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応援団やサムライうさぎについて。あとはアニメ三国演義の歪曲感想とか。

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(今週のあらすじ)
 韓遂の陣幕へ入ってきたのは馬超だった。怒りに燃えた馬超は自分を裏切るよう仕向けていた兵士を斬り倒し、韓遂にも斬りかかった。馬超が逃げ惑う兵士を追いかけ外へ出ると、韓遂配下の武将に襲いかかられる。
 異変に気付いた馬岱と龐徳が馬超を助けにきたが、突然許褚が姿をあらわした。徐晃まであらわれ、曹操の軍勢も押し寄せてきた。それでも馬超は戦ったが、陣営のあちこちに火の手が上がり、次第に追いつめられ、馬岱と龐徳とともに逃げ出した。
 韓遂は片腕を失いながらも一命は取り留め、曹操に帰順した。馬超が遠くまで落ち延びたと知った曹操は、劉備と孫権が動き出すのを懸念して許昌へ帰還した。

 馬超と曹操の戦いからさかのぼること数ヶ月前。劉備はある人物の訪問を受けていた。劉備軍に身を寄せたいということだったが、あまり風采の上がらぬ人物だったので、劉備はとりあえず彼を小さな県の県令に命じて派遣した。
 しかし、ろくに仕事をせず酒ばかり飲んでいるとの報告を受け、怒った張飛がその人物のもとへ向かった。そのころ荊州各地の視察へ出ていた孔明が戻り、劉備に龐雛が訪ねてきたか訊ねた。劉備に思い当たる人物はおらず「龐統というものなら訪ねてきたが、誰の推薦かも分からないので県令に命じた」と答えた。すると孔明が「それが龐雛こと龐統先生です。彼に県令のような小さな仕事は向きません。才能はわたし以上です」と言った。
 だが龐統は、その県令の仕事も勤まらない人物だと言って劉備は不審がる。しかも短気な張飛が様子を見に行ったのだ。面倒を起こしていないかと劉備は不安になった。
 そこへ張飛が「宝を手に入れた」と喜んで帰ってきた。劉備がどうしたのかと問うと、張飛は見てきたことを語った。

 龐統は報告通り、仕事をせずに酒ばかりのんでいたのだが、張飛が詰め寄ると「県令の仕事ぐらい、すぐに片付けられる」と言って、実際に百日分の仕事を一日で片付けてしまった。その辣腕ぶりを目の当たりにした張飛は「龐統こそ宝だ」としきりに褒め、荊州城へ一緒に帰還した。そこで劉備は非礼を詫び、龐統を副軍師として迎えた。
 丁度そのとき、兵士が「張松が荊州の境界線を通り、許昌へ向かった」と報告に来た。それを聞いた龐統は張松を見張るよう劉備に進言した。
 張松を知らない張飛は、それがどんな人物なのか訊ねる。孔明が西川(蜀)の劉璋の参謀だと答えた。劉璋は漢中の張魯の侵攻を受けており、参謀の張松が曹操のところへ向かったということは、おそらく救援を頼むためだろうから、劉備は進言に従い動向を探らせることにした。

 許昌へ到着した張松は、曹操に面会を求めた。しかし門番に賄賂を要求され、やっと曹操に会えたものの侮辱されてしまった。追い払われるように許昌を出た張松はふたたび荊州の境界線まで戻ってきた。そこには趙雲が待っていた。趙雲は馬から下りると「劉備の命令で迎えにきた」と、荊州へ立ち寄るよう願い出た。
 以前から劉備は徳の高い人物だと聞いていた張松は、一度自分の目で確かめてみようと立ち寄ることにした。趙雲との道すがら、今度は関羽が宿場の前まで張松を迎えに出ていた。関羽が手厚くもてなしたので張松は感激し、その日は宿場で休んだ。翌日、趙雲、関羽とともに馬で進んでいると、遠くに一群の人馬が見えた。劉備が孔明と張飛を従え、張松を待っていたのだ。劉備は張松の姿がまだ遠くにあるうちから、馬を降りて待ち、近くまでくると丁寧な挨拶で迎えたので張松は恐縮した。
 張松を迎えての宴会がはじまる。そこで張松は、劉備は荊州に滞在しているものの、結局は呉からの借り物であり、自分の領地を持っていないことを知る。
 盛大な宴会は三日続いた。張松は劉備に西川を領地にしてはどうかと持ちかけた。しかし劉備は同族の劉璋から西川を奪うようなことはできないと固辞した。劉備は仁義に厚い人物だと、ますます張松は感心した。
 そして張松は荊州を去る日、劉備に一枚の地図を渡した。それは西川の詳細な地図であり、漢王朝再興のため自分の意見を念頭におき考えて欲しいと言って西川へ帰って行った。

以上を踏まえて、どこまで噓か分からないレビュー


・馬超破れる
 馬超は、まんまと曹操の罠にはまり、暴れ回るも多勢に無勢。許褚に続いて徐晃までやって来たものだから逃げるしかなかった。敗走する馬超のノースリーブがやけに寒々しく見える。でも厚着はしない。それがジャスティス。


・孔明さま帰還
 荊州の見回りに出ていた孔明。久しぶりに劉備に会えて嬉しそうだ。さっそく「つもる話もあるから、今日は一緒に寝ようねえ」と誘うのですが、やんわり断られてしまう。この身のかわし方は一流です。戦いばかりしてきた男の処世術なり。
 孔明は気を取り直して訊ねます。
「留守中にぼくと魯粛ちゃんの推薦状持ってきた人がいるでしょ。ぼくのお友達なんだけど、いまどこにいるの?」
「そんな人は来とらんよ」
「スーちゃんっていうんだけど」
「嗣常? 聞き覚えのない名前だな」
「スーちゃんていうのはあだ名だよ。姓は龐で名は統。あざなは士元だよ。鳳雛って呼ばれるからスーちゃん」
「龐統? その名前の人物ならやって来たが、なんというか……あまり見てくれがよくないし、態度も傲慢だったから、とりあえずライ陽の県令になってもらった」
「劉備さままで、そんなふうにスーちゃんを扱ったの?」
 というのも周瑜亡きあと、魯粛がぜひ補佐役に、と龐統を孫権に推薦していたのですが、見た目の悪さと、孫権が「周瑜と比べて、何か売りでもあんの?」と問うたとき、どことなく周瑜を軽く見た発言をしたので、孫権は不愉快になって龐統を帰してしまったのです。魯粛が取りなそうとしても、周瑜が好きだった孫権は「あんな奴、絶対側に置かないもんね」と拒否。龐統の才能が埋もれてしまうことを惜しく感じた魯粛は、劉備に仕えられるよう推薦状を持たせたのでした。また、それ以前にも孔明が「気が向いたら、うちにおいでよ」と推薦状を書いて渡していたのです。でも、なぜか龐統は推薦状を見せなかったので、劉備もうさん臭いなあと考えて、適当な役職を与えて遠ざけたのでした。
「スーちゃんの才能はぼく以上だよ。劉備さまは、人を見る目だけはあるのに、どうしたの?」
「その台詞、なんとなく引っかかるな」
「まあ、スーちゃんも傲慢なのはよくないね。ぼくみたいに謙虚じゃないと」
「聞き間違いかな。誰が謙虚だって?」
「はあ。それにしても、ぼくは美男子でよかった。やっぱり見た目は大事だもん。ぼくは、こうして劉備さまの寵愛を一心に受けて、いまや夫婦といっても過言じゃなくなってるからね」
「それが過言じゃなければ、いったい何が過言なんだろうな」
「とにかく、すぐにスーちゃんを呼び戻してよ。小さな県の県令なんてスーちゃんには役不足だから」
「まいったな」劉備は悩ましげに眉根を寄せます。「それが、ろくに仕事をしとらんと聞いて、怒った張飛が龐統のところへ行ってしまったのだ」
「張飛が?」孔明の声が裏返りそうになりました。「絶対にスーちゃんのことボコボコにしちゃうよ。二目と見られない顔が、ますますひどくなって、もう人前に出られない顔になっちゃう」
「本当に龐統と友達なのか? 友達だと思っているのは、孔明だけじゃないのか?」
 劉備がそう言ったとき、威勢のよい声を上げながら張飛が戻ってきた。
「兄貴ィ。龐統に会ってきたぜィ」
「張飛! おまえ、まさか」
 劉備は恐ろしくて、その先が聞けません。張飛は首をかしげます。
「化け物でも見たような顔してどうしたんだ?」
「その……龐統先生は……まだ人のかたちをしているのか?」
「なんだそりゃ。魯粛と孔明の推薦状持ってたから、一緒に連れてきたぞ」
 その言葉を待っていたかのように、ゆったりとした足取りで龐統があらわれました。
「またお目にかかれましたな、劉備どの」
「龐統先生。先だっては大変ご無礼いたしました。どうかお許しください」
 劉備が歩み寄って詫びました。龐統はうなずくと懐から魯粛と孔明の推薦状を出し劉備へ手渡しました。劉備はまず魯粛の推薦状に目を通します。
 ──龐統どのは小さな土地を治めるような小人物ではなく、重要な職に就かせてこと俊才を発揮します。けっして容貌で判断してはいけません。彼の学識の深さを見落とせば、他人に用いられ、それは大きな財産を失ったことと同じです。わたしも未亡人という陰に隠れた宝石を手に入れたいと毎日考えています。なんて言ったりして、言ったりして!
「ふむ。最後のあたりはどうでもいいが、魯粛どのは龐統先生の才能を高く評価しておられるな」
 ついで劉備は孔明の、やたら長い推薦状を読みます。
 ──劉備さまがこれを読んでいるころ、きっとぼくも同じように劉備さまのことを考えています。そんな偶然あり得ないって? うふふ。だって、ぼくはいつも劉備さまのことを考えているんだもん。寝ても覚めても、ずっと。だから分かるんだよ。劉備さまがぼくのことを好きって思ったとき、ぼくはその百倍愛してるって気持ちを胸一杯に抱えているんだよ。溢れ出すこの思いを空に浮かべたら、流れ星になって劉備さまに届くかな。劉備さま、今晩は夜空を見上げてください。美しい流星群が見えるはずだよ。
 そこまで読んで、劉備は顔を上げました。
「孔明。この文章はいつになったら龐統先生のくだりが出てくるんだ?」
「え? 最後にちょっとだけ」
「じゃあ最後だけ読むか」
「ぼくの思いの丈を全部読んでよォ」
「ふむふむ、なるほど。ブスは三日で慣れるといいます。龐統は賢いから側に置いてあげてね、か。龐統先生、魯粛どのと孔明のふざけた推薦状をよくぞ破いて燃やさずにおれましたな。あのとき推薦状を見せなかった気持ちが痛いほどに分かります」
 ふざけてないもん、と憤慨して口を挟む孔明を横目に、龐統は飄々と言いました。
「ええ、まあ。腐っても推薦状ですから」
「先生は人格者でもおられるようだ。ぜひ我が軍の力になっていただきたい」
 劉備が頭を下げると張飛も手を叩いて嬉しそうに言いました。
「臥龍の孔明と龐雛の龐統。どっちかひとりでも手に入れたら天下が平定できるって、あのヨシヨシおじさんが言ってたからな。それがいま両方そろったんだ。兄貴の天下は決まったようなもんだ!」
 こうして劉備は龐統を加えることが出来ました。


・ブサメンの受難は続くよ
 救援を頼むべく許昌へ入った張松。曹操は宴会の最中でした。美人ダンサーが妖艶な舞いを披露していますが、曹操はちょっと不満そうです。

 ヒゲ伸びたよ

「あの女は美しいが巨乳ではない。聞くところによると、呉には爆乳ダンサーがいるそうではないか。早く呉を我がものにして、おっぱいダンサーも手に入れたいものだ」
 そんなことを話していると、張松がお目通りを許されてやって来ました。張松を見るなり曹操は言います。
「なんで物乞いがこんなところにいる」
 曹操は張松の見た目が不愉快だった。そう、張松も容姿に恵まれない男だったのです。
「鍬のような額に尖った頭。つぶれた鼻から視線を降ろせば出っ歯がのぞいている。背丈は五尺にも満たないチンチクリンのどら声」だそうですよ。鍬のような額ってどんなだ。前にせり出してんのかな。

 ひどい言われようの張松

 ちなみに。有名ですが孔明さまは身長八尺だから180センチとちょっとあるんだぜ! 当時の一尺は30cmより短いんだってさ。八尺ということは七尺五寸の劉備よりも背が高い。趙雲と張飛は孔明さまと同じぐらい。関羽に至っては9尺だから2メートル超え。でけえ。それに対して張松の五尺未満は、いくらなんでも小さすぎんかね。
 三国演義のメジャーどころはでかいのが多い。そんなの、どうせ大袈裟に書いてんでしょ?
 というわけでもないみたい。まず武将がでかいのは分かるけど、文官もでかいのが多いのは、中央の官僚に推薦してもらえる条件に家柄はもちろんのこと容姿もあったらしいから、背が高くて顔付きも立派なほうが有利だったりしたんでしょうね。だから必然的にスターの周囲を固めるメンツは、体格や容姿のいい人が多くなるのかな?

 話は戻って、曹操と張松の面会シーン。
 張魯が蜀にちょっかいを出してきているので、救援に来て欲しい張松ですが、曹操に「ていうか、おまえら全然朝廷に年貢おさめてないだろ。こういうときだけ都合がいいな」と嫌味を言われる。張松は「中原が荒れておりますから、盗賊に襲われて略奪される恐れがありますゆえ」と言い訳する。すると曹操も「どこが荒れてんだ。ワシがきれいさっぱり掃討しだだろうが」と追求する。張松は物乞い呼ばわりされたことにカチンと来ていたのか、それとも孔明さまのように生まれついての煽り体質なのか「南で孫権、北で張魯、西で劉備が兵隊持っているのに、これのどこが掃討したといえますでしょう」と言ったものだから、曹操は怒って奥へ入ってしまった。
 後に残された張松に「そんな言い方したら誰だって怒るでしょ」と、曹操に仕える文官の楊修が諌めました。

 シュッとしてはるKY楊修

 曹操の側近だけあって楊修の容姿描写は「色白でスマート」だそうです。
 張松は腹の虫がおさまらないのか、今度は楊修を煽りだす。
「インテリ楊修どのじゃないですか。名門の誉れ高いのに、朝廷のお仕事ではなく曹操の倉庫番してるとか。ご苦労様でーす」
「トゲのある言い方をしますね。財務を任されていると言ってください。それに曹操さまのお側にいれば、学ぶこともたくさんあります」
「曹操の文武は中途半端ではないですか。偉そうにしてるだけで、学ぶことなどあるんですか?」
 楊修は部屋の隅に積まれた書物のなかの一冊を張松へ手渡しました。
「では、これをご覧なさい。孟徳新書です。いにしえに記された孫子を現代に通じるよう、曹操さまが注釈を付けて編集されたものです」
 張松はあまり興味がなさそうにパラパラとめくります。
「どれどれ。我は光と闇が解け合う黄昏より生まれし混沌。次なる千年紀を破壊し創造せしむるものなり。って、なんですかコレ?」
「え? そんなの書いてあったっけ」
「あとは……ワシの考えたかっこいい武器コレクション……ヒゲ早く伸びれ……おっぱい揉みたい……楊修がワシの考えたなぞなぞを空気読まずにすぐ解いてくる。ヨーグルトまで食べられたムカつく、とかも書いてありますね……それに、久しぶりに郭嘉たんの夢を見た。夢なんだからチュッチュしとけばよかった」
「ちょ、ちょっと待って。さすがにおかしいな」楊修は張松の手から書物を取り上げました。「……あ。まちがえた。これ曹操さまの日記じゃないか。なんで孟徳新書と一緒に置いてんだよ!」
「うは。曹操の日記読んじゃったーん」
「忘れて。いま読んだことは忘れて!」
「残念でした。わたしは一度読んだだけで記憶できちゃうから、一言一句忘れたりしないもんね」
「せめて人に言わないでくれませんか。一生絶対金輪際!」
「どうしよっかな。もう一度曹操に会えるように取りはからってくれたら考えてもいいですけどね」
「明日、曹操さまが兵士の演習を上覧するから、張松どのに我が軍の威勢を見せつける、という名目で面会できるようにしますよ……」
「そりゃ、どうも。ついでに楊修どの、食い物の恨みは恐ろしいから気をつけたほうがよろしいですぞ」
 翌日、練兵場。
 選び抜かれた兵士達の気勢盛んな有様を前に、曹操は満足げな表情で張松に話しかけます。
「蜀にこれほどの精鋭はおるまい。攻めれば必勝、従うものは生きられるが、逆らう奴は死あるのみ。おまえの肝にも銘じておけ」
 その気になれば蜀を攻め落とせるんだぞ、と曹操は脅します。しかし張松は意に介さぬ顔で答えました。
「言われなくてもよッく存じておりますよ。むかし濮陽で呂布を攻めたとき、エン城で張繍と戦われたとき、赤壁で周瑜と遭遇されたとき、華容道で関羽と出くわしたとき、潼関では馬超の前で戦袍を脱ぎ捨てヒゲを切り落としたとき、渭水で船を奪い矢を避けたとき。曹操さまの無敵伝説を語ればきりがありませんな」
 曹操の顔色が変わりました。張松があげつらったのは、無敵伝説どころか、すべて曹操が手酷く負けたときのスキャンダル伝説だったからです。ついに曹操もキレて張松を斬れと命じました。引きずられて行く張松を見ながら、楊修は内心ホッとしていました。張松が死ねば、まちがえて曹操の日記を見せてしまった大失態が闇に葬られる。
 ところが張松がわめき出したので、楊修の顔色も変わるはめになります。
「楊修どのが見せてくれた、あれ、なんでしたっけ? 我は光と闇の解け合う……」
「わー! うわー!」
 楊修は張松の声をかき消すべく、大声を張り上げながら曹操の前へ転がり出ました。
「そ、曹操さま。張松はブチ殺されて当然のクソ野郎ですが、遠方より貢ぎ物を持って来た使者ですよ。殺してしまえば遠方の国々の人の信頼を失ってしまいます」
「楊修の言う通りですよ」
 荀彧(なのかしら?)も曹操に耳打ちしたので、張松は棒でめった打ちにされたあと放り出されたのでした。
「曹操はなんと徳の低い男よ」
 張松は傷む体を引きずりながらトボトボ帰ります。
 でも張松の自業自得であって、曹操あんまり悪くなくなくない?


・張松接待大作戦!
 張松の動向を探らせていた孔明と龐統。散々な目に会って許昌を後にしたと聞いて、こちら側に引き入れようと画策します。
「というわけで、張松を目一杯接待するから、みんなよろしくねえ」
 孔明が諸将を集めて言いました。
「なんでへりくだって接待などせんといかんのだ」
 関羽は不満げです。
「張松は救援を頼みに行ったのに、なんの成果もなく追い出された。帰るに帰れず、いま頼る相手を探してるところだろうからねえ。落ち込んでるときに優しくされるとコロッといくものでしょ。そうじゃなくても接待三昧の日々を送れば、どんな人でも領地のことすら忘れて骨抜きになっちゃうものだよ。ねえ、劉備さま」
「……え? すまん、考え事してて聞いてなかった」
 うそぶく劉備。
「ふうん。まあ、いいけど。とにかく張松を接待するプランを発表するから、みんなその通りにやってね。まず張松が荊州の境界を通るとき。ここ、かなり重要だよ。張松に疑心を抱かせず、なめらかに招待しなきゃいけないからね。第一印象のいい人じゃなきゃだめ。だからこの役割は子竜ちゃんにやってもらうよ」
「イケメンならではの役割ですね」
 趙雲が白い歯をこぼして笑いました。
「うん、人畜無害な見た目だからね」孔明は趙雲のほうを見もせずに言いました。「つぎは関羽! 宿場で、ちゃんと門の外まで出て張松が到着するのを待っててね」
「そこまでせんでもいいだろ」
「そこまでするの。あんまり言いたくないけど、関羽は有名じゃん?」
「素直に認めろよ」
「そこそこ有名人が、わざわざ出迎えてくれたってのがポイント」
「そこそこは余計だろ」
「その晩は宴会もよおして、しっかり接待してね。天下のことなんて語らずに、とにかく楽しませればいいから。ひたすらお会いできて、さいわいですって態度で通してね。張松が調子に乗ってセクハラしてきても怒っちゃだめだよ」
「いや、それは許さん。手を出して来たら腕を切り落としてやるわ」
 関羽がいきり立って言うと、孔明は肩をすくめました。
「関羽なんかに手を出す物好きはいないよ。子竜ちゃんに言ってるの」
「なんだと!」
 孔明に掴みかかろうとする関羽を周囲がなだめます。趙雲は悲痛な顔で言いました。
「イケメンというだけで、どこまで我慢すればいいんですか。限度ってものがあるでしょう」
「最悪、抱かれてちょうだい」
「いやですよ! この芸術品のような瑞々しい肉体をもてあそばれるなんて!」
 趙雲は両腕で自分の体を抱きました。
「うふふ。うそだってば。データによると張松はノーマルだから、はじめからその心配はないね。まったく張松は無粋な人だよ。両方の道を極めてこと、まことの風流人だというのに」
「じゃあ、なんでセクハラの話題出した。おまえ、俺の悪口に繋げたかっただけじゃないのか」
 暴れそうになる関羽を、またしても周囲がなだめます。
「俺は? 俺は何をすればいいんだ?」
 張飛が片手を挙げて訊ねました。
「えー、うーん」
 張飛はスター選手ですが、酒の席ということもあり不安になります。なので接待要員に入れてなかった孔明は言葉を濁します。でも張飛が期待に目を輝かせているので、しばらく考えてから指示をひねり出しました。
「張飛はねえ……体力作り」
「それって接待なのか?」
「ちがうけど、大事なことだよ」
「大事なのか?」
「すっごく大事」
「よし、分かった! 今から走ってくるわ」
 張飛は外へ駆け出して行きました。
「それで……と、あとは劉備さまがお城に張松をお迎えして接待だね。ぼくも参加するよ!」
「なあ孔明」劉備がヒゲをしごきながら言いました。「おまえが言い出したのだし、もちろん分かっていると思うが、嫌味や皮肉、煽りは厳禁だからな」
「……当たり前じゃない」
 少し間を置いた返事に、劉備はちょっぴり心配になったのでした。


・張松の接待、いざ本番!
 趙雲は持ち前の人畜無害さとパッと見の爽やかさで、なんなく張松をおびき込むことに成功。ついで関羽が待つ宿場へ向かいます。
 関羽はちゃんと孔明の言いつけ通り宿場の前で待っていました。張松の姿が見えると拱手して迎えます。そして手に書いた文言をこっそり見ながら読み上げました。
「えー兄の命を受け、大夫には、えー遠路はるばるお越しいいただいたゆえ、えーわたし関羽が、えーみずから宿場を掃き清め(※当然やってません)お待ちしておりました」
 と、たどたどしく棒読みな関羽の挨拶ですが、張松は素直に感激しました。その夜の宴会はセクハラが起きることもなく和やかに行われました。
 翌日、関羽と趙雲の案内で、張松は劉備の滞在するお城へ出発しました。趙雲がそろそろかな、と思ったあたりで、前方に劉備が一群を引き連れ張松を待ち構えていました。まだ、だいぶ遠いのですが劉備は慇懃にも馬から降りて待ちます。それを見た張松は、この時点ですでに感心していました。間近まで来ると張松も馬から下りて挨拶を交わします。
「ご丁寧な出迎え、まことに恐縮です」
「かねてより張松どののご高名は存じておりました。今までは生憎お教えを賜る機会がなかったのですが、こちらをお通りになるとうかがい、ぜひお立ち寄りいただきたく馳せ参じた次第でございます。もしお見捨てでなければ、むさ苦しいところではございますが、ご休息いただければ、これより嬉しいことはありません」
 張松は一も二もなく了承し、劉備とともに荊州城へ入りました。そして前日よりもさらに盛大な宴会がもよおされます。劉備も関羽と一緒で、蜀の話はおくびにも出さずヨイショを交えた世間話に徹します。すっかりいい気分の張松ですが、ただ浮かれきっていたわけではありません。劉備にも下心があるにちがいないと、蜀の話題を持ちかけました。
「劉備どのは荊州をお持ちですが、そのほかにはいくつの郡をおさめておられるのですか?」
 それに答えたのは孔明でした。
「荊州自体が呉からの借り物なのです。わが君は呉の娘婿なので、一時的に身を寄せているだけなのでございます」
「なんと、そうだったのですか」
「ゆえに呉からは毎月のように使者がやって来て、荊州を返還するように求められております」
「呉は六郡八十一州を支配してると聞きます。それでもまだ満足しないのですか」
「漢王朝に仇なす悪人どもが無理矢理土地を奪い取り占領しているなか、皇叔であらせられるわが君が州郡を支配することもかなわないのです。このような道理に外れたさまを見て、心あるものが不満に思わずにいられるでしょうか」
 孔明の愁いを帯びた表情を見ながら、劉備は内心で「孔明もまともな喋り方ができるのだな」と驚いていました。
 初対面のころから生意気でふざけた喋り方だったからです。はじめはバカにされているのかと思った劉備ですが、孔明が誰に対してもこんな調子なのだと知ってからは、これも個性だろうと納得していたのです。第一、それぐらいのアクの強さがなければ関羽や張飛とやっていけない。
 関羽や張飛はひとりで万人を相手に出来る武将だけれど、名士と呼ばれる知識階級の人間は彼らを下に見るところがある。なかには口すら聞かない人物もいた。その点孔明もよく彼らといさかいを起こすが、それはどこか愛着を持って、好んで口喧嘩をしているように見える。怒られるのが分かっていて、ちょっかいを出す。そして、その反応に嬉々とするのだ。

(まあ、好きなんだろうな)

 そんなことを考えながらぼんやりしていた劉備に孔明がしきりに目配せを送ります。劉備ははっと気がついて張松へ話しかけます。
「こらこら。孔明も、それぐらいにしなさい。徳のないわたしが、なにゆえ多くを望めましょうか」
「それはちがいます」張松はかぶりをふります。「劉備どのは漢王朝のご一族。その仁義は天下に知れ渡っております。州郡を支配されるのはもちろん、現在の皇帝に変わって帝位についてもおかしくありません」
 劉備は笑って張松の杯に酒を注ぎました。
「身に余るお言葉ですが、わたしにその資格はございません。さあ、張松どの。お飲みください」
 その後酒宴は三日のあいだ続きましたが、劉備が蜀の話を口の端にのぼらせることはありませんでした。
 やがて張松が辞去しようとすると、劉備は孔明や諸将を引き連れ見送りに出た。そして涙を浮かべて別れを惜しみました。
「いま別れてしまえば、またお会いできるのはいつになるでしょう」
 ここに至って張松は劉備の人柄に、すっかりほだされていました。
 許昌へ入った当初は暗愚な劉璋に見切りをつけ、曹操へ蜀を献上する心づもりのあった張松。しかし曹操には失望してしまった。それに比べて劉備は寛容で思いやり深く、人を愛する人物だった。そんな人が行く宛もないとなれば、どうして見捨てることができるだろうか。説得して蜀を攻略させてもよいのではないか──。
 張松の決意はほぼ固まった。
「わたしもできることなら劉備どのにお仕えしたいのですが、まだその手だてがありません。わたしが見たところ、劉備どのがこの地にとどまることは決して良策ではないでしょう」
「それは分かっているのですが、なにぶん身を落ち着ける場所がないのです」
 張松はたっぷり時間をかけ劉備の目を見て言いました。
「益州をお取りになってはどうですか。そこを根拠地に覇業を成し遂げれば、漢王朝の再興も夢ではありません」
「とてもそのようなことはできません」劉備は狼狽します。「劉璋さまはわたしの親族です。それを攻めるようなことをすれば、わたしは天下の人に見放されてしまいます」
「迷っているあいだに、他人に取られてから悔やんでも遅いのですよ」
「しかし……蜀は山に囲まれ、川も入り組み、道は険しく、軍を進めることもままなりません」
「それなら、きっとこれがお役に立つでしょう」
 張松は懐から一枚の紙を取り出しました。受け取った劉備が目を通すと、それは蜀の地図でした。地理や交通、倉庫に貯蔵されている食料まで、情報が実に詳細に書き込まれているのです。
「劉備どの。なるべく早く行動なさいませ。わたしも帰ってから、同志にこのことを話します。後日、彼らを荊州へ参らせますので、お考えになっていることを相談なさるとよいでしょう」
 劉備は深々と頭を下げました。
「このご恩は決して忘れません。ことが成し遂げられたあかつきには、かならず恩を返させていただきます」
「聡明な君主にお会いして礼を尽くされたのですから、こちらも情を尽くしたまででございます。恩返しを望んでのことではありません」
 そう言って別れを告げた張松を関羽が護衛して送ります。
 傍らで一部始終を見守っていた孔明は小声で趙雲へ話します。
「……子竜ちゃん。もう、いい?」
 趙雲は遠ざかる張松の背中を眺めながら言いました。
「まだです。振り返ったら見えます」
「でも……我慢できないよ。体が震えてきたもん」
「あと少しの辛抱です」
「あ、だめ。もう無理」

 んふ。

 趙雲は呆れ顔になります。
「先生。まだ笑ったら駄目だと言ったじゃないですか」
「これが笑わずにいられる? 張松の接待は大成功の大収穫だよ。蜀へ手引きしてくれる人材の確保が目的だったけど、それだけじゃなくて、まさかあんな地図が出てくるとはねえ。さすがのぼくでも予想できなかったよ」
「蜀が今まで無事でいられたのは、あの天然の要害に囲まれた土地のお陰ですからね。詳細な地図があれば、かなり攻略の助けになりますよ」
「うふふ。最高にいい気分」
 半端ない孔明の喜びよう。今まで、ことが思惑通りに運んでほくそ笑むことはあっても、ここまであからさまに喜びをあらわにするのは始めてでした。趙雲が珍しそうしていると、孔明は空を仰いで言いました。
「これで、ぼくが劉備さまの一番になれるね。きっと、なれるよ」
「一番ですか?」
「うん。蜀を取れば天下三分の計が軌道に乗るんだ。でも天下三分の計は手段であって目的じゃないよ。まず荊州と蜀の益州を根拠地にして足がかりにする。それから呉と結んで曹操を破る。最後は呉を倒して中原の覇者になれば、劉備さまが天下を統一して漢王朝の再興ができる。ぼくは劉備さまを皇帝にするんだ。こればかりは政治のできない関羽や張飛がどれだけ頑張っても無理。そうすれば、ぼくを一番大事に思ってくれる」
「いまも大事にしてくれてるじゃないですか。二十も年下の先生に、膝を屈して教えを賜っているのですから」
「ぼくが望んでるのは、そういうんじゃないの。とにかく一番じゃなきゃ嫌だ」
「べつに順番なんて、考えたことはないですけどねえ」
「子竜ちゃんは不満に思うことはないの? 子竜ちゃんこそ、ぼくよりずっと前から劉備さまに仕えて、たくさん功績を立ててるのに、結局劉備さまが心から信頼しているのは関羽と張飛だけなんだよ」
「あのお三方は義兄弟の契りを交わして、同年同月同日に死ぬことを誓った仲ですからね。それを尊重こそすれ、割って入ろうなんて考えたことはないですよ」
「もっと評価されたいって思わない?」
「その時々に、それ相応の評価はいただいています」
「欲がないね。そうやって達観しちゃうのよくないよ!」
 怒り始めた孔明に、趙雲は困った顔をします。なだめるように笑ってみたのですが逆に睨まれてしまいました。
「参りましたね。ご機嫌斜めになっちゃいましたか」
「子竜ちゃんは、そんなんでいいの?」
「では、わたしもひとつ聞きますけど、先生こそ劉備さまを信頼していらっしゃるのですか?」
 そう訊ねた趙雲の顔を孔明は、しばらくのあいだほけたように眺めていました。
「……なに、それ」
「子供が親からの愛を疑わないのと同じで、本当に信頼していれば、一番だ二番だなんて気になりませんよ。信頼してもらいたいから尽くすのではなく、信頼しているからこそ、この身を賭して尽くすのです」
「……」
 趙雲は黙って唇を噛んでいる孔明を見て、しまったという表情をすると片手を胸の前で振ります。
「わたしは先生をお諌めしているわけではありませんよ。劉備さまをお慕いしているからこそ、評価されたいのでしょう? ですから、それは大丈夫ですって。劉備さまにとって先生はかけがえのない存在ですよ。わたしの代わりはいても、先生の代わりはいないんですから」
 その言葉を聞くや否や、孔明は羽扇の柄で趙雲の額を突きました。
「痛いじゃないですか。ゴリッていいましたよ、ゴリッて」
「生意気」
「そんなあ。わたしは先生より十は年齢が上のはずなんですけどね」
「たかが十歳? ぼくに意見するなんて百年早いの!」
「出過ぎたことを言って、どうもすみません」
「それによく覚えといて。ぼくの代わりがいないのは当たり前だけど、子竜ちゃんの代わりも絶対いないんだからね。今度そんなこと言ったら、もっと怒るから!」
「おや、これはうれしいお言葉。ありがとうございます」
 趙雲が堪えきれずに吹き出すと、孔明がふたたび柄でもって殴ってきました。
「笑うなッ」
 趙雲は簡単にかわしてから、羽扇を取り上げてしまいました。
「お行儀が悪いので没収です」
「いいもん。まだいっぱい持ってるもん」
「じゃあ、これ。わたしにくださいよ」
「なんで欲しいの」
「フサフサしたものやフワフワしたものの触り心地が好きだからです」
 趙雲が喜色満面で羽扇に頬ずりします。
「アラフォーが何やってんだか」
「おっ。趙雲、孔明の真似っこか」
 張飛がやって来て、おもしろそうに言いました。
「どこが真似なの。ぼく、こんな変態趣味をさらしたことないよ」
「それより兄貴が呼んでるぞ。今回の首尾を祝って宴会の続きだってよ。大宴会だ。やっと遠慮せずに飲めるわ」
「地図が手に入ったんだし、さっそく軍議に入りたいんだけど」
 孔明が渋ると張飛は肩を組んできました。
「だめだめ。こういうときは仲間で喜びと酒をわかちあう! なあ、趙雲?」
 張飛がもう片方の腕で趙雲の肩を抱きました。
「先生、聞きましたか? そういうことです。覚悟してください」
 趙雲がいわくありげな視線を寄越しました。
「これじゃ、みんな二日酔いで明日も使い物にならなそうだね」
 そう言いながら、まんざらでもない孔明でした。

 といういわけに次回に続く。


「またね」「殿。ヨーグルトに蜂蜜を入れるとおいしいですよ」
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