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応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。

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(今週のあらすじ)
 赤壁で大敗を喫してからというものの、曹操は毎日を鬱々と過ごしていたが、以前より着工させていた銅雀台落成したので、多くの文武の官僚を集めて大々的に祝宴を開いた。
 そこで曹操は武将達に武芸の腕前を競わせようと思いつく。しだれ柳の枝に錦の戦袍をかけさせ、その前に的を置くと、馬上から弓矢で射るように命じた。的の真ん中に命中させたものには、柳にかけた錦の戦袍を褒美として与える。と曹操が言うがいなや腕に覚えのある武将が続々と名乗りを上げ、的に矢を命中させて行った。そのなかで徐晃だけが見当違いの方向へ矢を射った。
 矢は的を大きく外れると戦袍のかかった枝を射抜いた。そうやって徐晃がまんまと戦袍を手に入れようとしたとき、今度は許褚が馬を飛ばして奪いにきた。すると他の武将達まで集まって戦袍をめぐって争い始めたものだから、曹操はひとしきり笑って、戦袍は全員に与えると言うとその場をおさめた。
 上機嫌の曹操のところへ程昱があらわれた。孫権と劉備が荊州を奪い合っているという情報を持って来たのだった。曹操は劉備と孫権に争わせ、漁父の利を得ようと考え、皇帝に上表して周瑜を南郡大守に任命した。
 しかし曹操の思惑など、周瑜はお見通しだった。孫権も劉備との開戦には消極的なので、ふたたび魯粛を荊州へ派遣した。

 魯粛の来訪を知った劉備は孔明に対応を相談した。孔明は「魯粛が荊州の話を持ち出したら大声で泣いてください」と頼む。劉備がその通りにすると魯粛はわけが分からずうろたえた。そこへ孔明があらわれ「蜀の劉璋は劉備の親戚なので攻め入ることに忍びない。だが、このままでは義理の兄になった孫権にも申し訳がない。困り果てているので、もう少し猶予が欲しい」と劉備の胸中を語った。
 魯粛は言葉を失って引き返したのだが、周瑜にまた騙されたのかと呆れられる。そこで周瑜は別の策を魯粛に授け、荊州へ向かわせた。魯粛は劉備に会うと、蜀侵攻が忍びないのであれば、呉が代わりに攻め落とす。その後荊州を返還するよう持ちかけた。蜀侵攻の際には荊州を通るので、食料を提供することを約束させ、魯粛は帰って行った。
 見送りに出た劉備は、これをどう考えるか孔明に訊ねた。「周瑜は荊州を通過する名目で入り込み、それに乗じて攻め落とすつもりでしょう」と答えた孔明には何か策があるようだった。

 魯粛から劉備の返事を聞いた周瑜はすぐに大軍を率いて荊州へ到着したのだが、城壁の門は固く閉ざされたままだった。周瑜が不審に思っていると、趙雲が城壁の上にあらわれ「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ」と告げ、兵士に弓矢で攻撃するよう命じた。突然の攻撃に呉軍は大混乱に陥る。追い打ちをかけるかのように、関羽、張飛、黄忠、魏延がこちらへ向かっていると報告が入る。「周瑜を捕まえろ」と叫ぶ声も四方八方から聞こえてくる。激怒した周瑜は傷口が開いてしまい、血を吐き気絶し落馬した。同行していた甘寧は全軍を撤退させた。

 やがて意識を取り戻した周瑜は琴の音が聞こえると言う。しかし誰の耳にも琴の音は聞こえない。それでも周瑜は「あれは諸葛亮が琴を弾いて挑発しているのだ」と言う。すぐにでも進軍すると命令を出す周瑜を甘寧は必死に止める。そこへ孔明からの書状が届いた。書状には「蜀は遠く困難な立地にあり、また守りも堅い。周瑜が攻めていけば呉の守りは薄くなり、曹操がその隙を狙って攻め込めば呉は木っ端微塵になる。そのことを考えると黙ってはいられませんでした。どうか考え直してください」と書いてあった。
 孔明は周瑜の考えをすべて看過し先手を打ってくる。同じ時代に生まれたことを恨みながら、周瑜は血を吐き息絶えた。

 周瑜の死を知った劉備は誰を弔問に遣わすか孔明に相談した。孔明は自分が行くと言った。それは危険過ぎると劉備が止めたのだが孔明の決意は固く、趙雲をともなって呉へ行ってしまった。
 孔明が弔問に来たと聞いて、呉軍は殺意をみなぎらせた。しかし趙雲がついているので手出しが出来ない。殺気の立ちこめるなかを孔明は静かに進み、周瑜の棺の前までくるとひざまずき、涙で声を詰まらせながら祭文を読み上げた。捧げ終わると、孔明は地に伏し激しく慟哭した。それを見ていた呉軍の諸将はこころを打たれ、落涙すると、もう誰も暗殺しようとするものはいなくなった。

 以上をふまえてどこまで噓か分からないレビュー

・第一回!チキチキ!!錦の戦袍争奪戦in銅雀台落成式
 ここのシーンは演義のなかでも大好きなシーン。でも省略されるだろうと思ってたから出て来て愉快。
 これ放送では徐晃を許褚が追いかけてからは、武将がよってたかっての混戦になってましたけど、元の演義では徐晃と許褚のガチの殴り合いに発展したのだ。
 武将同士の素手ゴロって、あんまりないから珍しい。名のある武将は大抵騎乗してるから、そこから弓を射ったり、武器で斬り合ったりがほとんどだし。そんで争奪戦のオチが、殴り合ったせいでご褒美の戦袍がボロッボロになりましたってところも含めて好きな場面。

 「わははー。元気が一番!」

 と、こんなふうに遊ぶ余裕のある曹操は、カツカツの劉備や孫権と比べて、国力の差が圧倒的。勢力は強大。ただのウッカリおじさんじゃないのだ。
 なんの本か忘れたけど、この関係を説明した「なるほどなあ」と思ったくだりがあった。それには曹操とその他勢力の立場は、太平洋戦争中のアメリカと日本だと書いてあった。分かりやすい。


・泣く子と地頭にはかなわない
 魯粛がやって来たと聞いて、孔明さまは劉備に泣けと指示します。そしたら言われた通り大号泣できるんだから、ホンマ劉備は役者やでえ。呂布が劉備に対して「こいつが一番信用できないんだぞ!」と言いましたが、いやはやごもっとも。
 名演技の劉備にオロオロするだけの魯粛。そこへ「泣ァかした泣ァかした。先生に言うたーろー」と歌いながら孔明さま登場。
「あーぁ。劉備さま泣かせちゃったの? 魯粛ちゃん、いけないんだ」
「ちゃ、ちゃいまんがな。ワテなんもしとりまへんがな」
「何もしてないのに、劉備さまが泣くわけないじゃん。あ、ひょっとして荊州のこと言っちゃった?」
「そら、そのために来とりますから」
「あのねえ、約束をしたからには劉備さまも荊州を返したいのはやまやまなの。でも蜀の劉璋さまは劉備さまの親戚だから攻めるに忍びないの。だから、こんなに苦しんでるの。それなのに胸ぐら掴んで脅すなんて、魯粛ちゃんひどいよ」
「そんな乱暴しとりまへんで」
「ぼくが、その噂を広めれば、真実はどうであれ事実になるんだよ」
「やーめーてー。脅しとるのは、そっちやないですか」
「もうちょっと猶予をちょうだいよ。今やろうと思ってた時に、やりなさいって言われるの一番ムカつくんだよね」
「ああ、お風呂入ろうと思うとった時に『まだ入らないの!』って怒られると無性に腹が立ちますからなって、そんな話しとる場合やのうて、ワテもそろそろ尻に火がついとりますさかい、これ以上は……」
 魯粛が言うと、孔明さまは咳払いをしました。すると劉備はさらに大声で泣き出します。
「ほらァ。魯粛ちゃんが、そんなこと言うから劉備さまにも火がついちゃったじゃん。なんと、おいたわしいお姿!」
「いやいやいや、いま明らかに合図出したやん。咳払いして合図出したやん!」

 「んふ」


「……で、ユーは手ぶらで帰って来たのか?」
 周瑜は呆れ返った。魯粛はうなだれている。
「すんまへん」
「なにが蜀の劉璋は親戚だ。劉備は劉姓というだけで、まったく関係ないだろ」
「孫権さまのところへ、どんな顔して帰ったらええんやろ」
 顔色の悪い魯粛。周瑜は元気づけるように魯粛の肩を叩いた。
「心配するな。そんなことだろうと思って、ちゃんとアイディアを用意しておいた」
「ほんまでっか?」
 魯粛の表情が明るくなる。
「ふふ。魯粛はもう一度荊州へ行って、劉備にこう言うんだ」
 周瑜は耳打ちをした。

「また魯粛が来た?」
 孔明さまから報告を受けた劉備は顔をしかめた。
「そうみたい。これだけ早く戻って来たことを考えると、たぶん孫権さまのところへは帰らず、周瑜に入れ知恵されて来たんじゃないかな」
「ふむ。今度はどうやって追い返そうか」
 首をひねる劉備。追い返すとか、なにげに劉備ひどい。真摯に取り合う気はゼロのようです。
「ぼくに任せて。劉備さまはぼくがうなずいたら、魯粛ちゃんが何を言ってても同意してくれたらいいから」
「何を言ってても? ふむ、あい分かった」

 楽隊の音楽とごちそうで、魯粛はもてなされます。

 普通においしそうだ。

 お酒を飲んで魯粛はにこやかに話します。
「この前のことを孫権さまにお伝えしましたら、やっぱり劉備はんは情の厚いおかたや言うて、感心してはりましたで」
「いえいえ。人目も憚らず泣いてしまって、申し訳ありません」
 劉備もお酒を飲んで、ちらりと横目で孔明さまの様子をうかがいます。孔明さまは素知らぬ顔で果物を摘んで食べていました。
「それで劉備はん。先日、蜀は親戚の劉璋がおさめとるから、攻めるのに忍びないいうことでしたけど、それやったらウチが落とすいうのはどうでっしゃろ。玉錦さまの持参金代わりいうことで差し上げます。それで荊州を返してもらえまへんやろか」
「そちらが蜀を?」
 劉備はふたたび孔明さまを見ました。すると孔明さまは、まるで話を聞いていないかのような顔をしていましたが、大きくうなずいたのです。今だ──と劉備は魯粛に向かって身を乗り出しました。

「ピース! 魯粛ちゃんピース!」

「……は?」
 今度は一体何事だ、と固まる魯粛。孔明さまが慌てて腰を上げました。
「ろ、魯粛ちゃん。ぼく、ちょっと劉備さまと話があるから、ここで待っててくれる?」
「へえ、分かりました」
 劉備の奇行にビクつく魯粛は動悸を押さえて言った。孔明さまは劉備を部屋から連れ出し、顔を寄せて小声で迫ります。
「劉備さまは、何がやりたいわけ?」
「孔明がうなずいたら同意しろと言ったじゃないか」
「言ったよ。言ったけど、あれはなんなの?」
「全力で同意したまでだ」
「……劉備さまの意気込みは分かったよ。でも魯粛ちゃんには分かりにくかったみたいだから、席に戻ったら普通に同意してもらえるかな?」
「注文が多いなあ」
「できるの? できないの?」
「分かった分かった。そう怒るな。孔明はカルシウムをとったほうがいいぞ。小魚とか」
「劉備さまが、アーンして食べさせてくれたら、ぼくいくらでも食べ──」
「さて、戻るか」
「うう」
 お待たせしてすみません、と詫びて劉備は腰を降ろした。
「魯粛どののご提案ですが、我がほうにとって、これほどの僥倖はございません。ありがたく承知させていただきます」
「そうと決まれば話が早い。早速相談に入らせてもらいますけど、蜀へ行軍する途中、この荊州へ寄らせてもらえまへんやろか。なんせ、かなりの遠征になりますさかい、食料や秣を補給させてもらえると助かります」
「孫権さまの温情に甘えさせていただくのはこちらですから、協力は惜しみません。ぜひお立ち寄りください。宴会をもよおしお迎えさせてもらいます」
「おおきに。ほな、これで失礼させてもらいます」


・ご機嫌で荊州へ向かう周瑜
 周瑜は大軍を率いて水路、陸路、両方から荊州へ入った。しかし城門の前まで来たところで、趙雲に「軍師どのはおまえの策略などお見通しだ。通すわけないだろ。常識的に考えて」と言われて、おまけに攻撃を受けてしまう。当然ブチ切れる周瑜。そのせいで、せっかく治りかけた傷が開いて吐血祭り。馬から倒れ落ちてしまう。
「大都督!」
 甘寧が駆け寄って抱き起こします。

「おい、どうした!」

 ……あれ? 何この構図。まさかのお姫様だっこ。今まで、このCPはノーマークだったけど目覚めそうになる。イケメンエリート周瑜とやくざ上がりの男前甘寧。おいしいやん。素敵やん?
 と思ったのはマチカさんだけじゃなかった。なんと甘寧の食指まで動いた。
「しっかりしろ、大都督」
「……うう」
「よかった、意識が戻ったか」

「甘寧。なぜ……股間に手を置く」

「大都督ともあろうものが、こんなていたらくでどうする。いま、起こしてやるからな!」
「いや、そこは起こさなくていいから」
 甘寧はうなずくと、周囲の兵士に向かって声を張り上げた。
「大都督の一大事だ。おまえたち、この甘寧と声を合わせろ。いくぞ! 公瑾のッ! ちょっといいトコ見てみたい! そーれ、オッキ、オッキ!」
「小喬助けてー!」
「クソッ。どうして起きないんだ! 精神的な問題なのか? 最近強いストレスを感じていませんか?」
「なんだその口調は。いま、おまえに対して最高にストレスを感じている」
「ははーん。ムードを大切にするタイプ?」
「ムードもへったくれもあるか。ガンガンに矢が飛んで来てるだろ」
「なるほど。では静かなところへ移動して続けよう。全軍退却!」
「退却するのはいいが、おまえは俺から遠く離れてろ!」
 そう言うと、周瑜は激しく咳き込み意識を失いました。
「あれ? 本格的にヤバくない?」
 甘寧は周瑜を肩に担ぐと退却したのでした。


・不気味なぐらい、いい人になってる孔明さま
 その日の夜、孔明さまはひとり琴を弾いていました。その音色が遠く離れた場所の周瑜には聞こえているという演出がニクいですね。
 周瑜は諸将に見守られながら息をするのも苦しそう。そこへ孔明さまから、とどめのお手紙が届きます。内容を読んだ周瑜は孔明さまに翻弄される怒りよりも、どれだけあがいても決して敵わないという絶望で深いため息をつきました。もう怒る気力も残っていなかった。
 怒りで人は死にません。絶望が人を殺すのです。周瑜は有名な台詞とともに短くも激動の生涯を終えます。
「天はわたしを生んでおきながら、なぜ諸葛亮をも生んだのだ」


「……周瑜」

 孔明さまの弾く琴の弦が不意に切れました。
 星を見上げて何か悟ったような表情の孔明さま。孔明灯に火をともし、そっと夜空に浮かべます。そこへ劉備がやって来て「周瑜が亡くなったそうだ」と告げました。そして誰を弔問に行かせるべきだろうか、と訊ねます。
「ぼくが行く」
「だめだ。呉の連中は周瑜を殺したのは孔明だと思っている。行けば殺されてしまうぞ」
「それでも、ぼくが行く。ぼくじゃなくちゃだめなんだよ」
 夜空に舞い上がっていた孔明灯が流星のように燃えながら落ちてゆきました。
「分かった。どうせ行くなと言っても聞かないのだろ。じゅうぶんに気をつけて行って来い」
「うん。子竜ちゃん借りていい?」
「ああ、趙雲に五百の兵をつける」

 と、アニメだと周瑜の死を悼み、心のなかで泣いているように見えますが、実際はこうですからね。

 ──孔明在荊州、夜観天文、見将星墜地。乃笑曰、「周瑜死矣。」

「あ、周瑜死んだわ」と笑いながら言ってる。いやいや、でも行間に孔明さまの悲しみが隠されてるに違いない。それを読み取れということだよ、きっと。たぶん。苦しいな。


・弔問に向かう船の上の孔明さまと趙雲
「みんなぼくを殺そうと思ってるだろうね」
 白い喪服に着替えた孔明さま。
「先生でも気弱になることがあるんですね。わたしがお守りしますから安心してください」
 趙雲も喪服を着ていますが、愛用の槍はしっかり携えている。
「あのさ、子竜ちゃんも、ぼくのことひどい人間だと思ってる?」
「まあ、誰からも好かれるいい人ではないですね。確実に」
「はっきり言い過ぎ。別にいいけどね。みんなから好かれたいとも思ってないし。だからって殺されるのはごめんだし、よろしくね」
「先生、手を出してください」
 趙雲は片手を差し出し握手を求めた。
「なんなの?」
「いいから、出してください」
 趙雲は屈託のない笑顔を浮かべています。孔明さまが不審そうに手を伸ばすと、趙雲はきつく握って上下に振った。
「ほら。大丈夫ですよ、先生」
「痛いよ放して。子竜ちゃんの力が強いのは分かったって。安心してればいいんでしょ」
 孔明さまは解放された手をさすります。趙雲は相変わらずニコニコ笑っていました。


・弔辞をささげる孔明さま
 孔明さまの弔辞は書き下し文を読んでも難しいなあ。ざっくり分かる範囲だけでも書こうと思ったら量が半分ぐらいになった。ドンマイ。



「ねえ、周瑜。死ぬには早過ぎるよ。人の寿命はあらかじめ決まってるっていうけどさ、だからってこんなのないよ。
 いまお酒をそなえるから受け取ってね。
 周瑜は子供の頃、孫策さまと出会って親友になったんだよね。それから舞い上がる鳳凰のような力強さをもってして江南に割拠した。孫策さまにとって、周瑜は本当に心強い存在だったんだと思う。
 いい奥さんをもらって、王朝のため立派に働いたよね。
 曹操なんかに負けず、武勇と知略の限りをつくして、始めから最後まで戦い抜いた。周瑜こそ英雄と呼ばれるに相応しい。それがこんなに早く死んじゃうなんて惜しいよ。
 でも、たとえ三十代で死んだとしても、周瑜がどれだけ素晴らしい人だったか、いかに心を尽くしたか、それはきっとこの先も長い間伝えられるはずだよ。
 周瑜を失ったことを考えると、心が壊れてしまいそうになる。きっと、この悲しみはいつまでも続く。孫権さまも泣いてる。みんな、みんな、泣いてる。
 あの時、ぼくみたいな人間が呉までやって来て戦えたのは、周瑜の力があってこそだった。いつ死んでもおかしくなかったけど、周瑜がいたから怖くなかったんだ。
 ねえ、周瑜。これでお別れだね。もし魂がここにあるのなら、ぼくの声を聞いて。そしてまごころに触れてよ。ぼくのことを本当に分かってくれた人は、この広い世界で周瑜しかいないんだよ。
 ねえ、周瑜。つらくて、悲しくて、たまらないよ。
 ぼくの祈りが……どうか届きますように」
 孔明さまは弔辞を読み終わると、地に突っ伏して全身を震わせて泣きました。
「周瑜どのと孔明は仲が悪いとばかり思っていたが、それは間違いだった。孔明がこれほど情け深い人だとは知らなかった」と、誰もが嗚咽をもらし、あふれる涙を拭い続けたのでした。


・荊州へ帰る孔明さま
 見送る魯粛が孔明さまに言葉をかけます。
「今日は遠路はるばるお越しいただいて、ありがとうございました」
 頭を下げた魯粛は顔を伏せたままで、また泣いているようだった。
「魯粛ちゃん、元気出してね」
「無理です。ワテを孫権さまに推挙してくれはったんは周瑜はんなんです。今のワテがあるんは、みんな周瑜はんのお陰なんです。それやのにワテは周瑜はんに、なんもしてあげられませんでした。逆に迷惑ばっかりかけてしもうて……ワテが寿命縮めてしもうたようなもんです」
「そんなことないよ。もし、周瑜が魯粛ちゃんのこと迷惑に思ってたら、遺言で後任に推薦するはずないでしょう?」
「推薦されても、ワテはどないしたらええんか分かりません。目の前が真っ暗で、よう歩けません」
「たしかに周瑜は天下にまたとない逸材だったよ。だから誰にも周瑜の真似はできない」
「そうです。ワテみたいな凡才は、周瑜はんの力の何分の一もありません」
「同じことをしようとすれば、そうだろうね。でも魯粛ちゃんにも、やっぱり魯粛ちゃんにしか出来ないことがあるんだよ。それが周瑜には分かってた。魯粛ちゃんには自分とは別の才能があると認めてたんだ。周瑜と魯粛ちゃんの目指すものは同じ。だけど、そこに至るまでのやり方はひとつじゃない。周瑜は魯粛ちゃんのやりかたで、志を引き継いで欲しかったんだよ。だって、その志を一番理解してくれてるのは魯粛ちゃんだって信じてたんだもの」
「……孔明はん」
 魯粛は顔を上げ、涙を溜めた目を大きく見開きました。
「目指すものが見えたら、もう真っ暗じゃないよね。今日は周瑜のためにいっぱい泣く日。でも明日からは、しっかり歩かないと。あいにくぼくらが生まれたのは乱世の時代。生き抜くには立ち止まっていられない。そのなかで魯粛ちゃんは意思を託されたんだから」
 孔明さまは魯粛が固く握りしめている手を両手で包んであげました。
「おおきに。孔明はん、おおきに……」
 魯粛はつないだ手に額を押し付けて泣きました。
「先生」趙雲が船上から顔をのぞかせて言いました。「そろそろ戻らないと」
 孔明さまは魯粛に別れを告げて船に乗りました。暮れなずむ長江の水面をぼんやり眺めていると、すでに甲冑を着込んだ趙雲がやって来ました。
「いやあ、やっぱりこの格好が一番落ち着きます。兜のフサフサをなびかせてナンボですから」
「それ着てないと、子竜ちゃんモブキャラに埋まって誰だか判別がつかないもんね」


(自覚があるのか、槍を持って差別化を図る趙雲。涙ぐましい)

「ひどいなあ。キリっとした眉毛で判別してください。そんなことより、そろそろ寒くなって来ますから、中にお入りください。先生を無事に連れて帰るのが、わたしのお仕事ですからね。怪我がなくても、風邪を引かれたら困ります」
「もう少しここにいる」
 孔明さまは身を屈めて、船縁の柵に頬杖を付きました。首をかしげてその様子を見ていた趙雲は隣に並んで立ちました。
「先生の弔辞、みんな感動してましたね。先生もあんなに泣いて、わたしまで涙が出そうでしたよ」
「あれウソ泣き」
「……」
「皇帝を擁する曹操の勢力は衰えてない。赤壁で負けたとはいえ、北へ帰ればすぐ態勢を整えられる。本気で潰しに来られたら、劉備さまもいつまで持つか分からない。それは呉も一緒。利は一致しなくても害は同じだから、せめて同盟関係は維持させておきたい。だから周瑜のことで関係を悪化させるわけにはいかなかったんだ。うまくいって良かったよ」
「でも魯粛どのにかけた言葉は本心からなんでしょう?」
「曹操と対抗するには、劉備さまと協力するべきだって主張する派閥の筆頭が魯粛ちゃんだからね。魯粛ちゃんが後任になってくれないと、こっちも困るんだよ」
「そうですか。先生の思惑通りに運んだというわけですね」
「うん」
「じゃあ、なんで楽しそうじゃないんですか?」
 趙雲は孔明さまの顔を下から覗き込みました。
「子竜ちゃんのくせに、ぼくのこと分析しないでくれる?」
「そんなつもりはないですけど、単に気になるものですから」
「子竜ちゃん変わってるね」
「うーん、そうでしょうか」
「変わってるよ。ぼくがどんな戦略を描くのか興味がある人はいても、ぼくの気持ちを気にする人なんていないもん」
「周瑜どのは良くも悪くも、それを一番気にしてくれた人なんですね」
「なんでそうなるの?」
「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心です。周瑜どのの先生に対する執着心も、並々ならないものがありましたけど、それは先生も一緒だったんでしょう?」
「分かったようなことを言うんだね」
「その結末が、なぜ周瑜どのの死でなくてはならなかったんでしょうかね」
「ぼくのこと責めてるの?」
「いいえ。先生は周瑜どのに命を狙われていたわけですから、どちらかの死しか結末はありません。それにわたしが日頃やっていることは殺し合いですからね。そのことで先生を責められるはずがありません。でも、わたしも自分がたった今斬り殺した骸を眺めて、どうしてこんなことになったんだろうと考えることがあるんですよ」
「ふうん。向いてないんじゃない?」
「どうでしょうね」
「さっきから何が言いたいの?」
「先生も、そんなやるせない気持ちなんじゃないかと思って。ただ乱世に出会ってしまったというだけで、どちらが悪いわけでもないですよ」
「ぼくは感傷に浸って、あれは仕方がなかったんだ、なんて自分を正当化したりしない。周瑜はぼくが追いつめて殺した。それだけの話」
「分かりました」
 趙雲は短くため息をついて船尾へ見張りに向かおうとしました。しかし孔明さまが、でもね──と消えるような声で言ったので立ち止まります。
「荊州へ帰るまでは、ちょっと感傷に浸ってもいいかなって」
「いいと思いますよ」
 趙雲はふたたび孔明さまの隣に立ちます。
「あれはウソ泣きだったけど、ぼくの気持ちを理解できる人は周瑜しかいないって言ったのは本当。同じ種類の人間だもん。でも周瑜はぼくが絶対に手に入れられないものを持ってた。その点において、ぼくはずっと周瑜に敵わないんだろうなって思う。羨ましかった。だから好きで嫌いだった。あんなふうになれたらいいなって憧れてたし、死ねばいいと思ってた」
「歪んでますねえ」
「いまさら?」
「いえ、つくづく。ところで先生の手に入らないものってなんですか」
 趙雲が訊ねます。いつの間にか日は暮れて、長江も深い藍色に染まっていました。孔明さまはしばらく黙って川面を見つめていたのですが、やがて視線を落としたまま言いました。
「水と魚って永遠に交わるものじゃないんだよ」
「それって答えになってますか?」
「ぼく生まれ変わったら魚になりたいな。みんなと一緒に泳ぎたい」
 突然そんなことを言うものだから、孔明さまの視線の先に魚がいるのかと思って趙雲は探しましたが、どこにも見当たりませんでした。もとより夜の川は昏く、魚が泳いでいたとしても見えるはずもありません。いぶかしげに振り向くと孔明さまの顔が青白かったので、趙雲は心配になります。
「先生。風が冷たくなってきました。今日はお疲れでしょうし、中に入って休んでください」
「ぼくはそのうち嘘をついて人を欺いて陥れることに、なんの葛藤も感じなくなるのかな。きっといい死に方しないね」
「大丈夫ですよ、先生。わたしがお守りします」
「みんなと一緒で、やな奴って思ってるくせに」
「そんなことないですよ」
「うそだね」
「困りましたねえ。今日は一段と気難しいですね」
「ほっといてよ」
 そっぽを向いた孔明さまに向かって、趙雲が手を差し出します。
「先生、手を出してください」
「もう握手はいいよ。行きの船でもそうだったけど、なんなの?」
「いいから手を出してください」趙雲は無理矢理手を取ると、しっかり握って言います。「他の人はどうだか知りませんけど、わたしは先生の手が温かいと知ってますよ」
「生きてんだから、温かいに決まってるでしょ」
「それが大事なんです。それだけで、わたしは命をかけてお守りできます」
「意味が分からないよ」
「わたしもよく分かりません」
「何それ」
 孔明さまは心底がっかりしたような顔になります。
「わたしは先生のように多くの言葉を持ちません。どう言えばいいのか分かりませんし、どれだけ言葉をつくされても分かったような気になるぐらいです。だから握手した先生の手が温かかったとか、そういうことでいいんです」
「そんな……そんなの……言ってて恥ずかしくならない?」
「うーん。別に気取って言葉を飾っているわけじゃないですからねえ。さっきも言いましたけど、そういう柄じゃないんです。でも先生だって船に乗る前、魯粛どのの手を握ってあげてましたよね。それって魯粛どのを気遣う本心を伝えたかったんでしょう?」
「知らないもん。もう休もうかなあ」
「ええ。そうしてください」
「じゃあ、後よろしくね」
「おまかせください」
 孔明さまは数歩歩いてから足を止めました。
「子竜ちゃんの手は温かいけど、硬くてゴツゴツしてるね」
「はは。こればかりは仕方ないですよ。昔から槍だの弓だの握ってましたからね。どうもすみません」
 武器を手にして生きて来たから、趙雲は人の手の温かさを大事に思うのかもしれない、と孔明さまは思いました。
「どうして謝るの。ぼく嫌いじゃないよ。なんていうか……いつもありがと」
 孔明さまは暑くもないのに羽扇で忙しく顔を仰いで言いました。趙雲は驚いた表情になります。
「めずらしく殊勝ですね。いやあ、これは雨が降るかもしれません」
「子竜ちゃんの分際で、頑張ってぼくを慰めようとしてるから褒めてあげたのに、そういうこと言うんだ」
「褒めていただくより、嫌がらせをやめてもらうほうが嬉しいですけど」
「だめ。それはぼくの趣味だから」
「参りましたねえ。せめてお手柔らかに頼みますよ」
 趙雲が笑うと孔明さまも一緒に笑いました。

 というわけで、さよなら周瑜。ありがとう周瑜!


「おのれ孔明。俺の葬式に便乗して青春するな!」


「またね」「殿。わたしも落成式でごちそう食べたかったです」
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