断られてしまう。この身のかわし方は一流です。戦いばかりしてきた男の処世術なり。
 孔明は気を取り直して訊ねます。
「留守中にぼくと魯粛ちゃんの推薦状持ってきた人がいるでしょ。ぼくのお友達なんだけど、いまどこにいるの?」
「そんな人は来とらんよ」
「スーちゃんっていうんだけど」
「嗣常? 聞き覚えのない名前だな」
「スーちゃんていうのはあだ名だよ。姓は龐で名は統。あざなは士元だよ。鳳雛って呼ばれるからスーちゃん」
「龐統? その名前の人物ならやって来たが、なんというか……あまり見てくれがよくないし、態度も傲慢だったから、とりあえずライ陽の県令になってもらった」
「劉備さままで、そんなふうにスーちゃんを扱ったの?」
 というのも周瑜亡きあと、魯粛がぜひ補佐役に、と龐統を孫権に推薦していたのですが、見た目の悪さと、孫権が「周瑜と比べて、何か売りでもあんの?」と問うたとき、どことなく周瑜を軽く見た発言をしたので、孫権は不愉快になって龐統を帰してしまったのです。魯粛が取りなそうとしても、周瑜が好きだった孫権は「あんな奴、絶対側に置かないもんね」と拒否。龐統の才能が埋もれてしまうことを惜しく感じた魯粛は、劉備に仕えられるよう推薦状を持たせたのでした。また、それ以前にも孔明が「気が向いたら、うちにおいでよ」と推薦状を書いて渡していたのです。でも、なぜか龐統は推薦状を見せなかったので、劉備もうさん臭いなあと考えて、適当な役職を与えて遠ざけたのでした。
「スーちゃんの才能はぼく以上だよ。劉備さまは、人を見る目だけはあるのに、どうしたの?」
「その台詞、なんとなく引っかかるな」
「まあ、スーちゃんも傲慢なのはよくないね。ぼくみたいに謙虚じゃないと」
「聞き間違いかな。誰が謙虚だって?」
「はあ。それにしても、ぼくは美男子でよかった。やっぱり見た目は大事だもん。ぼくは、こうして劉備さまの寵愛を一心に受けて、いまや夫婦といっても過言じゃなくなってるからね」
「それが過言じゃなければ、いったい何が過言なんだろうな」
「とにかく、すぐにスーちゃんを呼び戻してよ。小さな県の県令なんてスーちゃんには役不足だから」
「まいったな」劉備は悩ましげに眉根を寄せます。「それが、ろくに仕事をしとらんと聞いて、怒った張飛が龐統のところへ行ってしまったのだ」
「張飛が?」孔明の声が裏返りそうになりました。「絶対にスーちゃんのことボコボコにしちゃうよ。二目と見られない顔が、ますますひどくなって、もう人前に出られない顔になっちゃう」
「本当に龐統と友達なのか? 友達だと思っているのは、孔明だけじゃないのか?」
 劉備がそう言ったとき、威勢のよい声を上げながら張飛が戻ってきた。
「兄貴ィ。龐統に会ってきたぜィ」
「張飛! おまえ、まさか」
 劉備は恐ろしくて、その先が聞けません。張飛は首をかしげます。
「化け物でも見たような顔してどうしたんだ?」
「その……龐統先生は……まだ人のかたちをしているのか?」
「なんだそりゃ。魯粛と孔明の推薦状持ってたから、一緒に連れてきたぞ」
 その言葉を待っていたかのように、ゆったりとした足取りで龐統があらわれました。
「またお目にかかれましたな、劉備どの」
「龐統先生。先だっては大変ご無礼いたしました。どうかお許しください」
 劉備が歩み寄って詫びました。龐統はうなずくと懐から魯粛と孔明の推薦状を出し劉備へ手渡しました。劉備はまず魯粛の推薦状に目を通します。
 ──龐統どのは小さな土地を治めるような小人物ではなく、重要な職に就かせてこと俊才を発揮します。けっして容貌で判断してはいけません。彼の学識の深さを見落とせば、他人に用いられ、それは大きな財産を失ったことと同じです。わたしも未亡人という陰に隠れた宝石を手に入れたいと毎日考えています。なんて言ったりして、言ったりして!
「ふむ。最後のあたりはどうでもいいが、魯粛どのは龐統先生の才能を高く評価しておられるな」
 ついで劉備は孔明の、やたら長い推薦状を読みます。
 ──劉備さまがこれを読んでいるころ、きっとぼくも同じように劉備さまのことを考えています。そんな偶然あり得ないって? うふふ。だって、ぼくはいつも劉備さまのことを考えているんだもん。寝ても覚めても、ずっと。だから分かるんだよ。劉備さまがぼくのことを好きって思ったとき、ぼくはその百倍愛してるって気持ちを胸一杯に抱えているんだよ。溢れ出すこの思いを空に浮かべたら、流れ星になって劉備さまに届くかな。劉備さま、今晩は夜空を見上げてください。美しい流星群が見えるはずだよ。
 そこまで読んで、劉備は顔を上げました。
「孔明。この文章はいつになったら龐統先生のくだりが出てくるんだ?」
「え? 最後にちょっとだけ」
「じゃあ最後だけ読むか」
「ぼくの思いの丈を全部読んでよォ」
「ふむふむ、なるほど。ブスは三日で慣れるといいます。龐統は賢いから側に置いてあげてね、か。龐統先生、魯粛どのと孔明のふざけた推薦状をよくぞ破いて燃やさずにおれましたな。あのとき推薦状を見せなかった気持ちが痛いほどに分かります」
 ふざけてないもん、と憤慨して口を挟む孔明を横目に、龐統は飄々と言いました。
「ええ、まあ。腐っても推薦状ですから」
「先生は人格者でもおられるようだ。ぜひ我が軍の力になっていただきたい」
 劉備が頭を下げると張飛も手を叩いて嬉しそうに言いました。
「臥龍の孔明と龐雛の龐統。どっちかひとりでも手に入れたら天下が平定できるって、あのヨシヨシおじさんが言ってたからな。それがいま両方そろったんだ。兄貴の天下は決まったようなもんだ!」
 こうして劉備は龐統を加えることが出来ました。


・ブサメンの受難は続くよ
 救援を頼むべく許昌へ入った張松。曹操は宴会の最中でした。美人ダンサーが妖艶な舞いを披露していますが、曹操はちょっと不満そうです。

 ヒゲ伸びたよ

「あの女は美しいが巨乳ではない。聞くところによると、呉には爆乳ダンサーがいるそうではないか。早く呉を我がものにして、おっぱいダンサーも手に入れたいものだ」
 そんなことを話していると、張松がお目通りを許されてやって来ました。張松を見るなり曹操は言います。
「なんで物乞いがこんなところにいる」
 曹操は張松の見た目が不愉快だった。そう、張松も容姿に恵まれない男だったのです。
「鍬のような額に尖った頭。つぶれた鼻から視線を降ろせば出っ歯がのぞいている。背丈は五尺にも満たないチンチクリンのどら声」だそうですよ。鍬のような額ってどんなだ。前にせり出してんのかな。

 ひどい言われようの張松

 ちなみに。有名ですが孔明さまは身長八尺だから180センチとちょっとあるんだぜ! 当時の一尺は30cmより短いんだってさ。八尺ということは七尺五寸の劉備よりも背が高い。趙雲と張飛は孔明さまと同じぐらい。関羽に至っては9尺だから2メートル超え。でけえ。それに対して張松の五尺未満は、いくらなんでも小さすぎんかね。
 三国演義のメジャーどころはでかいのが多い。そんなの、どうせ大袈裟に書いてんでしょ?
 というわけでもないみたい。まず武将がでかいのは分かるけど、文官もでかいのが多いのは、中央の官僚に推薦してもらえる条件に家柄はもちろんのこと容姿もあったらしいから、背が高くて顔付きも立派なほうが有利だったりしたんでしょうね。だから必然的にスターの周囲を固めるメンツは、体格や容姿のいい人が多くなるのかな?

 話は戻って、曹操と張松の面会シーン。
 張魯が蜀にちょっかいを出してきているので、救援に来て欲しい張松ですが、曹操に「ていうか、おまえら全然朝廷に年貢おさめてないだろ。こういうときだけ都合がいいな」と嫌味を言われる。張松は「中原が荒れておりますから、盗賊に襲われて略奪される恐れがありますゆえ」と言い訳する。すると曹操も「どこが荒れてんだ。ワシがきれいさっぱり掃討しだだろうが」と追求する。張松は物乞い呼ばわりされたことにカチンと来ていたのか、それとも孔明さまのように生まれついての煽り体質なのか「南で孫権、北で張魯、西で劉備が兵隊持っているのに、これのどこが掃討したといえますでしょう」と言ったものだから、曹操は怒って奥へ入ってしまった。
 後に残された張松に「そんな言い方したら誰だって怒るでしょ」と、曹操に仕える文官の楊修が諌めました。

 シュッとしてはるKY楊修

 曹操の側近だけあって楊修の容姿描写は「色白でスマート」だそうです。
 張松は腹の虫がおさまらないのか、今度は楊修を煽りだす。
「インテリ楊修どのじゃないですか。名門の誉れ高いのに、朝廷のお仕事ではなく曹操の倉庫番してるとか。ご苦労様でーす」
「トゲのある言い方をしますね。財務を任されていると言ってください。それに曹操さまのお側にいれば、学ぶこともたくさんあります」
「曹操の文武は中途半端ではないですか。偉そうにしてるだけで、学ぶことなどあるんですか?」
 楊修は部屋の隅に積まれた書物のなかの一冊を張松へ手渡しました。
「では、これをご覧なさい。孟徳新書です。いにしえに記された孫子を現代に通じるよう、曹操さまが注釈を付けて編集されたものです」
 張松はあまり興味がなさそうにパラパラとめくります。
「どれどれ。我は光と闇が解け合う黄昏より生まれし混沌。次なる千年紀を破壊し創造せしむるものなり。って、なんですかコレ?」
「え? そんなの書いてあったっけ」
「あとは……ワシの考えたかっこいい武器コレクション……ヒゲ早く伸びれ……おっぱい揉みたい……楊修がワシの考えたなぞなぞを空気読まずにすぐ解いてくる。ヨーグルトまで食べられたムカつく、とかも書いてありますね……それに、久しぶりに郭嘉たんの夢を見た。夢なんだからチュッチュしとけばよかった」
「ちょ、ちょっと待って。さすがにおかしいな」楊修は張松の手から書物を取り上げました。「……あ。まちがえた。これ曹操さまの日記じゃないか。なんで孟徳新書と一緒に置いてんだよ!」
「うは。曹操の日記読んじゃったーん」
「忘れて。いま読んだことは忘れて!」
「残念でした。わたしは一度読んだだけで記憶できちゃうから、一言一句忘れたりしないもんね」
「せめて人に言わないでくれませんか。一生絶対金輪際!」
「どうしよっかな。もう一度曹操に会えるように取りはからってくれたら考えてもいいですけどね」
「明日、曹操さまが兵士の演習を上覧するから、張松どのに我が軍の威勢を見せつける、という名目で面会できるようにしますよ……」
「そりゃ、どうも。ついでに楊修どの、食い物の恨みは恐ろしいから気をつけたほうがよろしいですぞ」
 翌日、練兵場。
 選び抜かれた兵士達の気勢盛んな有様を前に、曹操は満足げな表情で張松に話しかけます。
「蜀にこれほどの精鋭はおるまい。攻めれば必勝、従うものは生きられるが、逆らう奴は死あるのみ。おまえの肝にも銘じておけ」
 その気になれば蜀を攻め落とせるんだぞ、と曹操は脅します。しかし張松は意に介さぬ顔で答えました。
「言われなくてもよッく存じておりますよ。むかし濮陽で呂布を攻めたとき、エン城で張繍と戦われたとき、赤壁で周瑜と遭遇されたとき、華容道で関羽と出くわしたとき、潼関では馬超の前で戦袍を脱ぎ捨てヒゲを切り落としたとき、渭水で船を奪い矢を避けたとき。曹操さまの無敵伝説を語ればきりがありませんな」
 曹操の顔色が変わりました。張松があげつらったのは、無敵伝説どころか、すべて曹操が手酷く負けたときのスキャンダル伝説だったからです。ついに曹操もキレて張松を斬れと命じました。引きずられて行く張松を見ながら、楊修は内心ホッとしていました。張松が死ねば、まちがえて曹操の日記を見せてしまった大失態が闇に葬られる。
 ところが張松がわめき出したので、楊修の顔色も変わるはめになります。
「楊修どのが見せてくれた、あれ、なんでしたっけ? 我は光と闇の解け合う……」
「わー! うわー!」
 楊修は張松の声をかき消すべく、大声を張り上げながら曹操の前へ転がり出ました。
「そ、曹操さま。張松はブチ殺されて当然のクソ野郎ですが、遠方より貢ぎ物を持って来た使者ですよ。殺してしまえば遠方の国々の人の信頼を失ってしまいます」
「楊修の言う通りですよ」
 荀彧(なのかしら?)も曹操に耳打ちしたので、張松は棒でめった打ちにされたあと放り出されたのでした。
「曹操はなんと徳の低い男よ」
 張松は傷む体を引きずりながらトボトボ帰ります。
 でも張松の自業自得であって、曹操あんまり悪くなくなくない?


・張松接待大作戦!
 張松の動向を探らせていた孔明と龐統。散々な目に会って許昌を後にしたと聞いて、こちら側に引き入れようと画策します。
「というわけで、張松を目一杯接待するから、みんなよろしくねえ」
 孔明が諸将を集めて言いました。
「なんでへりくだって接待などせんといかんのだ」
 関羽は不満げです。
「張松は救援を頼みに行ったのに、なんの成果もなく追い出された。帰るに帰れず、いま頼る相手を探してるところだろうからねえ。落ち込んでるときに優しくされるとコロッといくものでしょ。そうじゃなくても接待三昧の日々を送れば、どんな人でも領地のことすら忘れて骨抜きになっちゃうものだよ。ねえ、劉備さま」
「……え? すまん、考え事してて聞いてなかった」
 うそぶく劉備。
「ふうん。まあ、いいけど。とにかく張松を接待するプランを発表するから、みんなその通りにやってね。まず張松が荊州の境界を通るとき。ここ、かなり重要だよ。張松に疑心を抱かせず、なめらかに招待しなきゃいけないからね。第一印象のいい人じゃなきゃだめ。だからこの役割は子竜ちゃんにやってもらうよ」
「イケメンならではの役割ですね」
 趙雲が白い歯をこぼして笑いました。
「うん、人畜無害な見た目だからね」孔明は趙雲のほうを見もせずに言いました。「つぎは関羽! 宿場で、ちゃんと門の外まで出て張松が到着するのを待っててね」
「そこまでせんでもいいだろ」
「そこまでするの。あんまり言いたくないけど、関羽は有名じゃん?」
「素直に認めろよ」
「そこそこ有名人が、わざわざ出迎えてくれたってのがポイント」
「そこそこは余計だろ」
「その晩は宴会もよおして、しっかり接待してね。天下のことなんて語らずに、とにかく楽しませればいいから。ひたすらお会いできて、さいわいですって態度で通してね。張松が調子に乗ってセクハラしてきても怒っちゃだめだよ」
「いや、それは許さん。手を出して来たら腕を切り落としてやるわ」
 関羽がいきり立って言うと、孔明は肩をすくめました。
「関羽なんかに手を出す物好きはいないよ。子竜ちゃんに言ってるの」
「なんだと!」
 孔明に掴みかかろうとする関羽を周囲がなだめます。趙雲は悲痛な顔で言いました。
「イケメンというだけで、どこまで我慢すればいいんですか。限度ってものがあるでしょう」
「最悪、抱かれてちょうだい」
「いやですよ! この芸術品のような瑞々しい肉体をもてあそばれるなんて!」
 趙雲は両腕で自分の体を抱きました。
「うふふ。うそだってば。データによると張松はノーマルだから、はじめからその心配はないね。まったく張松は無粋な人だよ。両方の道を極めてこと、まことの風流人だというのに」
「じゃあ、なんでセクハラの話題出した。おまえ、俺の悪口に繋げたかっただけじゃないのか」
 暴れそうになる関羽を、またしても周囲がなだめます。
「俺は? 俺は何をすればいいんだ?」
 張飛が片手を挙げて訊ねました。
「えー、うーん」
 張飛はスター選手ですが、酒の席ということもあり不安になります。なので接待要員に入れてなかった孔明は言葉を濁します。でも張飛が期待に目を輝かせているので、しばらく考えてから指示をひねり出しました。
「張飛はねえ……体力作り」
「それって接待なのか?」
「ちがうけど、大事なことだよ」
「大事なのか?」
「すっごく大事」
「よし、分かった! 今から走ってくるわ」
 張飛は外へ駆け出して行きました。
「それで……と、あとは劉備さまがお城に張松をお迎えして接待だね。ぼくも参加するよ!」
「なあ孔明」劉備がヒゲをしごきながら言いました。「おまえが言い出したのだし、もちろん分かっていると思うが、嫌味や皮肉、煽りは厳禁だからな」
「……当たり前じゃない」
 少し間を置いた返事に、劉備はちょっぴり心配になったのでした。


・張松の接待、いざ本番!
 趙雲は持ち前の人畜無害さとパッと見の爽やかさで、なんなく張松をおびき込むことに成功。ついで関羽が待つ宿場へ向かいます。
 関羽はちゃんと孔明の言いつけ通り宿場の前で待っていました。張松の姿が見えると拱手して迎えます。そして手に書いた文言をこっそり見ながら読み上げました。
「えー兄の命を受け、大夫には、えー遠路はるばるお越しいいただいたゆえ、えーわたし関羽が、えーみずから宿場を掃き清め(※当然やってません)お待ちしておりました」
 と、たどたどしく棒読みな関羽の挨拶ですが、張松は素直に感激しました。その夜の宴会はセクハラが起きることもなく和やかに行われました。
 翌日、関羽と趙雲の案内で、張松は劉備の滞在するお城へ出発しました。趙雲がそろそろかな、と思ったあたりで、前方に劉備が一群を引き連れ張松を待ち構えていました。まだ、だいぶ遠いのですが劉備は慇懃にも馬から降りて待ちます。それを見た張松は、この時点ですでに感心していました。間近まで来ると張松も馬から下りて挨拶を交わします。
「ご丁寧な出迎え、まことに恐縮です」
「かねてより張松どののご高名は存じておりました。今までは生憎お教えを賜る機会がなかったのですが、こちらをお通りになるとうかがい、ぜひお立ち寄りいただきたく馳せ参じた次第でございます。もしお見捨てでなければ、むさ苦しいところではございますが、ご休息いただければ、これより嬉しいことはありません」
 張松は一も二もなく了承し、劉備とともに荊州城へ入りました。そして前日よりもさらに盛大な宴会がもよおされます。劉備も関羽と一緒で、蜀の話はおくびにも出さずヨイショを交えた世間話に徹します。すっかりいい気分の張松ですが、ただ浮かれきっていたわけではありません。劉備にも下心があるにちがいないと、蜀の話題を持ちかけました。
「劉備どのは荊州をお持ちですが、そのほかにはいくつの郡をおさめておられるのですか?」
 それに答えたのは孔明でした。
「荊州自体が呉からの借り物なのです。わが君は呉の娘婿なので、一時的に身を寄せているだけなのでございます」
「なんと、そうだったのですか」
「ゆえに呉からは毎月のように使者がやって来て、荊州を返還するように求められております」
「呉は六郡八十一州を支配してると聞きます。それでもまだ満足しないのですか」
「漢王朝に仇なす悪人どもが無理矢理土地を奪い取り占領しているなか、皇叔であらせられるわが君が州郡を支配することもかなわないのです。このような道理に外れたさまを見て、心あるものが不満に思わずにいられるでしょうか」
 孔明の愁いを帯びた表情を見ながら、劉備は内心で「孔明もまともな喋り方ができるのだな」と驚いていました。
 初対面のころから生意気でふざけた喋り方だったからです。はじめはバカにされているのかと思った劉備ですが、孔明が誰に対してもこんな調子なのだと知ってからは、これも個性だろうと納得していたのです。第一、それぐらいのアクの強さがなければ関羽や張飛とやっていけない。
 関羽や張飛はひとりで万人を相手に出来る武将だけれど、名士と呼ばれる知識階級の人間は彼らを下に見るところがある。なかには口すら聞かない人物もいた。その点孔明もよく彼らといさかいを起こすが、それはどこか愛着を持って、好んで口喧嘩をしているように見える。怒られるのが分かっていて、ちょっかいを出す。そして、その反応に嬉々とするのだ。

(まあ、好きなんだろうな)

 そんなことを考えながらぼんやりしていた劉備に孔明がしきりに目配せを送ります。劉備ははっと気がついて張松へ話しかけます。
「こらこら。孔明も、それぐらいにしなさい。徳のないわたしが、なにゆえ多くを望めましょうか」
「それはちがいます」張松はかぶりをふります。「劉備どのは漢王朝のご一族。その仁義は天下に知れ渡っております。州郡を支配されるのはもちろん、現在の皇帝に変わって帝位についてもおかしくありません」
 劉備は笑って張松の杯に酒を注ぎました。
「身に余るお言葉ですが、わたしにその資格はございません。さあ、張松どの。お飲みください」
 その後酒宴は三日のあいだ続きましたが、劉備が蜀の話を口の端にのぼらせることはありませんでした。
 やがて張松が辞去しようとすると、劉備は孔明や諸将を引き連れ見送りに出た。そして涙を浮かべて別れを惜しみました。
「いま別れてしまえば、またお会いできるのはいつになるでしょう」
 ここに至って張松は劉備の人柄に、すっかりほだされていました。
 許昌へ入った当初は暗愚な劉璋に見切りをつけ、曹操へ蜀を献上する心づもりのあった張松。しかし曹操には失望してしまった。それに比べて劉備は寛容で思いやり深く、人を愛する人物だった。そんな人が行く宛もないとなれば、どうして見捨てることができるだろうか。説得して蜀を攻略させてもよいのではないか──。
 張松の決意はほぼ固まった。
「わたしもできることなら劉備どのにお仕えしたいのですが、まだその手だてがありません。わたしが見たところ、劉備どのがこの地にとどまることは決して良策ではないでしょう」
「それは分かっているのですが、なにぶん身を落ち着ける場所がないのです」
 張松はたっぷり時間をかけ劉備の目を見て言いました。
「益州をお取りになってはどうですか。そこを根拠地に覇業を成し遂げれば、漢王朝の再興も夢ではありません」
「とてもそのようなことはできません」劉備は狼狽します。「劉璋さまはわたしの親族です。それを攻めるようなことをすれば、わたしは天下の人に見放されてしまいます」
「迷っているあいだに、他人に取られてから悔やんでも遅いのですよ」
「しかし……蜀は山に囲まれ、川も入り組み、道は険しく、軍を進めることもままなりません」
「それなら、きっとこれがお役に立つでしょう」
 張松は懐から一枚の紙を取り出しました。受け取った劉備が目を通すと、それは蜀の地図でした。地理や交通、倉庫に貯蔵されている食料まで、情報が実に詳細に書き込まれているのです。
「劉備どの。なるべく早く行動なさいませ。わたしも帰ってから、同志にこのことを話します。後日、彼らを荊州へ参らせますので、お考えになっていることを相談なさるとよいでしょう」
 劉備は深々と頭を下げました。
「このご恩は決して忘れません。ことが成し遂げられたあかつきには、かならず恩を返させていただきます」
「聡明な君主にお会いして礼を尽くされたのですから、こちらも情を尽くしたまででございます。恩返しを望んでのことではありません」
 そう言って別れを告げた張松を関羽が護衛して送ります。
 傍らで一部始終を見守っていた孔明は小声で趙雲へ話します。
「……子竜ちゃん。もう、いい?」
 趙雲は遠ざかる張松の背中を眺めながら言いました。
「まだです。振り返ったら見えます」
「でも……我慢できないよ。体が震えてきたもん」
「あと少しの辛抱です」
「あ、だめ。もう無理」

 んふ。

 趙雲は呆れ顔になります。
「先生。まだ笑ったら駄目だと言ったじゃないですか」
「これが笑わずにいられる? 張松の接待は大成功の大収穫だよ。蜀へ手引きしてくれる人材の確保が目的だったけど、それだけじゃなくて、まさかあんな地図が出てくるとはねえ。さすがのぼくでも予想できなかったよ」
「蜀が今まで無事でいられたのは、あの天然の要害に囲まれた土地のお陰ですからね。詳細な地図があれば、かなり攻略の助けになりますよ」
「うふふ。最高にいい気分」
 半端ない孔明の喜びよう。今まで、ことが思惑通りに運んでほくそ笑むことはあっても、ここまであからさまに喜びをあらわにするのは始めてでした。趙雲が珍しそうしていると、孔明は空を仰いで言いました。
「これで、ぼくが劉備さまの一番になれるね。きっと、なれるよ」
「一番ですか?」
「うん。蜀を取れば天下三分の計が軌道に乗るんだ。でも天下三分の計は手段であって目的じゃないよ。まず荊州と蜀の益州を根拠地にして足がかりにする。それから呉と結んで曹操を破る。最後は呉を倒して中原の覇者になれば、劉備さまが天下を統一して漢王朝の再興ができる。ぼくは劉備さまを皇帝にするんだ。こればかりは政治のできない関羽や張飛がどれだけ頑張っても無理。そうすれば、ぼくを一番大事に思ってくれる」
「いまも大事にしてくれてるじゃないですか。二十も年下の先生に、膝を屈して教えを賜っているのですから」
「ぼくが望んでるのは、そういうんじゃないの。とにかく一番じゃなきゃ嫌だ」
「べつに順番なんて、考えたことはないですけどねえ」
「子竜ちゃんは不満に思うことはないの? 子竜ちゃんこそ、ぼくよりずっと前から劉備さまに仕えて、たくさん功績を立ててるのに、結局劉備さまが心から信頼しているのは関羽と張飛だけなんだよ」
「あのお三方は義兄弟の契りを交わして、同年同月同日に死ぬことを誓った仲ですからね。それを尊重こそすれ、割って入ろうなんて考えたことはないですよ」
「もっと評価されたいって思わない?」
「その時々に、それ相応の評価はいただいています」
「欲がないね。そうやって達観しちゃうのよくないよ!」
 怒り始めた孔明に、趙雲は困った顔をします。なだめるように笑ってみたのですが逆に睨まれてしまいました。
「参りましたね。ご機嫌斜めになっちゃいましたか」
「子竜ちゃんは、そんなんでいいの?」
「では、わたしもひとつ聞きますけど、先生こそ劉備さまを信頼していらっしゃるのですか?」
 そう訊ねた趙雲の顔を孔明は、しばらくのあいだほけたように眺めていました。
「……なに、それ」
「子供が親からの愛を疑わないのと同じで、本当に信頼していれば、一番だ二番だなんて気になりませんよ。信頼してもらいたいから尽くすのではなく、信頼しているからこそ、この身を賭して尽くすのです」
「……」
 趙雲は黙って唇を噛んでいる孔明を見て、しまったという表情をすると片手を胸の前で振ります。
「わたしは先生をお諌めしているわけではありませんよ。劉備さまをお慕いしているからこそ、評価されたいのでしょう? ですから、それは大丈夫ですって。劉備さまにとって先生はかけがえのない存在ですよ。わたしの代わりはいても、先生の代わりはいないんですから」
 その言葉を聞くや否や、孔明は羽扇の柄で趙雲の額を突きました。
「痛いじゃないですか。ゴリッていいましたよ、ゴリッて」
「生意気」
「そんなあ。わたしは先生より十は年齢が上のはずなんですけどね」
「たかが十歳? ぼくに意見するなんて百年早いの!」
「出過ぎたことを言って、どうもすみません」
「それによく覚えといて。ぼくの代わりがいないのは当たり前だけど、子竜ちゃんの代わりも絶対いないんだからね。今度そんなこと言ったら、もっと怒るから!」
「おや、これはうれしいお言葉。ありがとうございます」
 趙雲が堪えきれずに吹き出すと、孔明がふたたび柄でもって殴ってきました。
「笑うなッ」
 趙雲は簡単にかわしてから、羽扇を取り上げてしまいました。
「お行儀が悪いので没収です」
「いいもん。まだいっぱい持ってるもん」
「じゃあ、これ。わたしにくださいよ」
「なんで欲しいの」
「フサフサしたものやフワフワしたものの触り心地が好きだからです」
 趙雲が喜色満面で羽扇に頬ずりします。
「アラフォーが何やってんだか」
「おっ。趙雲、孔明の真似っこか」
 張飛がやって来て、おもしろそうに言いました。
「どこが真似なの。ぼく、こんな変態趣味をさらしたことないよ」
「それより兄貴が呼んでるぞ。今回の首尾を祝って宴会の続きだってよ。大宴会だ。やっと遠慮せずに飲めるわ」
「地図が手に入ったんだし、さっそく軍議に入りたいんだけど」
 孔明が渋ると張飛は肩を組んできました。
「だめだめ。こういうときは仲間で喜びと酒をわかちあう! なあ、趙雲?」
 張飛がもう片方の腕で趙雲の肩を抱きました。
「先生、聞きましたか? そういうことです。覚悟してください」
 趙雲がいわくありげな視線を寄越しました。
「これじゃ、みんな二日酔いで明日も使い物にならなそうだね」
 そう言いながら、まんざらでもない孔明でした。

 といういわけに次回に続く。


「またね」「殿。ヨーグルトに蜂蜜を入れるとおいしいですよ」
 行ってきたよ、長野。福島鉄平てんてーの出身地でございますわね。
なんせ遠かった……。マチカさんの地元から名古屋まで行って、そこから美術館のある飯田市までは高速バスを使ったんだけど、バスに乗ってる時間のほうが長かった。長野県は広いから、巡ろうとするとえらい時間がかかる。

 長野は「ああ、旅行に来たんだな」と強く実感できる場所だった。
 まず寒い。普段、腑抜けた気候の地方で暮らしているため、長野県の人にとっては、こんなの寒さのうちに入らないというレベルの気温でも、マチカさんにとっては真冬なみの寒さに感じられた。それなのに長野の女子高生はスカートがやけに短い。寒いのに元気だ。
 あと景色を見渡すと、かならず高い山がある。マチカさんが暮らしている場所は平野がダラダラと続くところだ。あんなふうにここは平野、こっからは山、とメリハリのある土地は新鮮だった。そんで山は冠雪してんの。雪なんてめったにお目にかかる機会がないから、それだけでスゴイなあと浮かれる光景。

 そして最大の目的である川本喜八郎人形美術館。
「美術館はこの先二十メートルを左折」の案内看板を見ただけでもテンションが上がった。日本における三国志の登場人物のなかの一番人気は孔明さまだと聞く。
 聞くまでもないですけどね。
 だからなのか美術館の案内には孔明さまがフィーチャーされてる。

 観賞用と保管用のパンフレット

 まずここで一礼をしましょう

 そしてドキがムネムネしたまま美術館のドアを入ると、真正面で孔明さまがお出迎えしてくれる。

 ここでは土下座で拝謁しましょう

 これが、また粋なのよ。
 玄関のドアは真っ黒で向こうが見えない。一番始めの半円状のドアが開くと、また半円状のドアがある。ちょうど円柱のなかにすっぽり入るかんじ。照明も薄暗い。で、二枚目のドアが開くと、まるで舞台の幕が開くかのように、孔明さまがバーンと登場するのだ。
 まさに、人形劇のはじまりはじまりーといった具合。実際、そういう意図があるのかどうか、凡人のマチカさんには分かりませんが、とにかく盛り上がる演出じゃないか。

 目に入った瞬間、思わず「おったー!」と叫ぶと、受付のお姉さんに「……フッ」と鼻で笑われたけど気にしない。孔明さまがまぶしすぎて目がつぶれるかと思った。
 ギャラリーは撮影不可ですけど、お出迎え孔明さまだけはOKなんだよ。せっかく来てくれたのに撮影不可だとかわいそうだから、と川本先生が撮影用に作ってくれたんだってさ。ありがたく撮影させていただきました。以前はおでむかえ関羽もいたらしいけど。

 おでむかえ孔明さまは、人形劇の孔明さまよりも表情に威厳と貫禄がありますね。きっと、丞相時代の孔明さまだね。羽扇をしっかり握らずに、ちょっと手に乗せている様子が、なんだか貫禄と威厳のなかにもリラックスしたかんじを受ける。
「よく来ましたね。まあ、ゆっくりしていきなさい」とでも言っているように見える。もしくは「ようこそ、わたしのかわいいマチカ」。
 どうだい狂っているだろう。マチカさんのテンションは天井知らずやでえ。
 でも、しょうがないじゃないですか。子供の頃、本気で恋いこがれてお嫁さんになりたいと思ってたんだから。
 いや、今でも結婚してくれと思ってますけど。
 孔明さまの背後に見えますものが、天下の名文出師表。

 臣亮言……

 これ、以前写真で見たときは木か竹に書いたものを展示してんのかと思ってたけど、実際は布に印刷してあるタペストリーだった。

 そんでギャラリーに入ると、人形劇で見た、あの孔明さまとご対面ができました。
 どのお人形も予想より小さかった。(テレビ用だから?)たぶん、この感想は見た人の大抵がもつ印象なんじゃないだろうか。頭なんて握りこぶしよりも小さい。造形や衣装を細部まで作り込んであるから、小さくても堂々と立派に見えて、実物よりも大きく思えてたんだろうね。

 撮影禁止なのでポストカードから

 孔明さまは本当に美しい。三国演義のアニメの孔明さまだって、もちろん美人だけど、マチカさんの孔明像は、やっぱり人形劇の孔明さまであって永遠の一番。至今恋恋不忘。
 いつも深く思惟しているような愁いを帯びた表情にはため息しか出てこない。このお人形は凛とした強さと、はかなさという相反するものを併せ持ってんだよね。でも、どっちも人の心の琴線に触れる美しさであるわけで、ひとことでいえば愛してる。

 孔明さまのことばかり書いてますけど、他のお人形もちゃんと見て来ましたよ。

 みんなのアイドル曹操

 曹操は迫力があったわあ。
 美術館の人が、いろいろ教えてくれたんだけど、ほとんどの人形は頭(カシラと呼ぶらしい)に仕掛けが二つ付いてるそうです。口を動かしたり、まゆげを動かしたり出来る仕掛けのことね。それが曹操は瞳を左右に振る、ひとつの仕掛けしかないんだってさ。(孔明さまは口の動きと、まぶたを閉じる仕掛けのふたつ)それでも曹操がギロッと睥睨するだけで、怒りであったり、抜け目のない狡猾さであったり、酷薄さが表現できるんだね。それを他の人形よりも、一見福福しい丸っこい輪郭におさめることで、曹操という人間の得体の知れなさがより伝わってくる気がする。
 そんな曹操が今や幸楽でラーメン作ったり、野草をテンプラにして食ってんだから、世の中なにがあるか分かりませんね。曹操の中の人の話ですけど。
 逆に張飛は陽気なお調子者だから表情がよく動く。眉毛がハの字になる仕掛けがあって愛嬌たっぷりだ。
 でも曹操の仕掛けはひとつですけど、口をヘの字にしたものと、パカッと開けた、ふたつのカシラがあるそうです。
 あと人形の衣装を替えるときは、服を着せ替えるのではなくて、あらかじめ衣装を着せてある胴体に、カシラを載せ替えるんだそうです。一番の衣装持ち(胴体持ち?)は劉備で15もあるんだって。
 この衣装についても教えてくれたんだけど、おもに着物の帯で作ってるそうですよ。それと人形の足元。武将はブーツみたいなのと、文官はつま先が反ったスリッパ的なものを履いてるんだけど、これは全部デザインが違う。ひとつも同じものがないんですよ、と言ってた。足元なんて、なかなかアップにならないから、同じものをたくさん作っておいてもいいのに、そうしない。
 三国志ではなくて平家物語の人形の話になるのですが、よく見れば上半身の(鎧の下の)左右で着物の模様が違うんですよね。これは当時の武将は弓をうちやすくするために、片方を脱いでたんだそうで。だから一枚下の着物が露出するので、見える柄が違う。しかも脱いでも袖が邪魔にならないように、背中に回して鎧の下で止めてあったところまで、忠実に再現してあるそうです。
 こだわりというか執念というか、川本先生の人形作りに対する一切妥協しない姿勢がすごい。大作家たる所以だ。
 あ、だけど「武将の鎧の肩パット(なんて呼ぶのか知らない)部分が、装飾する前はなんの素材で出来てるか分かりますか?」と聞かれて、一秒で「分かりません」と根を上げたら「スーパーで売ってる肉や魚のトレーですよ」だってさ。
 軽いし加工しやすい。まさに臨機応変やでえ。
 いや、軽量化というのは人形操作のうえで非常に大事な部分なのだ。操作する人はセットの下にもぐって、人形を高く持ち上げて動かすからね。想像しただけで腕が疲れる。ていうかギャラリーには実際に触ってもいい人形が置いてあるんだけど、真似してみたら真っ直ぐに立たせることが、まず難しかった。演者さんもすごいね。

 三国志の他のお人形だと、やっぱり周瑜と趙雲が男前だったー。キリッとした表情であり、目の縁に赤いラインも入ってて色気があった。そういえば曹操だけ目の縁に青いラインが入ってた。アレはなんなんだろう。美術館の人に聞けば良かった。
 あと意外にも、孔明さまのお兄さんのお人形も展示してあったよ。諸葛瑾。
 それと荀イクがお年寄りじゃなかったから「あれ?」と思ったけど、お人形の説明ボードに「放送では老人だったけど、展示するにあたって若者にした」と書いてあった。たしかに、もともと曹操よりも八つ(だっけ?)年下にもかかわらず、なぜかお年寄りになってたんだよね。

 残念ながら呂布はいなかった。いまの展示が平家物語を中心にしてるから、三国志のお人形は少ないのだ。
 呂布のポストカードだけは購入。

 方天画戟持っていいポーズ

 戦袍と鎧がド派手。写真だと分かりにくいですけど、緑の戦袍の裏地が赤なんですよね。おしゃれさん。華がある。ポストカードの張飛はなぜかイノシシを背負ってた。そんな場面あったっけ。うーん買っとけばよかった。

 展示替えして、また三国志の人形が増えたら行きたいな。地図が読めない方向音痴のマチカさんですが、一度行ったから、今度はひとりでも行けそうだし。入館料も400円で良心的。ひとごとながら、こんなに安くて採算が取れるのだろうかと心配になる。

 お人形を目の当たりにすると、パンフレットに書いてある「人形はその役のためだけに生まれてきて、演じているとき、その生命は花ひらき、終わると微かな生命にもどるひたむきな存在」という文章が実感できる。
 演じているあいだは、生き写しの彼ら。退場後は眠りにつく。そうして、それぞれが抱いていた夢を、今も静かに見続けているようだった。
 いやー、行ってよかった。
 次は孔明さまのお墓参りだね。こればかりは余裕があったらで済む旅じゃないけど、いつか行けたらいいな。
(今週のあらすじ)
 周瑜の死を知った曹操はふたたび呉へ攻め込もうと考えた。しかし、その隙に西涼の馬騰に攻め込まれることを懸念して、まず馬騰を許昌へ招くと殺害した。
 馬騰が殺されたと知った息子の馬超は韓遂と復讐を誓い、曹洪が守る潼関の関所を攻めた。曹操も軍勢を率いて向かったが、到着する前に関所は落とされていた。
 そこで対峙する曹操と馬超。曹操は西涼の兵士の容姿は変わっている、と怪訝そうにした。すると部下の賈詡が「かつて西涼にはローマ軍の生き残りがいたと聞いています。その子孫なので装束も変わっているのでしょう」と答えた。
 いざ戦いが始まると、馬超の強さは呂布にも匹敵し、曹操は圧倒されてしまう。馬超に追われた曹操は、攻撃を避けるため森へ逃げ込んだ。それでも馬超は曹操を追い上げ背後まで迫った。馬超の槍が曹操に狙いを定めたが、振り上げた槍が木に刺さり逃がしてしまった。
 あと一歩だったというのに、仕留め損ねたことが悔しく、馬超は次の攻撃に備えて西涼から援軍を呼び寄せた。それを知った曹操は驚くどころか逆に喜んだ。馬超が援軍を呼べば、それだけ西涼の守りは手薄になるからだ。曹操は徐晃に兵を与え、西涼を背後から襲わせ、みずからは馬超の軍勢を分断させるため渭水を渡ろうとした。
 すると、そこへ矢が雨のように振ってきた。馬超が奇襲をかけてきたのだ。曹操は許褚に守られ、なんとかその場を切り抜けた。
 曹操は馬超のさらなる攻撃を防ごうと、土を盛って砦を築かせようとした。しかし砂地であるため作業がはかどらず兵士は疲労するばかりだった。困り果てた曹操のところへ、ひとりの老人が献策したいと訪ねて来た。その老人は「夜のうちに盛った砂へ水をかけておけば、翌日には凍って堅牢な砦が完成する」と言う。その妙案に曹操は感謝し、しばらく滞在するよう願ったが老人は立ち去った。
 さて、砦が完成した翌日、曹操は許褚を連れて陣を出た。そこへ馬超があらわれたが、許褚が護衛しているので曹操に手出しが出来なかった。
 許褚が馬超と一騎打ちで勝負がしたい、と曹操に願い出た。曹操は承諾し、馬超へ果たし状を送った。それを受け取った馬超は、かならず決着をつけてやると憤慨した。
 翌日、許褚と馬超は両軍が見守るなかで一騎打ちを始めた。互いに一歩も引かない壮絶な打ち合いが続く。日が暮れても拮抗したまま勝負かつかない。先に馬が疲れてしまい、馬を代えてふたりは戦った。
 やがて韓遂が自軍に命じて矢を射かけさせたので、曹操は許褚を呼び戻し、退却せざるを得なかった。馬超に押され続ける曹操だったが、徐晃の進軍が成功したとのしらせが入り風向きが変わった。そこで、次なる手として奸計を用い、馬超と韓遂の関係を悪化させようと目論んだ。
 曹操は馬超軍の前まで行くと、韓遂だけと話がしたいと言って呼び出した。そして出て来た韓遂と、以前都にいたころの思い出話をしただけで帰った。
 わけの分からない韓遂。馬超は何でもない振りをしていたが、内心で韓遂と曹操が内通しているのではないかと疑った。次いで曹操は韓遂へ手紙を送った。手紙はところどころが墨で塗りつぶしてあり、またしても韓遂は困惑する。手紙が届いたと知った馬超は韓遂に見せるよう迫った。肝心な部分が読めないようになっていた手紙を見た馬超は、自分に読まれては不味い部分を韓遂が消したのだと思い込む。疑われていると知った韓遂は、自分が裏切るはずのないことを訴えたが馬超の疑惑は深まるばかりだった。

以上を踏まえてどこまでも噓っぽいレビュー

 今回、孔明さまは全く出て来ませんでした。本当はしっかり暗躍していたのですが、省かれてしまったのでご紹介したいと思います。
 まず曹操が呉を攻めるつもりであるとの情報を掴んだ孫権。「大ピンチじゃん!」と周囲に相談すると、じいやの張昭が「劉備に協力させなはれ。劉備は魯粛にたっぷり恩がありますさかい、魯粛が手紙を送ればさすがの劉備も言うこと聞きますやろ」と助言したので、さっそく孫権は魯粛に人をやって頼みました。連絡を受けた魯粛は劉備へ手紙を送ります。

 ──お元気ですか。突然ですが未亡人っていいですね。夫を亡くした悲しみにくれる姿が儚く、妙に色っぽくてそそるものがあります。それに劣情を抱いてしまう背徳感が、なんとも言えない尾籠な気分をもよおし、悶々とした毎日を送っています。あのおかたも後任を託すついでに、妻も託してくれればよかったのにと思うことしきり。
 そういえば曹操が三十万の軍を動かして、呉に進軍するつもりらしいので、援軍を送って欲しいと孫権さまが言ってましたよ。放置すると孫権さまが飲んだくれて、みんなが迷惑するので、なるべく早く援軍を送ってください。よろしく。
 追伸
 わたしの喋り方が張昭どのとカブるのは、やめてもらいたいと思います。

 手紙を読んだ劉備は南郡に出ていた孔明さまを呼び寄せて相談しました。
「なあ、孔明。趙雲のように美人でも未亡人は中古だから嫌だという人間もあれば、魯粛どののように未亡人にハマる人間もいるのだな」
「……魯粛ちゃん元気そうだね。それで劉備さまは未亡人談義をするためにぼくを呼び戻したわけ?」
「ははっ。違うよ。孫権が曹操の侵攻にそなえて江南へ援軍を送って欲しいそうだ。魯粛どのに恩はあるが、正直送りたくない。どうやってごまかそうか」
「ああ、それなら曹操が江南を狙ってる場合じゃなくすればいいんでしょ。劉備さまがお手紙書けば済む話だよ」
「誰に送るのだ?」
「曹操は西涼が隙をついて攻め入ってくるのを常に恐れてるからね。それで馬騰をおびき出して殺害したわけだけど、息子の馬超が黙ってるはずがないもん。だから劉備さまは馬超に『曹操が憎いのは自分も同じ。恨みを晴らしたいなら協力します』ってお手紙を送って、長安を攻めるように仕向ければいいんだよ。馬超をぶつければ、曹操は江南どころじゃないもん」
「そう、うまくいくだろうか」
「馬超は慎重なタイプじゃないから、こっちが協力する姿勢を見せておけばすぐに動くよ。手紙を送るだけで馬超と孫権に恩が売れるんだから、今回は楽でいいね。あと魯粛ちゃんの顔も立つし」
「ついでに未亡人を落とす方法でも教えてやったらどうだ」
「そういうの劉備さまのほうが断然詳しいんじゃないの。あ、得意なのは若い子だったっけ?」
「……さて、ほうれん草に水でもやってくるか」

 といった具合で、馬超の曹操攻撃の裏に孔明さまの根回しがあったんだね。相変わらず腹黒いです。


・西涼の兵士はテルマエ・ロマエのルシウスと親戚なのか
 ルシウスがお風呂技師として活躍していた頃が130年代らしいので、曹操VS馬超は80年ほどあとの時代になりますね。馬超がローマ人の血を引いている設定なのか知りませんけど、もしそうだとすれば馬超から見て曹操達は「平たい顔族め!」といったところか。

 馬超は常時ノースリーブ!

 そんな馬超は呂布と並ぶ、麗しの武将として紹介されてるんだね。「顔は生まれつきおしろいを塗ったように白くて、唇は紅をさしたように赤い。肩は広くて腰は細い」だそうです。「馬超の腰は細い」か。……これ重要な気がする! 全国統一やおい模試に出る気がする! メモしとかな!
 当時は男も色白がイケメンの条件なんでしょうかね? ちなみに馬超は十七歳の若かりし頃にも一度登場していて(第十回)、その時は「色白で容貌は冠の宝石みたいにキレイで、目は流れ星みたいにキラキラです」だってサ。少女漫画に出てくるような美少年じゃないか。
 そんなふうに勇猛なだけではなく男前で華麗だったので、惚れっぽい曹操は「ふうん。父親の馬騰より男前だな。彼って、ちょっと素敵じゃない?」と、ときめいちゃう。
 でも孔明さまだって初登場のときは馬超と同じく「面如冠玉」と紹介されて男前扱いだわよ。いや、劉備も面如冠玉で口紅塗ったみたいな唇だと描写されていますが、すごくどうでもいい気分になります。いえ、劉備の本質は見た目どうこうじゃないと言いたいだけですよ。やだなあ。
 んで、演義世界の男前といえば周瑜。周瑜は「姿質風流、儀容秀麗」。何かに例えるとかじゃなく、もうストレートに描写されてんだね。周瑜の美しさの前には、どんな比喩も陳腐になってしまうのか、それとも「ハイハイ、イケメンですよ」と投げやりなのか、どっちなんですか羅漢中先生!
 なんとなくですが、作者の羅漢中先生は非リアだったんじゃないでしょうか。だからリア充の周瑜を筆でコケにしたに違いないです。
 あ、顔で思い出したわ。
 その昔、買ってもらった陳舜臣てんてーの「諸葛孔明」に萌ゆる部分があった。
 赤壁で周瑜が呉の軍勢を前にして演説し、孔明さまと劉備はそれを尻目に曹操が敗走したときに、どう行動するか地図を見ながら相談している場面から引用。

 周瑜は夏口で、全軍を上陸させた。そこで訓辞したのだが、士気を高揚させると同時に、そこで待機していた劉備軍の主力にたいする示意の目的もあった。
(曹操がいかに残虐か訴える、周瑜の演説が続くので中略)
「われらはどんなことがあっても、彼らを粉砕しなくてはならない!」
 全員が水をうったように静まり返っていたが、やがて怒濤のような雄叫びが上がった。
「声涙ともにくだる大演説だな」
 劉備はそう言って、べろりと舌を出した。いまだに庶民の生地がのぞいて行儀はよくならない。
「あの顔だから効果があるのです」
 と、孔明は言った。
「あの顔とは?」
「周郎と呼ばれる優さ男。美しい顔をしているでしょう、彼は。そんな美男があのような悲壮な演説をするので、みんなが興奮するのです。奮い立つのです」
「あれが美しい顔か」吐きすてるように劉備は言った。「我が諸葛孔明のほうが、よほど立派な顔をしているわ」
「話を元に戻しましょう」
 孔明は卓上の紙に目をやった。


 照れてますよー! この人、照れてますよー!
 まあ、立派な顔なので、別に「孔明のほうが男前だよ」と言われているわけではないのですが「美男の周瑜よりも孔明のほうがタイプだなー」と言ってるようなものなので「もうっ。劉備さまったら……」と乙女気分の孔明さまジャマイカ。しかも、さりげなく「俺の」と頭に付けるところが、人たらし劉備のプロの技ですよ。
 人気者の彼が自分をどう思っているのか不安な時に「俺の」なんて独占するようなことを言われたら「今すぐここで抱いて。獣のように体を求めてよ!」と感激すること山のごとし。孔明さまの目の前に広がるのは、赤壁周辺地図なんかじゃなくてふたりの未来予想図だったに違いありません。
 でも、こういうことをサラッと言う男は、確実にみんなにも同じこと言ってますからね。未来予想図は苦難の道のりの連続ですよ。モテる男に恋してしまったんだから仕方ないね。


・ものすごい勢いで馬超に追いかけ回される曹操
 対峙したものの馬超が強すぎるので、ひとまず馬で逃げる曹操。でも「赤い戦袍を着たのが曹操だ」とバレてしまったので、曹操は戦袍を脱ぎ捨てる。これで一安心かと思えば「ヒゲが長いのが曹操」とバレた。すると曹操は躊躇なくヒゲを切り落とした。

 風に舞うヒゲ 切ない

 それなのに「ヒゲ切ったらしいから、短いのが曹操」と、ごまかしてもすぐに伝わってしまう。曹操は旗をちぎって首に巻いて逃げたのでした。
 さすが笑いを取ることに貪欲な曹操さんやでえ。そのためなら、ヒゲなんか惜しくないんだ!

 気にしないもん!


・次から次へひどい目にあう曹操
 馬超が兵を西涼から集めていると聞いて、曹操は「根拠地を手薄にするとは、馬超もアホめ」と喜びます。そこで徐晃を西涼へ出発させました。そうやって馬超の退路を断たせるためです。そしてみずからも兵を率いて渭水を渡り、馬超の軍を挟み撃ちにする作戦に出ました。
 アホ呼ばわりされた馬超ですが行動力は抜群です。曹操が渭水を渡ろうとしているという情報を得て急襲しました。曹操が船に乗り込もうとしていたところを馬超が襲う。
 この辺りの曹操が、原本ではやけに悠長なかんじに読めるからおもしろかった。
 原本ではこんなふう。

 矢が飛んできたので兵士達は馬超が来たと悟って、大混乱に陥り、一斉に船に乗り込もうとした。しかし曹操は岸辺に腰を降ろしたまま動かず、騒ぐなと命じていたのだが、ついに馬超の軍勢が押し寄せた。
「敵がすぐそこまで来てんですよ。早く船に乗ってください!」と許褚が曹操をせかす。それでも曹操は「別に来たっていいじゃん」とぶつくさ言う。


 悠長というよりは、ふて腐れてんでしょうか。
 アニメに話を戻して。
 曹操を助けにきた許褚。曹操の手を握り、降り注ぐ矢の雨を馬の鞍を盾にしながら曹操を守って逃げます。惚れっぽい曹操なら、このシチュエーションにときめいてもおかしくないのですが、そうでもなかったです。やっぱアレか。曹操は面食いなんか。

 鞍を盾に…って、当たらんかコレ?

 許褚の陰に隠れていればいいようなものの、曹操は身を危険にさらしても画面に映り続けることを選んだようです。曹操の芸人魂はホンマもんや!


・ふしぎな老人が訪ねて来たよ
 馬超を防ぐため、土で砦を築こうとした曹操。でも砂地なので、すぐ土が崩れてしまう。第一ここはクソ寒い。兵士は寒さで震えるわ、馬超は怖いわ、で曹操は家に帰りたくなった。ひとりでいじけていると、見知らぬ老人が献策したいと訪ねて来た。藁にもすがる思いで曹操は面会しました。
「して、先生のお名前は?」
「この世では名前など、単なる記号にすぎません」
 と老人は、やけに中二病くさいことを言います。一瞬不安になった曹操なのですが「何を教えていただけるのですか?」と訊ねました。すると老人は「なぜ砦を築かないのですか」と言いました。
「築こうとはしとるんですがな。この辺りは砂地でうまく築けないのです」
「兵法を熟知していらっしゃる曹操さまが、こんなこともご存じないとは。夜、気温が低いうちに土で砦を築き、水をかければ凍り付くのが道理。カッチカチになります」
「どこかで聞いたことのあるフレーズですが……カッチカチですか?」
「カッチカチです」
「カッチカチになるんですね?」
「カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ?」
「やだ、スゴイ!」
 というわけで、曹操の砦は一夜にして完成したのでした。こんな寒いところで常時ノースリーブの馬超は元気ありすぎだ。


・一騎打ちだよ全員集合
 砦も出来たし、随分と機嫌の良くなった曹操。許褚をつれて馬超を煽りに行きます。
「やーい馬超見てみろ。一晩で砦が出来たぞ! カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ!」
「うるさいわ、ボケェ! ちょっと覚えたフレーズを使いたくって来ただけじゃろがァァ!」
 馬超が馬に乗って陣営から飛び出して来ました。しかし曹操の傍らで許褚が睨みを利かせているのを見ると、馬を止めて訊ねました。
「そういや、おんどれの軍に虎候いう奴がおるらしいな。どこにおるんな?」
「おまえの目は節穴か! ワシじゃボケェ!」
 許褚が刀を抜いて叫びました。
「はあん? おめえか。またアホそうな面しとるの」
「おまえに言われたないわ。頭に人間やのうて、馬の脳が入っとるらしいなあ?」
「うるせえデブ。豚はおとなしゅう豚小屋に帰れや」
「バーカ」
「デーブ」
「バーーーカ!」
「デーーーブ!」
「イラつくわ! ワシとタイマンはれや。どつき回して、余計アホにしたるわ!」
「おお、やったらあ。おんどれ取っ捕まえて市場に出荷したらあ」
「曹操さま、こいつやっちゃっていいですよね?」
 許褚は怒りで震えながら振り向きました。すると曹操は袖をまくり上げて言いました。
「カッチカッチやぞ!」
「……フレーズが気に入ったのは分かりますが、さすがのわたしも、ちょっとイラッときます」
「ああ、一騎打ちするんなら明日にしろ。厚着して来なかったから寒いし、お腹空いたし」
「分かりました」許褚は丁寧に頭を下げてから馬超を睨みました。「絶対ぶち殺したるわ」
「楽しみじゃのう。もちろん、おめえの泣きっ面がじゃ」
「バーカ!」
「デーブ!」
 そして翌日。
 左右に分かれた両陣営。その中央へ騎乗した馬超が颯爽と躍り出ました。
「曹操の飼い猫が! 遊んでやるから出てこんか!」
 ブタから飼い猫へ。なんだか、かわいらしくなっております。馬超は許褚が虎候と知ったので、飼い猫呼ばわりしたんでしょうね。
 飛ぶように馬を走らせる馬超を見た曹操は諸将を顧みて言いました。
「馬超の剛勇は呂布にも劣らんな」
 その言葉が終わらないうちに、許褚は馬を蹴立て雄叫びを上げながら飛び出ました。曹操は呂布の名前を出して、許褚に発破をかけたようです。
 馬超と許褚は百合以上打ち合ったのですが勝負がつかない。先に馬が疲れてしまった。
「おい、馬を代えて続けるぞ」
 馬超が持ちかけると許褚も応じました。陣営に戻った馬超は水を飲んで一息つきます。その頃、イライラが頂点に達していた許褚はなぜだか甲冑を脱ぎ捨て、もろ肌を脱ぐと馬に飛び乗り突進して行ったので、両陣営の全員が呆気にとられました。

 おい誰が乳首券を使っていいと言った

 この番組では貴重な乳首券の、前回の使用者は黄蓋でした。そして今回は許褚です。
 責任者は、ちょっと出て来てもらいたい。あるでしょうが。もっと使いどころがあるでしょうが。張遼とか甘寧とか孔明さまとか孔明さまとか孔明さまとか。
 CD買って握手券がついてくるなら、三国演義のDVD買って乳首券はついてこないんでしょうか。それとも土下座をすれば乳首が見せてもらえるのでしょうか。当方のプライドは紙くず同然ですので、乳首のためなら土下座をいとわない所存でございます。

 さて再戦開始の馬超と許褚。三十合ほど打ち合ったのち、馬超の槍が許褚のみぞおち目がけて突き出された。あわや串刺しかと思われましたが、許褚は手で槍を掴んで防いだ。ふたりは槍の両端を握って奪い合う。やがて槍が音を立てて割れると、今度は折れた槍でお互いをバキバキに殴り合った。
「曹操さま。豪傑同士の一騎打ちというものは、凄まじいものですね。この寒空の下でも熱気が伝わってきて汗ばむようです」
 賈詡が感心したように言った。賈詡にしてみれば、馬超との対戦は二度目です。上記の馬超十七歳のころに、賈詡は参謀として別の軍にいたのですが、馬超の父親馬騰と韓遂から攻撃を受けていたのです。たくましく育ったなあ、とか思ってたかもしれませんね。
 曹操は短くなったヒゲを触りながら笑いました。
「ふふ。ワシはユニクロのヒートテックを着ているから、もともと寒くないぞ! 薄いのにこの温かさ。もう手放せんわい。野戦のお供にヒートテック!」
「……曹操さま。スポンサー以外の商品を宣伝するのは御法度ですよ」
「宣伝すればお礼でどっさり送ってくるかもしれんだろ」
「どうでしょうねえ。曹操さまで宣伝効果があるかどうか」
「なんだと!」
「おや、向こうの陣営に動きが……? いけません、弓を構え始めましたよ。すぐに許褚を呼び戻してください」
 馬超の軍勢が矢で攻撃を始めました。許褚は甲冑を脱いでいたので矢が刺さってしまいます。それでもなんとか曹操軍の砦へ戻りました。


・ちょっぴりセンチメンタルな曹操
 曹操はみずから許褚の矢傷を手当をしてあげます。

 優しいぜ、曹操さま

「これに懲りたら、もう裸で戦場へ出るな」
「すんません」
「ところでワシにも乳首券の支給はないのか?」
「さ、さあ?」
 そこへ徐晃が西涼の封鎖線を超え、進軍に成功したとしらせが入りました。そのしらせは馬超にも伝わります。

「まずいことになったな、叔父上」


左が叔父の韓遂。ダンディでかっこいいな!

「曹操は許褚に決闘を申し込ませ、われわれの注意を引きつけ、その隙に乗じたようだな」
 苦悩の表情を浮かべる韓遂。馬超はカンカンに怒ります。
「曹操はほんまに悪賢い悪党じゃな」
「ここから先はどうすべきか……」
「どうもこうもねえわ。戦うしかなかろうが」
「まだ曹操を倒してもいないのに、西涼に攻め込まれてしまったのだぞ」
「我が軍の士気が高いうちは、絶対に撤退なんかせんからな!」
「馬超よ。士気が高いだけでは戦えない。われわれは曹操に前後を挟まれてしまったのだ。それがどれだけ不利か分かるだろう?」
「……分かっとるけど」(※分かってません)
「ここは曹操と和平を結び、来年の春を待つべきだろう」
 馬超は納得しませんでしたが、韓遂は手紙を持たせた使者を曹操へ送りました。
 手紙を受け取った曹操は賈詡に訊ねます。
「この和平の要請をどう思う?」
「受け入れたふりをしたのちに、反間の計をもちいて馬超と韓遂に仲間割れを起こさせるのです。そうすれば簡単に打ち破ることができるでしょう」
「同じことを考えていたようだな。馬超は呂布に劣らない剛勇だ。しかし呂布と同じように策略を持たん。その呂布には陳宮が軍師でついておったが、馬超にはそれすらない。韓遂を失えば奴はおしまいだ」
 曹操は陳宮のことを思い出し未練をのぞかせました。その昔、手に手を取り合って駆け落ちした相手は、いつまでたっても忘れられないようです。
 なんだか最近は昔のことばかり思い出してしまう。これも年を取ったせいなのか、と曹操は思いを巡らせてから言いました。
「よし。明日、ワシが直接韓遂を訪ねよう」


・馬超ドッキリ大作戦
 翌日。
 左右に諸将を引き連れ、曹操は陣営を出ました。そして韓遂配下の兵士に、韓遂だけを呼び出すよう命じます。
 単騎で進み出た曹操。韓遂配下の兵士は直接曹操を見たことのないものが多く、一度見物しようと陣営から出て来ました。
 このあたり戦争中なのに無邪気というか、のどかでいいですね。
 見物客でごった返し、曹操はスター気分。上機嫌になって言いました。
「おまえたち、この曹操が見たいか? 目が四つ、口が二つあるわけでなし、おまえたちと同じ普通の人間だ。ただ、人よりちょっと知恵があるだけだ」
 曹操を見ながら、兵士達はひそひそ話をします。
「平たい顔族だね」
「平たいね」
「噂通りヒゲが短いね」
「馬超さまに追いかけ回されて、切り落としたのってマジだったね」
 そんな噂話をされているとも知らず、曹操は一発芸のひとつでも披露しようかと袖をまくり上げたとき、韓遂が馬に乗ってあらわれました。
「わたしに話があるとか?」
「カッチカ……お、おう。韓遂将軍か。よく来てくれた。将軍の父上とわたしは同年に考廉に推挙され、わたしは実の叔父のように敬愛していたものだ。また、きみとは同年に役人になったが、将軍は今年でいくつになられるのかな?」
「わたしの年を聞いて、どうされるのですか」
「いや、歳月が流れるのは早いと思ってな。将軍、子供は何人おられる?」
「一男一女がいますが……」
「それはけっこう。ちなみにわたしは三十人近くおるぞ」
「多いわ!」
「ふふ。魏の種馬とは、この曹操のことだ。この年になっても現役だぞ。カッチカチやぞ! ゾックゾクするやろ?」
「するかアホンダラ! 結局下ネタ言いにきたんか?」
「ワシの暴れん坊将軍は馬並だ!」
「もう、おまえ帰れよ!」
「じゃあね〜」
 曹操は馬首をめぐらせ陣営へ帰ってしまいました。韓遂も首をかしげながら戻ります。すぐに馬超がやって来て訊ねました。
「叔父上は曹操と何を話したんな?」
「種馬でカッチカチとか」
「はあ?」
「いや、昔話をしただけだ」
「軍事のことは話さんかったんか?」
「曹操が言わないのだから、わたしからも持ち出せないだろう。わけが分からなかった」
「……ふん」
 馬超は韓遂が曹操と内通しているのではないかと疑心を抱きますが、その場は何も言わずに立ち去った。
 一方曹操陣営。
「あれで馬超は韓遂を疑っただろうか?」
 曹操が賈詡に訊ねました。
「まだ足りませんね。もう一押ししましょう」
「何か妙案があるのか?」
「馬超は機略については無知です。曹操さまは韓遂へ手紙を書いてください。そしてところどころ字をぼやかし、肝心な部分は塗りつぶしたり書き直したりするのです。曹操さまから手紙が届いたと知れば、馬超はきっと読みたがるはずです。しかし手紙の重要な部分が消されているのを見て、知られてはまずいことを韓遂が咄嗟に塗りつぶしたのだと思い、ますます疑いを深めるでしょう。わたしのほうも韓遂の部下を取り込み裏工作を進めますので」
「はなはだ妙案だ。きっと馬超は騙されるな」
 曹操はさっそく手紙を書いて、賈詡の助言通りにすると韓遂へ届けさせました。
 受け取った韓遂は意味不明の手紙を前に困惑しました。そこへ馬超が来ます。
「叔父上。曹操から手紙が来たとか?」
「これなのだが、さっぱりわけが分からないのだ」
「この塗りつぶしてあるのは?」
「はじめから、こうなっていたのだ。間違えて下書きを送ってきたのだろうか」
「曹操は慎重な男じゃけえ絶対に間違えるわけねえ。叔父上、ホンマは昨日曹操と何を話したんな?」
 馬超が疑いの目で見ていることに気付いた韓遂は慌てます。
「誤解するな、馬超!」
「叔父上は俺を裏切るつもりなんか。力を合わせて曹操を倒そう思うとったんは、俺だけだったんじゃな」
「信じられないというのなら、明日わたしが陣営の前で曹操と話す。おまえはその時に隙を見て曹操を殺せ」
「それで叔父上の本当の気持ちが確かめられるんじゃな?」
「ああ、わたしが裏切るものか」
「……ふん」
 馬超は不服そうに韓遂の陣幕から出て行きました。しばらくして韓遂の部下達(買収済)が陣幕へ入って来て言います。
「もう何をしても馬超の疑いは深まるばかりです。殺される前に曹操に降伏したほうがいいですよ」
「しかし、わたしは馬超の父と義兄弟の契りを交わしているのだ。裏切ることなど……」
「迷っている時間はありませんよ。将軍がご命令をくだされば、われわれが馬超を捕らえて曹操に差し出します」

「いや、もう遅い!」

 そう叫んで韓遂の陣幕へ突入してきたものがいた。
 というわけで次回につづく。


「またね」「殿。乳首券は勘弁してください」
(今週のあらすじ)
 赤壁で大敗を喫してからというものの、曹操は毎日を鬱々と過ごしていたが、以前より着工させていた銅雀台落成したので、多くの文武の官僚を集めて大々的に祝宴を開いた。
 そこで曹操は武将達に武芸の腕前を競わせようと思いつく。しだれ柳の枝に錦の戦袍をかけさせ、その前に的を置くと、馬上から弓矢で射るように命じた。的の真ん中に命中させたものには、柳にかけた錦の戦袍を褒美として与える。と曹操が言うがいなや腕に覚えのある武将が続々と名乗りを上げ、的に矢を命中させて行った。そのなかで徐晃だけが見当違いの方向へ矢を射った。
 矢は的を大きく外れると戦袍のかかった枝を射抜いた。そうやって徐晃がまんまと戦袍を手に入れようとしたとき、今度は許褚が馬を飛ばして奪いにきた。すると他の武将達まで集まって戦袍をめぐって争い始めたものだから、曹操はひとしきり笑って、戦袍は全員に与えると言うとその場をおさめた。
 上機嫌の曹操のところへ程昱があらわれた。孫権と劉備が荊州を奪い合っているという情報を持って来たのだった。曹操は劉備と孫権に争わせ、漁父の利を得ようと考え、皇帝に上表して周瑜を南郡大守に任命した。
 しかし曹操の思惑など、周瑜はお見通しだった。孫権も劉備との開戦には消極的なので、ふたたび魯粛を荊州へ派遣した。

 魯粛の来訪を知った劉備は孔明に対応を相談した。孔明は「魯粛が荊州の話を持ち出したら大声で泣いてください」と頼む。劉備がその通りにすると魯粛はわけが分からずうろたえた。そこへ孔明があらわれ「蜀の劉璋は劉備の親戚なので攻め入ることに忍びない。だが、このままでは義理の兄になった孫権にも申し訳がない。困り果てているので、もう少し猶予が欲しい」と劉備の胸中を語った。
 魯粛は言葉を失って引き返したのだが、周瑜にまた騙されたのかと呆れられる。そこで周瑜は別の策を魯粛に授け、荊州へ向かわせた。魯粛は劉備に会うと、蜀侵攻が忍びないのであれば、呉が代わりに攻め落とす。その後荊州を返還するよう持ちかけた。蜀侵攻の際には荊州を通るので、食料を提供することを約束させ、魯粛は帰って行った。
 見送りに出た劉備は、これをどう考えるか孔明に訊ねた。「周瑜は荊州を通過する名目で入り込み、それに乗じて攻め落とすつもりでしょう」と答えた孔明には何か策があるようだった。

 魯粛から劉備の返事を聞いた周瑜はすぐに大軍を率いて荊州へ到着したのだが、城壁の門は固く閉ざされたままだった。周瑜が不審に思っていると、趙雲が城壁の上にあらわれ「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ」と告げ、兵士に弓矢で攻撃するよう命じた。突然の攻撃に呉軍は大混乱に陥る。追い打ちをかけるかのように、関羽、張飛、黄忠、魏延がこちらへ向かっていると報告が入る。「周瑜を捕まえろ」と叫ぶ声も四方八方から聞こえてくる。激怒した周瑜は傷口が開いてしまい、血を吐き気絶し落馬した。同行していた甘寧は全軍を撤退させた。

 やがて意識を取り戻した周瑜は琴の音が聞こえると言う。しかし誰の耳にも琴の音は聞こえない。それでも周瑜は「あれは諸葛亮が琴を弾いて挑発しているのだ」と言う。すぐにでも進軍すると命令を出す周瑜を甘寧は必死に止める。そこへ孔明からの書状が届いた。書状には「蜀は遠く困難な立地にあり、また守りも堅い。周瑜が攻めていけば呉の守りは薄くなり、曹操がその隙を狙って攻め込めば呉は木っ端微塵になる。そのことを考えると黙ってはいられませんでした。どうか考え直してください」と書いてあった。
 孔明は周瑜の考えをすべて看過し先手を打ってくる。同じ時代に生まれたことを恨みながら、周瑜は血を吐き息絶えた。

 周瑜の死を知った劉備は誰を弔問に遣わすか孔明に相談した。孔明は自分が行くと言った。それは危険過ぎると劉備が止めたのだが孔明の決意は固く、趙雲をともなって呉へ行ってしまった。
 孔明が弔問に来たと聞いて、呉軍は殺意をみなぎらせた。しかし趙雲がついているので手出しが出来ない。殺気の立ちこめるなかを孔明は静かに進み、周瑜の棺の前までくるとひざまずき、涙で声を詰まらせながら祭文を読み上げた。捧げ終わると、孔明は地に伏し激しく慟哭した。それを見ていた呉軍の諸将はこころを打たれ、落涙すると、もう誰も暗殺しようとするものはいなくなった。

 以上をふまえてどこまで噓か分からないレビュー

・第一回!チキチキ!!錦の戦袍争奪戦in銅雀台落成式
 ここのシーンは演義のなかでも大好きなシーン。でも省略されるだろうと思ってたから出て来て愉快。
 これ放送では徐晃を許褚が追いかけてからは、武将がよってたかっての混戦になってましたけど、元の演義では徐晃と許褚のガチの殴り合いに発展したのだ。
 武将同士の素手ゴロって、あんまりないから珍しい。名のある武将は大抵騎乗してるから、そこから弓を射ったり、武器で斬り合ったりがほとんどだし。そんで争奪戦のオチが、殴り合ったせいでご褒美の戦袍がボロッボロになりましたってところも含めて好きな場面。

 「わははー。元気が一番!」

 と、こんなふうに遊ぶ余裕のある曹操は、カツカツの劉備や孫権と比べて、国力の差が圧倒的。勢力は強大。ただのウッカリおじさんじゃないのだ。
 なんの本か忘れたけど、この関係を説明した「なるほどなあ」と思ったくだりがあった。それには曹操とその他勢力の立場は、太平洋戦争中のアメリカと日本だと書いてあった。分かりやすい。


・泣く子と地頭にはかなわない
 魯粛がやって来たと聞いて、孔明さまは劉備に泣けと指示します。そしたら言われた通り大号泣できるんだから、ホンマ劉備は役者やでえ。呂布が劉備に対して「こいつが一番信用できないんだぞ!」と言いましたが、いやはやごもっとも。
 名演技の劉備にオロオロするだけの魯粛。そこへ「泣ァかした泣ァかした。先生に言うたーろー」と歌いながら孔明さま登場。
「あーぁ。劉備さま泣かせちゃったの? 魯粛ちゃん、いけないんだ」
「ちゃ、ちゃいまんがな。ワテなんもしとりまへんがな」
「何もしてないのに、劉備さまが泣くわけないじゃん。あ、ひょっとして荊州のこと言っちゃった?」
「そら、そのために来とりますから」
「あのねえ、約束をしたからには劉備さまも荊州を返したいのはやまやまなの。でも蜀の劉璋さまは劉備さまの親戚だから攻めるに忍びないの。だから、こんなに苦しんでるの。それなのに胸ぐら掴んで脅すなんて、魯粛ちゃんひどいよ」
「そんな乱暴しとりまへんで」
「ぼくが、その噂を広めれば、真実はどうであれ事実になるんだよ」
「やーめーてー。脅しとるのは、そっちやないですか」
「もうちょっと猶予をちょうだいよ。今やろうと思ってた時に、やりなさいって言われるの一番ムカつくんだよね」
「ああ、お風呂入ろうと思うとった時に『まだ入らないの!』って怒られると無性に腹が立ちますからなって、そんな話しとる場合やのうて、ワテもそろそろ尻に火がついとりますさかい、これ以上は……」
 魯粛が言うと、孔明さまは咳払いをしました。すると劉備はさらに大声で泣き出します。
「ほらァ。魯粛ちゃんが、そんなこと言うから劉備さまにも火がついちゃったじゃん。なんと、おいたわしいお姿!」
「いやいやいや、いま明らかに合図出したやん。咳払いして合図出したやん!」

 「んふ」


「……で、ユーは手ぶらで帰って来たのか?」
 周瑜は呆れ返った。魯粛はうなだれている。
「すんまへん」
「なにが蜀の劉璋は親戚だ。劉備は劉姓というだけで、まったく関係ないだろ」
「孫権さまのところへ、どんな顔して帰ったらええんやろ」
 顔色の悪い魯粛。周瑜は元気づけるように魯粛の肩を叩いた。
「心配するな。そんなことだろうと思って、ちゃんとアイディアを用意しておいた」
「ほんまでっか?」
 魯粛の表情が明るくなる。
「ふふ。魯粛はもう一度荊州へ行って、劉備にこう言うんだ」
 周瑜は耳打ちをした。

「また魯粛が来た?」
 孔明さまから報告を受けた劉備は顔をしかめた。
「そうみたい。これだけ早く戻って来たことを考えると、たぶん孫権さまのところへは帰らず、周瑜に入れ知恵されて来たんじゃないかな」
「ふむ。今度はどうやって追い返そうか」
 首をひねる劉備。追い返すとか、なにげに劉備ひどい。真摯に取り合う気はゼロのようです。
「ぼくに任せて。劉備さまはぼくがうなずいたら、魯粛ちゃんが何を言ってても同意してくれたらいいから」
「何を言ってても? ふむ、あい分かった」

 楽隊の音楽とごちそうで、魯粛はもてなされます。

 普通においしそうだ。

 お酒を飲んで魯粛はにこやかに話します。
「この前のことを孫権さまにお伝えしましたら、やっぱり劉備はんは情の厚いおかたや言うて、感心してはりましたで」
「いえいえ。人目も憚らず泣いてしまって、申し訳ありません」
 劉備もお酒を飲んで、ちらりと横目で孔明さまの様子をうかがいます。孔明さまは素知らぬ顔で果物を摘んで食べていました。
「それで劉備はん。先日、蜀は親戚の劉璋がおさめとるから、攻めるのに忍びないいうことでしたけど、それやったらウチが落とすいうのはどうでっしゃろ。玉錦さまの持参金代わりいうことで差し上げます。それで荊州を返してもらえまへんやろか」
「そちらが蜀を?」
 劉備はふたたび孔明さまを見ました。すると孔明さまは、まるで話を聞いていないかのような顔をしていましたが、大きくうなずいたのです。今だ──と劉備は魯粛に向かって身を乗り出しました。

「ピース! 魯粛ちゃんピース!」

「……は?」
 今度は一体何事だ、と固まる魯粛。孔明さまが慌てて腰を上げました。
「ろ、魯粛ちゃん。ぼく、ちょっと劉備さまと話があるから、ここで待っててくれる?」
「へえ、分かりました」
 劉備の奇行にビクつく魯粛は動悸を押さえて言った。孔明さまは劉備を部屋から連れ出し、顔を寄せて小声で迫ります。
「劉備さまは、何がやりたいわけ?」
「孔明がうなずいたら同意しろと言ったじゃないか」
「言ったよ。言ったけど、あれはなんなの?」
「全力で同意したまでだ」
「……劉備さまの意気込みは分かったよ。でも魯粛ちゃんには分かりにくかったみたいだから、席に戻ったら普通に同意してもらえるかな?」
「注文が多いなあ」
「できるの? できないの?」
「分かった分かった。そう怒るな。孔明はカルシウムをとったほうがいいぞ。小魚とか」
「劉備さまが、アーンして食べさせてくれたら、ぼくいくらでも食べ──」
「さて、戻るか」
「うう」
 お待たせしてすみません、と詫びて劉備は腰を降ろした。
「魯粛どののご提案ですが、我がほうにとって、これほどの僥倖はございません。ありがたく承知させていただきます」
「そうと決まれば話が早い。早速相談に入らせてもらいますけど、蜀へ行軍する途中、この荊州へ寄らせてもらえまへんやろか。なんせ、かなりの遠征になりますさかい、食料や秣を補給させてもらえると助かります」
「孫権さまの温情に甘えさせていただくのはこちらですから、協力は惜しみません。ぜひお立ち寄りください。宴会をもよおしお迎えさせてもらいます」
「おおきに。ほな、これで失礼させてもらいます」


・ご機嫌で荊州へ向かう周瑜
 周瑜は大軍を率いて水路、陸路、両方から荊州へ入った。しかし城門の前まで来たところで、趙雲に「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ。通すわけないだろ。常識的に考えて」と言われて、おまけに攻撃を受けてしまう。当然ブチ切れる周瑜。そのせいで、せっかく治りかけた傷が開いて吐血祭り。馬から倒れ落ちてしまう。
「大都督!」
 甘寧が駆け寄って抱き起こします。

「おい、どうした!」

 ……あれ? 何この構図。まさかのお姫様だっこ。今まで、このCPはノーマークだったけど目覚めそうになる。イケメンエリート周瑜とやくざ上がりの男前甘寧。おいしいやん。素敵やん?
 と思ったのはマチカさんだけじゃなかった。なんと甘寧の食指まで動いた。
「しっかりしろ、大都督」
「……うう」
「よかった、意識が戻ったか」

「甘寧。なぜ……股間に手を置く」

「大都督ともあろうものが、こんなていたらくでどうする。いま、起こしてやるからな!」
「いや、そこは起こさなくていいから」
 甘寧はうなずくと、周囲の兵士に向かって声を張り上げた。
「大都督の一大事だ。おまえたち、この甘寧と声を合わせろ。いくぞ! 公瑾のッ! ちょっといいトコ見てみたい! そーれ、オッキ、オッキ!」
「小喬助けてー!」
「クソッ。どうして起きないんだ! 精神的な問題なのか? 最近強いストレスを感じていませんか?」
「なんだその口調は。いま、おまえに対して最高にストレスを感じている」
「ははーん。ムードを大切にするタイプ?」
「ムードもへったくれもあるか。ガンガンに矢が飛んで来てるだろ」
「なるほど。では静かなところへ移動して続けよう。全軍退却!」
「退却するのはいいが、おまえは俺から遠く離れてろ!」
 そう言うと、周瑜は激しく咳き込み意識を失いました。
「あれ? 本格的にヤバくない?」
 甘寧は周瑜を肩に担ぐと退却したのでした。


・不気味なぐらい、いい人になってる孔明さま
 その日の夜、孔明さまはひとり琴を弾いていました。その音色が遠く離れた場所の周瑜には聞こえているという演出がニクいですね。
 周瑜は諸将に見守られながら息をするのも苦しそう。そこへ孔明さまから、とどめのお手紙が届きます。内容を読んだ周瑜は孔明さまに翻弄される怒りよりも、どれだけあがいても決して敵わないという絶望で深いため息をつきました。もう怒る気力も残っていなかった。
 怒りで人は死にません。絶望が人を殺すのです。周瑜は有名な台詞とともに短くも激動の生涯を終えます。
「天はわたしを生んでおきながら、なぜ諸葛亮をも生んだのだ」


「……周瑜」

 孔明さまの弾く琴の弦が不意に切れました。
 星を見上げて何か悟ったような表情の孔明さま。孔明灯に火をともし、そっと夜空に浮かべます。そこへ劉備がやって来て「周瑜が亡くなったそうだ」と告げました。そして誰を弔問に行かせるべきだろうか、と訊ねます。
「ぼくが行く」
「だめだ。呉の連中は周瑜を殺したのは孔明だと思っている。行けば殺されてしまうぞ」
「それでも、ぼくが行く。ぼくじゃなくちゃだめなんだよ」
 夜空に舞い上がっていた孔明灯が流星のように燃えながら落ちてゆきました。
「分かった。どうせ行くなと言っても聞かないのだろ。じゅうぶんに気をつけて行って来い」
「うん。子竜ちゃん借りていい?」
「ああ、趙雲に五百の兵をつける」

 と、アニメだと周瑜の死を悼み、心のなかで泣いているように見えますが、実際はこうですからね。

 ──孔明在荊州、夜観天文、見将星墜地。乃笑曰、「周瑜死矣。」

「あ、周瑜死んだわ」と笑いながら言ってる。いやいや、でも行間に孔明さまの悲しみが隠されてるに違いない。それを読み取れということだよ、きっと。たぶん。苦しいな。


・弔問に向かう船の上の孔明さまと趙雲
「みんなぼくを殺そうと思ってるだろうね」
 白い喪服に着替えた孔明さま。
「先生でも気弱になることがあるんですね。わたしがお守りしますから安心してください」
 趙雲も喪服を着ていますが、愛用の槍はしっかり携えている。
「あのさ、子竜ちゃんも、ぼくのことひどい人間だと思ってる?」
「まあ、誰からも好かれるいい人ではないですね。確実に」
「はっきり言い過ぎ。別にいいけどね。みんなから好かれたいとも思ってないし。だからって殺されるのはごめんだし、よろしくね」
「先生、手を出してください」
 趙雲は片手を差し出し握手を求めた。
「なんなの?」
「いいから、出してください」
 趙雲は屈託のない笑顔を浮かべています。孔明さまが不審そうに手を伸ばすと、趙雲はきつく握って上下に振った。
「ほら。大丈夫ですよ、先生」
「痛いよ放して。子竜ちゃんの力が強いのは分かったって。安心してればいいんでしょ」
 孔明さまは解放された手をさすります。趙雲は相変わらずニコニコ笑っていました。


・弔辞をささげる孔明さま
 孔明さまの弔辞は書き下し文を読んでも難しいなあ。ざっくり分かる範囲だけでも書こうと思ったら量が半分ぐらいになった。ドンマイ。



「ねえ、周瑜。死ぬには早過ぎるよ。人の寿命はあらかじめ決まってるっていうけどさ、だからってこんなのないよ。
 いまお酒をそなえるから受け取ってね。
 周瑜は子供の頃、孫策さまと出会って親友になったんだよね。それから舞い上がる鳳凰のような力強さをもってして江南に割拠した。孫策さまにとって、周瑜は本当に心強い存在だったんだと思う。
 いい奥さんをもらって、王朝のため立派に働いたよね。
 曹操なんかに負けず、武勇と知略の限りをつくして、始めから最後まで戦い抜いた。周瑜こそ英雄と呼ばれるに相応しい。それがこんなに早く死んじゃうなんて惜しいよ。
 でも、たとえ三十代で死んだとしても、周瑜がどれだけ素晴らしい人だったか、いかに心を尽くしたか、それはきっとこの先も長い間伝えられるはずだよ。
 周瑜を失ったことを考えると、心が壊れてしまいそうになる。きっと、この悲しみはいつまでも続く。孫権さまも泣いてる。みんな、みんな、泣いてる。
 あの時、ぼくみたいな人間が呉までやって来て戦えたのは、周瑜の力があってこそだった。いつ死んでもおかしくなかったけど、周瑜がいたから怖くなかったんだ。
 ねえ、周瑜。これでお別れだね。もし魂がここにあるのなら、ぼくの声を聞いて。そしてまごころに触れてよ。ぼくのことを本当に分かってくれた人は、この広い世界で周瑜しかいないんだよ。
 ねえ、周瑜。つらくて、悲しくて、たまらないよ。
 ぼくの祈りが……どうか届きますように」
 孔明さまは弔辞を読み終わると、地に突っ伏して全身を震わせて泣きました。
「周瑜どのと孔明は仲が悪いとばかり思っていたが、それは間違いだった。孔明がこれほど情け深い人だとは知らなかった」と、誰もが嗚咽をもらし、あふれる涙を拭い続けたのでした。


・荊州へ帰る孔明さま
 見送る魯粛が孔明さまに言葉をかけます。
「今日は遠路はるばるお越しいただいて、ありがとうございました」
 頭を下げた魯粛は顔を伏せたままで、また泣いているようだった。
「魯粛ちゃん、元気出してね」
「無理です。ワテを孫権さまに推挙してくれはったんは周瑜はんなんです。今のワテがあるんは、みんな周瑜はんのお陰なんです。それやのにワテは周瑜はんに、なんもしてあげられませんでした。逆に迷惑ばっかりかけてしもうて……ワテが寿命縮めてしもうたようなもんです」
「そんなことないよ。もし、周瑜が魯粛ちゃんのこと迷惑に思ってたら、遺言で後任に推薦するはずないでしょう?」
「推薦されても、ワテはどないしたらええんか分かりません。目の前が真っ暗で、よう歩けません」
「たしかに周瑜は天下にまたとない逸材だったよ。だから誰にも周瑜の真似はできない」
「そうです。ワテみたいな凡才は、周瑜はんの力の何分の一もありません」
「同じことをしようとすれば、そうだろうね。でも魯粛ちゃんにも、やっぱり魯粛ちゃんにしか出来ないことがあるんだよ。それが周瑜には分かってた。魯粛ちゃんには自分とは別の才能があると認めてたんだ。周瑜と魯粛ちゃんの目指すものは同じ。だけど、そこに至るまでのやり方はひとつじゃない。周瑜は魯粛ちゃんのやりかたで、志を引き継いで欲しかったんだよ。だって、その志を一番理解してくれてるのは魯粛ちゃんだって信じてたんだもの」
「……孔明はん」
 魯粛は顔を上げ、涙を溜めた目を大きく見開きました。
「目指すものが見えたら、もう真っ暗じゃないよね。今日は周瑜のためにいっぱい泣く日。でも明日からは、しっかり歩かないと。あいにくぼくらが生まれたのは乱世の時代。生き抜くには立ち止まっていられない。そのなかで魯粛ちゃんは意思を託されたんだから」
 孔明さまは魯粛が固く握りしめている手を両手で包んであげました。
「おおきに。孔明はん、おおきに……」
 魯粛はつないだ手に額を押し付けて泣きました。
「先生」趙雲が船上から顔をのぞかせて言いました。「そろそろ戻らないと」
 孔明さまは魯粛に別れを告げて船に乗りました。暮れなずむ長江の水面をぼんやり眺めていると、すでに甲冑を着込んだ趙雲がやって来ました。
「いやあ、やっぱりこの格好が一番落ち着きます。兜のフサフサをなびかせてナンボですから」
「それ着てないと、子竜ちゃんモブキャラに埋まって誰だか判別がつかないもんね」


(自覚があるのか、槍を持って差別化を図る趙雲。涙ぐましい)

「ひどいなあ。キリっとした眉毛で判別してください。そんなことより、そろそろ寒くなって来ますから、中にお入りください。先生を無事に連れて帰るのが、わたしのお仕事ですからね。怪我がなくても、風邪を引かれたら困ります」
「もう少しここにいる」
 孔明さまは身を屈めて、船縁の柵に頬杖を付きました。首をかしげてその様子を見ていた趙雲は隣に並んで立ちました。
「先生の弔辞、みんな感動してましたね。先生もあんなに泣いて、わたしまで涙が出そうでしたよ」
「あれウソ泣き」
「……」
「皇帝を擁する曹操の勢力は衰えてない。赤壁で負けたとはいえ、北へ帰ればすぐ態勢を整えられる。本気で潰しに来られたら、劉備さまもいつまで持つか分からない。それは呉も一緒。利は一致しなくても害は同じだから、せめて同盟関係は維持させておきたい。だから周瑜のことで関係を悪化させるわけにはいかなかったんだ。うまくいって良かったよ」
「でも魯粛どのにかけた言葉は本心からなんでしょう?」
「曹操と対抗するには、劉備さまと協力するべきだって主張する派閥の筆頭が魯粛ちゃんだからね。魯粛ちゃんが後任になってくれないと、こっちも困るんだよ」
「そうですか。先生の思惑通りに運んだというわけですね」
「うん」
「じゃあ、なんで楽しそうじゃないんですか?」
 趙雲は孔明さまの顔を下から覗き込みました。
「子竜ちゃんのくせに、ぼくのこと分析しないでくれる?」
「そんなつもりはないですけど、単に気になるものですから」
「子竜ちゃん変わってるね」
「うーん、そうでしょうか」
「変わってるよ。ぼくがどんな戦略を描くのか興味がある人はいても、ぼくの気持ちを気にする人なんていないもん」
「周瑜どのは良くも悪くも、それを一番気にしてくれた人なんですね」
「なんでそうなるの?」
「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心です。周瑜どのの先生に対する執着心も、並々ならないものがありましたけど、それは先生も一緒だったんでしょう?」
「分かったようなことを言うんだね」
「その結末が、なぜ周瑜どのの死でなくてはならなかったんでしょうかね」
「ぼくのこと責めてるの?」
「いいえ。先生は周瑜どのに命を狙われていたわけですから、どちらかの死しか結末はありません。それにわたしが日頃やっていることは殺し合いですからね。そのことで先生を責められるはずがありません。でも、わたしも自分がたった今斬り殺した骸を眺めて、どうしてこんなことになったんだろうと考えることがあるんですよ」
「ふうん。向いてないんじゃない?」
「どうでしょうね」
「さっきから何が言いたいの?」
「先生も、そんなやるせない気持ちなんじゃないかと思って。ただ乱世に出会ってしまったというだけで、どちらが悪いわけでもないですよ」
「ぼくは感傷に浸って、あれは仕方がなかったんだ、なんて自分を正当化したりしない。周瑜はぼくが追いつめて殺した。それだけの話」
「分かりました」
 趙雲は短くため息をついて船尾へ見張りに向かおうとしました。しかし孔明さまが、でもね──と消えるような声で言ったので立ち止まります。
「荊州へ帰るまでは、ちょっと感傷に浸ってもいいかなって」
「いいと思いますよ」
 趙雲はふたたび孔明さまの隣に立ちます。
「あれはウソ泣きだったけど、ぼくの気持ちを理解できる人は周瑜しかいないって言ったのは本当。同じ種類の人間だもん。でも周瑜はぼくが絶対に手に入れられないものを持ってた。その点において、ぼくはずっと周瑜に敵わないんだろうなって思う。羨ましかった。だから好きで嫌いだった。あんなふうになれたらいいなって憧れてたし、死ねばいいと思ってた」
「歪んでますねえ」
「いまさら?」
「いえ、つくづく。ところで先生の手に入らないものってなんですか」
 趙雲が訊ねます。いつの間にか日は暮れて、長江も深い藍色に染まっていました。孔明さまはしばらく黙って川面を見つめていたのですが、やがて視線を落としたまま言いました。
「水と魚って永遠に交わるものじゃないんだよ」
「それって答えになってますか?」
「ぼく生まれ変わったら魚になりたいな。みんなと一緒に泳ぎたい」
 突然そんなことを言うものだから、孔明さまの視線の先に魚がいるのかと思って趙雲は探しましたが、どこにも見当たりませんでした。もとより夜の川は昏く、魚が泳いでいたとしても見えるはずもありません。いぶかしげに振り向くと孔明さまの顔が青白かったので、趙雲は心配になります。
「先生。風が冷たくなってきました。今日はお疲れでしょうし、中に入って休んでください」
「ぼくはそのうち嘘をついて人を欺いて陥れることに、なんの葛藤も感じなくなるのかな。きっといい死に方しないね」
「大丈夫ですよ、先生。わたしがお守りします」
「みんなと一緒で、やな奴って思ってるくせに」
「そんなことないですよ」
「うそだね」
「困りましたねえ。今日は一段と気難しいですね」
「ほっといてよ」
 そっぽを向いた孔明さまに向かって、趙雲が手を差し出します。
「先生、手を出してください」
「もう握手はいいよ。行きの船でもそうだったけど、なんなの?」
「いいから手を出してください」趙雲は無理矢理手を取ると、しっかり握って言います。「他の人はどうだか知りませんけど、わたしは先生の手が温かいと知ってますよ」
「生きてんだから、温かいに決まってるでしょ」
「それが大事なんです。それだけで、わたしは命をかけてお守りできます」
「意味が分からないよ」
「わたしもよく分かりません」
「何それ」
 孔明さまは心底がっかりしたような顔になります。
「わたしは先生のように多くの言葉を持ちません。どう言えばいいのか分かりませんし、どれだけ言葉をつくされても分かったような気になるぐらいです。だから握手した先生の手が温かかったとか、そういうことでいいんです」
「そんな……そんなの……言ってて恥ずかしくならない?」
「うーん。別に気取って言葉を飾っているわけじゃないですからねえ。さっきも言いましたけど、そういう柄じゃないんです。でも先生だって船に乗る前、魯粛どのの手を握ってあげてましたよね。それって魯粛どのを気遣う本心を伝えたかったんでしょう?」
「知らないもん。もう休もうかなあ」
「ええ。そうしてください」
「じゃあ、後よろしくね」
「おまかせください」
 孔明さまは数歩歩いてから足を止めました。
「子竜ちゃんの手は温かいけど、硬くてゴツゴツしてるね」
「はは。こればかりは仕方ないですよ。昔から槍だの弓だの握ってましたからね。どうもすみません」
 武器を手にして生きて来たから、趙雲は人の手の温かさを大事に思うのかもしれない、と孔明さまは思いました。
「どうして謝るの。ぼく嫌いじゃないよ。なんていうか……いつもありがと」
 孔明さまは暑くもないのに羽扇で忙しく顔を仰いで言いました。趙雲は驚いた表情になります。
「めずらしく殊勝ですね。いやあ、これは雨が降るかもしれません」
「子竜ちゃんの分際で、頑張ってぼくを慰めようとしてるから褒めてあげたのに、そういうこと言うんだ」
「褒めていただくより、嫌がらせをやめてもらうほうが嬉しいですけど」
「だめ。それはぼくの趣味だから」
「参りましたねえ。せめてお手柔らかに頼みますよ」
 趙雲が笑うと孔明さまも一緒に笑いました。

 というわけで、さよなら周瑜。ありがとう周瑜!


「おのれ孔明。俺の葬式に便乗して青春するな!」


「またね」「殿。わたしも落成式でごちそう食べたかったです」
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