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応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。

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(今週のあらすじ)

 甘露寺へ向かう劉備。その一行を迎える孫権は「ワラジ売りの倅が皇族気取りか」と軽蔑したようにつぶやく。かたわらで家臣の呂範と賈華が「暗殺の手はずは整っています」と伝えた。

 待ち構えていた呉太国は劉備と面会すると、堂々とした威風を一目で気に入り、婿にすると認めたものだから孫権は驚く。しかし母親には逆らえず従うしかなかった。

 そのころ趙雲は甘露寺を巡回していたのだが、ある一室に武器を帯びた兵士が潜んでいるのを見つけ、劉備に耳打ちした。

 劉備は呉太国へ「わたしを殺すつもりなら、今すぐここで殺してください」とひざまずいて言った。呉太国がどういうことだと訊ねると、劉備は趙雲の見た光景を伝えた。呉太国は激怒して「わたしの息子になる劉備を暗殺するとは何事だ」と孫権を罵った。孫権は知らぬ振りをして呂範に聞いてくれと答え、呂範は賈華に責任をなすりつけた。呉太国は賈華を斬れと命じた。賈華は処刑されそうになったのだが、劉備が呉太国に助命を嘆願した。「めでたい席での殺生は不吉です。それではお側にいられなくなります」と言う劉備を呉太国はますます気に入った。そして劉備を守るため、自分の屋敷へ住まわせると決めてしまったので、孫権は手も足も出なくなった。

 さて婚礼の夜、花嫁の部屋へおもむく劉備。しかし侍従の女達はみな武器を手にしていた。劉備が驚いてると侍従の女は「姫さまは幼い頃から剛胆なかたなので、私たちも武装してるのです」と言った。さすがに落ち着かない劉備。それを見た花嫁である玉錦は「ずっと戦いのなかにいた人なのに武器が怖いのかしら」と笑って侍従達を下がらせた。劉備は「戦いのなかにいたからこそ、怖いのではなく嫌いなのです」といって、天下を泰平に導くこころざしを語った。

 それからの日々、劉備と玉錦は仲睦まじく暮らした。困った孫権が周瑜に相談の密書を送ると新しい計略が返って来た。それは劉備に贅沢な暮らしをさせ、呉に留まらせ、関羽や張飛との関係を裂き、諸葛亮と交わした約束を忘れさせ、そのあいだに荊州を攻めとるというものだった。孫権が周瑜の言う通りにすると、劉備はすっかり贅沢に溺れ、趙雲が会いにきても顔を合わせなくなり季節も変わってしまった。

 悩んだ趙雲は孔明に渡されたふたつめの袋を開けた。内容を見た趙雲は劉備に火急の用があると言って面会を求め「曹操が荊州を攻めにきた」と伝え、すぐ戻るように頼んだ。
 劉備は我に返って玉錦と相談した。すると玉錦は気丈にも、夫婦になったのだから兄の孫権や母親を捨てでも一緒に行くと言った。
 劉備と玉錦は孫権の隙を狙って出発した。逃避行を知った孫権はすぐ追っ手を差し向けた。周瑜もあらかじめ逃走を見越しており兵士を待機させていた。
 両方から挟み撃ちにされた劉備一行。進退窮まった趙雲は最後の袋を開けた。内容を確認した劉備は追っ手の対処を玉錦に頼んだ。

 胆の座った玉錦は兵士達の前へ行くと、自らの威光をもって彼らを退けた。しかし追っ手は途切れない。別の一隊に足止めされてしまうと、またしても玉錦が前へ進み出て「母上の呉太国には許しを得ている。道をあけろ」と厳しく申し付けた。

 兵士達は顔を見合わせた。もし連れ帰っても、後になってこれが呉太国の指図だったと孫権が知れば、自分たちが間違っていたことにされてしまう。見逃したほうが得策だろうと彼らは道をあけた。
 そこへしばらくして別の追っ手がやって来て、見逃したと知ると慌てた。彼らは孫権から「劉備と妹の首を斬ってでも止めろ」と言われていたのだ。そこで周瑜に報告し、陸路と水路両方から劉備一行を追うことにした。

 劉備がようやく長江までたどり着いたとき、船団が川を渡ってくるのが見えた。船上に孔明の姿もあった。孔明が船をやって迎えにきたのだ。劉備は玉錦を連れ船に乗り込み難を逃れた。

 孔明と対面した劉備は贅沢な生活に溺れた自分を詫びた。すると孔明も謝ることがあると笑った。実は曹操が荊州を攻めにきたというのは、劉備の目を覚ませる口実だったのだと言う。ふたりが笑い合っていると、周瑜の水軍が迫って来ている、としらせが入った。孔明は船を捨て陸路を取れと指示を出す。

 陸に上がっても周瑜は追ってくる。あと少しで追いつかれそうになったとき、関羽があらわれ睨みを利かせた。劉備軍の傘下に入った黄忠と魏延も一緒に兵を率いている。かなわないと判断した周瑜は引き返したのだが、孔明にしてやられたことに激怒し再び血を吐いて倒れてしまった。

以上を踏まえてどこまで噓か分からないレビュー


・またオカンに叱られる孫権
 一発で劉備が気に入った呉太国。劉備は老人転がしだ。

 うそーん

 最悪の展開ですが孫権はオカンが怖いので逆らえない。やけ酒をあおっていると、暗殺してやろうという目論みすらバレてしまう。そこでとった作戦が、孫権名物いさぎよい責任転嫁だった。
「えー、なんのこと? 呂範に聞いてみて」
 いきなりのパスに度肝を抜かれた呂範。受け取ったボールを全力で賈華へ投げつけた。賈華が必死でボールを渡す相手を探すも、みんな視線をそらす。そこへ呉太国の死刑宣告。でも劉備がウマいこと言って、自分のお株を上げつつ処刑を止めさせた。ホンマ食えん男やでえ。


・おうちに帰りたくない劉備
 贅沢な暮らしで骨抜き状態の劉備。「髀肉の嘆」は遠い昔。「いざ行かん、民のために!」とか、ちょっとハリキリすぎだったかなーとばかりに浮かれた毎日を過ごす。おもてなしのなかでも、極めつけは孫権のオトンが連れて帰った(異民族の?)踊り子さんのダンスだ。

 おっぱいダンサー最高!

 地味に甘寧もおっぱいダンス見に来てました。そら見逃せんわな。文官のジイサン達も「若返るわー」と楽しそう。おっぱいダンス見てるときの、みんなはすごくいい顔だ。おっぱいの力すごい。おっぱいで天下統一できるんじゃないのか。劉備なんて趙雲が会いにきても「そんなことよりおっぱいダンスだ!」と面会を断ってしまうぐらいだ。でも趙雲もおっぱいダンスだけは影から見てたと思う。そして甘寧かっこいい。


・「そういえば、もう年末じゃね?」と思う趙雲

 趙雲のめずらしい平服姿

 いくらなんでも地味すぎないか。もっといい服着させてあげて。贅沢したり華美なものには興味がない、という生真面目さの表現なんだろうか。でもおっぱいダンスは見てたと思う。
 そうそう。演義でこのあたりの描写がおもしろいので、大雑把に引用します。

 ──却説、趙雲は五百の兵と東屋敷の前に駐屯していたが、(劉備があんな調子なので)一日中することもなく、城外に出て弓を射たり馬で走っているだけだった。みるみるうち年末になり、ハッと気がついた。
「そういえばアノ先生に袋三個渡されてたけど、南徐についたら一個開けて、年末が来たらもう一個、それで超緊急事態になったら最後の一個開けれって言われてたじゃん。よーし、開けてみよう。遊びほうける劉備さまをなんとかしてくれるアドバイスが入ってるに違いない」

 趙雲かわいくないですか? 劉備と一緒になって享楽にふけるわけでもなく、かといって無視されてふて腐れるわけでもなく、毎日を黙々と過ごしてた様子が伝わって来ますね。「ハッと気がついた」とか、じゃあ忘れてたのかよと言いたくなる天然ぶりだ。
 きっと張飛なら飲んだくれてた。関羽だったら何してただろ。たぶん劉備にキレそうになりながらも言い出せないものだから、呉の連中に八つ当たりして諍いを起こしてただろう。そう考えると孔明さま、ナイス人選。

・袋の中身を見て劉備のところへ行く趙雲
「劉備さま。緊急事態ですよー。エマージェンシー!」
「今は夜だぞ。こんな時間になんだ。これから玉錦とオールナイトでフィーバーするんだから」
「殿は荊州のこと忘れちゃったんですか!」
「やっぱ若い娘はええわ。肌のハリが違うもん。はね返るような弾力があるもん」
「わたしには以前、未亡人をすすめてきたくせに、殿だけズルイですよ!」
「未亡人でも美人だったじゃないか。揉まれてこなれたパイオーツもいいもんだろ」
「美人でも中古はイヤでござる」(キリッ
「趙雲、まさかの処女厨か」
「そんなことより緊急事態ですってば」
「明日にしろ、明日」
「先生からのおしらせなのに、いいんですか? どうなっても知りませんよ」
「こ、孔明から?」
 鬼の形相で睨まれた思い出がよみがえる劉備。風邪を引いたかのような悪寒が背筋を這い回る。劉備は居住まいを正して趙雲の話を聞くことにした。


・かけおち劉備&玉錦
 いきなり余談ですが、曹操と陳宮(※オッサン)もかなり初期の頃かけおちしてましたね。一緒のおふとんで寝たり、仲睦まじかった。でも残念ながら蜜月は長く続かなかった。曹操がいつものウッカリで、親戚宅にて一家惨殺事件を起こしたため、陳宮は「ありえん」と言い残して去ってしまったのです。
 ずっと未練のあった曹操。とっくに吹っ切っていた陳宮。そんな陳宮の最期を泣きながら見送った曹操の失恋物語。曹操は惚れっぽいので失恋も多いのだ。

 さてさて逃げる劉備。追う孫権一味。これはヤバいと思った劉備は「どうしようか?」と趙雲に訊ねます。趙雲は「わたしがしんがりをつとめますから先を急いでください」と頼もしい。しかし、ついに追っ手が背後に迫り、前方には周瑜があらかじめ差し向けておいた軍勢が待ち構えている。
 これは詰んだな、と劉備。もうおしまいかしらん、と趙雲に訊ねると「ご安心ください。先生からもらった袋が、ひとつ残っています!」
 ウキウキと袋を開けようとする趙雲。だが濃い眉をひそめて躊躇した。
「よくよく考えてみたんですけどね。こんな時こそ嫌がらせをするのがアノ先生じゃないでしょうか。一度目二度目で安心させておいて三度めで落とす。三段オチというか、ホップステップ玉砕狙いのような気がします。怪しいなあ。これ超怪しいですよ」
「だから大丈夫だって言ってるだろ。早くしないと、兜のフサフサ引きちぎるぞ」
「なんで劉備さまも先生も、このフサフサを虐待しようとするんですか。もしかしてフサフサにムカついてんですか? どうしてフサフサを憎むんですか? 風になびくフサフサはかっこいい武将のマストアイテムですよ!」
「フサフサ、フサフサ、しつこいわ! 自分でも正式名称が分からんもの付けるな。そんなことより、頼むから袋を開けてくれ」
「分かりましたよゥ。でもやだなー。死んだイナゴとか入ってんじゃないかなー」
 しぶしぶ開封した趙雲。さいわいにも普通にピンチを切り抜けるアドバイスが入ってました。内容を読んだ劉備は「まかせておけ」と頼もしく言って玉錦の前へ行きました。そしてさめざめと涙を流しながら訴えたのです。
「孫権の追っ手がわたしを殺そうとしている。わたしは今まで胸に秘めて言わなかったことがあるが、こんな状況になって言わないわけにはいかなくなった。聞いてくれるか?」
「なんですか? どうぞおっしゃってください」
「孫権どのと周瑜どのが共謀して玉錦をわたしに嫁がせたのは、玉錦を思ってのことではなく、わたしを幽閉して荊州を奪い取ろうとするためだった。奪ったあとは、わたしを殺すつもりだろう。それでもわたしが死を恐れず呉へやって来たのは、玉錦に男子のような度量があり、わたしを救ってくれるに違いないと思ったからだ。実際、玉錦はわたしを見捨てなかった。のみならず、こんなわたしを愛してくれた。玉錦と出会ってからの日々は、戦乱に身を置いていたわたしにとって、はじめての平穏で安らかなものだった。しあわせとは、こういうものなのかと教えてれくたのは玉錦、キミだ。逃亡するに至っても、玉錦は機転を働かせ一緒に来てくれた。今、玉錦以外にこのピンチを切り抜けられる人はいない。どうだろう。やってくれるだろうか? もし無理だと言うのなら、わたしは玉錦の命だけでも救うためここで死のうと思う。志なかばで死ぬのはつらい。だが、キミと過ごした愛しき日々の思い出が、わたしにはある……ああ、玉錦。愛しているよ。今までありがとう」
 哀愁を漂わせ、女性の庇護欲をくすぐり、愛を臆面もなく語る。奥義「オレにはキミだけなんだ!」を発動させれば、十代の小娘などイチコロです。年寄りも娘もコロがす劉備。人たらしの本領発揮だ。
 コロがされた玉錦は「兄上なんてもう肉親でもなんでもないわ。わたしに任せて!」と宣言。そう言った割には「アタシを誰だと思ってんのよ。あんたらのトップの妹よ?」と権威を振りかざして追い払った。
 でも一難去ってまた一難。次なる追っ手がやって来ました。劉備が「どうしよう」と(わざとらしく)弱り切った姿を見せると、玉錦は「わたしがしんがりを務めます」。劉備はこれさいわいと「じゃあ、先に長江へ行ってるからねー」と、なんと玉錦に任せて先に行ってしまった(一応趙雲が随行するけど)。さすが逃げ足の早さには定評がある劉備です。今までも妻子を置いて逃げた実績がありますから、こういう時に「いや、おまえを置いて行けるものか!」なんて躊躇しません。自分が死んだらおしまいですからね。
 ノリノリの玉錦は追っ手と対峙して言います。
「母上がいいって言ってんだから、アンタ達には関係ないでしょ。ほっといてちょうだい」と、やっぱり権威を振りかざす。その言葉を聞いた追っ手は考えます。オカンの了解は得ているとなると、それをあとで知った孫権はオカンが怖いものだから「ぼくは連れ戻せとか言ってませんよ。あいつらが勝手にやったんじゃないですか?」と、例のいさぎよい責任転嫁をするかもしれない。というわけで追っ手は引き返してしまった。孫権の自業自得。


・船で劉備を迎えにきた孔明さま
「あの計略はうまくいったかなあ」
 船上で考える孔明さま。岸が近づくにつれ劉備と趙雲の姿も見えて来た。
「うわあ。劉備さまー! 子竜ちゃーん!」
 久しぶりに会えた喜びで懸命に手を振る孔明さま。しかしぴたりと手を止めて口を歪めた。
「……あの女。一緒について来れたんだ。運がいいねえ」
 劉備の逃走に玉錦を捨て駒として利用する。それが孔明さまの立てた計略だった。劉備を無事生還させ嫁は途中で脱落させるという、一石二鳥を狙ったのだが、想像以上に玉錦はうまく立ち回ったようで劉備とここまで逃げて来てしまった。
「なかなか手強いね。まあいっか。彼女の天命が尽きてないということは、まだ何か使い道があるってことでしょ」

「そのときはヨロシクね」

 孔明さはまドス黒く笑いました。


・合流する孔明さまと劉備
 そこで玉錦と孔明さまは初顔合わせ。女の勘なのか、玉錦はまっさきに孔明さまのことを劉備に訊ねます。
「こちらの背丈だけは立派な優男はどなたですの?」
「玉錦は諸葛瑾先生をご存知かな?」
「ええ。兄上のお気に入りですから」
「彼は諸葛先生の弟の亮だ」
「まあ。そうでしたの。お噂はうかがっております。ご兄弟で優秀ですのね」

「わたくし玉錦と申します」

 微笑む玉錦に、孔明さまも軽く会釈を返します。
「ぼく孔明です。こんにちは、タマキンさん」
「ギョクキンよ!」
「へえ。タマキンさんは孫権さまと違って目が青くないんだね」
「だからギョクキンだって言ってるでしょ! どんだけ性格悪いのよ」
「この人怖いね、劉備さま。あっちでお茶でも飲もうよ」
 早速煽りまくる孔明さま。先が思いやられる劉備でした。


・迫り来る周瑜の軍勢
 水路から陸路へ切り替え逃げる劉備一行。いきりたつ周瑜は猛然と追い上げる。追いつかれる寸前、丘に人影があらわれ、両軍勢を見下ろした。赤兎馬にまたがり、緑の戦袍をまとい、青龍偃月刀を軽々と担いだ、その人こそ関羽。

 お得意のドヤ顔

「おいっすー」
 不敵に笑う関羽に気付いた周瑜は慌てふためき、手綱を引いて馬を止めた。劉備も頼もしそうに関羽を見上げて言った。
「孔明が呼んでくれたのか?」
「うん。ちゃんと仲良くしてたんだから」
「ふたりが喧嘩をするのではないかと心配していたが杞憂だったな。よかったよかった」
「……うふふ」
 劉備が新しい妻を迎えると知って嫉妬の炎を燃やしたのは、孔明さまだけではありません。新しい寝間着まで用意して添い寝の準備を整えていたのは関羽も一緒だったのです。

 ──数ヶ月前
 関羽のもとを訪れた孔明さまは劉備が結婚すると伝えました。
「あ、兄上が結婚?」
 赤い花柄の寝間着を試着していた関羽は愕然とした。孔明さまは羽扇の羽を噛みながら涙目です。
「そうだよ。周瑜のせいで。どう思う?」
「よ、よろこばしいことじゃないか。いやあ、めでたい」
「うそばっかり。おヒゲがピクピクしてるじゃん」
「おまえこそ額に血管が浮かんでるぞ」
「ていうか、何その寝間着。全ッ然似合ってないんだけど。気持ちワル」
「おまえがさっさと周瑜に犯されていれば、こんなことにはならなかったんだ! 今からでも遅くない。すぐ犯されて来い。なんなら俺が縛り上げて周瑜に差し出そうじゃないか」
「やだよゥ。周瑜はああ見えて変態なんだもん。この前間者の話聞いてドン引きしたもん」
「変態じゃなかったら構わないのか?」
「だめだめ。ぼくのモチ肌は劉備さまだけのもの」
「俺はヒゲの一本まで兄上のものだ!」
「……はあ、虚しい」
「そうだな……」
 ふたりは愚痴をこぼし合い意気投合したのでした。

 そんなやり取りがあって、場面は元に戻ります。
「周瑜……(余計なことをしやがって)絶対に許さんぞ!」
 関羽の一喝で空気がビリビリと震えるようだった。
「むう。さすが関羽どの。ものすごい気迫だな」
 側で見ていた老将黄忠は関羽の胸中などつゆ知らず、感嘆の声をもらした。その横には何の前触れもなく登場した魏延。
「すごいッスね」
 そう言ってヒゲをしごく魏延が見つめているのは孔明さまだった。数ヶ月前のことを思い出せば、今でもムカついて仕方ない。
 魏延は劉備とともに戦いたいと願っていた。しかし機会に恵まれず、黄忠と長沙の韓玄に仕えていた。その長沙を攻めにきたのが関羽だった。
 猜疑心の強い韓玄は関羽と黄忠が内通しているのではないかと妄念を抱き、黄忠を処刑しようとした。そこで魏延は立ち上がった。
 こんなバカな主に仕えて何になる。しかも攻めて来ているのは劉備軍だ。手柄を立て傘下に入る好機じゃないか。魏延は謀反を起こし、韓玄を斬り、黄忠を救うと劉備に帰順した。ようやく劉備にお目見えし、誇らしい気持ちの魏延だったが、あの男が信じられないことを言ったのだ。

 ──ねえ、劉備さま。黄忠はいるけど魏延いらない。首斬って。

 何が魏延には反骨の相があるから、いずれ災いを起こす、だ。どう考えても言いがかりだ。劉備が取りなしてくれたから、よかったようなものの、平然と首を斬れと言ったアイツの顔が忘れられない。
 なんで、あんな奴が劉備の側にいる。
 ふざけるな。今に見てろ。
 孔明さまを見つめる魏延の瞳に暗い情熱が揺らめきました。


・吐血と気絶の会わせ技の周瑜

 俺の生き様よう見とけー!

 来週で出演シーンがなくなるので、ここぞとばかりに目立とうとする周瑜さん。黄蓋も元気そうでなによりです。

 というわけで、キルゾーンから抜け出せたのは劉備だった。
 次回さよなら周瑜。


「またね!」「殿、おっぱいダンス見たいんでしょ?」
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 子供の頃見てた三国志アニメの主題歌探したらあったわー。人形劇三国志→アニメ版横山三国志の流れで熱中して見てた。



 当時OPの歌が超カッケーと思ってて、今聞いてもやっぱりかっこいいや。
 元の横山三国志は読んだことないんで、今となっては絵を見ても誰が誰なのか分からない。さすがに劉備と関羽と張飛は三人一緒にいるから分かるんだけど、他がなあ……
 ああ、孔明さまは分かるよ。ちょっと笑いそうになる。マチカさんのなかの孔明さまが、人形劇三国志で見た高貴で優雅な雰囲気で固まっていたのに、このアニメだとドジョウひげのオッサンになってて衝撃を受けたんだわ。でも今見ると、無駄に胸元はだけてやがる。なにこれ大発見。意外といい胸筋してんな。誘ってんのか。ンマー、とんだ淫乱だこと!
 日中合作三国演義の孔明さまのガードがカタいだけに、これは見習っていただきたい。劉備がやけに「キレイな劉備」なのも愉快じゃないか。
 そんで白い甲冑の武将は趙雲? それでモミアゲが顔まで侵食してんのが呂布かなあ。赤兎馬らしきものに乗ってるし。あとひとり目立ってんのが曹操なのかしらん。

 どうでもいいですけど、曹操が騎乗してた馬の名前が「絶影」(※ゼツエイとお読みください)って、妙に中二病をくすぐる名前だと思いませんか。曹操はポエマーだし、そういう名前つけちゃうセンスがあってもおかしかない。
 このアニメだけど作画がコロコロ変わるというか、やたら劇画チックな時があったような気がする。いや、このOPの絵も元の横山絵に比べると劇画チックなんでしょうけど、さらにすごかった放送があった覚えがあるんよなあ。
(今週のあらすじ)

 気絶から目覚めた周瑜は、荊州、襄陽を奪回するのだと息巻くが、魯粛が思いとどまらせた。自分が劉備のところへ言って返還するよう説得すると言う。
 魯粛は劉備と面会すると荊州の明け渡しを求めた。孔明は「その道理はおかしい。もともと荊州をおさめていた劉琦に返すのが道理だ」と答えるも「劉琦は重い病を患っており、もし彼が他界すればその時は荊州を渡す」と約束した。
 それを聞いた周瑜は、劉琦がいつ死ぬとも分からないのに馬鹿な約束をしたものだと呆れた。やはり自分が武力で取り返すと言い出したのだが、周囲からまずは療養してほしいと頼まれる。
 やがて傷の癒えた周瑜が戻ってくると、孫権が合肥での戦いで負けたと聞く。しかも療養しているあいだに劉備軍が桂陽、武陵、長沙を手に入れ、弓の名手である老将黄忠を傘下に入れてしまったという。
 魯粛は劉琦死亡のしらせを聞く。約束してあった荊州の返還を求めたが、またしても孔明の弁舌により要求は煙にまかれうやむやにされてしまう。
 帰還した魯粛をどこまでお人好しなのかと呆れていた周瑜は劉備の妻が死んだことを知った。そこで周瑜は一計を案じた。劉備に孫権の妹を嫁がせるといって、呉までおびき出し人質にとり荊州と交換する──。
 その案はすぐ実行に移された。
 呉の使者から縁談の話を聞いた劉備は罠なのではないかと孔明に相談した。しかし孔明はおかしそうに笑い、ぜひ縁談を受けるよう言った。心配はいらない。きっと無事に花嫁を連れて帰れます、と。
 孔明は旅立つ劉備に警護として趙雲をつけた。そして趙雲には三つの小袋を渡し、何かあった時には袋に入れてある指示通りすればかならず助けになると言付けた。
 劉備は荊州を孔明に任せ、婚礼のため南徐へ船で向かった。道中、趙雲は怪訝に思う。南徐が近付いても迎えの人間がいない。
 これは、どういうことだろうかと考えた趙雲は早速、孔明に渡された袋のひとつを開けた。
 そこには劉備が婚礼のためやって来た、と住人に触れてまわること。そして孫策周瑜両名の、妻の父親である喬国老のところへ挨拶に行けと書いてあった。
 趙雲は南徐へ到着すると婚礼のためと言って食料を買いあさり、劉備の行脚には楽隊を伴い派手に音楽を奏でさせ、住人には「劉備が孫権の妹を娶るために来た祝いだ」と言って金を撒いて歩いたものだから、劉備の婚礼は広く知れ渡った。
 さて、劉備から挨拶を受けた喬国老は、孫権の母親である呉国太の屋敷へ祝いの言葉を述べに訪れた。しかし喬国老から話を聞いた呉国太は「そんな話は聞いていない」と激怒した。それから孫権を呼びつけると、娘の婚礼を勝手に決めるとはどういうつもりだと罵った。
 あわてる孫権。婚礼というのは噓で、劉備を暗殺するため周瑜が考えた策略だと弁解した。だが孔明の策略により南徐の住人で婚礼を知らぬものはいない。今から取りやめることなど不可能だった。しかも、もし劉備を暗殺してしまえば、娘は未亡人になってしまうと言って呉国太の怒りはおさまらない。
 そこで呉国太は自分が劉備に会って、娘に見合う男かどうか確かめると孫権に申し付けた。孫権は渋々了承し甘露寺にて劉備と面会させると約束して引き下がったのだが、実は、そこで劉備を暗殺しようと考えていた。

以上をふまえて、どれだけ噓か分からないレビュー。

・三寸不爛の舌で追い返される魯粛
「孔明はん。今日は昔のよしみなしで強気にいかせてもらいまっせ」
「お手柔らかにね」
「先だっての赤壁の戦い。あれ、結局は呉の討伐を名目にした曹操の劉備はん捕縛目的でもあったわけです。それをわが軍が撃破したんでっせ。にも関わらずぬれ手に粟で、荊州襄陽の九郡を奪うとはどういう理屈でっしゃろ」
「ぼく、魯粛ちゃんのこと賢いと思ってるよ」
「そらおおきに。答えになっとりませんがな」
「だから魯粛ちゃんみたいに賢い人が、おかしなことを言うもんだねえってふしぎなの。持ち物は持ち主に返るってことわざがあるでしょう? 荊州襄陽の九郡はもともと呉のものでもなんでもないよね。今は亡くなった劉表さまのものだったと知ってるでしょ。で、劉表さまをはじめ、ご子息である劉琦さまは劉備さまの一族だよ。同族を助けて何がおかしいの?」
「それを言うんやったら直接劉琦さまが占領しはるんが筋でっしゃろ。それやったら分かります。でも劉琦さまおらんやないですか」
「うん? 会いたいの? じゃあ連れて来てもらうから待ってて」
 劉琦は体を支えられ、ようやく立っているという状態であらわれた。
「こんな状態なもので挨拶も出来ずにすみません」
 あやまる劉琦にビビる魯粛。
「分かったでしょ、魯粛ちゃん。でも、ここだけの話、劉琦さまはもう長くないと思うんだよね。だから劉琦さまが亡くなったら返すよ。ね?」

「……で、ユーはすごすごと帰ってきたのか?」
 呆れる周瑜。魯粛はいやいや、と片手を振ってみせた。
「劉琦はんが長うないのはホンマでっせ。今日お会いしましたけど死にかけでしたで。半年も持たんのとちゃいますか。そん時に周瑜はんが攻めて行けば劉備はんも文句のつけようがないでしょ」
「人の寿命は分からない。半年先なら、俺のほうが早く死んでいるかもしれないんだぞ」
「そんな……縁起の悪いこと言わんといてください。今度言ったら怒りまっせ」
「ジョークだ、ジョーク。もう言わない」
 鬱々とした日々を過ごす周瑜。やがて劉琦が死んだとしらせが届く。周瑜を元気づけるためにも、今度こそはと勇んで出かける魯粛。
「いやー劉琦はんのことはまことに残念でしたなあ。で、返してもらいに来ましたで、劉備はん」
「遠方からお越しいただきまして、どうも。酒の支度もしておりますので、まずはお飲みください」
 全裸になれば飲めば荊州を返していただけるのですね、とばかりに魯粛はグイグイと杯を空けた。
「それで本題に入りますけど──」
 魯粛が以前の約束について切り出すと、孔明さまがサッと顔色を変えてさえぎりました。
「もうッ! 魯粛ちゃんの馬鹿!」
「ええー。いきなりなんでっか」
「ちょっとは人の話を聞いたらどうなの!」
「いや、まだ何も──」
「魯粛ちゃんが、そんなにものわかりの悪い人だと思わなかったよ!」
「せやから、ものわかりも何も、これからでんがな」
「いい? 漢王朝は高祖劉邦さまから始まって四百年、今日まで受け継がれてるわけ。それなのに今は曹操みたいな逆賊が次々とわいて来て、各地に我が物顔で割拠しちゃってるの。勝手に。嘆かわしいことだねえ。でも劉備さまは高祖さまの血を引いてる。現に皇帝が劉備さまを叔父だと認めてる。じゃあ領地を与えられて当然だよね。それが正統だもん。しかも劉表さまは劉備さまの一族だよ。領地を引き継いで何がおかしいのさ。ぼくの話、聞いてる?」
「へえ、聞いてます」
「それに比べて孫権さまは、劉姓でもなんでもない。朝廷になんの功績があるわけでもない。まあ、いいよ? 僻地をたいらげて威張ってるぐらいならご自由に。でも、それだけで飽き足らず漢王朝の領地まで欲しがるってどういう了見なの。何度も言うけど、この世は劉氏の天下なの。それなのに孫が姓の孫権さまが権利を主張するとか意味が分からないよ。ぼくの話、聞いてる?」
「聞いてますがな」
「大体さ、ことあるごとに呉軍が頑張って曹操を破ったって言うけど、なんか忘れてない? そもそもぼくが祈祷して、東の風を天に借りてなかったら、周瑜の火攻めは成功しなかったよね。そうだよね?」
 実際は天候を読み、風が吹くことを知っていただけなのですが、そこをハッタリかまして自分の功績にしてしまった孔明さま。こういうものは言ったもの勝ちです。
「……感謝しとります」
「もし成功しなかったら、どうなってた? 周瑜と孫策さまの奥さんは、種馬曹操に連れて行かれてたよ。朝から晩まで絶世の美人姉妹とハッスルタイムとか、それなんてエロゲ? 魯粛ちゃんの家族だってただじゃ済まなかっただろうねえ。以前、曹操は父親の仇討ちで徐州を奪うと何をやった? 男も女も老人も子供も、生きてるものはみんな殺した。みんなだよ。膨大な数の死骸で川が塞き止められた。あんな光景……二度とごめんだよ」
「そういえば孔明はん、子供のころ徐州に、」
「とにかく。曹操は大虐殺するような奴なんだよ。魯粛ちゃんの三族皆殺しぐらい平気でやっただろうね。今日劉備さまが領地問題に触れなかったのは、いちいち説明しなくても魯粛ちゃんなら、ものの道理が分かってるだろうと思ってたからだよ。それなのに野暮にも程があるね。ビックリだよ」
 孔明さまの怒濤の弁舌に魯粛は苦しそうに返した。
「でもですな、それじゃあ具合が悪いんですわ」
「お酒に酔ったの? 吐きそう? ここで吐かないでね」
「そうやのうて。劉備はんが曹操に狙われてのっぴきならん時に、孔明はんを孫権さまに引き合わせたんはワテです。それで赤壁の戦が始まったわけです。それで周瑜はんが荊州を攻めよういうときに止めたんもワテです。おまけに劉琦はんがお亡くなりになったら、荊州を返すいう約束を取り付けたんもワテです。どの面下げて孫権さまと周瑜はんのところへ帰れ言うんですか。きっつい処罰が待っとりますわ。下手したら殺されてまうやん」
「それはヤダ。魯粛ちゃんが死ぬのは嫌だよ」
「まあ、別にええんです。ワテは殺されても、誰も恨みまへん。死生命あり。あらかじめ決まっとった寿命がそれまでやったいうことですから。せやけど領地を明け渡さん劉備はんを孫権さまは許しまへんで。かならず武力で奪いにきます」
「んー。じゃあ荊州を孫権さまから借りてることにしようよ」
「借りてる?」
「そう。荊州を手放しちゃうと劉備さまは居場所がなくなってしまうでしょ。だから他の領地を手に入れるまで待ってくれないかな。実はね、蜀を狙ってるところなんだ。蜀が取れたら荊州は絶対に返すから」
「そう簡単にいきますかな」
「信じられない? 劉備さまには、ぼくがついてるのに?」
「……」
 まだ迷う魯粛。孔明さまは愚痴でもこぼすように言います。
「関羽や張飛もいるよ。……一応」
「そうですなあ。天下無双の豪傑がふたりも揃ってはりますからなあ」
「一応ね、一応。心配だったら誓約書を書くよ。ぼくと劉備さまがサインするし。あ、魯粛ちゃんもサインするといいよ。そのほうが孫権さまに報告するとき格好がつくからね。どうだーって見せてやりなよ」
「へえ、分かりました。反故にせんよう、ホンマに頼んまっせ」
「うふふ」

「……で、ユーはお人好しにも誓約書にサインまでして帰って来たのか」
 周瑜は呆れ果てた。魯粛は何がいけなかったのかという顔をする。
「がんばりましたで?」
「どこがだ。またしても性悪猫にやられたな。あのな、蜀を取ったら返すというが、それはいつのことになるんだ。一年先か? 五年先か? のらりくらりと荊州に居座り続けるかもしれないんだぞ」
「でも劉備はんは約束を破るようなお人やありませんで」
「俺はユーの性格が好きだが、お人好し過ぎるところだけはどうにかしろ。なんの保証もできない約束を、ユーがサインまでして保証してどうする」
 そういえば、そうだ。魯粛はノリでサインした誓約書を手にして青ざめた。
「……どないしましょ。孫権さまに、めっちゃ怒られますやん」
「こんな間抜けな約束をしてきて、他の奴なら斬り捨てるところだが、魯粛。ユーは俺にとって他でもない人間だ。どうにかするから安心しろ」
「すんまへん……」
 そこで周瑜が考えたのだが、孫権の妹をエサに劉備を釣り上げる計略でした。
「どうだ魯粛。このアイディアは」
「孫権さまが了承するやろか」
「偽の縁談話で劉備を釣るだけで、何も本当に嫁がせるわけじゃないからな。了承してくださる。それにこの策は孔明に与えるダメージが一番大きい」
「劉備はんやのうて孔明はん?」
「ユーも孔明の劉備に対する度を超した敬愛ぶりを知っているだろう。そこへきてホットな若い娘との縁談話だ。悋気の炎に身を焦がし転げ回るだろうよ」
「今まで孔明はんは周瑜はんをおちょくり倒してましたけど、別に憎たらしかったわけやおまへんで。ああいう性格なだけで、周瑜はんのことは嫌いやなかったんです。むしろ好きやったから、ちょっかい出しとったわけです」
「迷惑この上ない話だな。だが、それがどうした」
「でもこの策略実行しはったら、本格的に恨みを買いまっせ」
「知ったことか。あのナマッチロイ顔が真っ赤になるかと思うとウキウキだ」
「周瑜はんはおモテになりますさかい、色恋沙汰の妬みそねみに狂ったことがないから分からんのでしょうけど、悋気の炎いうんはホンマに恐ろしいもんでっせ」
「ふふ。ユーは詳しいのか? 燃えるような恋の経験があると」
「笑い事やおまへんで。そこだけは火をつけんほうがよろしいんとちゃいますか。なんせ、そこらへんの小娘を怒らすんとはワケがちがいます。相手は孔明はんでっせ。しれっとした顔してはりますけど、うちに秘めたドス黒さは生半可やないですよ。悋気の炎でなんもかんも燃やし尽くして塵も残らんようになりますよ」
「心配しすぎだ。孔明恐るるに足らず!」
「知りまへんで……」


・大笑いで劉備に縁談をすすめる孔明さま
「孫権さま……ていうか周瑜の考えだろうけど、いいんじゃない?」
「しかしなあ。五十の男が自分の娘よりも若いような子を嫁にもらっても釣り合わんだろう。むこうの娘さんだって結婚相手がオッサンじゃかわいそうに」
「むしろ羨まし……いえ、この世で劉備さまに似つかわしくない女の人なんていないよ。光栄に思うべきだね。ふ、ふふ。あはっははは!」
 狂ったように笑う孔明さまにビビる劉備。
「どうした孔明。変なものでも食べたのか」
「笑いでもしないと泣きそうだよ! 独り寝で寂しい劉備さまを閨で慰めて、やがて情にほだされた劉備さまとあんなことやこんなことをしようと思ってた計画が台無しだよ!」
「そういうことは心で思って口に出さないものじゃないのか」
「許さない……絶対に許さない」
「そ、そんなに嫌なら断ろうか。別にわたしも命を天秤にかけてまで嫁が欲しいわけでもなし」
「黙らっしゃい! 天下の覇権を争う男が、たかだか縁談話ひとつで怖じ気づくな!」
 鬼の形相で睨む孔明さま。
「いや、孔明が怖いんだが」
「皮を斬らせて肉を斬る。肉を斬らせて骨を斬る。この縁談を受けて立ちなさいッ!」
「……分かったから落ち着け」

 周瑜ェ……

「他のどんな策略よりもカチンときたよ。ただじゃ済ませないからね。これは万死に値する。地獄の業火に焼かれるものと思え」
 魯粛の予感は的中です。キルゾーンに踏み込んだ周瑜。


・劉備の護衛を趙雲に頼む孔明さま
 孔明さまを迎えた劉備は「ふたりは水魚の交わりだ」といって重用しています。ですが新参であることには変わりなく、いくら腹黒ドSの高慢ちきな孔明さまとはいえ人間関係には気を使います。
 劉備の義兄弟で最古参の関羽と張飛よりも趙雲のほうが頼み事をしやすい。なので何かあると「じゃあ、趙雲で」ということが多いのです。
 また関羽や張飛は華々しい活躍をする時もあれば、武勇を誇るあまり人のいうことを聞かず、デカい失敗もしちゃうウッカリ屋さんだったりする。人間らしいといえば人間らしいのですが、その点、趙雲は関張に劣らない猛将でありながらも素直でデカい失敗がない。
 そこで劉備の警護など、ウッカリしてもらっては困る場合は趙雲を配置するようです。


・旅立つ劉備と見送る孔明さま
「劉備さま、気をつけてね」
「荊州は孔明に任せたからな。よろしく頼むぞ」
「はあい。いってらっしゃい」
「孔明も元気でな」
 手を振る劉備。孔明さまが見えなくなったころ、不安そうにため息をこぼしました。
「心配だな」
「大丈夫ですよ。わたしが命に代えても劉備さまをお守りします!」
 趙雲は胸を張った。劉備は口元だけで笑うと来し方を見やった。
「自分の身を案じているわけではない。わたしがいない間、孔明と関羽が喧嘩をしないか心配なのだ。孔明は何が気に入らないのか、すぐ他人を挑発する。しかも今はにこやかに見えて、その実すこぶる機嫌が悪い」
「気に入らないとかではなく、あの先生は生来そういう性格なんでしょう」
「そういう性格といえば、関羽も気位が高いから、挑発されると無視することができない。張飛では仲裁できんだろうし、無邪気におもしろがってはやし立てるかもしれん」
「関羽将軍は襄陽の守りについていますから、先生と顔を合わせることもないです。心配いらないんじゃないでしょうかね。それに、あれはあれで仲がいいんじゃないですか? わたしはそう思いますよ」
「そんなものだろうか。趙雲は誰とも険悪にならずいてくれるから、気苦労がなくて助かるよ」
「イケメンは無益な喧嘩をしないものです」

 キリッ

「……ああ。偉いな趙雲は(よく分からんが)」


・孔明さまに渡された袋を開けてみる趙雲
「もうすぐ南徐に着きますけど、なんか様子がおかしいですねえ。そうか、袋はこういう時のためにあるんだな。開けてみますね」
 そう言ったものの、趙雲は袋を手に乗せたままじっと眺めている。
「開けないのか?」
 訊ねる劉備。趙雲は名状しがたい表情で言う。
「もしかして、この袋のなかには『はずれ』って書いた紙が入ってんじゃないでしょうか」
「まさか、そんはなずはなかろう」
「考えてもみてくださいよ。わざわざ勿体ぶったやりかたで嫌がらせって、いかにもあの先生がやりそうなことじゃないですか?」
「……趙雲。普段、孔明からどんな目に遭わされているんだ」
「怪しいなあ。これ超怪しいですよ。カエルの死骸とか入ってんじゃないかなあ」
「趙雲個人に対しては知らないが、わたしにまで累が及ぶ嫌がらせはしないだろうから、この件は安心していい」
「なるほど。開けてみましょう!」
「ははは(これで納得するんだ)」


・オカンに叱られる孫権
 オカンに呼び出されてそそくさとやって来た孫権。

 みなさん。こう見えて結構若いんですよ

「母上、ご機嫌いかがですかー」
「おんどれ。どの面下げてやって来とんじゃ」
「お、おんどれ?」
「あたしの生んだ娘を、断りものう嫁にやるとはエエ度胸しとるのゥ」
 まさかバレているとは思わなかった孫権。君主であろうとオカン(生みの親かどうか知らないけど)には頭が上がらない。呉はオカンの立場が強いのか、はたまた女性の気性が荒いのか、とにかく孫権はうろたえた。ビビったあげく「だって、周瑜がね。周瑜がそうしようって言ったんだもん」とあっさり白状した。
 今度ビビったのは喬国老だった。娘婿の周瑜が首謀者とあれば、のんきに構えていられない。怒りの矛先が自分へ向く前に呉国太をなだめた。
孫権(喬国老ナイスフォロー。周瑜のせいにして、さっさと劉備を始末しないとな)

 劉備と周瑜。キルゾーンから生還できるのはどっちだ!


「またね」「殿は種馬なんですね」
今週のあらすじ

 華容道で曹操と対峙した関羽。
 疲労困憊の曹操軍にはわずかな兵しかいない。程昱はここを切り抜けるため、関羽に情けを請うよう曹操へ提案した。背に腹は代えられず、曹操は程昱の意見を受け入れ命乞いをした。義侠心に厚い関羽は逡巡したのち、かつての恩義に報いるため曹操を逃がしてしまった。
 そして曹操は曹仁に助けられ、南郡の城へ立ち寄り軍を休めた。
 その晩、食事の席で曹操がひとり涙を流しているので程昱が心配して声をかけた。すると曹操は「郭嘉が生きていれば、こんなひどい負け方は絶対にしなかったものを」と、若くして死んだ軍師の才能を惜しんだ。

 一方劉備軍営では趙雲や張飛などの武将が華々しい戦果を報告していた。そこへ戻ってきた関羽は曹操を逃がしてしまったこと、そして自分を処罰するよう申し出た。孔明は関羽の首をはねろと命令したが、張飛を始めとして他の武将達が許しを請うた。劉備の頼みもあったので、孔明はそれを受け今後功績を立てることをもって関羽の償いとさせた。

 赤壁に勝利した周瑜は南郡の侵攻を開始したのだが、その道中に劉備からの使者が待っており、周瑜を酒宴に招いた。酒宴の席には劉備と孔明がいた。周瑜は南郡近くに駐留している劉備に「あなたも南郡を狙っているのか」と訊ねた。それに劉備は「いいえ。しかし周瑜どのがいらないというのであれば」と答えた。周瑜は「わたしが南郡を奪えなければ、あとは好きにすればいい」と約束し酒の杯を掲げた。
 酒宴からの帰途で魯粛が「なぜあのようなことを言ったのか」と諌めたが「南郡は確実に奪えるのだから大丈夫だ」と周瑜は笑った。
 周瑜が帰ったのち、劉備は孔明へ「わたしもそろそろ安住の地が欲しいものだ」と言った。孔明は「ですから周瑜と曹仁を戦わせておけばよいのです」と意味ありげに返した。

 周瑜の南郡侵攻は始めこそうまく進んだものの、いざ南郡の城へ突入すると曹仁の軍勢に奇襲をかけられ、毒を塗った弓矢により負傷してしまった。治療した軍医は「怒れば傷が開いてしまう」と言って静かに療養することをすすめた。
 ところが曹仁軍が周瑜のいる砦までやって来て、出て来て戦えと罵った。兵士達も一斉に周瑜を罵倒する。怒った周瑜は応戦に出たが、血を吐き落馬した。だが、それは曹仁を油断させるための周瑜の芝居だった。
 騙された曹仁は周瑜の陣営に夜襲をかけた。突入した周瑜の陣営はもぬけの殻だった。曹仁は自分をおびき込む罠だと気付いて引き返そうとしたが、隠れていた周瑜軍から火矢を浴びせかけられ大打撃を受けた。
 多くの兵を失い、もう南郡を守りきれないと諦めた曹仁は襄陽へ撤退した。
 意気揚々と南郡へ入ろうとする周瑜。
 そのとき城壁に劉備の旗が立った。周瑜が曹仁と戦っている間を狙い、趙雲が手薄になった南郡を先に奪っていたのだった。奪回しようにも守備が堅く手が出せない。周瑜は南郡奪回は一旦先に延ばし、荊州と襄陽を落とそうとするが、すでにそこも関羽と張飛に占領されていた。
 孔明の策略により劉備軍は戦うことなく領地を手に入れたのだ。孔明に裏をかかれ利用されたと分かった周瑜は激怒し、吐血したあげく倒れてしまった。


 以上を踏まえてピックアップ

・曹操に命乞いを提案する程昱
「関羽は武勇だけではなく、義理人情を重んじると聞いています。殿は以前ご恩を施されました。逃がしてくれるよう頼まれてはどうです?」
 前回、虫の息で置き去りにされた程昱が脅威の回復力で登場。軍師たるものベホマとまではいかずとも、ベホイミぐらい習得していなければ勤まらないのだ。そして張遼は前回出ずっぱりで奮闘したというのに、今回の登場は一瞬だけ。チンポジ発言がよくなかったらしい。曹操は祖父が宦官であったため、チンコ関係の話はタブーだったのかもしれない。


・食事の席で泣く曹操を案じる程昱
「郭嘉がいれば……」発言に度肝を抜かれる程昱。浮かれる曹操に程昱は何度も忠告していたというのに。それをまるでなかったかのように、かつて愛した郭嘉たんを思い出し傷心にくれる曹操。思い出は美化されるといいますが、泣きたいのは程昱のほうだ。


・戦勝報告に沸く劉備軍
 やったね

「多くの戦利品を奪いました!」と聞き、劉備は「まことに神のような策略だ」と献策した孔明さまを褒める。孔明さまは「うまくいって当たり前」といわんばかりの澄まし顔でうなずく。
 そこへ関羽が気まずそうに帰ってくる。酒をついだ杯を持って歩み寄る孔明さま。
「あ、関羽将軍。待ってたよォ。逆賊曹操を蹴散らしたんだよね。すごーい。それなのに、出迎えもしなくってごめんね」
「……」
 関羽は苦しそうに視線をそらす。
「どうしたの? 顔色が悪いよ!」
 顔色を悪くした理由なんて分かりきっているくせに、白々しくも心配してみせる孔明さまのドSっぷり。
 孔明さまにしてみれば、あそこで関羽が曹操を討ち取っても逃がしても、どちらでもよかったのです。むしろ曹操が死んでしまえば呉の力が強大になる。そうなると真っ先に狙われるのは劉備です。だから劉備が強力な地盤を得て他の勢力に対抗できるようになるまでは、呉にとって曹操は脅威でいてもらいたい。
 そうとは知らずに自分の不甲斐なさを悔いる関羽。
「曹操を逃がしてしまった……」
「ええー。でもさすがに戦利品はあるでしょ? まさか、よもや、手ぶらで帰って来たとかありえないでしょ?」
 孔明さまも、ここぞとばかりに関羽をいじめます。
「……何もない」

 「へえ、やっぱり」

 劉備もビックリの極悪フェイス。
「曹操に恩義を返すために逃がしたんだ。誓約書がある以上は軍法通り裁くしかないねえ。はーい、じゃあ誰か関羽を外に連れ出して首を斬ってー。さよなら関羽」
 助命を嘆願する武将達。弟のこととあれば、劉備も下手に出て孔明さまをなだめます。

 「ふん」

 劉備に対してもこの高慢ちきぶり。
 というより劉備が必死になって関羽をかばうのがおもしろくないだけかもしれません。
 今までは自分に逆らう関羽や張飛をなだめて、下にも置かない待遇をしてくれた劉備。でもどれだけ「孔明は賢いね」と褒められても、結局劉備にとって大切なのは義兄弟の関羽と張飛なのだと見せつけられてしまった。
 別に本気で関羽を処刑する気はない孔明さま。その上で関羽いじめを楽しんでいたのだけれど、急につまらなくなって投げやりに言いました。
「じゃあ功績を立てて償ってもらうからね」

 なんにせよ。
 今回のことで関羽をはじめ、彼を庇った他の武将にも莫大な借りを作れたことは確実です。ちょっとヘコんだものの、めげずに劉備へ話しかけます。
「あと許してあげる代わりに、これからは毎日劉備さまと一緒に寝てもいいことにしよ──」
「さて。軍師どののお許しも出たことだし、今日の功績を肴に酒宴を開こうではないか。はっは」
「……うぅ」


・周瑜と孔明さまの再会in酒宴



「また会ったな孔明」
「うわあ。魯粛ちゃん、元気だった?」
「……」
「(スルーされてるやん)元気でっせ。孔明はんも元気そうで何よりです」
「うふふ。似た者同士が並んじゃったね。劉備さまと魯粛ちゃん、やっぱり似てるよ」
「孔明はんはそう言いますけど、ワテにはどこが似てんのかさっぱり分かりまへんなあ」
「自分のことって案外分からないものなんだね」


・劉備に無謀な約束をした周瑜

 「ホンマにもう……」

 南郡をとれなかったら、そのあと劉備がどうしようがご自由に。そう言った周瑜に魯粛は心中穏やかでいられない。
「また、あないなこと言うて……知りまへんで」
「あの劉備という男。この乱世であちこち流浪し負け戦を繰り返しながらもしぶとく生き残っている。なかなか食えない男のようだな。同じ穴の狢である孔明と気が合うわけだ。孔明を葬っておけなかったことがつくづく残念でならない」
「ワテこそ残念でなりまへんわ。もっと泰平の天下やったら、周瑜はんと孔明はん仲良うなれたかもしれへんのに」
「それはないな」
「なんでですか」
「ユーは孔明の性格を知っておいて、本当にそう思うのか?」
「まあ、相当ねじ曲がった性格してはりますけど、どうも憎まれへんのです。うちの陣営におったときも、よう話し相手になりに来てましたで」
「探りを入れていただけだろう、それは。孔明はつねに計算づくで動いている」
「それもあるんでしょうけど……。でもひとり高みに立って俯瞰してはるようなお人ですけど、それはそれで寂しんやろな思うてたんです。そのことに本人が気付いてはるかどうか……分かりまへんけど。ワテが思うに昔から人並みはずれて優秀な人いうんは、そういうところがあるんやないでしょうか。聡いだけに見えんでええもんまでよう見える。どこか周囲と馴染まれへん。そんな疎外感を引きずって生きてるんやないでしょうか。せやから仁徳なお人の劉備はんに付いて行こう思うたんやないでしょうか。そういう人の側におったら安らぐんでしょうな。利害が絡まんかったら人懐こいもんでっせ」
「まず、その前提が間違っているな。どれだけ平和な世の中でも、利害のない関係などありえんだろう」
「周瑜はんとは幼なじみの孫策さまともですか?」
 魯粛は意外そうに言った。孫策は孫権の兄であり、周瑜とは断金の交わりと呼ばれた親友だった。その孫策の遺言もあって周瑜は孫権をよく補佐していた。
「死んだ人間と、どうやって親交を結べと言うんだ」
「……なんか冷たいように聞こえますけど。そんな、もう忘れたみたいな言い方せんでも」
「孫策は俺にとって唯一無私でいられる、最初で最後の存在だった。でも、もういない。だからそんな関係は存在しない。しなくなったんだ。たしかに俺は冷たい人間だろう。死んだ人間に思いを馳せるでもなく、ひたすら忘却という慈悲を今でも毎日願っているんだからな」
「あの……ワテ……いらんこと言うて、すんまへん」
「……」
 周瑜は思い詰めたような顔で前を見つめていた。美周郎ともてはやされる周瑜の精悍な容貌は、ひとたび黙ってしまうとひどく冷たく見える。酷薄な冷淡さといよりは誰もよせつけない孤高の険しさだった。魯粛はうかつに孫策の名を口にしたことを後悔した。
「ホンマおこがましいこと言いますけど、なんの慰めにもならんやろうけど、ワテでよかったらいつでも話し相手になりますさかい、元気出しておくんはなれ」
 周瑜は相好を崩した。
「ユーは本当にお人好しだな。孔明を真似て困らせてみただけなんだが、ちょっとお灸が効きすぎたようだな。気にするな。魯粛は今でもじゅうぶん俺の助けになっているじゃないか」
 黙りこくる魯粛。孔明さまが「ぼくと周瑜は似ている」と言った意味が少し分かった気がしたのでした。


・周瑜の南郡侵攻に不安になる劉備
「周瑜に南郡をとられてしまうと、わたしは再びさすらいの身になってしまう。そろそろ安住の地が欲しいのだが」
 劉備が言うと、孔明さまは頬を赤らめうつむいた。
「分かりました。しあわせにしてください」
「民のしあわせなら、いつも願っているが?」
「そうじゃなくて、ぼくのことしあわせにしてください。頑張っていい奥さんになります」
「いまいち話が見えないな」
「だってふたりの安住の地が欲しいだなんてプロポーズでしょう?」
「……ふたりの?」
「言ってない?」
「言ってない」
「……えっと」
「周瑜に南郡をとられてしまうと、わたしは再びさすらいの身になってしまう。そろそろ安住の地が欲しいのだが」
 優しい劉備は話を戻し、孔明さまの暴走をなかったことにしてくれたようです。
「し、心配いりません。いりませんとも。いるもんか。曹仁と周瑜を戦わせておけば、南郡は劉備さまのものになるよ。ちゃーんと考えてあるんだから」
「ふむ。孔明に任せるか」


・お芝居で倒れる周瑜
 派手に血を吐いておきながら、あとで演技だと言い張る周瑜。デニーロもびっくりの演技。でも、これはどっちかと言うとやせ我慢の芝居じゃないのか。
 元祖吐血イケメンの名はダテじゃないぜ!


・孔明さまに利用され、ついにブチ切れた周瑜

 キィー!

「あのドグサレが。許さん。絶対に許さん」
「大都督、落ち着いてください。傷が開きますから」
「うるさい。孔明を縛り上げて犯してやる。毎日規則正しく犯してやる。いいか、いきなり全裸にはしない。少しずつ脱がせながら、やめてよゥぼく男の子なのにこんなの嫌だよゥとか言わせてやるッ」
「大都督、人前で性癖を披露しないでください」
「ふん。嫌がるのは最初だけだ。そのうち従順になってこう言い出すんだ。ご主人さまのおチ……ミル……くだ……」
 興奮怒りのあまり、周瑜は再度吐血したのでした。

つづく



「またね」「変態だらけだ……」
 中国語とはいえ、同じ漢字圏なのだから、読めば大体意味が分かる。
 そう思っていた時期がわたしにもありました。
 まず中国で使われている簡体字が読めない。
 省略する法則を覚えれば理解の足がかりになるんだろうけど、それ自体覚えられないことに気がつきました。
 そういえばマチカさんバカでした。ウッカリしてた。

 人の名前とかも孔明さまはすぐ分かるんだけど、他はどうなんだコレ。
 文字化けするかもしれないので画像にしてみました。



 趙雲の趙の×ってなんなんなん?

 というわけで全く読めないながらも、中国の検索エンジンで动画三国演义(文字化けしたらすんません)の画像をあさっていました。それだけなら文字読めなくてもいいもんね。当たり前ですが見覚えのある画像いっぱい。

 で、これは……

 あらイイですね。

 なにをファンシーに画像を加工されとんねん。
 アレですか。向こうの腐女子のかたの仕業ですか。周瑜×孔明なのか孔明×周瑜なのか。詳しく教えなさいよ!
 孔明さまと周瑜をこんなふうに扱ってからに……
 けしからん!

 是非マチカさんと仲良くしましょう。

 ていうか、ここでも×か! なんと×の汎用性の高いことよ。いや、全然関係ないんだけど。
 そういえば中国でもCPは×を使うのかな。
 と思ってたら、なんなんですか、このページは!

 ここ見るとCPに×使うみたいですね。そんで普通に攻受って書くんだ。
「日本では虐攻×鬼畜受が流行っています」とか書いてるし。
 そ、そうなんだ。知りませんでした。教えていただいてありがとうございます。鬼畜攻虐受の用例に周瑜と黄蓋が出て来てて、さすが中国の腐女子のみなさんは古典も押さえていらっしゃる。

 それよりもBLの解説に気合い入り過ぎじゃないのか。どんだけ網羅してんだ。胸が熱くなりますね。
 大都督、周瑜吐血す──。
 呉陣営から伝えられたそのしらせは、すぐ曹操の耳に入った。
 明日の身も知れぬ乱世。自分を守るため敵に内通するものは少なくなかった。もし曹操が勝てば内通は功績になる。
 周瑜と孔明さまの策に踊らされ、さんざん笑いを誘った曹操はすっかり安心しきっていた。赤壁はワシの独断場ではないか、と。いくら周瑜が孔明さまの絶妙なアシストにより笑いを取ろうと、魯粛の突っ込みによりボケが際立とうとも、一番はこの自分だ。
 しかし、ここにきて周瑜が伝家の宝刀を抜いた。「吐血」を初披露したのだ。
 曹操は音がするほど歯を食いしばり唸った。
「吐血したぐらいでいい気になるなよ、若造が。本当のリアクション芸人は誰か思い知らせてやる」
 気炎を吐く曹操に程昱は震えた。
「殿が本気を出されるぞ……」
「ちょっと意味がよく分からないですけど」
 張遼は首をかしげた。
 同日、黄蓋が投降するとのしらせが入る。
 曹操は連環の計により、ひとつの要塞となった船団から長江を見渡した。すると向こうから黄蓋の船がやってくるのが見える。
「キタコレ!」
 軍を指揮する旗を手に曹操は小躍りせんばかりに喜んだ。黄蓋の投降により、曹操軍は呉攻略の活路が開けたのだ。
 しかし軍師の程昱の表情は冴えない。いま火攻めに最適な東の風が吹いている。そのなかでの投降は警戒せねばならない。
 かくしてその心配は的中した。程昱は黄蓋の船団を見て顔色を変えた。黄蓋が食料や武器を積載しているのなら、船はもっと水に沈んでいるはずだが、こちらへ向かってくる船はどれも軽々と川を渡っていた。
「殿。あの船を近付けてはいけません! 黄蓋に投降する気はありません」
「マジで?」
「マジで」
「じゃあ、誰かあの船止めてきてー」
 ひとりの武将が威勢良く雛壇から名乗り出た。
「わたしは水には慣れておりますゆえ、行ってまいります!」
「ほう。頼もしいな。まかせたぞ」
 武将は船に乗り颯爽と川に出たのだが、速攻で喉を矢に射抜かれたのだった。
「あいつ、おいしいな……」
 素人同然の武将にひと笑いとられてしまった。曹操は悔しがった。

 そんなことはお構いなしに黄蓋は火攻めを開始した。
 曹操軍は大混乱に陥る。たちまち火に包まれる曹操の船団。黄蓋は火をものともせず船に乗り込み、うろたえる曹操に迫り太刀を振り上げた。
「逆賊曹操、覚悟しろ。……うっ」
 黄蓋の胸に矢が突き刺さった。あと一歩のところで曹操を仕留め損ねた黄蓋はよろめき川に落下。
「曹操さま、ここにいてはいけません」
 曹操を守ったのは張遼だった。張遼は曹操を連れ船を脱出する。黄蓋船団の船を見つけると強奪し、岸へ向かおうと張遼は奮闘した。
 ふいに背後から曹操の怪訝そうな声が聞こえた。


「おかしいな。さっきから漕いでも全然進まんぞ」

「……」
 張遼はどうしてよいか分からず硬直した。
「張遼」曹操は咳払いをしてから言った。「あのな、こういう時は『それ櫂じゃないから! 太刀だから!』と突っ込むんだ。もしくは『ほんとですねえ。全然進まないですねって、それ櫂じゃないじゃん!』とノリ突っ込みしてもいいんだぞ」
「すみません」
 わけは分からないが、とりあえず張遼は謝った。
「若手はどんどん前に出ないとキャメラに拾ってもらえないぞ。ベテランに遠慮せずグイグイこい」
「はい(キャメラ?)」
「武人は戦いのなかで成長していくものだ。張遼も実践で学んでもらうとしよう」
「精進します」
「ハッ! いかん、あそこを見ろ。呉軍のやつらが何か始めるようだぞ」
「……はあ」


「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」


「なにッ?」
 甘寧は驚いたあとで笑った。
「ああ、楽しそうだな」

「どこがよ! ジイサン死にかけとるよ!」

「ははっ。今度はちゃんとやるから、もう一回川に浮かんで」
「ええ? しょうがないのう。今度はちゃんとやってよ」

「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「違うな。黄蓋将軍は、もっと緑色で全身がヌルヌルしてるから。それから、いっつもチンポジ直してる」
「ワシは化けものか! それに別にチンコのポジションは気にしとらんよ!」
「ははっ。今度はちゃんとやるから、もっかい水に戻って」
「また? しょうがないのう。今度こそちゃんとやってよ」

「甘寧将軍! あれ、向こうから流れてくるの黄蓋将軍じゃないですか?!」
「黄蓋は曹操に投降したクソジジイだ。石でも投げておけ」
「やっぱりあの時クソジジイ言うたんはおぬしか!」
「おい誰か胴から首をもぎとれ」
「グロイわ。投降はフリしただけ! おぬしも知っておろうが!」
「……チッ」
「え、舌打ち? ワシが嫌いか。甘寧はワシが嫌いなのか?」
「だって、いっつもチンポジ直してるし」
「だから直しとらんよ! そういうのウソでも噂になるからやめて」
「緑い」
「緑色でもないし、ヌルヌルもしとらんよ!」

 その様子を眺めていた曹操はあご髭をしごきながら言った。
「ふむ。なかなか息の合ったかけあいだ。あのふたり……コンビを組んで長いな。張遼はどう思う?」
「先程黄蓋将軍を矢で射っておきながら、こんなことを言うのはなんですが、お年寄りは大事にしたほうがいいのでは?」
「真面目か! よし、いいぞ張遼。ちゃんとデキるじゃないか。その調子だ」
「いや、なんの調子ですか。黄蓋将軍もかなりお年ですし、あれ続けてたら死にますよ」
「さて、行くか」
「……御意」
 曹操と張遼は馬を駆り逃亡した。まだ日の明けぬ昏い森に馬の足音だけが響く。
「覚悟だ、曹操!」
 突如として荒々しい雄叫びが上がり空気を振るわせた。虎のごとく猛追してきた甘寧だった。そして前方からも呉軍の集団があらわれ、曹操を挟み撃ちにした。進退窮まったかに見えたが曹操軍の徐晃が助けに入り退路が開かれた。甘寧が矢を構え目をすがめるが、土煙に邪魔され狙いが定められず曹操を逃してしまった。
「……チッ。我が軍はこの先に伏兵を置いているのか?」
「その予定だったが、急遽孔明暗殺に借り出され、間に合わなかった」
「周瑜はまだ孔明にご執心なのか」
「ああ、逃したから余計に。ところで甘寧、黄蓋将軍は無事か?」
「なんで早く助けないってウルサイから便所に放り込んどいた」
「アレやったんおまえか!」※参考URL

 そのころ難を逃れた曹操と張遼。
「ふう。曹操さま。けっこう遠くまで逃げられましたね」
「ここはどこだ?」
「烏林の西、宜都の北です。まだ呉の領地ですから気をつけてください」
 警戒を怠らない張遼。突如──曹操が高笑いを始めた。あきらかに場違いな様子に張遼は曹操の気がふれたのではないかと怯えた。ひとしきり笑ったあとで曹操は言った。
「ここの地形は実に素晴らしい。まるで天がワシを捕らえるためにつくったようではないか!」
「それの何がおかしいのですか」
「周瑜と孔明がバカだからだ。ワシなら必ずここに伏兵を置いておく」
「……じゃあ、気をつけたほうがいいんじゃないですか」
「はっは。まさか、そんなワケがあるか」(チラッチラッ
(そのわりに曹操さまはあたりを気にしてるな……なぜだ)


「おっとこ前の趙雲ここにありィー!」

「ギャフーーーン!」
「ああ、もう。だから言ったじゃないですか」
 ただちに張遼が応戦し、曹操を逃がした。

 後漢時代には既にiphoneが普及していたことは、よく知られていますが劉備軍も携帯していました。趙雲は兵士に自分の戦果を動画で撮影させており、さっそく孔明に送信しました。すると、すぐに孔明さまからの着信ありけり。
『あ、子竜ちゃん。動画見たよ。こっちの様子? 劉備さまにお弁当を“あーん”して食べさせてあげようとしてるのに断られっぱなしだよォ。それよりなんで単騎で突っ込んでんの。三千の兵を率いろって言ったじゃん。ぼくの指示守る気あるの? え、単騎のほうがかっこいいから? ふうん。帰ったら兜のフサフサ引きちぎるから。じゃあね』
「……あの人、脅しじゃなくてホントにやるからなぁ」
 趙雲が遠い目で兜のフサフサを撫でた。

 張遼は先に逃げた曹操に追いつく。すっかり意気消沈した曹操に追い討ちをかけるかのごとく氷雨が降り出した。張遼は弱音を吐く曹操を励ましながら行軍を続ける。
「わたしが言うまでもないですが、いくさの勝ち負けは時の運です。大丈夫ですよ。許都へ戻れば、またやり直せますから」
 ああ、張遼。なんてイイ人なんだ。曹操軍内で集計された、こんなアニキに抱かれたい男ランキング(※フラワーロマン地下調べ)でのトップランカーなだけはありますね。

 張遼は山間に目を凝らして言った。
「あ、曹操さま。あそこに村がありますよ。一息ついて、英気を養うとしましょう」
「そうだな」
 村に立ち寄る曹操軍。張遼は調理のための火種を探すよう兵士に命じた。
「火?! いやあぁぁ。火、怖いぃい」
 よほど火が怖かったのか、おびえる曹操54歳。
 余談ですが、この時点でそれぞれの年齢は劉備48歳、関羽47歳、魯粛37歳、周瑜34歳。そして前回孔明さまが孫権は一歳下だと言っていたように(実際の放送では言ってませんよ)孔明さまは28歳で孫権は27歳。
 あれで魯粛と周瑜は3歳しか違わないんですねえ。魯粛は苦労しすぎてフケたのか。それよりも孫権がおどろきの年齢ですね。あれで27歳とか貫禄ありすぎ。孫権は長生きしますから、晩年まで容姿を変えずに済ませるつもりなんでしょうか。

 話は戻ってトラウマ曹操を張遼がなだめていると、馬の足音が響いて来た。離散していた曹操軍の許褚が合流したのだ。
 曹操は「程昱は?」と訊ねて身を案じた。連れて来られた程昱は火攻めで大やけどを負っていた。虫の息の程昱に曹操はくずおれて慟哭した。程昱は薄く目を開けて手を伸ばす。その手をしっかりと握り曹操は大粒の涙を落とした。


「ワシのせいでこんな目に……」

 あれだけ程昱は気をつけろと言っていた。忠告に耳を貸さなかった自分の愚かさを後悔し、曹操は体を引き絞るように嘆いていたが、いきなり笑い始めた。
 驚く許褚。
「そ、曹操さまはどうされたのだ」
 なぜだか張遼が申し訳なさそうに答えた。
「……俺が聞きたいぐらいだ。これが始めてじゃないんだ」
「なあ、張遼よ。この地形を見ろ。まるで我が軍は袋のネズミではないか。ワシだったら絶対ここに伏兵を置いて待ち伏せるもんね。先程は諸葛亮の作戦にやられたが、所詮は周瑜に比べると少し頭がいいだけだ。たいしたことないな。もし伏兵がいたら羽があっても逃げらんところだわい」
「いや、ですから。そう思うのでしたら警戒されたほうがよろしいのでは……」
「まさか。さすがに二度目はないって」(チラッチラッ
 勘のいい張遼は気付く。
(この展開はもしや)


「張飛見参!」

「おったー!」
「ああ、もうホントに……」
 張遼は曹操を逃がすため、精神的に疲れた体に鞭を打って張飛へ向かって行った。結局張飛も曹操を捕らえられず逃がしてしまった。
「残念無念」
 悔しがる張飛。しかし光の早さで気を取り直しiphoneで孔明さまへ動画を送信した。すぐに着信が入る。
『張飛? うわ、声大きいって。そんな大声で話さなくても聞こえるから。うん、こっちの様子? 劉備さまにゲームしようって言われて、それで遊んでんだよ。楽しそうだなって? でも、これ楽しいのかな。なんかぼくとお話しないゲームらしいんだけどね。ゲームしようとか、劉備さまも案外子供っぽいところあるよねえ。うふふ。それより動画見たけどさ、なんで張飛も単騎で突っ込んでんの? 三千の兵を率いろって言ったじゃん。え? 忘れてた? 張飛の額から上はなんのためについてるの。からっぽなの? 今度、頭開いてご飯でも炊こうか……って、あれ? 劉備さまがいない。馬もいなくなってる。探さないと! じゃあね』
「お話しないゲームか。俺が酔っぱらって呂布に下邳の城を奪われたときも、アニキそのゲームしてたな。ははっ」

 懐かしそうに笑う張飛の傍らで無残に転がっている程昱。曹操はあれだけ後悔にむせび泣いておきながら、まさかの置き去り程昱であった。
程昱(さすが殿。わたしにこんなおいしい役どころを……)

 場面は変わって曹操軍。斥候兵が二手に分かれた道の様子を曹操に説明していた。
「広いほうは平坦ですが五十里ほど遠いようです。細いほうは華容道に繋がる近道ですがかなり険しい道ですね」
「どちらの道を通りますか?」
 張遼は判断を仰いだ。
「天丼だ」
「てんどん? それはどういった意味でしょうか。兵法の用語でしょうか」
「天丼とは同じボケを繰り返すことだ」
「……」
「趙雲に襲われたあと、また同じような状況で油断して張飛に襲われる。その滑稽さを狙ったものだ。張遼、おまえは張飛が襲って来たときに、なにかしらワシに突っ込みをいれるべきだった」
「すみません(なんに対して謝ってんだろう)」
「道中、ずっとそう考えていた。しかし、すかし芸ともまた違う、あえて突っ込まないという手法もよいかもしれんな。
 多様化する価値観の中で試行錯誤を繰り返す。このトライ&エラーが結果的に受け皿を含む全体を成長させる。切磋琢磨がより高次なステージへの昇華に繋がる。そう思えばワシは日の出を見るような気持ちになる。我々の血肉に刻まれた、いにしえより受け継がれた進化の系譜がそう感じさせるのだろうか。張遼、おまえはしっかり成長していたのだな。ワシは嬉しく思うぞ」
「……ありがとうございます(なんに対してお礼言ってんだろう)。それはそうと斥候兵によると、細い道のほうにはところどころに煙が見えるようです。伏兵が潜んでいるんでしょうか」
「ほっほう。孔明め、小賢しいことを。細い道のほうへ見え見えのおとりを仕掛けたようだな。では裏をかいて細い道を通ろうではないか」
「御意。(よかった。曹操さま、まともだ)あっ、殿。ご覧ください。虹が出ていますよ!」
 山間にかかる虹を張遼は指差した。
「おお、あれは、きっとよい兆しだ。よし、皆のもの進もう」
 曹操がまともなことを言う。それだけで嬉しかった。胸に込み上げるものがある張遼だった。
 厳しい道のりながらも、行軍は順調に進んだ。しかし、ある場所にさしかかった時、ひとりの兵士が慌てふためいた様子で行く手を阻んだ。
「お、お待ちください! この先を通っては……」
 何事だろうかと張遼は視線を周囲に走らせた。すると小さな石碑が目に留まった。その石碑に刻まれた文字を読んで張遼は青くなった。
 ──逆賊曹操の墓。
 曹操は眉間に深い皺を寄せた。
「実に陰湿な嫌がらせだな……わざわざ小道具を用意してまで、こんなことをするのは奴しかおるまい。三度の飯より他人を煽るのが好きな孔明だ。こうしておけばワシが引き返すとでも思ったか。バーカバーカ!」
 そう言うと曹操は馬に鞭打ち、自分の名が刻まれた墓を飛び越えた。
 張遼(ずいぶん感じ悪い人なんだな、孔明って。そんな人が気位の高い関羽どのと衝突せずにいられるのだろうか)

 張遼が思いを巡らせた関羽は、心配通り孔明さまにクレームの電話をかけていた。
「おい、軍師どの。さんざん待っているが、曹操は来ないじゃないか」
『もう、なに! いま劉備さま追いかけてて、それどころじゃないんだけど』
「ははーん。どうせ、しつこくつきまとって兄上に逃げられたのだろ。ざまあみろ」
『ち、ちがうもん! これゲームだもん! めくるめく楽しい追いかけっこだもん!』
「天下に轟く兄上の逃げ足をあなどるな。神速の逃げ足だぞ。貴様ごときに追いつけると思うな」
『うるさいうるさい! ところで関羽はちゃんと兵士連れてるよね?』
「当たり前じゃないか」
『おたくの弟さんやら、子竜ちゃん。ぼくの言うこと全然聞かずに単騎で突っ込んでくれたんだけど? 普段どういう教育してるわけ?』
「教育以前の問題だな。単純に嫌いなんだろ、おまえのことが」
『ムカつくし』
「もちろん俺も嫌いだ」
『ぼくも嫌いですゥ』
「俺はもっと嫌いですゥ」
『ぼくはその百倍嫌いですゥ』
「一億年と二千年前から嫌いですゥ。八千年過ぎた頃からもっと大嫌いになったんですゥ」
『なんなの、この会話! とにかく曹操は華容道通るんだから、おとなしくそこで待っててよ』
「ど、う、か、なーん?」

 そんなほほえましいやり取りが行われている間に、曹操は華容道に到達した。眼前の光景に曹操は、またしても身をよじって笑い出す。
「殿。笑うのはもうよしてください!」
「これを笑わずにいられるものか。この地形を見ろ。狭い。実に狭い。墓を建てて孔明はしてやったりと思っているだろうが、ここに一隊を置いておかぬアイツは馬鹿だ。よく考えたらアイツは他人を煽る能力が図抜けているだけじゃないか。たしかに劉備と孫権の同盟を結ばせた手腕はたいしたものだ。孫権にしてみればなんの利点もないというのに、単身で乗り込み、まんまと言いくるめ、我が軍とのいくさの手駒に仕立て上げたのだからな。だが、それだけのことだ。弁は立つが戦術はたいしたことない。もし一隊を置いておけばワシは本当におしまいだったのにな」
「あのですね、そう思うのでしたら警戒してください。お願いですから」
「天丼」
「……え? ということは」
「張遼よ。この天丼を見事さばいてみろ!」
 単騎で万の軍勢に飛び込むほうがマシだ。そう思う張遼だった。

 曹操の読み通り関羽は待ち構えていたのだが、孔明さまとの電話に白熱していたので、まったく気付いていなかった。
「いいか、軍師どの。赤兎もおまえのことが嫌いだそうだ。なあ、赤兎?」
『逆に、関羽は馬にしか好かれてないんじゃないの? 寂しすぎ』
「めちゃくちゃ人気あるわ。俺が曹操に厚遇されたと言ったのおまえだろうが」
 兵士が小さく声を上げた。
「関羽さま。その曹操が前方に」
「ああん? ほんとに来たのか。しかも張遼と一緒か」
『だから言ったじゃん。だから言ったじゃん!』
 電話から孔明さまの得意げな声がはずむ。
「うるさいな。もう切るぞ」
 関羽は苛つきながら通話を終え、部下に動画の撮影を頼んだ。カメラへ向かって関羽は語りかける。
「軍師どのお家芸ドヤ顔。あの程度でドヤ顔とは笑止千万。片腹痛いわ。本物のドヤ顔とはこうするものだ。とくと見ておけ」

 関羽は曹操をしかと見据えて言った。


「曹操どの。お久しブリーフ」ドーン!


「おったー!」「……」

 のけぞる曹操の横で張遼は自分の半生を回想していた。
 呂布とともに曹操に捕らえられ死を覚悟した。武将として潔く死のうと思った。しかし関羽の取りなしにより、助命され曹操に仕えることになった。
 関羽のようにひとりの君主に忠義を貫くことが美徳とされている世の中で、はからずも幾人もの君主を渡り歩いた自分は、曹操軍生え抜きのもの達から侮蔑の視線を投げられてきた。
 彼らを見返すためには武勲を立てるしかない。だから必死で戦って来た。一度捨てた命だと思えば、矢の雨をかいくぐり火の海を駆けることも怖くはなかった。
 そんな自分を誰よりも認めてくれたのは、他でもない曹操だった。重用し側に置いてくれた。自分のことを信じてくれているのだ。
 これ以上の喜びがあるだろうか。どれだけ感謝してもしきれない。生涯をかけて尽くそうと思える人物に出会えて幸せだった。
 そして武勲を立てるだけが忠義ではないと、今日学んだ。
 曹操が望むのならば、やってやろうじゃないか。
 この場をさばいてみせる。
 空を仰ぐと虹の名残りが薄くかかっていた。

 ──あれは、よい兆しだ。

 そう言って笑った曹操を思い出す。
 殿。見ていてください。
 張遼は大きく息を吸い胸を張った。




「一度でいいから見てみたい。殿がチンポジ直すとこ。歌丸です!」

「もうチンポジはエエわ!」

 というわけで赤壁の戦いは、孫権と劉備の同盟軍の勝利に終わったとさ。テッテレー。


「来週も見てね!」「疲れた……」
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