人生バラ色

　ニュースで1ドル99円と報道されていたので、たまたま職場にいた知人の男性にそのことについて鼻息荒く尋ねたんです。
経済について壊滅的に無知なマチカさんと比べれば、彼は株式を運用していたりしいて詳しいに違いない、と当たりをつけたワケです。
「絶対100円台に回復するんじゃけぇ、今ドル買っとけば利益が出ると思うんじゃけど」
「もっと下がる可能性もあるんで？」
「いや、でもドルがあの値段のままってことはなかろ。回復するようにアメリカがなんとかするじゃろ」
「あんな、アメリカがこの状況をどうにかしようって、既にいくら注ぎ込んでると思っとんなら」
「知らん」
「（忘れたけどエラい数字）ドルは下らんで。それでなおかつ、あの状況なんじゃけぇ」
「ふぅん。でもアメリカだけじゃのぅて、他の国も何とかしようとするじゃろ。せめて100ドルにでもなれば、今買っとけば儲かるが。例えば私が100万円用意して買ったとして……」
「別に100万用意せんでも、1万で100万の買い物出来るんで」
「なんでぇ」
「（また忘れた）でやれば、元の100倍まで取り引き出来るんじゃって」
「はぁ。じゃあ私が100万使って100倍にしたら……1億か！　1ドル回復しただけでもエラい儲けじゃが！」
　この時点でマチカさんの頭の中はバラ色でした。でも彼は釘を差します。
「その逆を考えてみいや。98ドルになってみ。ものすごい損失なんで。一気に借金まみれじゃろ」
「そうなったらなぁ……」
　私は遠くを見据えて言ってやりました。
「自己破産したらええんじゃ」
　このあと彼の説教が延々と続いたんですけどね。今の市場は本当に先が見えないので、素人が安易に手を出して良いものではない。日本は輸出国だから円高ドル安だと損するんだとか、何が関係あるのか分かりませんが、ガソリンの価格がどーのこーの等々。
　正直ちっとも理解出来ませんでした。てへへ。

　マチカさんも自己破産だなんて軽はずみな事を言って、一応は反省したりしたのですが、最後に彼がぽつりと言葉を漏したのです。
「僕もずっと慎重に運用しとるけど、それだけで暮らせるぐらいに大した儲けにはならんけぇな。結局はアンタみたいに大博打出来るか出来んか、なんよな」
　いや、博打をするも何も夢を語っただけなのですが、何故か彼は今までの人生を振り返り始めてしまいました。それから心なしか、煤けた背中で帰って行きましたとサ。
　でも10万くらいなら投入してみたかったのですが、手続きが面倒そうなので素人は地道に生きることにしました。