応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。
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大都督、周瑜吐血す──。
呉陣営から伝えられたそのしらせは、すぐ曹操の耳に入った。
明日の身も知れぬ乱世。自分を守るため敵に内通するものは少なくなかった。もし曹操が勝てば内通は功績になる。
周瑜と孔明さまの策に踊らされ、さんざん笑いを誘った曹操はすっかり安心しきっていた。赤壁はワシの独断場ではないか、と。いくら周瑜が孔明さまの絶妙なアシストにより笑いを取ろうと、魯粛の突っ込みによりボケが際立とうとも、一番はこの自分だ。
しかし、ここにきて周瑜が伝家の宝刀を抜いた。「吐血」を初披露したのだ。
曹操は音がするほど歯を食いしばり唸った。
「吐血したぐらいでいい気になるなよ、若造が。本当のリアクション芸人は誰か思い知らせてやる」
気炎を吐く曹操に程昱は震えた。
「殿が本気を出されるぞ……」
「ちょっと意味がよく分からないですけど」
張遼は首をかしげた。
同日、黄蓋が投降するとのしらせが入る。
曹操は連環の計により、ひとつの要塞となった船団から長江を見渡した。すると向こうから黄蓋の船がやってくるのが見える。
「キタコレ!」
軍を指揮する旗を手に曹操は小躍りせんばかりに喜んだ。黄蓋の投降により、曹操軍は呉攻略の活路が開けたのだ。
しかし軍師の程昱の表情は冴えない。いま火攻めに最適な東の風が吹いている。そのなかでの投降は警戒せねばならない。
かくしてその心配は的中した。程昱は黄蓋の船団を見て顔色を変えた。黄蓋が食料や武器を積載しているのなら、船はもっと水に沈んでいるはずだが、こちらへ向かってくる船はどれも軽々と川を渡っていた。
「殿。あの船を近付けてはいけません! 黄蓋に投降する気はありません」
「マジで?」
「マジで」
「じゃあ、誰かあの船止めてきてー」
ひとりの武将が威勢良く雛壇から名乗り出た。
「わたしは水には慣れておりますゆえ、行ってまいります!」
「ほう。頼もしいな。まかせたぞ」
武将は船に乗り颯爽と川に出たのだが、速攻で喉を矢に射抜かれたのだった。
「あいつ、おいしいな……」
素人同然の武将にひと笑いとられてしまった。曹操は悔しがった。
そんなことはお構いなしに黄蓋は火攻めを開始した。
曹操軍は大混乱に陥る。たちまち火に包まれる曹操の船団。黄蓋は火をものともせず船に乗り込み、うろたえる曹操に迫り太刀を振り上げた。
「逆賊曹操、覚悟しろ。……うっ」
黄蓋の胸に矢が突き刺さった。あと一歩のところで曹操を仕留め損ねた黄蓋はよろめき川に落下。
「曹操さま、ここにいてはいけません」
曹操を守ったのは張遼だった。張遼は曹操を連れ船を脱出する。黄蓋船団の船を見つけると強奪し、岸へ向かおうと張遼は奮闘した。
ふいに背後から曹操の怪訝そうな声が聞こえた。
「おかしいな。さっきから漕いでも全然進まんぞ」
「……」
張遼はどうしてよいか分からず硬直した。
「張遼」曹操は咳払いをしてから言った。「あのな、こういう時は『それ櫂じゃないから! 太刀だから!』と突っ込むんだ。もしくは『ほんとですねえ。全然進まないですねって、それ櫂じゃないじゃん!』とノリ突っ込みしてもいいんだぞ」
「すみません」
わけは分からないが、とりあえず張遼は謝った。
「若手はどんどん前に出ないとキャメラに拾ってもらえないぞ。ベテランに遠慮せずグイグイこい」
「はい(キャメラ?)」
「武人は戦いのなかで成長していくものだ。張遼も実践で学んでもらうとしよう」
「精進します」
「ハッ! いかん、あそこを見ろ。呉軍のやつらが何か始めるようだぞ」
「……はあ」
「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「なにッ?」
甘寧は驚いたあとで笑った。
「ああ、楽しそうだな」
「どこがよ! ジイサン死にかけとるよ!」
「ははっ。今度はちゃんとやるから、もう一回川に浮かんで」
「ええ? しょうがないのう。今度はちゃんとやってよ」
「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「違うな。黄蓋将軍は、もっと緑色で全身がヌルヌルしてるから。それから、いっつもチンポジ直してる」
「ワシは化けものか! それに別にチンコのポジションは気にしとらんよ!」
「ははっ。今度はちゃんとやるから、もっかい水に戻って」
「また? しょうがないのう。今度こそちゃんとやってよ」
「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「黄蓋は曹操に投降したクソジジイだ。石でも投げておけ」
「やっぱりあの時クソジジイ言うたんはおぬしか!」
「おい誰か胴から首をもぎとれ」
「グロイわ。投降はフリしただけ! おぬしも知っておろうが!」
「……チッ」
「え、舌打ち? ワシが嫌いか。甘寧はワシが嫌いなのか?」
「だって、いっつもチンポジ直してるし」
「だから直しとらんよ! そういうのウソでも噂になるからやめて」
「緑い」
「緑色でもないし、ヌルヌルもしとらんよ!」
その様子を眺めていた曹操はあご髭をしごきながら言った。
「ふむ。なかなか息の合ったかけあいだ。あのふたり……コンビを組んで長いな。張遼はどう思う?」
「先程黄蓋将軍を矢で射っておきながら、こんなことを言うのはなんですが、お年寄りは大事にしたほうがいいのでは?」
「真面目か! よし、いいぞ張遼。ちゃんとデキるじゃないか。その調子だ」
「いや、なんの調子ですか。黄蓋将軍もかなりお年ですし、あれ続けてたら死にますよ」
「さて、行くか」
「……御意」
曹操と張遼は馬を駆り逃亡した。まだ日の明けぬ昏い森に馬の足音だけが響く。
「覚悟だ、曹操!」
突如として荒々しい雄叫びが上がり空気を振るわせた。虎のごとく猛追してきた甘寧だった。そして前方からも呉軍の集団があらわれ、曹操を挟み撃ちにした。進退窮まったかに見えたが曹操軍の徐晃が助けに入り退路が開かれた。甘寧が矢を構え目をすがめるが、土煙に邪魔され狙いが定められず曹操を逃してしまった。
「……チッ。我が軍はこの先に伏兵を置いているのか?」
「その予定だったが、急遽孔明暗殺に借り出され、間に合わなかった」
「周瑜はまだ孔明にご執心なのか」
「ああ、逃したから余計に。ところで甘寧、黄蓋将軍は無事か?」
「なんで早く助けないってウルサイから便所に放り込んどいた」
「アレやったんおまえか!」※参考URL
そのころ難を逃れた曹操と張遼。
「ふう。曹操さま。けっこう遠くまで逃げられましたね」
「ここはどこだ?」
「烏林の西、宜都の北です。まだ呉の領地ですから気をつけてください」
警戒を怠らない張遼。突如──曹操が高笑いを始めた。あきらかに場違いな様子に張遼は曹操の気がふれたのではないかと怯えた。ひとしきり笑ったあとで曹操は言った。
「ここの地形は実に素晴らしい。まるで天がワシを捕らえるためにつくったようではないか!」
「それの何がおかしいのですか」
「周瑜と孔明がバカだからだ。ワシなら必ずここに伏兵を置いておく」
「……じゃあ、気をつけたほうがいいんじゃないですか」
「はっは。まさか、そんなワケがあるか」(チラッチラッ
(そのわりに曹操さまはあたりを気にしてるな……なぜだ)
「おっとこ前の趙雲ここにありィー!」
「ギャフーーーン!」
「ああ、もう。だから言ったじゃないですか」
ただちに張遼が応戦し、曹操を逃がした。
後漢時代には既にiphoneが普及していたことは、よく知られていますが劉備軍も携帯していました。趙雲は兵士に自分の戦果を動画で撮影させており、さっそく孔明に送信しました。すると、すぐに孔明さまからの着信ありけり。
『あ、子竜ちゃん。動画見たよ。こっちの様子? 劉備さまにお弁当を“あーん”して食べさせてあげようとしてるのに断られっぱなしだよォ。それよりなんで単騎で突っ込んでんの。三千の兵を率いろって言ったじゃん。ぼくの指示守る気あるの? え、単騎のほうがかっこいいから? ふうん。帰ったら兜のフサフサ引きちぎるから。じゃあね』
「……あの人、脅しじゃなくてホントにやるからなぁ」
趙雲が遠い目で兜のフサフサを撫でた。
張遼は先に逃げた曹操に追いつく。すっかり意気消沈した曹操に追い討ちをかけるかのごとく氷雨が降り出した。張遼は弱音を吐く曹操を励ましながら行軍を続ける。
「わたしが言うまでもないですが、いくさの勝ち負けは時の運です。大丈夫ですよ。許都へ戻れば、またやり直せますから」
ああ、張遼。なんてイイ人なんだ。曹操軍内で集計された、こんなアニキに抱かれたい男ランキング(※フラワーロマン地下調べ)でのトップランカーなだけはありますね。
張遼は山間に目を凝らして言った。
「あ、曹操さま。あそこに村がありますよ。一息ついて、英気を養うとしましょう」
「そうだな」
村に立ち寄る曹操軍。張遼は調理のための火種を探すよう兵士に命じた。
「火?! いやあぁぁ。火、怖いぃい」
よほど火が怖かったのか、おびえる曹操54歳。
余談ですが、この時点でそれぞれの年齢は劉備48歳、関羽47歳、魯粛37歳、周瑜34歳。そして前回孔明さまが孫権は一歳下だと言っていたように(実際の放送では言ってませんよ)孔明さまは28歳で孫権は27歳。
あれで魯粛と周瑜は3歳しか違わないんですねえ。魯粛は苦労しすぎてフケたのか。それよりも孫権がおどろきの年齢ですね。あれで27歳とか貫禄ありすぎ。孫権は長生きしますから、晩年まで容姿を変えずに済ませるつもりなんでしょうか。
話は戻ってトラウマ曹操を張遼がなだめていると、馬の足音が響いて来た。離散していた曹操軍の許褚が合流したのだ。
曹操は「程昱は?」と訊ねて身を案じた。連れて来られた程昱は火攻めで大やけどを負っていた。虫の息の程昱に曹操はくずおれて慟哭した。程昱は薄く目を開けて手を伸ばす。その手をしっかりと握り曹操は大粒の涙を落とした。
「ワシのせいでこんな目に……」
あれだけ程昱は気をつけろと言っていた。忠告に耳を貸さなかった自分の愚かさを後悔し、曹操は体を引き絞るように嘆いていたが、いきなり笑い始めた。
驚く許褚。
「そ、曹操さまはどうされたのだ」
なぜだか張遼が申し訳なさそうに答えた。
「……俺が聞きたいぐらいだ。これが始めてじゃないんだ」
「なあ、張遼よ。この地形を見ろ。まるで我が軍は袋のネズミではないか。ワシだったら絶対ここに伏兵を置いて待ち伏せるもんね。先程は諸葛亮の作戦にやられたが、所詮は周瑜に比べると少し頭がいいだけだ。たいしたことないな。もし伏兵がいたら羽があっても逃げらんところだわい」
「いや、ですから。そう思うのでしたら警戒されたほうがよろしいのでは……」
「まさか。さすがに二度目はないって」(チラッチラッ
勘のいい張遼は気付く。
(この展開はもしや)
「張飛見参!」
「おったー!」
「ああ、もうホントに……」
張遼は曹操を逃がすため、精神的に疲れた体に鞭を打って張飛へ向かって行った。結局張飛も曹操を捕らえられず逃がしてしまった。
「残念無念」
悔しがる張飛。しかし光の早さで気を取り直しiphoneで孔明さまへ動画を送信した。すぐに着信が入る。
『張飛? うわ、声大きいって。そんな大声で話さなくても聞こえるから。うん、こっちの様子? 劉備さまにゲームしようって言われて、それで遊んでんだよ。楽しそうだなって? でも、これ楽しいのかな。なんかぼくとお話しないゲームらしいんだけどね。ゲームしようとか、劉備さまも案外子供っぽいところあるよねえ。うふふ。それより動画見たけどさ、なんで張飛も単騎で突っ込んでんの? 三千の兵を率いろって言ったじゃん。え? 忘れてた? 張飛の額から上はなんのためについてるの。からっぽなの? 今度、頭開いてご飯でも炊こうか……って、あれ? 劉備さまがいない。馬もいなくなってる。探さないと! じゃあね』
「お話しないゲームか。俺が酔っぱらって呂布に下邳の城を奪われたときも、アニキそのゲームしてたな。ははっ」
懐かしそうに笑う張飛の傍らで無残に転がっている程昱。曹操はあれだけ後悔にむせび泣いておきながら、まさかの置き去り程昱であった。
程昱(さすが殿。わたしにこんなおいしい役どころを……)
場面は変わって曹操軍。斥候兵が二手に分かれた道の様子を曹操に説明していた。
「広いほうは平坦ですが五十里ほど遠いようです。細いほうは華容道に繋がる近道ですがかなり険しい道ですね」
「どちらの道を通りますか?」
張遼は判断を仰いだ。
「天丼だ」
「てんどん? それはどういった意味でしょうか。兵法の用語でしょうか」
「天丼とは同じボケを繰り返すことだ」
「……」
「趙雲に襲われたあと、また同じような状況で油断して張飛に襲われる。その滑稽さを狙ったものだ。張遼、おまえは張飛が襲って来たときに、なにかしらワシに突っ込みをいれるべきだった」
「すみません(なんに対して謝ってんだろう)」
「道中、ずっとそう考えていた。しかし、すかし芸ともまた違う、あえて突っ込まないという手法もよいかもしれんな。
多様化する価値観の中で試行錯誤を繰り返す。このトライ&エラーが結果的に受け皿を含む全体を成長させる。切磋琢磨がより高次なステージへの昇華に繋がる。そう思えばワシは日の出を見るような気持ちになる。我々の血肉に刻まれた、いにしえより受け継がれた進化の系譜がそう感じさせるのだろうか。張遼、おまえはしっかり成長していたのだな。ワシは嬉しく思うぞ」
「……ありがとうございます(なんに対してお礼言ってんだろう)。それはそうと斥候兵によると、細い道のほうにはところどころに煙が見えるようです。伏兵が潜んでいるんでしょうか」
「ほっほう。孔明め、小賢しいことを。細い道のほうへ見え見えのおとりを仕掛けたようだな。では裏をかいて細い道を通ろうではないか」
「御意。(よかった。曹操さま、まともだ)あっ、殿。ご覧ください。虹が出ていますよ!」
山間にかかる虹を張遼は指差した。
「おお、あれは、きっとよい兆しだ。よし、皆のもの進もう」
曹操がまともなことを言う。それだけで嬉しかった。胸に込み上げるものがある張遼だった。
厳しい道のりながらも、行軍は順調に進んだ。しかし、ある場所にさしかかった時、ひとりの兵士が慌てふためいた様子で行く手を阻んだ。
「お、お待ちください! この先を通っては……」
何事だろうかと張遼は視線を周囲に走らせた。すると小さな石碑が目に留まった。その石碑に刻まれた文字を読んで張遼は青くなった。
──逆賊曹操の墓。
曹操は眉間に深い皺を寄せた。
「実に陰湿な嫌がらせだな……わざわざ小道具を用意してまで、こんなことをするのは奴しかおるまい。三度の飯より他人を煽るのが好きな孔明だ。こうしておけばワシが引き返すとでも思ったか。バーカバーカ!」
そう言うと曹操は馬に鞭打ち、自分の名が刻まれた墓を飛び越えた。
張遼(ずいぶん感じ悪い人なんだな、孔明って。そんな人が気位の高い関羽どのと衝突せずにいられるのだろうか)
張遼が思いを巡らせた関羽は、心配通り孔明さまにクレームの電話をかけていた。
「おい、軍師どの。さんざん待っているが、曹操は来ないじゃないか」
『もう、なに! いま劉備さま追いかけてて、それどころじゃないんだけど』
「ははーん。どうせ、しつこくつきまとって兄上に逃げられたのだろ。ざまあみろ」
『ち、ちがうもん! これゲームだもん! めくるめく楽しい追いかけっこだもん!』
「天下に轟く兄上の逃げ足をあなどるな。神速の逃げ足だぞ。貴様ごときに追いつけると思うな」
『うるさいうるさい! ところで関羽はちゃんと兵士連れてるよね?』
「当たり前じゃないか」
『おたくの弟さんやら、子竜ちゃん。ぼくの言うこと全然聞かずに単騎で突っ込んでくれたんだけど? 普段どういう教育してるわけ?』
「教育以前の問題だな。単純に嫌いなんだろ、おまえのことが」
『ムカつくし』
「もちろん俺も嫌いだ」
『ぼくも嫌いですゥ』
「俺はもっと嫌いですゥ」
『ぼくはその百倍嫌いですゥ』
「一億年と二千年前から嫌いですゥ。八千年過ぎた頃からもっと大嫌いになったんですゥ」
『なんなの、この会話! とにかく曹操は華容道通るんだから、おとなしくそこで待っててよ』
「ど、う、か、なーん?」
そんなほほえましいやり取りが行われている間に、曹操は華容道に到達した。眼前の光景に曹操は、またしても身をよじって笑い出す。
「殿。笑うのはもうよしてください!」
「これを笑わずにいられるものか。この地形を見ろ。狭い。実に狭い。墓を建てて孔明はしてやったりと思っているだろうが、ここに一隊を置いておかぬアイツは馬鹿だ。よく考えたらアイツは他人を煽る能力が図抜けているだけじゃないか。たしかに劉備と孫権の同盟を結ばせた手腕はたいしたものだ。孫権にしてみればなんの利点もないというのに、単身で乗り込み、まんまと言いくるめ、我が軍とのいくさの手駒に仕立て上げたのだからな。だが、それだけのことだ。弁は立つが戦術はたいしたことない。もし一隊を置いておけばワシは本当におしまいだったのにな」
「あのですね、そう思うのでしたら警戒してください。お願いですから」
「天丼」
「……え? ということは」
「張遼よ。この天丼を見事さばいてみろ!」
単騎で万の軍勢に飛び込むほうがマシだ。そう思う張遼だった。
曹操の読み通り関羽は待ち構えていたのだが、孔明さまとの電話に白熱していたので、まったく気付いていなかった。
「いいか、軍師どの。赤兎もおまえのことが嫌いだそうだ。なあ、赤兎?」
『逆に、関羽は馬にしか好かれてないんじゃないの? 寂しすぎ』
「めちゃくちゃ人気あるわ。俺が曹操に厚遇されたと言ったのおまえだろうが」
兵士が小さく声を上げた。
「関羽さま。その曹操が前方に」
「ああん? ほんとに来たのか。しかも張遼と一緒か」
『だから言ったじゃん。だから言ったじゃん!』
電話から孔明さまの得意げな声がはずむ。
「うるさいな。もう切るぞ」
関羽は苛つきながら通話を終え、部下に動画の撮影を頼んだ。カメラへ向かって関羽は語りかける。
「軍師どのお家芸ドヤ顔。あの程度でドヤ顔とは笑止千万。片腹痛いわ。本物のドヤ顔とはこうするものだ。とくと見ておけ」
関羽は曹操をしかと見据えて言った。
「曹操どの。お久しブリーフ」ドーン!
「おったー!」「……」
のけぞる曹操の横で張遼は自分の半生を回想していた。
呂布とともに曹操に捕らえられ死を覚悟した。武将として潔く死のうと思った。しかし関羽の取りなしにより、助命され曹操に仕えることになった。
関羽のようにひとりの君主に忠義を貫くことが美徳とされている世の中で、はからずも幾人もの君主を渡り歩いた自分は、曹操軍生え抜きのもの達から侮蔑の視線を投げられてきた。
彼らを見返すためには武勲を立てるしかない。だから必死で戦って来た。一度捨てた命だと思えば、矢の雨をかいくぐり火の海を駆けることも怖くはなかった。
そんな自分を誰よりも認めてくれたのは、他でもない曹操だった。重用し側に置いてくれた。自分のことを信じてくれているのだ。
これ以上の喜びがあるだろうか。どれだけ感謝してもしきれない。生涯をかけて尽くそうと思える人物に出会えて幸せだった。
そして武勲を立てるだけが忠義ではないと、今日学んだ。
曹操が望むのならば、やってやろうじゃないか。
この場をさばいてみせる。
空を仰ぐと虹の名残りが薄くかかっていた。
──あれは、よい兆しだ。
そう言って笑った曹操を思い出す。
殿。見ていてください。
張遼は大きく息を吸い胸を張った。
「一度でいいから見てみたい。殿がチンポジ直すとこ。歌丸です!」
「もうチンポジはエエわ!」
というわけで赤壁の戦いは、孫権と劉備の同盟軍の勝利に終わったとさ。テッテレー。
「来週も見てね!」「疲れた……」
呉陣営から伝えられたそのしらせは、すぐ曹操の耳に入った。
明日の身も知れぬ乱世。自分を守るため敵に内通するものは少なくなかった。もし曹操が勝てば内通は功績になる。
周瑜と孔明さまの策に踊らされ、さんざん笑いを誘った曹操はすっかり安心しきっていた。赤壁はワシの独断場ではないか、と。いくら周瑜が孔明さまの絶妙なアシストにより笑いを取ろうと、魯粛の突っ込みによりボケが際立とうとも、一番はこの自分だ。
しかし、ここにきて周瑜が伝家の宝刀を抜いた。「吐血」を初披露したのだ。
曹操は音がするほど歯を食いしばり唸った。
「吐血したぐらいでいい気になるなよ、若造が。本当のリアクション芸人は誰か思い知らせてやる」
気炎を吐く曹操に程昱は震えた。
「殿が本気を出されるぞ……」
「ちょっと意味がよく分からないですけど」
張遼は首をかしげた。
同日、黄蓋が投降するとのしらせが入る。
曹操は連環の計により、ひとつの要塞となった船団から長江を見渡した。すると向こうから黄蓋の船がやってくるのが見える。
「キタコレ!」
軍を指揮する旗を手に曹操は小躍りせんばかりに喜んだ。黄蓋の投降により、曹操軍は呉攻略の活路が開けたのだ。
しかし軍師の程昱の表情は冴えない。いま火攻めに最適な東の風が吹いている。そのなかでの投降は警戒せねばならない。
かくしてその心配は的中した。程昱は黄蓋の船団を見て顔色を変えた。黄蓋が食料や武器を積載しているのなら、船はもっと水に沈んでいるはずだが、こちらへ向かってくる船はどれも軽々と川を渡っていた。
「殿。あの船を近付けてはいけません! 黄蓋に投降する気はありません」
「マジで?」
「マジで」
「じゃあ、誰かあの船止めてきてー」
ひとりの武将が威勢良く雛壇から名乗り出た。
「わたしは水には慣れておりますゆえ、行ってまいります!」
「ほう。頼もしいな。まかせたぞ」
武将は船に乗り颯爽と川に出たのだが、速攻で喉を矢に射抜かれたのだった。
「あいつ、おいしいな……」
素人同然の武将にひと笑いとられてしまった。曹操は悔しがった。
そんなことはお構いなしに黄蓋は火攻めを開始した。
曹操軍は大混乱に陥る。たちまち火に包まれる曹操の船団。黄蓋は火をものともせず船に乗り込み、うろたえる曹操に迫り太刀を振り上げた。
「逆賊曹操、覚悟しろ。……うっ」
黄蓋の胸に矢が突き刺さった。あと一歩のところで曹操を仕留め損ねた黄蓋はよろめき川に落下。
「曹操さま、ここにいてはいけません」
曹操を守ったのは張遼だった。張遼は曹操を連れ船を脱出する。黄蓋船団の船を見つけると強奪し、岸へ向かおうと張遼は奮闘した。
ふいに背後から曹操の怪訝そうな声が聞こえた。
「おかしいな。さっきから漕いでも全然進まんぞ」
「……」
張遼はどうしてよいか分からず硬直した。
「張遼」曹操は咳払いをしてから言った。「あのな、こういう時は『それ櫂じゃないから! 太刀だから!』と突っ込むんだ。もしくは『ほんとですねえ。全然進まないですねって、それ櫂じゃないじゃん!』とノリ突っ込みしてもいいんだぞ」
「すみません」
わけは分からないが、とりあえず張遼は謝った。
「若手はどんどん前に出ないとキャメラに拾ってもらえないぞ。ベテランに遠慮せずグイグイこい」
「はい(キャメラ?)」
「武人は戦いのなかで成長していくものだ。張遼も実践で学んでもらうとしよう」
「精進します」
「ハッ! いかん、あそこを見ろ。呉軍のやつらが何か始めるようだぞ」
「……はあ」
「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「なにッ?」
甘寧は驚いたあとで笑った。
「ああ、楽しそうだな」
「どこがよ! ジイサン死にかけとるよ!」
「ははっ。今度はちゃんとやるから、もう一回川に浮かんで」
「ええ? しょうがないのう。今度はちゃんとやってよ」
「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「違うな。黄蓋将軍は、もっと緑色で全身がヌルヌルしてるから。それから、いっつもチンポジ直してる」
「ワシは化けものか! それに別にチンコのポジションは気にしとらんよ!」
「ははっ。今度はちゃんとやるから、もっかい水に戻って」
「また? しょうがないのう。今度こそちゃんとやってよ」
「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「黄蓋は曹操に投降したクソジジイだ。石でも投げておけ」
「やっぱりあの時クソジジイ言うたんはおぬしか!」
「おい誰か胴から首をもぎとれ」
「グロイわ。投降はフリしただけ! おぬしも知っておろうが!」
「……チッ」
「え、舌打ち? ワシが嫌いか。甘寧はワシが嫌いなのか?」
「だって、いっつもチンポジ直してるし」
「だから直しとらんよ! そういうのウソでも噂になるからやめて」
「緑い」
「緑色でもないし、ヌルヌルもしとらんよ!」
その様子を眺めていた曹操はあご髭をしごきながら言った。
「ふむ。なかなか息の合ったかけあいだ。あのふたり……コンビを組んで長いな。張遼はどう思う?」
「先程黄蓋将軍を矢で射っておきながら、こんなことを言うのはなんですが、お年寄りは大事にしたほうがいいのでは?」
「真面目か! よし、いいぞ張遼。ちゃんとデキるじゃないか。その調子だ」
「いや、なんの調子ですか。黄蓋将軍もかなりお年ですし、あれ続けてたら死にますよ」
「さて、行くか」
「……御意」
曹操と張遼は馬を駆り逃亡した。まだ日の明けぬ昏い森に馬の足音だけが響く。
「覚悟だ、曹操!」
突如として荒々しい雄叫びが上がり空気を振るわせた。虎のごとく猛追してきた甘寧だった。そして前方からも呉軍の集団があらわれ、曹操を挟み撃ちにした。進退窮まったかに見えたが曹操軍の徐晃が助けに入り退路が開かれた。甘寧が矢を構え目をすがめるが、土煙に邪魔され狙いが定められず曹操を逃してしまった。
「……チッ。我が軍はこの先に伏兵を置いているのか?」
「その予定だったが、急遽孔明暗殺に借り出され、間に合わなかった」
「周瑜はまだ孔明にご執心なのか」
「ああ、逃したから余計に。ところで甘寧、黄蓋将軍は無事か?」
「なんで早く助けないってウルサイから便所に放り込んどいた」
「アレやったんおまえか!」※参考URL
そのころ難を逃れた曹操と張遼。
「ふう。曹操さま。けっこう遠くまで逃げられましたね」
「ここはどこだ?」
「烏林の西、宜都の北です。まだ呉の領地ですから気をつけてください」
警戒を怠らない張遼。突如──曹操が高笑いを始めた。あきらかに場違いな様子に張遼は曹操の気がふれたのではないかと怯えた。ひとしきり笑ったあとで曹操は言った。
「ここの地形は実に素晴らしい。まるで天がワシを捕らえるためにつくったようではないか!」
「それの何がおかしいのですか」
「周瑜と孔明がバカだからだ。ワシなら必ずここに伏兵を置いておく」
「……じゃあ、気をつけたほうがいいんじゃないですか」
「はっは。まさか、そんなワケがあるか」(チラッチラッ
(そのわりに曹操さまはあたりを気にしてるな……なぜだ)
「おっとこ前の趙雲ここにありィー!」
「ギャフーーーン!」
「ああ、もう。だから言ったじゃないですか」
ただちに張遼が応戦し、曹操を逃がした。
後漢時代には既にiphoneが普及していたことは、よく知られていますが劉備軍も携帯していました。趙雲は兵士に自分の戦果を動画で撮影させており、さっそく孔明に送信しました。すると、すぐに孔明さまからの着信ありけり。
『あ、子竜ちゃん。動画見たよ。こっちの様子? 劉備さまにお弁当を“あーん”して食べさせてあげようとしてるのに断られっぱなしだよォ。それよりなんで単騎で突っ込んでんの。三千の兵を率いろって言ったじゃん。ぼくの指示守る気あるの? え、単騎のほうがかっこいいから? ふうん。帰ったら兜のフサフサ引きちぎるから。じゃあね』
「……あの人、脅しじゃなくてホントにやるからなぁ」
趙雲が遠い目で兜のフサフサを撫でた。
張遼は先に逃げた曹操に追いつく。すっかり意気消沈した曹操に追い討ちをかけるかのごとく氷雨が降り出した。張遼は弱音を吐く曹操を励ましながら行軍を続ける。
「わたしが言うまでもないですが、いくさの勝ち負けは時の運です。大丈夫ですよ。許都へ戻れば、またやり直せますから」
ああ、張遼。なんてイイ人なんだ。曹操軍内で集計された、こんなアニキに抱かれたい男ランキング(※フラワーロマン地下調べ)でのトップランカーなだけはありますね。
張遼は山間に目を凝らして言った。
「あ、曹操さま。あそこに村がありますよ。一息ついて、英気を養うとしましょう」
「そうだな」
村に立ち寄る曹操軍。張遼は調理のための火種を探すよう兵士に命じた。
「火?! いやあぁぁ。火、怖いぃい」
よほど火が怖かったのか、おびえる曹操54歳。
余談ですが、この時点でそれぞれの年齢は劉備48歳、関羽47歳、魯粛37歳、周瑜34歳。そして前回孔明さまが孫権は一歳下だと言っていたように(実際の放送では言ってませんよ)孔明さまは28歳で孫権は27歳。
あれで魯粛と周瑜は3歳しか違わないんですねえ。魯粛は苦労しすぎてフケたのか。それよりも孫権がおどろきの年齢ですね。あれで27歳とか貫禄ありすぎ。孫権は長生きしますから、晩年まで容姿を変えずに済ませるつもりなんでしょうか。
話は戻ってトラウマ曹操を張遼がなだめていると、馬の足音が響いて来た。離散していた曹操軍の許褚が合流したのだ。
曹操は「程昱は?」と訊ねて身を案じた。連れて来られた程昱は火攻めで大やけどを負っていた。虫の息の程昱に曹操はくずおれて慟哭した。程昱は薄く目を開けて手を伸ばす。その手をしっかりと握り曹操は大粒の涙を落とした。
「ワシのせいでこんな目に……」
あれだけ程昱は気をつけろと言っていた。忠告に耳を貸さなかった自分の愚かさを後悔し、曹操は体を引き絞るように嘆いていたが、いきなり笑い始めた。
驚く許褚。
「そ、曹操さまはどうされたのだ」
なぜだか張遼が申し訳なさそうに答えた。
「……俺が聞きたいぐらいだ。これが始めてじゃないんだ」
「なあ、張遼よ。この地形を見ろ。まるで我が軍は袋のネズミではないか。ワシだったら絶対ここに伏兵を置いて待ち伏せるもんね。先程は諸葛亮の作戦にやられたが、所詮は周瑜に比べると少し頭がいいだけだ。たいしたことないな。もし伏兵がいたら羽があっても逃げらんところだわい」
「いや、ですから。そう思うのでしたら警戒されたほうがよろしいのでは……」
「まさか。さすがに二度目はないって」(チラッチラッ
勘のいい張遼は気付く。
(この展開はもしや)
「張飛見参!」
「おったー!」
「ああ、もうホントに……」
張遼は曹操を逃がすため、精神的に疲れた体に鞭を打って張飛へ向かって行った。結局張飛も曹操を捕らえられず逃がしてしまった。
「残念無念」
悔しがる張飛。しかし光の早さで気を取り直しiphoneで孔明さまへ動画を送信した。すぐに着信が入る。
『張飛? うわ、声大きいって。そんな大声で話さなくても聞こえるから。うん、こっちの様子? 劉備さまにゲームしようって言われて、それで遊んでんだよ。楽しそうだなって? でも、これ楽しいのかな。なんかぼくとお話しないゲームらしいんだけどね。ゲームしようとか、劉備さまも案外子供っぽいところあるよねえ。うふふ。それより動画見たけどさ、なんで張飛も単騎で突っ込んでんの? 三千の兵を率いろって言ったじゃん。え? 忘れてた? 張飛の額から上はなんのためについてるの。からっぽなの? 今度、頭開いてご飯でも炊こうか……って、あれ? 劉備さまがいない。馬もいなくなってる。探さないと! じゃあね』
「お話しないゲームか。俺が酔っぱらって呂布に下邳の城を奪われたときも、アニキそのゲームしてたな。ははっ」
懐かしそうに笑う張飛の傍らで無残に転がっている程昱。曹操はあれだけ後悔にむせび泣いておきながら、まさかの置き去り程昱であった。
程昱(さすが殿。わたしにこんなおいしい役どころを……)
場面は変わって曹操軍。斥候兵が二手に分かれた道の様子を曹操に説明していた。
「広いほうは平坦ですが五十里ほど遠いようです。細いほうは華容道に繋がる近道ですがかなり険しい道ですね」
「どちらの道を通りますか?」
張遼は判断を仰いだ。
「天丼だ」
「てんどん? それはどういった意味でしょうか。兵法の用語でしょうか」
「天丼とは同じボケを繰り返すことだ」
「……」
「趙雲に襲われたあと、また同じような状況で油断して張飛に襲われる。その滑稽さを狙ったものだ。張遼、おまえは張飛が襲って来たときに、なにかしらワシに突っ込みをいれるべきだった」
「すみません(なんに対して謝ってんだろう)」
「道中、ずっとそう考えていた。しかし、すかし芸ともまた違う、あえて突っ込まないという手法もよいかもしれんな。
多様化する価値観の中で試行錯誤を繰り返す。このトライ&エラーが結果的に受け皿を含む全体を成長させる。切磋琢磨がより高次なステージへの昇華に繋がる。そう思えばワシは日の出を見るような気持ちになる。我々の血肉に刻まれた、いにしえより受け継がれた進化の系譜がそう感じさせるのだろうか。張遼、おまえはしっかり成長していたのだな。ワシは嬉しく思うぞ」
「……ありがとうございます(なんに対してお礼言ってんだろう)。それはそうと斥候兵によると、細い道のほうにはところどころに煙が見えるようです。伏兵が潜んでいるんでしょうか」
「ほっほう。孔明め、小賢しいことを。細い道のほうへ見え見えのおとりを仕掛けたようだな。では裏をかいて細い道を通ろうではないか」
「御意。(よかった。曹操さま、まともだ)あっ、殿。ご覧ください。虹が出ていますよ!」
山間にかかる虹を張遼は指差した。
「おお、あれは、きっとよい兆しだ。よし、皆のもの進もう」
曹操がまともなことを言う。それだけで嬉しかった。胸に込み上げるものがある張遼だった。
厳しい道のりながらも、行軍は順調に進んだ。しかし、ある場所にさしかかった時、ひとりの兵士が慌てふためいた様子で行く手を阻んだ。
「お、お待ちください! この先を通っては……」
何事だろうかと張遼は視線を周囲に走らせた。すると小さな石碑が目に留まった。その石碑に刻まれた文字を読んで張遼は青くなった。
──逆賊曹操の墓。
曹操は眉間に深い皺を寄せた。
「実に陰湿な嫌がらせだな……わざわざ小道具を用意してまで、こんなことをするのは奴しかおるまい。三度の飯より他人を煽るのが好きな孔明だ。こうしておけばワシが引き返すとでも思ったか。バーカバーカ!」
そう言うと曹操は馬に鞭打ち、自分の名が刻まれた墓を飛び越えた。
張遼(ずいぶん感じ悪い人なんだな、孔明って。そんな人が気位の高い関羽どのと衝突せずにいられるのだろうか)
張遼が思いを巡らせた関羽は、心配通り孔明さまにクレームの電話をかけていた。
「おい、軍師どの。さんざん待っているが、曹操は来ないじゃないか」
『もう、なに! いま劉備さま追いかけてて、それどころじゃないんだけど』
「ははーん。どうせ、しつこくつきまとって兄上に逃げられたのだろ。ざまあみろ」
『ち、ちがうもん! これゲームだもん! めくるめく楽しい追いかけっこだもん!』
「天下に轟く兄上の逃げ足をあなどるな。神速の逃げ足だぞ。貴様ごときに追いつけると思うな」
『うるさいうるさい! ところで関羽はちゃんと兵士連れてるよね?』
「当たり前じゃないか」
『おたくの弟さんやら、子竜ちゃん。ぼくの言うこと全然聞かずに単騎で突っ込んでくれたんだけど? 普段どういう教育してるわけ?』
「教育以前の問題だな。単純に嫌いなんだろ、おまえのことが」
『ムカつくし』
「もちろん俺も嫌いだ」
『ぼくも嫌いですゥ』
「俺はもっと嫌いですゥ」
『ぼくはその百倍嫌いですゥ』
「一億年と二千年前から嫌いですゥ。八千年過ぎた頃からもっと大嫌いになったんですゥ」
『なんなの、この会話! とにかく曹操は華容道通るんだから、おとなしくそこで待っててよ』
「ど、う、か、なーん?」
そんなほほえましいやり取りが行われている間に、曹操は華容道に到達した。眼前の光景に曹操は、またしても身をよじって笑い出す。
「殿。笑うのはもうよしてください!」
「これを笑わずにいられるものか。この地形を見ろ。狭い。実に狭い。墓を建てて孔明はしてやったりと思っているだろうが、ここに一隊を置いておかぬアイツは馬鹿だ。よく考えたらアイツは他人を煽る能力が図抜けているだけじゃないか。たしかに劉備と孫権の同盟を結ばせた手腕はたいしたものだ。孫権にしてみればなんの利点もないというのに、単身で乗り込み、まんまと言いくるめ、我が軍とのいくさの手駒に仕立て上げたのだからな。だが、それだけのことだ。弁は立つが戦術はたいしたことない。もし一隊を置いておけばワシは本当におしまいだったのにな」
「あのですね、そう思うのでしたら警戒してください。お願いですから」
「天丼」
「……え? ということは」
「張遼よ。この天丼を見事さばいてみろ!」
単騎で万の軍勢に飛び込むほうがマシだ。そう思う張遼だった。
曹操の読み通り関羽は待ち構えていたのだが、孔明さまとの電話に白熱していたので、まったく気付いていなかった。
「いいか、軍師どの。赤兎もおまえのことが嫌いだそうだ。なあ、赤兎?」
『逆に、関羽は馬にしか好かれてないんじゃないの? 寂しすぎ』
「めちゃくちゃ人気あるわ。俺が曹操に厚遇されたと言ったのおまえだろうが」
兵士が小さく声を上げた。
「関羽さま。その曹操が前方に」
「ああん? ほんとに来たのか。しかも張遼と一緒か」
『だから言ったじゃん。だから言ったじゃん!』
電話から孔明さまの得意げな声がはずむ。
「うるさいな。もう切るぞ」
関羽は苛つきながら通話を終え、部下に動画の撮影を頼んだ。カメラへ向かって関羽は語りかける。
「軍師どのお家芸ドヤ顔。あの程度でドヤ顔とは笑止千万。片腹痛いわ。本物のドヤ顔とはこうするものだ。とくと見ておけ」
関羽は曹操をしかと見据えて言った。
「曹操どの。お久しブリーフ」ドーン!
「おったー!」「……」
のけぞる曹操の横で張遼は自分の半生を回想していた。
呂布とともに曹操に捕らえられ死を覚悟した。武将として潔く死のうと思った。しかし関羽の取りなしにより、助命され曹操に仕えることになった。
関羽のようにひとりの君主に忠義を貫くことが美徳とされている世の中で、はからずも幾人もの君主を渡り歩いた自分は、曹操軍生え抜きのもの達から侮蔑の視線を投げられてきた。
彼らを見返すためには武勲を立てるしかない。だから必死で戦って来た。一度捨てた命だと思えば、矢の雨をかいくぐり火の海を駆けることも怖くはなかった。
そんな自分を誰よりも認めてくれたのは、他でもない曹操だった。重用し側に置いてくれた。自分のことを信じてくれているのだ。
これ以上の喜びがあるだろうか。どれだけ感謝してもしきれない。生涯をかけて尽くそうと思える人物に出会えて幸せだった。
そして武勲を立てるだけが忠義ではないと、今日学んだ。
曹操が望むのならば、やってやろうじゃないか。
この場をさばいてみせる。
空を仰ぐと虹の名残りが薄くかかっていた。
──あれは、よい兆しだ。
そう言って笑った曹操を思い出す。
殿。見ていてください。
張遼は大きく息を吸い胸を張った。
「一度でいいから見てみたい。殿がチンポジ直すとこ。歌丸です!」
「もうチンポジはエエわ!」
というわけで赤壁の戦いは、孫権と劉備の同盟軍の勝利に終わったとさ。テッテレー。
「来週も見てね!」「疲れた……」
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